ノゲゼロ夫婦が異世界へ来たようですよ? 作:駄作者
「な、何であの短時間で〝フォレス・ガロ〟のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?しかもゲームの日取りは明日!?それも敵のテリトリー内で戦う何て!準備している時間もお金もありません! 一体どういうつもりがあってのことです!」
「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」
「黙らっしゃい!!!」
まるで口を裏合せていたかのような息の合った言い訳に激怒する黒ウサギ。
それをニヤニヤ見ていた十六夜が止めに入る。
「別にいじゃねえか。見境無く選んで喧嘩を売った訳じゃ無いんだから」
「い、十六夜さんは面白いならいいと思っているのでしょうが、この〝
そして黒ウサギは〝契約書類〟を見せる。これは〝
そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品が書かれており〝主催者〟のコミュニティのリーダーが署名することで成立する。そして黒ウサギが指す賞品の内容はこうである。
「〝
ちなみに飛鳥達のチップは〝罪を黙認する〟と言うものだ。それは今回に限ったことでなく、一生黙認し続けると言うことである。
「でも時間さえかければ、彼らの罪は暴かれます。だって肝心の子供達は……」
黒ウサギは言い淀む。彼女も〝フォレス・ガロ〟の噂は耳にしてたが、これほど酷いことになってたとは思わなかったのだろう。
「そう。人質は皆死んでいるわ。その点を責め立てれば証拠もでるでしょう。でも私はあの外道を裁くのに時間を掛けたく無いの」
箱庭の法は箱庭内のみ有効であり、外は様々な種族のコミュニティがそれぞれの法とルールで生活する無法地帯となっている。
そこに逃げられたら、箱庭の法の下で裁く事は出来なくなる。だが、〝契約書類〟の強制執行なら強力な〝
「それに。私はあの外道が私の生活範囲内で野放しにされることも許せないの。ここで逃がしたら、いつかまた狙って来るに決まっているもの」
「それに、遅かれ早かれフォレス・ガロとは対決する事になってたんだ。今回はノーネームに犠牲が出る前に先手を打たせて貰ったそれだけだ」
「えっとそれは……どういう事でしょうか?」
リクの言葉に黒ウサギは思わず尋ねる。
「まず、ガルドは
飛鳥と耀はリクのその言葉に同意するように頷く。
「ええ、確かに彼はそんな事を言ってたわ」
「そうだそしてガルドは何故今回俺達に近付いて来たか分かるか?」
そしてそんな彼女にリクはそう問いかける。
「えぇ。彼は私達の勧誘が目的でしょ?」
「そうだ。そしてそれはガルドのコミュニティを強化すると同時に、ノーネームの勢力を少しでも強化されるのを未然に防ぐ事が目的と考えられる、つまりガルドは少しでもノーネームの勢力が強化されるのが気に食わなかった訳だ」
「…………」
「そして、それらから考えられるのは1つ、ガルドはいずれにせよノーネームに土地と黒ウサギをチップにギフトゲームを仕掛ける予定だったって事だ」
そうリクは言い終えると、周囲には沈黙が流れる。この場でリクが言った事はあくまでも仮説に過ぎない。だが同時に否定も出来ないのだった。
そしてリクの仮説による最悪の結末を黒ウサギは想像してしまい、冷や汗をながしながら思わず息を呑んだ。
そして重苦しい空気が流れる中、黒ウサギは話しを切り替える。
「と、取り敢えずそう言う事なら! それに、腹だたしいのは黒ウサギも同じですし。〝フォレス・ガロ〟程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」
黒ウサギがそう言うと、十六夜と飛鳥は怪訝そうな顔になる。
「何言ってんだ? 俺は参加しねえぞ?」
「当然よ。貴方を参加させる気はないわ」
フンッと鼻を鳴らす二人に、黒ウサギは慌てて二人に食ってかかる。
「だ、駄目ですよ! コミュニティの仲間同士なんですからちゃんと協力をしないと」
「そう言う事じゃねぇよ黒ウサギ」
十六夜は真剣な顔をし、右手で黒ウサギを制する。
「いいか? この喧嘩はコイツらが
「あら、分かっているじゃない」
「はぁ……もう、好きにしてください」
