ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット   作:グレン×グレン

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旧校舎のディアボロス 終

 

 上半身が粉砕されて、そして塵になるレイナーレ。

 

 その光景を、イッセーは胸に重いものを感じながら見つめていた。

 

 ・・・生まれて初めて、他者の命を奪った。

 

 その事実に心が震えて、何か言いたくなって―

 

「よ、お疲れさん」

 

 と、肩をたたかれて我に返った。

 

「・・・織斑」

 

「いろいろあったけど、とりあえず後ろを見てみな」

 

 そういわれて後ろを向くと、小猫と蘭に拘束を引きちぎられたアーシアが、祐斗に上着をかけられている光景だった。

 

「あれが、お前が守り抜いた戦果だ。それを忘れたらいけないぜ?」

 

「・・・ああ」

 

 アーシアを、守りきることができた。

 

 それは、それだけは誰にも否定させない自分の結果だ。

 

 命を奪う衝撃は未だ残っているが、しかしさっきより気にならなくなっている。

 

 それは、それだけの価値があることだと自分の中で結論ができたからだろう。

 

「ありがとな、織斑」

 

「気にするなって」

 

 そういいながら、一夏はイッセーに肩を貸した。

 

 まだ足に大けがを負っているイッセーに無理をさせるわけにはいかないからだ。

 

「やあ、みんなよくお疲れさま」

 

「あらあら。皆さんご苦労様ですわ」

 

「イッセー。よく頑張ったわね」

 

 と、廃教会の扉を開けてレヴィア達が微笑みながら入ってきた。

 

「はい、すべて終わりました部長。それで、外の方は?」

 

 木場が訪ねると、リアスは微笑みながら後ろ指し示した。

 

 そこには、ぼろぼろになった堕天使が三人、気絶した状態で拘束されていた。

 

「本当なら滅してもよかったのだけれど、レヴィアが死人は少ない方がいいっていうものだから」

 

「それは当然だろう? イッセーくんは素人なんだから、ちょっとは手加減してあげないと」

 

 頬すら膨らませるレヴィアの心遣いに、イッセーは涙が出そうになった。

 

 正直レイナーレ一人でも結構苦しかったのだ。長い間続けばどうなるか分かったものではない。

 

「イッセーさん!」

 

 と、そこにアーシアが体当たりをするかのように抱き着いてきた。

 

 傷が痛むがそれを無視して、イッセーはアーシアの頭をなでる。

 

「大丈夫か、アーシア」

 

「私なんかよりイッセーさんです! こんなに怪我なんてして・・・」

 

 涙すら浮かべてアーシアはイッセーの治療を開始しする。

 

 その姿が何だか微笑ましくて、イッセーは満面の笑みを浮かべるとそっと抱き寄せた。

 

「い、イッセーさん」

 

「アーシア」

 

 静かに、イッセーは手を差し伸べる。

 

「おかえり、アーシア」

 

 その言葉に、アーシアは別の理由で涙ぐみ、しかし笑顔で返す。

 

「はい、ただいま、イッセーさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新入りの歓迎会をするから参加しないかといわれたけど、何が出るんだろうかねえ」

 

 わざわざ朝食を抜いてくるという子供みたいなマネをしながら、レヴィアはそう後ろの二人に尋ねる。

 

「たぶん、出てくるならお菓子だと思いますよ? それとは別に朝ご飯はきちんと食べてください」

 

 蘭はお堅いことを言うが、自分が言わないとレヴィアは聞いてくれないと思うのでもう自分の役目と割り切ってる。

 

「食べすぎも禁止だからな。健康に悪いんだぞ」

 

「はいはい。僕の眷属はハレの日でも厳格でつまらないことで」

 

 一夏にまで言われてぶーぶー言いながら、しかしレヴィアの機嫌は良い。

 

 なにせ兵藤一誠はレヴィア・聖羅のお気に入りだ。そんな彼が中級堕天使を一撃で滅ぼしたというのだから、褒めるべきところではあるのだろう。

 

 それに何より、恐ろしい力の持ち主だというのだから鼻が高いものだ。

 

「かつて三大勢力に恐怖を教え込んだ二天龍。その片割れである赤龍帝ドライグの魂を宿す「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」か」

 

「確か、神滅具(ロンギヌス)の一つ何だって。十三種類各一個しかない、神すら殺せるっていう」

 

 一夏としては割と気になる話だ。

 

 神器の中でも最高峰の一角を占める神滅具は、神器使いにとってある意味あこがれの的だ。

 

 強さを求める者として、興味だけはどうしても引かれてしまう。

 

「なあ、アイツどこまで行くんだろうな」

 

「あんまり興味は無いです」

 

 一夏は蘭に振ってみたが、意外とそっけない返事が返ってきた。

 

 むしろ蘭こそこの話に乗ってきそうだと思った一夏だったが、しかしすぐに蘭は小さく笑顔を浮かべる。

 

「それより一夏さんがどれだけ強くなるかの方が、私にとっては大事ですから」

 

「そ、そうか?」

 

 裏の意味を察する能力はかけらもないが、今回そういうのが全くないのはさすがにわかる。

 

 蘭は、本心から一夏が強くなる事の方が大事なのだ。正直劣等感を感じていた部分もあったので、救われた気がする。

 

