その運命に、永遠はあるか   作:夏ばて

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以下言い訳

前回投稿前に若気の至りで独立してノマド野郎としてイキってたら、コロちゃん襲来売上爆散メンタルブレイクしたので、精神科特攻してミネソタだかマサチューセッツだかの心理テスト受けたり、寺で精神統一したり、ブチギレながら開発したり、スーツ見て弁護士かっくぇって思ったり、MIUみて警察かっくぇって思ったりしてたら遅れました。





五十話

リエス島で迎える初めての朝。

この日から本格的に強化合宿が始まる。

 

「ふわぁー」

寝起き顔のシオンが寝癖でぼさぼさになった髪の毛を手櫛で整えながら集合時間ぎりぎりに演習場に入ると、既に装衣に着替えたメンバーが揃っていた。

 

朝っぱらから気合いが入ってるなぁ、と指導免許を授けられているシオンが他人事のように思うのには理由があった。

 

国外対抗戦の出場資格を有しないシオンは選抜メンバーを鍛え上げるという名目で合宿に参加をしているわけであるが、実際のところ人選ミスである。

 

学園長のレリィ、そして騎士団を束ねるセリスと話し合った結果、重大な見落としに気付き、急遽方針を変更することになったのが昨晩の出来事だ。

 

「それじゃあまずルクス君」

代理で指導役を任せることになったルクスの名が呼ばれる。

レリィからその旨の説明を受けるも、ルクスは背後で眠そうに大あくびをしているシオンの存在意義を疑問視するのだった。

 

「シオンじゃ駄目なんですか?」

「駄目ってわけではないけれど、彼の戦術って……ほら、アレじゃない」

 

先の選抜戦にて学園中に浸透した、シオンが得意とする戦闘の形。

 

「近接武器を持って」

「相手の懐に潜り込み」

「殴って蹴って切り飛ばす」

上からリーシャ、クルルシファー、フィルフィの順だ。

 

国外含む模擬戦で無敗を誇るセリスが、敗北の一歩手前まで追い詰められたのは記憶に新しい。

 

「シオン君のをお手本するのはまず不可能でしょう。技術的にも、心理的にもね」

 

「じゃあなんで呼んだんだよ」

 

「あら、痛いところをついてくるわね」

 

レリィは反省の色を示さず飄々としている。

それでも個人的には来た意味がないとは言えない。

 

「そういうわけで、お願いできるかしらルクス君」

 

「はぁ、分かりました」

 

頼まれたら断れないルクスが承諾したことにより、仕事がなくなったシオンは暇人になったわけだが、この合宿に参加した真の目的は士官候補生の指導ではなかった。

 

個人鍛練に集中する、ただそれだけのために参加しているにすぎない。

 

「ええっ! わたしは教わるに値しないというわけですか!?」

 

「いや違いますよ。僕からみて修正点がないから教えられないんですよ」

 

すると「模擬戦頑張る」と意気込んでいたセリスは、断られたショックで「そ、そんなぁ」と凹んでいた。

 

まだぼっちの女神の加護を全身に受けているみたいだ。

 

「僕みたいな耐えて耐えて、相手の綻びを突いていくスタイルよりも、攻めて攻めて押し潰すシオンに習う方が合っているんじゃないですか?」

 

いじけているセリスを哀れんでいると、何を思ったのかルクスがさりげなく押し付けようとする意見を挟んだ。

 

基礎が固まっているセリスには、同じく攻撃に特化しているシオンの元で、応用的な訓練に時間を割いた方が効率的だと言いたいらしい。

 

「なら一緒にやっか?」

チラチラとこちらの反応を遠慮がちに伺っているセリスへ聞くと。

 

「あっ、はい! 是非お願いします!」

 

シオンとしても個人でやれることも限界があるので、練習相手ができるのは嬉しい。

気合い十分のセリスも承諾してくれたので、これで一応指導者としての面子は保てるだろう。

 

「だったらわたしもお前らに混ざってもいいか?」

 

そのタイミングで挙手をしたのはリーシャだった。

 

「お姫ちんもかよ」

正式に交わしたわけではないが、剣技の師弟関係を結んでいるようなものなので、監視下で鍛えるのは当然といえば当然か。

 

ただ隣のセリスとの実力を比べてしまうと……ついてこれるだろうか。

 

「その言い種はなんだっ! 文句があるならはっきりと言え!」

 

「べっつにー。好きにすれば」

 

まあ一人も二人も変わらない。

そんなこんなでグループが二分され、シオンたちが先に演習場の使用する権利を得た。

 

レリィは持ち込んだ仕事に手をつけようと宿舎に戻り、ルクスのグループは基礎体力や剣術の訓練に向かった。

 

取り残されたシオン、セリス、リーシャの三名はだだっ広い演習場の中心にところ狭しと集まっている。

 

