【完結】また僕は如何にしてゾンビを怖がるのを止めて火炎放射器を愛するようになったか 作:クリス
2017年6月16日 地震設定を削除
2015年■月■日
校舎二階の制圧が完了した。当初想定していた3日より一日長い4日かかったものの校舎二階は完全制圧したと考えていいだろう。予定より長くかかったのは別に作業が難航したからではなく佐倉先生と若狭君に根を詰めすぎだと半ば無理やり休みを取らされたからである。
僕としては梅雨に入る前になるべく早く作業を終わらせたかったのだが、どうやっても説得するのは無理そうだったので諦めて休むことにした。だが、黙って休む僕ではなかった。胡桃君の協力の下、車からガソリンと瓶を持ち出し火炎瓶を1ダースほど作成した。作っている最中に若狭君にばれてこっ酷く説教されたのは至極どうでもいいことだ。
そうだ。ちょうどいいので学園生活部の人物を整理しておこうと思う。こういった考察は後で意外と役にたったりするのだ。
まずは、佐倉慈。ここ巡ヶ丘学院高校の国語教師でこの学校の生存者の中で唯一成人を迎えている女性だ。クリスチャンなのか首からロザリオをかけているのが印象に残る。成人を迎えているにしてはやや、服装や言動が子供っぽいが、やはり大人と言うべきかその持ち前の包容力で他の生存者達の精神的支柱の一つとなっていると見受けられる。
次に若狭悠里。学園の生存者の一人で以前は園芸部に所属していたそうだ。この避難生活の中で生鮮食品が食べられるのも彼女の知識があってこそだ。そしてある種、病的なまでの母性の持ち主である。僕の想像ではあるが、自分より弱い存在を庇護することにより、自身の精神の崩壊を防いでいるのだ。ふとした時に見せる不安げな表情や言動からもそれがうかがえる。恐らく彼女が生存者の中で一番精神的に脆いであろう。この手の人間はいざという時にとんでもないことをやらかすというのが相場というものだ。妹の手前、そうそう取り乱したりはしないであろうが彼女の動向には注意しておく必要があるだろう。
恵飛須沢胡桃。生存者の一人、陸上部に所持していたらしくその運動能力からくる戦闘力は驚異的だ。パンデミック直後に感染した陸上部のOBを殺害したことを悔やんでいるらしい。口にこそだしてはいなかったが彼女がその男に好意を寄せていたのは想像に難くない。大切な人を手にかける苦しみはよくわかる。そう言えばあれから母さんに会いに行っていないな。
彼女は奴らを手にかけるのに戸惑いを覚えているようだ。奴らとの戦いにおいて本来、人間性は捨てるべきものだ。情に流されてしまえばそれだけ危険は増える。だが、その戸惑いこそが彼女がただの殺すだけの機械と化すのに歯止めをかけているのだろう。とは言え弓を手にしてからは戸惑うことが少なくなっているようだ。それがいいことなのか悪いことなのか僕にはわからない。
最後に丈槍由紀の人物評も記そう。クラスメイトで特にそれと言った面識もなかったが、彼女も中々に厄介なものを抱えている。前にも述べたが彼女の世界では、あの事件は起きておらず今でも平和な世界が広がっているという。僕は精神科医ではないので詳しくはわからないが、どうもそういうことらしい。それだけなら別段珍しくもないが、特筆すべきことは彼女は彼女なりの視点でこの現実を受け入れているということだ。それが無意識の防衛本能によるものなのかは定かではないが、この点は他の病んでしまった者達とは一線を画している。
時より人の心を見透かすかのような発言をすることがあり、その度に僕は驚いてしまっている。人一倍感受性が豊かなのかもしれない。ただ、今回ばかりはそれが裏目に出てしまったようだ。彼女も佐倉慈と共に生存者達の心の拠り所となっているのが見て取れた。言い方は悪いが偶然にも道化役となっているようだ。極限状況の中で人を笑わせられるのは貴重な才能だ。これからも彼女達に笑顔をもたらしてほしいものである。