「私を守れるぐらい強くなってくださいね。・・・油断してると引き離しちゃいますから」

 

 そう晴れやかな表情で返され、一夏は顔を真っ赤にして言葉に詰まった。

 

 彼女の好意はすでに知っている。返答こそ男の意地で先延ばしにしてしまっているが、しかしうれしい物はうれしかった。

 

「あの鈍感な一夏くんがイチャイチャ砂糖たっぷりの展開をするだなんてねぇ。レヴィアさんは涙が止まらないよ」

 

「ハンカチまで出して嘘泣きするなよな!」

 

 主のワルノリにツッコミを入れながら扉を開ければ、そこではイッセーも涙を流していた。

 

「イッセー!? どうしたんだよお前!!」

 

「一夏か。だって見ろよ、部長の手作りケーキだぜ!? 学園の二大お姉さまが作った手作りケーキだぜ!?」

 

 心の底からマジ泣きしているイッセーを見ると、もはやあきれるしかない。

 

 そんな風景を見ながらレヴィアが視線をずらすと、そこには駒王学園の制服をきたアーシア・アルジェントの姿があった。

 

「やあ、アーシアちゃん。その様子だと覚悟はできたみたいだね」

 

「はい。これからは、部長さんの元でお世話になることにしました」

 

 そういいながら、アーシアは悪魔の翼を展開する。

 

 アーシアは、リアスの転生悪魔として生きる道を選択した。

 

 すでに神に見捨てられたような立場であること。現場の独断とはいえ殺されかけた堕天使側においておくわけにはいかないこと。彼女の神器を心無い者が狙ってくる可能性。それらいろいろとした理由はあるが、しかし全部彼女にとってはおまけだろう。

 

 転生悪魔として長い寿命を生きる、兵藤一誠の隣にいたいといういじましい恋心が最大の理由なことぐらいは、レヴィアにもわかる。

 

「アーシアちゃん。たぶん君は時々後悔するだろう。敬虔な信者が悪魔になるなんて、後の生活が本当に大変だからね」

 

「は、はい! 死んだつもりで頑張ります! 主よ、どうか見守って下さアウ!?」

 

 いきなり天に祈りを捧げて罰を喰らっている。

 

「まずは、お祈りをしないようにすることから始めようか」

 

「は、はい・・・。実はさっきもやってしまいました・・・」

 

 涙目のアーシアに、レヴィアは苦笑を浮かべてしまう。

 

 これからこの子はとても大変なことになるだろう。

 

 信徒からも堕天使側からも裏切り者扱いされるだろうし、信仰を捨てていないまま悪魔になったのだから、悪魔としても扱いに困るような類だ。

 

 三大勢力が和平の一つでも結んでくれればそれもなくなるだろうが、それは無理というものだろう。

 

 今から和平について動きを入れたとしても、それが形になるまでに何年かかることかわからない。数百年ぐらいかかっても全くおかしくないぐらい、怨恨は大きかった。

 

 そのうえ第三次世界大戦の勃発で、世界は表も裏も割と大変なのだ。

 

 ・・・それでも、自分たちは生きていかないといけない。

 

 レヴィアはポケットに手を入れると、そこから結晶体を取り出した。

 

 ISコア。この世界において最も希少な兵器の中枢を、レヴィアはいくつも所持している。

 

 それらはすべて未登録。篠ノ之束博士が、一夏が大変なことになったことを聞きつけて送り付けてきたとんでもないものだ。

 

『これの使い方はいっくんに任せます。あと、いっくんなら動かせるから遠慮なく使ってね♪』

 

 そう短く書かれていた手紙の内容通り、一夏はISコアを起動させることができた。

 

 人類統一同盟が作り上げた男女両用コアではなく、束博士が作ったなぜか女にしか動かせないISコア。それを、男が動かすというのは前代未聞の出来事だった。

 

 本来なら、その存在を公にするということもありえただろう。

 

 だがレヴィアの眷属悪魔になってしまった一夏がそんなことをすれば、第三次世界大戦はさらに混沌とした戦いになる。

 

 三大勢力が堂々と表の社会で戦争を行う、そんな激戦になるのが目に見えていた。

 

「・・・なんとか、してかないとね」

 

 これをどうすればいいかは、いまだわからない。

 

 わからないが、しかし責任だけはきちんと果たさなければならない。

 

 そう、それがレヴィア聖羅の・・・否。

 

「セーラ・レヴィアタンの果たすべき役目だからね」

 

 そう決意を込めて、レヴィアは表情を作り変える。

 

「レヴィア。そろそろ半分ぐらい食べられてるけど食べないのか?」

 

「・・・食べないのなら、全部もらいます」

 

「あ、食べる食べる♪」

 

 一夏と蘭にせっつかれて、レヴィアはすぐに切り替える。

 

 一瞬で表情を明るいものに切り替えて、レヴィアはすきっ腹にケーキを詰め込み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蒼穹を舞う剣士と、赤き龍宿す戦士は、いま正しい意味で邂逅を果たした。

 

 彼らはもちろん、その主も同胞たちもまだ知らない。

 

 彼らこそその第三次世界大戦を、混沌足る争いを終焉させるための切り札となるであろう存在であることを。

 


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