「まず始める前に確認することがある。手加減して指導するか、本気で指導するか、どっちを所望するよ」

 

「愚問だな」

 

「はい。手加減は不要です」

 

ほどほどで満足すると答えていたなら、セリスとリーシャの稽古は適度に付き合い、後は個人で追い込むつもりだったが、ほどほどで満足できないなら仕方がない。

 

最後まで付き合ってもらうとしよう。

 

「よし。じゃあお前らいっぺん死ね」

 

リエス島生活2日目午前。

セリスとリーシャを巻き込んだシオンの特訓が開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

交代時間も迫ってきているので、演習場に戻ろうと呼び掛ける。

 

指導者なんて大役を押し付けられたが、一応彼女たちは素直に従ってくれているため、ルクスは今の所は一安心だ。

 

演習場につくと、内部の通路の壁に背を預けるアルフィンがぺこりと会釈で迎えてくれた。

 

そろそろ交代だよ、と切りだそうとした次の瞬間だった。

 

リエス島の演習場は、リングへ出る入場口は強固な扉などが設置されている親切設計ではないので、自然の光が斜めから差し込んでいる。

 

日が出ている時間帯であればその光が目印となり、通路に明かりを灯す必要もないのだが、ズドンという音が反響すると同時に辺りに闇が広がった。

 

何かが墜落して入場口を塞いだ。

 

まさかっ、と嫌な想像をしたルクスは光の筋に導かれるようにして駆け出だした。

 

「うっ……」

その正体は、朱い神装機竜。

使用者であるリーシャは、苦しそうに小さなうめき声を上げている。

 

 

「ちっ、もう時間か……」

それでも苛立ちを隠そうともしない舌打ちを鳴らしたのは、ワイバーンの噴射口から風を放出し続け飛翔しているシオンだ。

 

墜落したものの正体は、ティアマトを纏ったリーシャで、苦痛に顔を歪めていた。

 

次に過ったのはセリスの安否だ。

 

ただ彼女もリングの反対側で壁に背を預けており、全身が脱力しているように見えた。

 

「一旦切り上げるぞ。後ろが詰まってる」

空中でワイバーンを解除して着地したシオンが声を荒げると、リーシャとセリスも揃って装甲機竜の展開が解けた。

 

気力を振り絞って維持していたところ、それがとうとう限界を迎えたようで、意識的に解除したよりも強制解除に近い。

 

両者とも立ち上がるのも困難なほど疲労困憊で、そのままばたりと崩れ落ちた。

 

「お前ら程度の使い手なんて掃いて捨てるほどいんだよ。寝てる暇があるなら足掻くことだな」

 

しかしシオンはその様子を考慮せず、いつもと変わらない態度で……いやいつも以上に辛辣な態度で接している。

 

機甲殻剣を鞘に納めたシオンはアルフィンから手渡されたタオルを頭に被せて演習場の出口へ歩みを進めようとするが、ルクスがその肩を掴んで引き留める。

 

 

「何してるんだよ」

ルクスにしては珍しく、語気を強めてシオンに言った。

 

彼らがこの数時間、どのように過ごしていたかは知らないが、訓練と呼ぶにはあまりにも度が過ぎた光景であるのは確実だった。

 

「あー、うざい。そういうのいらねえから」

 

温度を感じさせない、冷気が含まれているような表情のシオンは軽く払いのけた。

それでもルクスは引き下がろうとはしない。

 

普段はナヨナヨしてるが、やると決めたらクーデターをかます男であることをシオンは思い返すと、不愉快な気分になりながらも状況を説明した。

 

「模擬戦やって、あいつらが弱すぎて話にならねーから軽く殺そうとしたら、ちょっとはマシに動けるようになった。分かりましたか?」

 

「殺そうとしたって……」

 

「うん。猿に芸をやらせようとしても、物覚えが悪かったら叩くだろ。出来の悪い子には恐怖を与える。教育の鉄則さ」

 

ルクスは言葉に詰まった。

きっとシオンは、その理屈が世間には通用しないことを理解している。

けれどその上で、このような方法をとっているはずだ。

 

外からいくら忠告しても、シオンがやり方を変えるとは思えない。

 

だから余計に質が悪い。

 

そして全く反省の色を示すことなく、よく通る声でこう言い放った。

 

「おい、もう無理だと言うのなら荷物を纏めて、親元に帰って引きこもっていろ。軟弱者が戦場をほっつき歩いていると、こっちにも危険が及ぶ可能性が出てくる。勝手に死ぬのは自由だが、俺に迷惑をかけるな。それと、もしやめるなら神装機竜との契約解除して機甲殻剣置いていけよ。俺がお前らより相応しい使い手探してきてやるからよ」

 

どぎつい台詞を残して行ってしまった。

 

唖然とするルクス。

よくもまあ、あのような人の心をへし折るような言葉がすらすらと出てくるものだ。

 

