ノゲゼロ夫婦が異世界へ来たようですよ? 作:駄作者
三人称で書くのは初めてなので出来るだけ優しく見守って下さい。
退屈しのぎに平行世界の外側を漂う者がいた。
「ヴァアハッハッハッハッハッハッ、何たる滑稽! 愉快! 痛快! まさに愉悦よ!!」
燕尾服の黒人紳士は高らかに笑う。それは偶然の出来事、偶然平行世界の外側から鑑賞した光景、男は高らかに笑うと真顔になる。
「ふむ、あやつらを異世界に飛ばしたらどれほどの混沌をもたらしてくれるだろうか」
彼は思案する。だが結論は変わらない。思いついたら迷わず実行出来るのは強者の特権。元から定められた秩序などより、未知で不可思議な混沌こそ、彼の全てであり至高。彼は魔術、魔法を駆使して先程鑑賞していた世界で、朽ち果てた少年を呼び寄せる。
死者の蘇生は生命の冒涜。無からの復元は世界の秩序を乱し理に逆らう禁忌。だが、混沌たる彼は、禁忌は混沌よりいでしもの、彼の存在意義である。
ならば、惜しみ無く使用するのは必然。
「ふむ、だが、欠損した部位も上手く復元が出来たな、よし」
男はそう言うと、これだけではつまらぬと思った。
故に、彼は世界の過去を遡りとある残骸を回収する。
「ククク……この者と縁とゆかりあるこれを利用しない手は無いだろう」
男は悪戯を思い付いた無邪気な子供のように楽しげに笑うと、残骸を修復し、少年の魂と直結させる。
男は全てが整った事を確認すると、満足気に頷く。
「ククク、混沌の世で出会い、混沌の世に引き裂かれた者同士が混沌たる我により再び出会う事になるとは滑稽なものだな……さて、彼等はまた引き裂かれるのか? それとも今度こそ共に歩めるか? 実に見ものだな」
男は高らかにそう宣言すると、蘇生と復元を施した少年と機械の少女を異世界へと飛ばした。
「人は脆く弱い。しかしそれでも人は醜くも生きようとする。だが……いやだからこそ! 私はそれをとても美しいと思える……さぁ、私に君たちの生き様を見せてみろ! 混沌の申し子よ!」
男は両手を広げ高らかにそう叫んだのだった。
――――――…………
「……ん」
少年が目を覚ますと、そこには高さ4000mほどの世界――遥か上空からの光景が広がっていた。
「へっ? って、のわぁあぁぁーー!!?」
少年は気が付くと、叫び声を上げながら落下していく。そして落下していく自身の周囲には、少年と2人の少女に一匹の猫。
そして……
「――――っ!!」
もう会う事も叶わないはずだった大切な少女、愛しくもかけがえの無い存在がいた。
「――シュヴィ」
男は、愛しき存在の名を口にしながら手を伸ばす。
だが、少年の手が届く前に、無慈悲にも少年の身体は湖に投げ出される。
湖の中、沈みゆく少女、少年は少女深く潜りながら少女の元へと向う。
「(もう会えないと思ってたのに! やっとまた会えたってのに! こんな所で諦められっか! 今度は……今度こそはぜってぇー手放さねぇ!!)」
少年は必死で少女の下まで向かう。すると、先程まで動かないでいた少女が閉じていた瞼を開く。そして少女は自分に向かってくる少年に目を見開いた。
少年は、そんな少女の下に辿り着くと、優しく微笑んだ。
だが、長時間息継ぎも無しに潜っていた彼は、その事を思い出したように口から泡を吹き出す。
そして、そんな少年を見ていた少女は、事態を把握したのかすぐ様少年を抱きしめ岸辺まで駆け上がる。
「ぷはっ、ゲホゲホッ」
「リク……大丈夫?」
岸辺に付くと、少年は空気を咳き込み、かつむせる。少女はそんな少年の横顔をのぞき込むようと心配そうにそう訊ねた。
「あぁ、大丈夫だ……それよりありがとうな、シュヴィ」
少年は、そんな少女の頭を撫でながらお礼を言う。
そしてしばらくお互い見つめ会うと、少年はハッとして周囲を見回す。
そこには、2人から顔を逸らし、気まずそうにしている少年と少女の3人の姿があった。
そんな中、ヘッドホンを付けている少年が黙ったまま上着を脱いで、少年に渡してくる。
少年はヘッドホンの少年の行動を疑問に思ったが、直ぐにその理由に気付いた。
それは彼の愛しき存在の姿だった。簡単に言ってしまえば生まれたままの姿、即ちマッ裸なのだ。
少年は、ヘッドホンの少年の上着をシズシズと受け取るとすぐ様、愛しき存在である彼女の背中に被せる。
「……まぁあれだ、まず間違い無いだろうが一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」
少年は気まずい空気のなか気を取り直して、別の話題をだす。
「え、えぇそうよ……それは良いのだけれども、その〝オマエ〟って言う呼び方を訂正して。━━━私は
そしてお嬢様の姿、いや実際にお嬢様なのだろう少女も、少年の話しに合わせて話を切り替えるとすぐ様、猫を抱えている少女に名前を尋ねる。
「……
「そう。よろしく春日部さん。それでそこの御2人方は?」
そして飛鳥は、そのまま少年と少女に向いて尋ねる。
少年と少女は自己紹介をするか否か考えたが今の所考えてもどうしようもないことと思い、また今は目の前にいる彼等と協力した方が良いと判断する。
「……リク・ドーラだ」
「……シュヴィ・ドーラ」
「そう。それにしても同じドーラって事は御兄妹って所かしら?」
2人は自己紹介をすると飛鳥は微笑みながらそう言う、するとシュヴィは不満気な顔になり、すぐ様リクに抱きつきながら飛鳥に顔を向ける。
「違う……私たちは夫婦」
彼女の発言を聞いた3人は驚いた顔になると、すぐ様気まずそうに苦笑いを浮かべる。
「そ、そう……まぁ趣味とかは人それぞれだものね……それでそこの野蛮で凶暴そうな貴方は?」
「……高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんまの野蛮で凶暴な
「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」
「ハハッ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけお嬢様」
十六夜は挑発的な態度でケラケラと笑う。
飛鳥はそんな十六夜から顔を背ける。
そんな2人を耀は気にせずそのまま無関心を装う。
リクはそれを見て首を傾げるシュヴィの背中に片手を回しながら、そんな3人を優しげな眼差しで見つめるのだった。