総評として彼女達は、この地獄めいた世界の中で人間性を保っている稀有な存在であり、恐らくこのパンデミックの中で最も物理的にも精神的にも恵まれていると断言してもいい。はっきり言って僕は場違いもいいところだ。そろそろ出ていくべきかもしれない。るーちゃんは泣くだろうが姉もいることだし大丈夫であろう。それにあの年ごろの子供は忘れっぽい。僕のことなんてすぐに記憶の片隅に追いやられることであろう。
明日は、いよいよ遠征だ。車はもう昇降口の前に止めてある。本当なら僕一人で行きたかったが当然の如く却下され粘りに粘って佐倉先生がついてくることを渋々認めた。
「あら、秀樹君?まだ起きていたのね」
前から聞きなれた声が聞こえる。日記から目を話し声の方向を見れば若狭君が立っていた。いつもの制服姿と違い寝間着をきた彼女ははっきり言って目の毒であった。何処がとは言わない。
「若狭君か。どうしてここに?いつもならもう寝ている時間だろうに」
電気も無駄遣いできないので夜は必然的に真っ暗だ。真夜中の校舎はよく怪談の題材にされるが外が既にホラーじみたことになっているので別に怖くもなかった。
「少し眠れなくて。何か飲み物でも淹れようと思ったのよ。そういう秀樹君は?」
「僕は、日記を書いていただけだよ。それにしても眠れないとは?コーヒーでも飲み過ぎたのかい?」
僕の的外れな質問に彼女は笑いながら答えた。
「そうだったらよかったのにね。貴方がるーちゃんを連れてきてくれて胡桃と一緒にここをもっと安全にしてくれたけど。たまに、どうしても怖くなって起きてしまうことがあるのよ。そうだ、秀樹君も何か飲む?」
彼女は自身の発言をかき消すように僕に提案をしてきた。恐怖で眠れない。至極当たり前のことだ。むしろ少し眠れないだけで済んでいる彼女はとても強い心を持っているのだろう。日記では散々こき下ろしたがそれはあくまで異常事態があった場合のことである。
「そうだね。じゃあ君と同じのを頼むよ。特にこだわりはないからね」
「ふふ、わかったわ。じゃあココアにしましょうか」
それだけ言うと彼女はマグカップを二つ用意しココアの粉を入れた。そして薬缶に水をいれコンロにかける。お湯ができるのはまだ少し先のことだろう。
「秀樹君が持ってきてくれなければこうしてココアを飲むことなんてできなかったわ。本当に助かるわ」
「職員室にも何か飲み物ぐらい置いてあっただろうに」
「職員室にはコーヒーしか置いてなくて、こうしてココアを飲むのなんて久しぶりなのよ」
そういうこともあるのか。僕としては水分補給ができれば別になんでもよかったので気にもしてなかったがなくして初めてその重さに気が付くのだろう。
沈黙が生徒会室を支配した。しばらくすると薬缶から蒸気が噴き出したので、彼女は薬缶を手に取りカップにお湯を注ぐ。甘く優しい香りが僕の鼻孔を刺激する。
「はい、どうぞ」
「こりゃ、どうも」
僕は差し出されたマグカップを手に取った。かき混ぜられたココアが螺旋を描く。
「となり、いいかしら?」
「え?」
僕が彼女の提案を了承する前に彼女は僕の横の椅子に座った。いつもの彼女らしくない。どこかしおらしい。先ほど言った眠れないということと関係があるのだろうか。僕たちは黙ってココアを飲んだ。啜る音だけが響く。なんだこれは。
「ねえ、貴方は怖くないの?」
突然の質問。怖くない、か。正直言って考えたこともなかった。僕はあの時どうしていただろうか。ほんの少し前のことなのに記憶は霞んで思い出せない。思えば随分遠くに来てしまった。