その間に他の生徒は倒れた二人に駆け寄って容態を案じる。

 

「心配はいりません。一人で立てます」

とてもそうは見えないが、やせ我慢を貫きシオンを追いかけようとするセリスの顔つきは、今朝のそれとは違っていた。

 

故に彼女の意志を阻む者は現れなかった。

 

次にリーシャはというと……。

 

「うぅ、ぐすっ……。なんだよぉアイツ、ふざけんなよぉ……」

 

うつ伏せに倒れているリーシャは拳を叩き付けながら大粒の涙を溢していた。

 

所謂ガチ泣きというやつだ。

 

「殺す。いつか絶対に、殺してやる……」

 

人目を憚らず嗚咽を漏らしていた彼女も、物騒に死の宣告をしてはいるが途中で降りる気配はなく、最後までしがみついてやるという気概が感じられた。

機甲殻剣をひきずって歩いていくリーシャを見送る。

 

シオンがキツイ性格をしているのは周知の事実だが、今日は平常時の五割増しの勢いだ。

それでもセリスとリーシャは文句を言わずーーいや、後者は垂れ流してはいたが、二人とも前へ進もうとする歩みは力強い。

 

「訓練の割にはかなりハードな内容のようだけれど、あなたは隠されてる意図が理解できるかしら?」

 

呆気にとられルクスがぽかんとしていると、クルルシファーが顎に手を当て考える仕草を見せるが、どうやら彼女もお手上げの状態のようだ。

 

「いや、シオンの思想は一般のそれとはかけ離れ過ぎてるから無理だよ。もし理解できるとするなら……」

お手本にしては行けない機竜使い代表のシオンの考えなんて読もうとするのが間違いだ。

 

そういうのはシオン専門家に任せるのが効率的である。

 

長年シオンの傍で活動を見守っている人物がいるではないか。

 

「はい?」

注目が集まりこくりと首を傾げるアルフィンが瞳をぱちくりしばたかせる。

 

そんなアルフィンに鬼教官と化したシオンについて説明を求めた。

 

そしていつも通り淡々と答えた。

 

「必死に頑張ってるだけです」

 

「必死に頑張る?」

 

「はい。必死に頑張るです」

 

無論、そんな断片的な情報だけで伝わるとは思っていないアルフィンは、このように続けた。

 

「シオンにとって、強くなるための最大の近道は頑張ることです」

 

「へー、しおりんって才能至上主義っぽいところあるし、ちょっと意外だよね」

 

腕組みをしているティルファーの言い分も一理ある。

生まれながらの才能を重視しているのはこれまでの発言から見て取れるが、それは要素の一つでしかない。

その上に胡座をかいていても、腐るだけだとシオンは知っている。

 

「ただシオンの『頑張る』は、皆さんが想像するようなものではなく、『死ぬ気で』が頭につきます」

 

そしてここでいう『死ぬ気』について、アルフィンがひとつ例をあげた。

 

船上から大海原に突き落とされ、自力で海岸まで泳ぐしか助かる道がない時の、「死にたくない」と呪文のように繰り返しながら生へ執着しようと手足をばたつかせて泳ごうとする。

 

それが『死ぬ気』の良い例だとアルフィンが言った。

 

そんな状況下に放り出されたら、意識は一点のみに集まるだろう。

 

海岸にたどり着かなければ無条件で死ぬのだから、確かに良い例だと思う反面。

 

「それってシオンの体験談?」

 

「知りません」

 

生き方が狂ってるシオンなら十分あり得そうな話だったが、アルフィンは静かに首を捻った。

 

「ですのでこの合宿期間中、弱みを見せたり、キツすぎて諦めが態度に出れば、死なない程度に殺されることになります。なので皆さんでリーシャとセリスのフォローをお願いします。特にリーシャは既にメンタルもぼろぼろになってきていますので」

 

死なない程度に殺されるって何だ?

この場にいる全員の気持ちが一つになった。

 

まだ初日、しかも始まって二時間しか経過していないというのに、現に実力的に遅れをとっているリーシャは人目を気にせず泣き顔を晒していた。

 

限界を迎えるまで追い込んで、更に鞭を打って限界を強制的に突破させる鬼畜教官による超スパルタ訓練だ。

 

「だ、大丈夫なのかな?」

 

「腐れ縁のベイルはパートナーとして二度経験してますが、何だかんだ生存しているので大丈夫かと。装甲機竜の可動限界は超えると思いますが」

 

そう過去の例を持ち出されるが、全く不安が解消されない。

それにそれぞれ算出された可動時間を考慮しないときた。

本当に無事でいられるのだろうか。

 

「彼女たちに負けていられないわ」

 

「……そうだね。僕たちも始めようか」

 




2ヶ月に1投稿を目指したいです。

さっさと夜架だしてーんですわ。


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