勇者の後始末人   作:外清内ダク

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第19話-06 舞踏

 

 

 寝室に戻ると、4人の侍女がカジュを待ち受けていた。教養と美貌を兼ね備えた魔貴族(マグス・ノーブル)の令嬢たちは、棒立ちするカジュに群がり、てきぱきと仕事にかかった。服を脱がせる。手指と足を洗い清める。(とろ)けるように(かお)り高い香油を丹念に肌へ擦りこむ。爪を磨く。眉を整える。髪を絹糸のように滑らかに(くしけず)る。

 輝かんばかりの素裸の女神が仕上がったところで、魔王からの贈り物を運んでくる。

 それは、カジュさえ知らない古代魔術で月光そのものから織り上げた光輝のドレスだった。滑らかな生地は見る角度によって白銀にも黄金にも色を変え、精緻極まる銀糸刺繍は魔法の力で持ち主の魅力をいっそう引き立てる。手にすれば羽毛の如く軽く、身にまとえば、大きな腕で優しく抱きしめられたかのように心地よい――

「こんなの似合わない。」

 袖を通すなりぼやいたカジュへ、侍女のひとりが微笑みかけた。

「いいえ。とてもよくお似合いですわ」

「キミさあ……。」

「スペクトラと申します。お見知りおきを」

「なんで親切なの。“灰色の魔女”の噂は聞いてるでしょ。」

 侍女スペクトラは微笑を崩さぬまま背後へ回った。カジュのうなじのそばから手を差し込み、髪をまとめて器用に結っていく。彼女の指が首筋へ触るたび、カジュに小さな緊張が走る。この体勢なら、首を掻き切ることなどわけはないのだ。

「ボクはキミらの仲間を何万人も殺してきたんだ。」

些事(さじ)ですわ」

 ようやく答えた侍女スペクトラの声は、(ひょう)の如く固く冷えていた。

「貴女は魔王様の想いびと。いずれ我らの女王となるべきおかた」

「それじゃあ判断基準を魔王に預けてるだけじゃないか。」

「いけません?」

 こともなげに返され、カジュは言葉に詰まる。

「そんな幸せが、存在してはいけませんか?」

 幸せ。

 スペクトラ――彼女も魔族の娘として戦後を生抜いたのなら、相応の地獄を見てきたはずだ。人間への恨みは到底忘れられるようなものではあるまい。なのに、困窮と暴力によってひととしての尊厳を踏みにじられ続けた女が、同胞の殺戮をすら“些事”と言い切る。憎き“魔女”にかしずくことを恥とも思わず、こうも甲斐甲斐しく立ち働く。

 それを“幸せ”と、彼女は言う。

 言わせてしまう。魔王へのひたむきな崇拝が。

「仕上がりました。ご覧くださいませ」

 侍女たちが総がかりで、大きな姿見を運んでくる。

 そこには、幻想(ファンタジー)の世界から抜け出してきた本物のお姫様が、仏頂面して立っていた。

 

 

   *

 

 

 舞踏室の中では、もう楽師たちが陽気なワルツを奏で始めていた。扉を守っていた鬼兵たちが、侍女スペクトラの命令によって両脇へ退(しりぞ)く。召使いの手で押し開かれた扉の間から、むせかえるような音楽と熱気がカジュの頬へ吹き寄せてくる。

 初めて経験する王侯の宴。その雅やかさは想像をはるかに超えていた。見上げれば首が痛くなるほど高い天井。宝石、貴石を惜しみなく散りばめたシャンデリア。数え切れぬほどに(ひだ)なす天鵞絨(ビロード)のカーテン。演奏に合わせて優雅に踊る人々は、いずれも堂々たる魔貴族(マグス・ノーブル)(あやぎぬ)と金銀とで着飾った紳士淑女が手を取り合って舞うさまは、さながら夜空に(またた)く綺羅星のよう。