「正直に言って考えたこともなかったよ。死んでたまるかって気持ちでいっぱいでね」
嘘ではないが正しくもない。もしかしたら恐怖を感じていたのかもしれない。死にたくないってのも本当だ。でも僕にはそれをはるかに上回る憎悪の感情が渦巻いていた。
「ふふ、秀樹君らしいわね。私はね、はっきり言って怖いわ。いつ奴らがやってきて私たちを襲うんじゃないかと考えると怖くて仕方がないの。るーちゃんもいるのにね。姉失格だわ」
それを僕に言ってどうしろというのだろうか。若狭君の感じる恐怖は人間として至極正常なものだ。恐怖があるからこそ人間は戦えるのだ。恐怖を感じなくなってしまったらそれはもはや人ではない。言うなれば
「懺悔のつもりなら教会にでも行きたまえ。でも、そうだね。恐怖を感じるのは人間として正常な証だよ、若狭君。恐怖があるからこそ人間は抗えるんだ。それに、君には頼れる仲間がいるじゃないか。一人で意地張るのも構わんがね、それでなんの得があるのかってことだ」
彼女は静かにこちらを向いた。黄色の瞳が僕を射抜く。彼女はいったいなにを考えているのだろうか。
「胡桃にも同じことを言われたわ。私ってそんなにわかりやすいのかしら……」
彼女の考えはあながち間違いでもない。平静を取り繕っている人間ほど言葉の端々に恐怖の感情がにじみ出るものだ。きっと彼女が単独行動に腹を立てるのも、本人が自覚しているかはともかくとして、一人になることへの恐怖が関係しているのだろう。
「瑠璃ちゃんはね、君に会いたいと何度も言っていたよ」
「え?」
僕は今から最低な行いをしようとしている。でも、後悔はない、必要なことだから。
「別にね、君が自分の事をどう思おうが僕の知ったことではないよ。でもね、あの子の姉になれるのは、この世で君しかいないんだよ。当たり前のことだと思うかもしれないけどもね。たしかに、妹君の身体は守れるだろうよ。そうなるように今努力しているからね。けど、けどもね、瑠璃ちゃんの心を守れるのは世界で君だけなんだよ!」
僕は立ち上がり彼女の細い両肩を掴む。お前は最低だ。彼女を妹に縛り付けようとするなんて。
「ひ、秀樹君!?」
「いいか、よく聞きたまえ悠里君。あの子の姉は君なんだよ。他の誰にも替わりなどできないんだよ。自分を卑下するのは自由だよ。でも、これだけはわかってほしい」
僕は彼女の両肩を開放し距離を取る。慣れないことをしたから緊張してしかたない。
「いきなり肩をつかんで悪かったね、若狭君。不快に思ったのなら殴ってもらってもかまわない」
交際してもいない女性の身体に触れたのだ。殴られても文句は言えまい。そうやって僕が謎の覚悟を決めると彼女は立ち上がって僕に向き直った。その顔は笑顔であった。
「不快だなんてとんでもないわ。ありがとう。おかげで決心がついたわ。そうよね、あの子の姉は私だけだものね。秀樹君、今日は本当にありがとう」
そう言って彼女は残りのココアを一気に飲み干した。凡そ似つかわしくない仕草だ。どうやら吹っ切れたようである。
「でも、一つ訂正してほしいわ。まだ出会って一週間ちょっとしか経ってないけれど私は秀樹君のことも頼れる仲間だと思っているわよ」
僕は自分のために彼女を利用した。僕は彼女に妹を押し付ける為だけにこんなことを言ったのだ。そんな僕が彼女達の仲間になるだなんて許されない。
「そ、そうか。すまなかったね若狭「悠里、でいいわよ。もう私たち仲間なんだしね」オーケー、悠里君」
「それじゃあ、秀樹君。おやすみなさい」
「あ、ああ、お休み」
彼女が去り沈黙と二人分のマグカップだけが残された。僕は一人椅子に身体を沈めた。パイプが軋む。
