その運命に、永遠はあるか   作:夏ばて

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二十四話

遅れて現場に駆け付けてきたルクスとアルフィン、そしてベイルとすれ違った。

殺人を犯していないかアルフィンに聞かれ、素直に「してない」とだけ答えてその場から去ると、どういうわけかアルフィンは背を追ってくる。

 

そのまま無言で学園まで歩き、軽く汗を流すと自室へ直行し、シオンはベッドに身体を投げ出した。

 

「マッサージでもしましょうか?」

「いらんよ」

うつ伏せで枕に顔を埋めていると、そういえば以前アルフィンがクルルシファーの素性を当てていたのを思い出す。

ステータスを運動能力に全振りしている自分とは異なり、知性的なアルフィンの読みは一級品だなと考えつつ、リーシャ達が介入した目的についての説明を受けるが、シオンは夢か現実か区別がつかない状態で、ぼんやりと聞いていた。

 

人払いのため設置していた機竜使いの中には、無資格で装甲機竜を操る傭兵や賊、いわゆる無法者が紛れ込んでいたようで、そこから根掘り葉掘り問いただそうと、身柄確保のために飛んできたと説明された。

 

ついでにシオンが襲い掛かった私兵ともども、公爵家の一員であるバルゼリッドを世見送りにさせないように、昔から付き合いのあるベイルに協力を仰いだようだ。

後処理に追われて徹夜作業のベイルが目に浮かぶ。

 

「人ひとり切り殺したくれえで何だってんだ」

「シオンにとっては呼吸と同じことかもしれませんが、サヤカが悲しみます」

「……だろうな」

「私も、あまりシオンには罪を背負って生きてほしくありません」

なんかの縁があって、アルフィンを空き牢屋から開放してやった時も、あの施設にいた関係者は皆殺しにした。

 

アルフィンからの助け出したことへの素直な想いを受けるのが照れくさいシオンが、グイっと枕を顔面に押し当てる。

 

それを上段へと登ろうと、梯子に足をかけているアルフィンが見つめていると、急にノック音が室内に響いた。

 

「どうぞ」

アルフィンが静かに入室を促すと、ゆっくりと扉が開かれた。

 

部屋に来たのは、明日が恋人ごっこの最終日となる、一週間だけの愛しのハニー、クルルシファー。

ごろりとシオンが寝返りをうつ。

 

クルルシファーの事も教会跡地で放置してきたので、依頼についての話をしなければと思っていたこともあり、ナイスタイミングで登場してくれた。

 

壁に掛けられているランプの明かりを頼りに入室したクルルシファーは、下のベッドに腰を下ろす。

 

「最後の思い出作りに、今夜はここで寝るわ」

疲労によりいつもの元気がないシオンは特に驚きはしない。

 

例え胸が平らな一族のクルルシファーが男だったという爆弾発言を投下されても、ピクリともしない自信があった。

 

「だってよアルフィンさんや。いかがいたしましょう」

個人的にはどっちでもいいので、アルフィンへそう判断を仰ぐ。

と、途中まで登っていた梯子から降り、ベッドから離れる。

 

「お二人のラブラブな雰囲気に耐えられそうにないため、私はクルルシファーの部屋で休むことにします」

「別に気にしてくれなくていいわよ」

愛の巣で愛を育むつもりはないんだけど、まあアルフィンが決めたことだから、強制してこの部屋に留まらせるわけにもいかない。

 

「シオン。女子寮の壁は薄いので、そのあたりの気遣いをよろしくお願いします」

余計なお世話だと言い返してやりたくなる台詞を残して、アルフィンは部屋の外で一礼して二つ隣の部屋に行くのだった。

 

男の知人のベッドで寝るなんて考えたくもないが、女同士ならそれはそれで有りだという発想に至るのは、自分の心が汚れてしまっているせいなのだろうか。

 

ふわふわとして思考の海を泳いでいると、部屋の鍵をしっかりと閉めたクルルシファーが、神聖な領域に侵入してくる。

芋虫のように体をよじって人一人分が入るスペースを確保してやると、ふんわりとした甘い香りが鼻腔をくすぐった。

 

いつ頃クルルシファーが学園についたのかは定かではないが、装甲機竜で飛べば、徒歩よりは速く帰って来れる。

 

それから淑女の嗜みとして風呂場で体の汚れを落としてきたと仮説を立てる。

石鹸の匂いに惹かれるかのように、クルルシファーの首筋にシオンが顔を近づけても、嫌な顔すらしない。

クルルシファーはシオンの耳元に唇を近づけると、消え入りそうな声で。

 