 だが、かくも(きら)びやかな光の中にあれば、最も衆目を集めるものは、一筋の光すら放たぬ純然たる闇だ。

 幾重にも連なる人の輪の中心に、ひとりの少年の姿がある。黄昏よりも暗き衣。血の流れより赤き宝玉。その姿はまるで満天の星空にただひとかたまり浮かぶ黒雲。その一挙一動に星々は震え、あるいは歓び、燦然輝く月ですら飲みこまれずにはいられない。

 天稟(カリスマ)。そう表現するしかない存在感を隠すことなく示しながら、彼はこの場のすべてを掌握していた。

 魔王クルステスラ。

 彼はカジュの訪れに気付き、微笑しながら歩み寄ってきた。その行く先の人垣が、海底を歩む聖者の伝承のように左右へ割れる。

「着てくれたんだね。とっても素敵だ……きれいだよ、カジュ」

「美人は何着たって似合うんだよ。」

 くす、と魔王は笑い声を漏らす。

「ならば、世に並ぶものなき美少女よ。僕と踊ってくれないか?」

 気取って差し出された魔王の手。

 カジュはそっと、(おの)が手を重ねた。

 

 

 ふたりが中央へ歩み出るのを待っていたかのように、楽師たちが曲を切り替えた。明るく跳ねるリズムから、胸へ染み入る囁きのようなメロディへ。どうしてよいか分からず立ち尽くしているカジュの不安を魔王は微笑で解きほぐす。彼女の細い腰を、そっと抱き寄せる。

「基本のステップは単純さ。リズムに合わせて、ゆっくり、ゆっくり、速く速く……」

 耳元で囁かれる通りに、カジュはたどたどしく足を運ぶ。ダンスなど生まれて初めての経験だが、何も心配は要らなかった。うっかりバランスを崩しても、魔王の腕が支えてくれる。ステップを間違えても、魔王が自然に合わせてくれる。

 カジュはただ、彼のなすがまま身を任せていればよかった。次第に心地よく火照り始める肉体と情念に、ただ耽溺していればよかった。

「その調子。さすがに呑み込みが早いね。とりあえずこれだけでいくらでも踊っていられるよ。あとは興に任せて、好きに動いてみればいい」

「どこで覚えたの、こんなこと。」

「この日のために練習したんだ」

「誰と。」

「あんまり(いじ)めないでほしいな。君に嫉妬されるのも嬉しいけどね」

「相変わらず無邪気なやつ。こっちは針の(むしろ)だってのにさ。」

「どういうこと?」

「……これだ。」

 呆れかえって溜息を付き、カジュは舞踏室の魔貴族たちへ視線を流してみせた。

「スペクトラさん。踊ってる連中。ご歓談中のお歴々。みんなご寵愛を受けたがってんだよ、魔王様。」

「やめてくれ。僕はクルス。君の前ではただのクルスだ」

 魔王はカジュへいっそう身を寄せた。密着する腰と腰。こすれ合う肌と肌。肩を、胸を、うなじと頬を、温め合うものは互いの吐息。固く握り合った手のひらに、己の想いのたけを込める。繋がりあった心と心に、行き場のない切なさを共鳴させる。幼すぎたあの頃、人目ばかりを気にして、やりたくてもできなかった愛の行為。あれから長い時を過ごし、いくつもの愛の形を知って、ようやく素直に表せるようになった感情。カジュとクルスはようやくここまでたどり着いた。抱きしめ合える距離にまで、やっと近づくことができたのだ。

 なのに、それなのに――

「何も()いてはくれないんだね」

 魔王が不満をこぼしたところで、カジュは異変に気付いた。彼女らの周囲に、不可視の魔術防壁が張られている。

「そのまま気付かないふりをして」

 鋭く耳に刺さる魔王の囁き。なるほど、とカジュは嘆息する。極めて巧妙に術式が秘匿されているが、これは《防諜》の術だ。その名の通り魔術による各種探査を遮断する術である。これをかけたうえで密接距離で会話をすれば、盗み聞きされる恐れは完全に排除できる。こんな小細工を(ろう)するということは、()()に監視されているということ。つまり……