黒ウサギはそう言ってそのまま肩を落とすのだった。
しばらくして黒ウサギは気を取り直すと、咳払いをして全員に切り出す。
「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎する為、素敵なお店を予約し、色々セッティングしてたのですが……不慮の事故続きでお流れになりましたし。後日、きちんと歓迎を」
「別にいいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティはそんな余裕も無いのでしょう?」
黒ウサギは驚くとジンを見る。申し訳なさそうな顔をするジンを見て、現状を悟る。黒ウサギはウサ耳まで赤くして恥ずかしそうに頭を下げる。
「申し訳ございません。皆さんを騙すなど気が引けたのですが……黒ウサギ達も必死だったもので」
「気にしなくていいわ。私は組織の水準何てどうでも良かったもの。春日部さんやリクさん達はどう?」
黒ウサギは恐る恐る耀やリク達の様子を見る。リクは黒ウサギを優しげな眼差しで見て、耀は無関心なまま首を振る。
「ガルドみたいな奴なら怒ってたが、黒ウサギ達はそうじゃないしな」
「【回答】リクがいる所なら何処でもいいから気にしてない」
「私も起こって無い。そもそもコミュニティのことなんて。どうでも良かったから……あ、けど」
思い出したように呟いた耀。ジンはテーブルに身を乗り出す。
「どうぞ気にせず聞いてください。僕らで出来る事でしたら最低限ではありますが、用意くらいならさせてもらいます」
「そんな大それた物じゃない。ただ……毎日三食お風呂付きの寝床があればいいな、と思っただけ」
ジンは表情が固まる。リクにいたっては箱庭に来る前は、水でさえ希少な環境にいたことも相まって、ジンの様子からノーネームの現状を察し、苦笑いを浮かべる。
耀はジンの様子から慌てて取り消そうとしたが、先に黒ウサギが嬉々とした表情で手に持っていた木の苗を持ち上げる。
「それなら問題ありません! 十六夜さんのお陰でこんな大きな水樹の苗が手に入りましたから! これで水を買う必要もなくなりましたし、水路が復活できます♪」
一転し表情が明るくなる。飛鳥にいたっては安心した顔を浮かべる。
「私達の国だと水が豊富だったから毎日のように入れたけれど、場所が違えば文化も変わるものね。今日は理不尽に湖に投げ出されているから、お風呂くらいには入りたかった絶対に入りたかったのよ」
「それには同意だな。あんな手荒い招待は二度とうけたくないね」
「そ、それは黒ウサギ達の責任外ですよ……」
リクとシュヴィを除く、召喚された三人は黒ウサギを責めるような目で見る。
そんな視線に怖気付く黒ウサギ。
ジンも隣で苦笑する。
「あはは……それで今日はもうコミュニティに帰る?」
「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰り下さい。ギフトゲームが明日なら〝サウザンドアイズ〟に皆さんのギフトの鑑定をお願いしないと。それにこの水樹の事もありますから」
十六夜達五人は首を傾げて聞き直した。
「〝サウザンドアイズ〟って? コミュニティの名前か?」
「YES! 〝サウザンドアイズ〟は特殊な〝瞳〟のギフトを持つ者達による群体コミュニティであります。そして箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通した超巨大な商業のコミュニティです! 幸いなことに近くに支店がありますので」
「ギフトの鑑定と言うのは?」
「勿論、ギフトに秘められた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力もより大きくなります。皆さんも自分の出処は気になるでしょう?」
黒ウサギが同意を求める中、五人中四人は複雑な顔になるがリクは、何の力も無い人間だった。
故に行く必要は無いのだが、そうするとシュヴィと別れる事になる。
かつて壮絶な別れを遂げただけに、リクはシュヴィに過保護になっていた。
それに対しシュヴィはと言うと、話に付いてこれて無いのか、元々興味が無いのか首を傾げている。
とはいえ拒否する事は無く黒ウサギ・リク・シュヴィ・十六夜・飛鳥・耀の六人と一匹は〝サウンドアイズ〟に向かう事にしたのだった。