「ありがとう」

「礼なんていらないよ。絶対勝つって約束しただろ」

その感謝の言葉は、シオンもいう必要があったのかもしれない。

入り込んでいたから自制ができなかったし、最後の一振りを止めてくれなければ、サヤカの想いを踏みにじっていた。

 

そのまま目を瞑っていると、右肩に温もりが感じられた。

薄目を開かなくても、クルルシファーがそこを触っているのだと分かる。

 

「ここに描かれていたのは、旧帝国の紋章よね」

悪名高かった旧帝国の印は全世界に発信されているので、知らないのは世間に疎いごく一部ぐらいになる。

そのごく一部に含まれているはずがないクルルシファーが興味を示すことは当然だ。

 

「聞けば九割は距離を置こうとするはずだから、関係を崩したくないならあんま詮索をかけない方が良い」

首を上げてクルルシファーをうかがうと、納得がいかないような、ムッとした表情をしていた。

 

「決めつけられるのは心外ね」

「………どうだか」

普段は思考停止していて、滅多に負の感情にやられることはないシオンが久々に弱音を吐いた。

愚痴ればすっきりするのは昔からそうで、よくフギルにも色々な愚痴や恨み節を吐いて元気を貰っていた。

 

普通の生活に溶け込む罪悪感はないとは言い切れないから、こうして出会ったばかりのクルルシファーにも付け入る隙を与えてしまっている。

 

いいか悪いかは別にして、本場の人でなしっ子みたいな欠陥人間なら、もっと楽に生きれただろうと自嘲気味に笑う。

 

「人を切り殺したことがあるの?」

核心に近い所をクルルシファーは当ててくる。

シオンの生き様から滲み出ている性質を鑑みれば、その疑念が生まれるのは仕方がない。

リーシャやルクスだって、薄々気付いていたはずだ。

 

言い訳に聞こえてしまうが、隠してはない。

ひた隠しにするつもりもないから、ふとしたことがきっかけで、口走ることもある。

 

「………最後に直接殺したのは五年前、アリーシアの谷間で凡そ二百を」

庭で昼寝をしていたときに、クルルシファーへ伝えた内容の続きをすることになる。

 

あえてクルルシファーの反応を窺うことはせずに、あの日の記憶を追う。

 

帝都から逃げ延びた帝国軍の兵士が、家に押し入って来た時に、追い返そうとしたがオウシンに止められた。

生意気な小僧に舐められっぱなしでは示しがつかなかったのか、殴られそうになったところを立ちふさがったのはサヤカだった。

 

勝気だったし、新しくできた弟を守ろうとしたのだろう。

怒りの矛先はそちらに向けられ、殴られたサヤカが食器棚にぶつかったのは今でも覚えている。

 

正当化するつもりはないが、アリーシアに築かれていた拠点に殴り込みに行った理由はそれだ。

 

一応拾ってくれたサヤカには、感謝してもしきれない恩義がある。

飼っている動物が、ご主人様が襲われたときに噛みつくようなもので、ミハイルで乗り込み一人残らず絞め殺したつもりだった。

 

生存者がいたらしく、今となってはユミル教国で「天使様」と崇められているとは驚きだったが、約百五十の機竜使いと五十の歩兵。

伝わっている数が入れ替わっていた。

 

勢力を減らして語るのは敗者の常というもので、百を超える機竜使いがいながら、敗走するしかなかったとは言いずらいため、どうせ数を反対にしたのだ。

 

だからクルルシファーの知る『五十の機竜使いを倒した奏者様』とやらは、この世のどこを探しても存在していない。

 

その後、返り血を浴びて家に帰ったら、褒められるとは思っていなかったけど、まさか泣かれるとも思っていなかった。

まあ殴られたから殺したじゃ割には合わないし、サヤカもそんなことは望んでいなかったとは分かっていたつもりだ。

 

それを境に、もう人を殺さないと約束を押し付けられた。

頷いていないから、了承したことにはならないが、アルフィンが隣で見張ってくれていることもあって、安心して外の世界に住まわせることができているのだと思う。

 

ところどころ端折って伝え終え、クルルシファーの第一声は。

 

「人々を導く天使ではなく、まるで死神の使者ね」

それほど驚いているわけではないらしい。

 