「はぁ、僕はつくづく最低な野郎だな、本当に。女の子を自分のためだけに利用するなんて……。本当に救いのない野郎だこと」
それでも、僕は歩みを止めない。僕自身のために、そして、今まで切り捨ててきた人たちのためにも。
「それにしても、このカップ……。僕が洗うのだろうか」
前に胡桃君が言っていたことはあながち間違いじゃないのかもしれない。僕は二人分のマグカップを見て思った。
電柱は根元から折れ曲がり車はそこらじゅうで事故を起こし放置されている。家々の窓は割れその役目を放棄してしまっている。ここは巡ヶ丘市。全てが終わってしまった街だ。
「佐倉先生、そこの十字路を右に」
「わかったわ」
彼女はそう言ってハンドルを切る。僕と佐倉先生は今、車の中にいた。以前から計画していた溶接の機材と食料品を入手するためだった。
「それにしても佐倉先生って意外と車好きなんですか?」
そう、てっきり僕は軽自動車にでも乗っているのかと思ったがまさかの外車であった。ミニクーパーS。それが彼女の愛車だ。前輪駆動、直列4気筒のターボエンジンは192馬力もの力を生み出し、時速100kmまで僅か7.9秒で到達する。このほわほわした教師が乗るにはあまりにも厳つい選択であった。
「私の両親が教師になったお祝いにプレゼントしてくれたの。だからそんなに詳しいわけじゃないのよ」
何という太っ腹な親であろうか。しかも過給機付きのミニクーパーSとは。その両親とは気が合いそうだ。
「就職祝いに過給機付きの自動車をプレゼントとは、先生のご両親とは気が合いそうですな。次の角を左折です」
聞きなれない単語に先生は首を傾げた。ご丁寧に指を当ててだ。きっと素でやっているのだろう。そんなんだからめぐねえと呼ばれてしまうのではないだろうか。
「か、過給機?先生、よくわからないわ」
「ターボとも言いますよ。それならわかりますよね」
「ターボね、聞いたことがあるわ。本田君って車に詳しいのね。ふふ、先生本田君のいいところまた見つけちゃったわ」
またってなんだ、またって。そんな感じで僕と先生は他愛のない会話をしながら崩壊した街を走る。
「わたし、学校の外がこんなひどいことになっているだなんて知らなかったわ。本田君は、こんな世界で独り生き残ってきたのね」
先生が呟くように言う。こんな世界か、いい得て妙だな。死人が血肉を求め彷徨い、生き残りはほんの僅か。終わってしまった世界。その言葉がこれほど似合う風景も他にあるまい。
「ゾンビ共がうようよしているの以外は、別に大した問題はありませんよ。奴らはその数こそ厄介ですが一匹、二匹はまるで相手にならない。僕なんて以前は毎朝ゾンビを避けながらランニングしてましたよ」
そう、筋力のトレーニングなら拠点でもできる。だが、有酸素運動だけは実際に走らないとどうにもならなかった。だから僕は奴らの少ない朝方を狙って毎日ランニングをしていたのだ。最初は何度か死にそうになったが一度コツを掴んでしまえば鼻歌交じりでもこなせるようになっていた。こうすることで体力と奴らの避け方を同時に得ることができるのだ。まさに一石二鳥といえよう。
「ラ、ランニング!?」
先生がいきなり急ブレーキをして車を止めた。いきなりなんなんだ。
「本田君!そ、それ本当なの?」
先生が信じられないと言った様子でこちらを窺う。なんだこれはデジャブを感じるぞ。
「ここで嘘ついてなんになるんですか?本当で「もう二度としないこと!」え?」
今なんて言った?もうするな?いったいなにを。
「もう絶対に一人でそんな危ないことをしないって約束して」
僕、おかしなこと言ったかな?駄目だ。今まで自分しか基準がいなかったから今一つわからん。
「は、はあ。わかりました」