「……ダンスは内緒話のためか。」

「君とだけは忌憚なく話がしたかったんだ」

 ギラッ。

 とカジュが至近距離から睨むので、魔王は思わずのけぞった。

「なんだい?」

「別に。」

「なにを怒ってるの?」

「なんて()いてほしかったわけ。」

「なぜ生きているの、とか」

「察しはついてるよ。《悪意(ディズヴァード)》なんぞの力を借り、《死の女皇》ドゥザニアにケンカ売ってまで死者を蘇らせる……こんなクソ不敬をやってのける倫理観の腐った組織は、ボクの知る限りひとつしかない。」

 

 

「へっくしょん!」

 と、コープスマンは盛大にクシャミした。

 ハンカチで鼻を拭きながら執務室の隅に目をやった。そこでは道化のシーファが床に座り込み、愛用の双剣を分解して手入れにいそしんでいる。

「ねえシーファちゃん。ひとに噂されるとクシャミが出るってホントかなあ?」

「知らぬ」

 つれない返事。コープスマンは唸りながら大きく背伸びする。長時間労働には慣れている彼だが、さすがにここ5ヶ月の多忙にはいささか辟易しているのだ。執務室に並べた机でばりばり仕事をこなす6人の部下たちも同じ思いだっただろう。

 彼が魔王軍の財布を管理していることは先にも述べたとおりだが、これはまことに大変な仕事である。今や総兵力30万に達する魔王軍、それだけの魔族や鬼や魔獣たちを食わせていくのは並大抵のことではない。加えて魔王城の修復、維持、インフラ整備、占領した都市からの税徴収、占領に要する各種の出費、論功行賞の手配、さらに今夜のような慰労の宴会があればその費用の捻出と、仕事は文字通り山積み。そのうえ他の四天王は死術士(ネクロマンサー)ミュート、竜人ボスボラス、鬼娘ナギと武闘派ぞろいで、経理の「け」の字も知らないようなやつばかり。

 必然、事務はみんなコープスマンの担当になる。企業(コープス)から連れてきた部下を総動員してどうにか回しているものの、今夜も魔王城奥の執務室で、夜遅くまでたっぷり残業する羽目になってしまった。

 ごきり、ごきりと首を鳴らし、肩を回して凝りをほぐして、コープスマンは立ち上がる。疲れた顔の部下たちに満面の笑みを振りまいて、

「さあみんな、もうひと頑張りやってみよう!

 なぜなら僕らはー?」

『お金儲けが大好きーっ!!』

 声をそろえて疲れを吹き飛ばし、企業戦士たちは次なる仕事にとりかかった。

 

 

 魔王は小さく頷いてカジュの推測を肯定した。

「“魔王計画”を知ってる?」

「なにそれ。」

企業(コープス)の悲願にして機密中の機密。古代魔導帝国の魔王を人工的に再現する計画だ。魔王など造ってどうする気なのかは知らないが、300年以上に渡って奴らがこのために動いてきたのは間違いない。

 なのにあと一歩というところで、計画の要となる《魔王の卵》を奴らの手からもぎ取った者たちがいたんだ」

「ふうん。いったい誰でしょね。」

 悪戯っぽく笑う魔王にも、カジュは素知らぬ顔。

 昨年の秋、第2ベンズバレンから少し離れた山中で帝国の遺跡が発見された。その奥にあった動力炉――《魔王の卵》を奪取しに現れたのが、企業(コープス)の尖兵、シーファ。そして、それを撃退して《卵》を守り抜いたのが、他ならぬカジュたち3人である。

「あの瞬間、勇者の後始末人は企業(コープス)のブラックリストに載ったのさ。

 だが奴らは狡猾(こうかつ)だ。事態を悟らせぬよう水面下で準備を進め、機を待った。君たちの出自を調べ上げ、罠を張り、ベンズバレンから引き離したうえで事を起こす。おかげで僕は誰にも邪魔されることなく魔王に転生することができた……」