僕がそう誓うと彼女は大きな溜息を吐きだした後、僕の目を見た。その目はどこか愁いを帯びていた。
「本田君、前から思っていたのだけれど、貴方は自分を蔑ろにしすぎだわ」
その目はどこまでも慈愛に満ちていて僕は不覚にもドキリとしてしまった。先生は僕の変化などお構いなしに話を続ける。
「短い間だけどもよくわかったわ。本田君、貴方はいつも一人で突っ走っていってしまうのね。無理に頼れとは言わないし言えないわ。私たちは貴方に頼りっぱなしだもの。でもね、貴方が傷つけば悲しむ人が大勢いることをわかってほしい。貴方はもう独りじゃないのよ」
「独り、じゃない……」
先生の言葉はとても優しくどこまでも他者を慈しむ心に満ち溢れていた。狂ってしまった僕と学園生活部。いったいどこで差がついたというのであろうか。
そう、学園生活部だ。ここに来てからいつもこうだ。確信した。ここにいてはいずれ昔の弱い僕に戻ってしまう。だから僕は、
「……先生」
「なぁに?本田君」
貴方達を拒絶する。
「鼻毛みえてますよ」
「やだ!うそ?「嘘ですよ」……本田君」
許してくれとは言わない。精々僕を罵ってくれ。僕にはそれがお似合いだ。
「……本田君。ちょっと、先生とお話し、しようか」
でも、本当にそれでいいの?僕は独り考える。しかし、答えはわからないままだ。
それから僕たちはホームセンターを探索し、溶接に必要な機材を一式入手することに成功。食品コーナーから食料もかなりの量を手に入れることができた。これであと一カ月以上は持つことだろう。ついでにおもちゃ売り場で暇つぶし用のボードゲームもいくつか手に入れた。
遠征は大成功といっていいものであったが、その成果の代わりに既に日は落ちかけ夕闇といった空に変化していた。このまま車を走らせるのは危険なので以前、僕が使っていた拠点まで行くことにする。今日はそこで一泊する予定だ。
「先生。もう機嫌なおして下さいよ。この通りなんで」
問題があるとすれば、僕のデリカシーの欠片もない冗談に未だ先生が腹を立ていることであろうか。僕の謝罪に彼女はぷんすかといった調子で答える。
「もう、本田君のことなんか知りません!まったくもう、本田君はレディーに対する配慮がなっていないわ」
そうやって怒っていても恐怖よりも可愛らしいというイメージしか抱けないのだからつくづく女性という存在は卑怯である。
「僕は男女平等主義者なんでね。そんなものは持ち合わせていませんよ。先生この角を曲がった先です」
僕たちの乗った車が住宅街の角を曲がる。事件が起きる前からここの通りは人通りが少なかった。だからであろうか油断していたのだ。
「先生ストップ!」
車が急停止する。フロントガラスの先に奴らの集団が見えた。数は7体か。あれを使おう。
「先生、ちょっと片づけてきます。何かあったらすぐに逃げてください」
「駄目よ。逃げるときは貴方も一緒」
そこは素直に頷いて欲しかった。でも、そんなことは後回しだ。幸い奴らは僕達に気が付いていない。静かに車から降りる。夜風が心地いい。僕はポケットから爆竹を取り出すとライターで火を付け投げる。
十数m先で連続した炸裂音が鳴り響く。奴らは音に釣られてぞろぞろと歩いて行った。僕はその間にショルダーバッグから火炎瓶を取り出す。ガソリンの臭いが僕の鼻を刺激する。だが、この匂いは嫌いじゃない。
ある程度爆竹付近に固まったのを目視し僕は火炎瓶に火を付け投げた!ガラスの割れる音と共に炎が撒き散らされる。ゾンビ共は一網打尽。しばらくすればゾンビ共の丸焼きの完成だ。ミシュランに掲載されるのも夢じゃないな。
「よし、終わりましたよ先生。じゃあ僕の拠点まで案内するんで付いて来て下さい。先生?」
「…………ッ!?わ、わかったわ。ついていけばいいのね」
その視界の先には奴らが未だ燃え続けていた。
「ただいまーっと」
「お、おじゃましまーす」
先生と僕は拠点の居間にいた。僕はそこの馴染みのソファーに腰かける。そう、ここは僕の家だ。
「まあ、適当にくつろいでくださいよ。飲み物は台所に置いてあるので好きなの取って下さい。と言っても水と缶ジュースくらいしかないですけどね」
先生は僕の家ということもあって少しばかし緊張しているようだ。まあ、それもそうか。男女、密室、一泊、何も起きないはずがなく……。なにも起きねぇよ。
「ここが本田君のお家なのね。ん? あれは」
彼女の視界の先には庭にある。正確には庭に刺さっている一本の十字架にだ。
「あぁ、すっかり忘れてました。先生、紹介します。こちらが僕の母さんです」
僕は先生を連れて庭に出た。十字架にはわかりやすくエプロンを引っかけてあるのでそれがなにかは察しの良い人はすぐに気が付くであろう。
「お、かあ、さん?」
「まあ、正確には母の墓ですけどね。母さん、今帰ってきたよ。今日は人を連れてきたんだ。佐倉先生って言ってね僕の高校の国語教師をやっているんだ」
僕は母さんに先生を紹介した。もう死んで微生物に分解されかけていると思われるので話しかけても意味ないけどもね。僕の言葉に先生は俯いて黙っているままだ。
「じゃあ、紹介したんで部屋に戻りましょうか、先生。先生?」
「え、えぇ。そうね。そうしましょうか……」
結局、その日の夜はそんな感じで微妙な空気のまま過ぎていった。そして朝になり僕たちは学校に戻るため車に乗った。正確には僕一人が。まだ先生が家の中にいるのだ。
「先生!もう行きますよー!」
僕の呼びかけに答えたのか先生が玄関からやってきて運転席に乗り込んだ。
「先生、なにしてたんですか?お化粧でも直してたので?」
ほんとに何してたんだろ。
「もう、違います! そうね、約束してきたの。貴方のお母さんと」
母と約束? 意味が分からん。もう、死んで発酵しているだろうに。
「約束? いったい何の」
僕の問いかけに佐倉先生は首を振る。教えないってことか?
「それは内緒よ……。でも、大切なこと」
その顔は何かを決意したような毅然とした表情であった。本当にいったい何があったんで言うんだ。
「内緒? まあ、いいや。じゃあ行きましょうか」
「少し待って本田君。出発する前に伝えたいことがあるの」
何かを決意したような表情のまま、だが笑みを浮かべ佐倉先生は言った。朝日に笑顔が照らされる。
「本田秀樹君は学園生活部に入部することが決定しました!ちなみに拒否権はないわ」
いきなり笑ったと思ったら今度は一体なんだ。入部? 僕は前拒否したはずだぞ。
「いや、佐倉先生。それはないでしょうに。僕は前に拒否しましたよ。職権乱用だ!」
「あーあーきこえませーん」
畜生、かわいいなおい! と、いうこともあり僕は晴れて学園生活部に入部することになったとさ。まったく理不尽だ。
僕は自分の中で少しづつ何かが変わっていくのを実感した。それが良いことなのか悪いことなのか僕にはまだわからなかった。でも、いずれわかることだろう。だからその時まで待てばいい。それだけの話だ。
いかがでしたか?ぬくもり(火属性)。どうでもいいですけどめぐねえの車って趣味いいですよね。私は好きです。我らが本田君はゾンビのいる中をランニングするという世が世ならエクストリームスポーツにカテゴリされるであろう無茶振り。めぐねえの寿命がストレスでマッハ。めぐねえが主人公の母と何を約束したかはご想像にお任せします。
そして一向に進まないストーリーェ……もっとテンポよく進めたいのですが申し訳ありません。では次回も楽しみに