「ちょっと待ってよ。てことはキミやミュートが蘇ったのは。」

「君たちへ揺さぶりをかけるための人選だよ。

 魔王様、だなんてお笑い草だ。得体の知れない計画の中で、定められた役割を演じる役者……僕は今でも、企業(コープス)の操り人形に過ぎないのさ」

「しかし、いつまでも操られてるつもりはない。」

 “我が意を得たり”――魔王が浮かべた会心の笑みは、背筋が凍るほどに純粋な《悪意》に満ちている。

「そうだ。魔王(ぼく)は企業を滅ぼす。

 いや、企業だけではダメだ。発展、公益、利潤と富貴を求める風潮、すなわち需要がある限り、同様の組織が何度でも生まれ、人を人とも思わない愚行を繰り返すだろう。ひとつの欲望が満たされたとき、次に立ち上がるのはさらなる欲望……なぜなら、満たされた思いそのものが、新たな思いを生起するからだ。

 君も見ただろう? 哀れに地を()う“夢見人(ゆめみびと)”たちの惨状を。確かに旧魔王軍は侵略者だっただろう。人間たちが怨みを抱くのも分かる。だが過剰な意趣返しが彼らを傷つけ、辱め、11年を経た今まで続く混乱を醸成したんだ。君たちが生業にする“後始末”とやらいうものも、見方を変えれば弱い者いじめにすぎない。旧魔王ケブラーの瞋恚(しんい)が抗争の種を撒き、勝者たちの慳貪(けんどん)が絶望の花を育てた。かくして苦しみは連鎖する。

 誰かを滅ぼすことに意味はない。

 誰かを救うことにも意味はない。

 だから僕は、全てを救う。

 この世の誰も知らない《最終禁呪》によって、終わりなき欲望と苦の輪廻――すなわち世界を滅尽させる。

 その後に築かれた楽土では、生きとし生ける者全てが永遠の安らぎを得るだろう。

 これが僕の究極目的。魔王の玉座、勇者の排除、ベンズバレン征服……全てはこのための布石。死を賭してでも成し遂げる価値のある事業だよ」

 魔王はカジュの手を我が手で包み、瞳を覗き込みながら唇を寄せた。あとわずか、紙一枚ほども押し出せば誓いの口づけを交わせるところにまで。

()()()()へ来てほしい。

 手を貸してくれ。僕の……魔王クルスの妃として」

 曲が終わった。つかの間の静寂。幾組もの男女が、(むつ)まじく囁き交わしながら部屋の隅へ、あるいはもっと親密に過ごせる別室へ引き下がっていく。新たな踊り手たちが続々とフロアへ進み出、楽師たちが次なる舞曲を奏で始め、世界が再び回り出す。

 カジュはじっと押し黙っていた。魔王に身体を寄り添わせ、腰を支えてくれる彼の指を感じながら、いつでもキスできるところにある彼の唇の前で、冷たい女神像のように立ち尽くしていた。目を閉じる。彼の吐息が聞こえる。彼の鼓動が、皮膚ではなく、肉ではなく、もっともっと奥深いところに直接響く。

「……シュヴェーアの。」

 キスの代わりに、カジュは呟く。

「国ごと消された400万人はどうなる。今も殺され続けてるベンズバレンの人たちはどうなる。」

「仕方のない犠牲だった」

 どん!

 と、カジュは魔王を突き飛ばした。

 よろめきながら半歩後退した魔王の顔が、死人の如く色を失う。カジュは魔王の眼差しを正面から受け止め、それよりもなお冷たい目で睨み返した。

「もう骨の髄まで魔王だよ、キミは。」

 身をひるがえし、スカートを颯爽とたなびかせ、大股に舞踏室を横切り去っていくカジュ。その背を冷然と見送る魔王の顔に、一切の感情は見いだせない。ただ周囲の魔貴族たちのざわめきが、(わずら)わしく響いていただけだ。

「大将」

 いつのまにか、魔王の背後に死術士(ネクロマンサー)ミュートが立っていた。彼は長身を折りたたむようにかがめて、魔王の耳元に口を寄せた。

「予定通り……構わないな?」

「……君に任せる」

 ミュートはカーテンの影に溶け込み、姿を消した。そして魔王はそれ以上一言だに口にすることなく、闇色の衣を引きずりながら何処へともなく立ち去って行った。

 

 

 一方、舞踏会の一部始終を、はるか遠くの城壁からじっと盗み見ていた者がいる。竜人戦士、名前はコブン。四天王ボスボラスいちの子分を自称する彼は、胸壁の隙間から鼻先を出し、目を細めて、舞踏室の窓を小一時間あまりも睨み続けていたのだ。

「あーあ、魔王様フラれちゃいましたよォ? いい気味ですねっ、ねえボス!」

 彼のそばには、いまひとりの竜人の姿がある。四天王ボスボラス。彼は城壁の上にだらしなく寝そべって、(きつ)い蒸留酒でちびちび月見酒としゃれこんでいたのだ。

「アホゥ。他人(ひと)の色恋を(わら)うんじゃねーよ」

「へへえ。ボスも案外ロマンチストっスねえ」

「そんなんじゃねえ。相手の感情、力、信念、ぜんぶ認めたうえで真正面から叩き潰す。それが最強ってもんだ。

 それよか確かなんだろうなァ? てめえの、読唇術とかいうのは」

「任してくださいよ、これだけが特技なんスから」

 魔術による盗聴を防いだうえで、耳元に口を寄せて囁けば、誰にも会話を聞かれることはない……その見積もりが魔王の甘さだ。己の魔術に自信を持つあまり、単純な身体能力の効能を軽視し過ぎている。数km先の文字を読み取るほどの視力に、唇の動きだけで言葉を知る神業。そんな力を持つ者が身近にいようとは想像もしていまい。

「『骨の髄まで魔王だよ』……か。泣かせるねえ、お嬢ちゃん」

 盃の残りをグッと飲み干し、ボスボラスは口の端を吊り上げる。

「オレ様ァそうは思わねえがな」

 

 

   *

 

 

 冷えた王宮に靴音響かせ、カジュは無人の寝室へ戻った。部屋の隅の調度の上にカジュの法衣と靴が置かれてある。そばの壁には愛用の長杖も立てかけられている。カジュは辺りを見回した。ひとの気配は全くない。が、おそらくこれは()の機転だ。

 ――ありがとうドックスさん。気を付けて。

 月光のドレスを脱ぎ捨て裸になる。素肌に灰色の法衣を纏う。ガラスの靴ほど優雅ではないが、象獅子(ベヒモス)革のブーツは荒野や泥沼をものともしないほどに頑丈だ。(きつ)く靴紐結んで立ち上がる。杖を握る。歯を食いしばる。おそろしく透明度の高いガラス窓から夜空を見上げる。

 満月が、痛いほどに煌々と、天頂から光を注いでいる。

 と、月光の中を不気味な黒い影が横切った。宮殿の外の芝の上に、無数に蠢く何者かの姿も見えた。カジュは黙したまま握り拳を横に突き出し、一本ずつ指を広げながら術式を編む。

「は……ぜ……る……そ……ら。」

 指先に灯る5つの火種を拳の中に握り込み、壁へ目掛けて投げつける。

「《5倍爆ぜる空》っ。」

 轟!!

 爆音が魔王城を震撼させる。火焔と爆風が夜空の下で荒れ狂う。頭上を旋回していた骨飛竜(ボーンヴルム)が豪風のために吹き散らされ、眼下で弓を構えていた骸骨戦士(スケルトン・ウォーリア)が骨片にまで粉砕される。もうもう立ち込める噴煙を肩で切り裂き、砕けた石壁を(また)ぎ越え、《風の翼》を静かに広げて進み出るは“灰色の魔女”。吹けば飛びそうな小さな身体に、しかし弾けんばかりの意志をみなぎらせ、並み居る死霊(アンデッド)軍を()めつける。

「ボクはボクの道を行く。」

 羽虫のような音を立て、長杖の先から《死神の鎌》が走り出た。

「止めれるもんなら止めてみろッ。」

 

 

(つづく)


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