産まれりゃ呪われた女の腹を食い千切って出てきた忌み子。

体よく担ぎ上げられれば神の子。

国外では神の使者と、忙しい身分である。

 

「ひとり残さず四肢切断して埋めておけばよかったなぁ……」

「枕を共にしているのに、よくそんな物騒なこと言えるわね」

「ピロートークがお好みなら、そのまな板代わりにもなる胸揉ませろよ。まずはそっからだ」

鳩尾にグーパンが叩き込まれた。

無防備なシオンは体を縮こまらせて咳き込む。

 

「あなたは女心を理解するように努めなさい。ちなみに私は着やせするタイプよ」

絶対零度の視線を当ててくるクルルシファーは、脱げば凄いと主張してくるが、この前服に手を突っ込んでみたところ、確かに凄かった。

年齢が一緒でもリーシャやフィルフィは、出るところは出ているのに………世の中は残酷で不平等だ。

 

もう夜も遅く、中身のない雑談を繰り広げていられない。

 

足元で丸まっていた上掛けを広げ、クルルシファーに投げると、シオンは壁際で横になる。

 

「夜更かしは美容の敵だし、もう寝るぞ。こんな血にまみれた男の傍で寝れないんだったら、部屋に戻れ」

どんな理由があっても、人殺しは人殺しで、それ以上でもそれ以下でもない。

クルルシファーが部屋から姿を消しても胸が締め付けられたりしない。

他人からどう評価されようが、ありのままで生きていくだけだ。

 

「私があなたを真人間になれるように躾けるわ。だから、逃げてはダメよ」

毛布をシオンにもかけ、クルルシファーはその背中に張り付くようにして密着する。

 

逃げるなと返してくるとは、図太い神経の持ち主だ。

クルルシファーの温かみを背で受けながら、シオンは安らかな眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、唐突の目覚めが訪れた。

今日は祝日で、学園長から仕事を言い渡されることもないため、朝からゆっくり出来るはずだ。

 

時刻は昼前。

不機嫌そうな目つきでベッドの上で正座するシオンは、起こしにきたルクスを睨んだ。

 

「クルルシファーさんが正門で呼んでるよ。エインフォルク家の従者と話を付けに行くから、シオンにはこれを着て着いてきてほしいって」

大切そうにルクスが抱え込んでいるのは、仕立てた高級礼服。

 

横で寝ていたクルルシファーは、寝坊助のシオンに声をかけず、身支度を整えて一足先に待っている。

 

「超かったるいので、ルクスさんが俺の代わりに出席してください。その銀髪を黒に染めればばれないっしょ」

「それでもいいけど、報酬は僕が受け取っていいの?」

「やっぱり俺が直接出向いてやろう」

眠気眼で上掛けを抱きしめてたのが嘘のように、姿勢を正し鋭い目つきへ変化したシオンはクローゼットから服をもぎ取る。

いつもの全身を白で固めたコーディネイトで出陣しようと決めたので、クルルシファーに買ってもらった礼服は……。

 

「その礼服ルクスさんにあげます」

「ええっ、せっかく仕立ててもらったんでしょ!? それに格式のある場所にその格好は不味いって。レストランだよ?」

「安心してくれたまえ。フォークとナイフは外から取る、ケーキが運び込まれて来たら、とりあえず拍手しておく。この二点さえ心得ておけば、テーブルマナーの申し子になれる」

「テーブルマナー以前の問題なんだよね……」

「んなもん知るかぁ。好きな服を着て何が悪いってんだ!」

休んですっかり元気になったシオンは、机の上に寝かせていた機甲殻剣を剣帯に刺し、窓を開け放つ。

カーテンが風を孕んで膨らんだ。

 

シオンは窓枠に足をかけ、一気にジャンプし、女子寮の三階から庭までショートカット。

前転で衝撃を殺し、ルクスに手を振る。

 

「俺には必要ないので、煮るなり焼くなり好きにしてください」

どうせ一日しか着用しないし、シオンにとっては宝の持ち腐れである。

 

だったら元王族の方が使用頻度が有りそうなので、背丈も体格もそんなに変わらないルクスに使って貰えば、礼服を手掛けた職人も喜ぶだろう。

 

「そこまで言うなら有り難く受け取っておくよ。ありがとう」

「どーいたしまして」

無料譲渡が成立したので、クルルシファーが待つ正門まで走るついでに身体をほぐす。

短時間だが激しく装甲機竜を動かしたのであちこちが痛むが、移動に支障はない。

 

昨日は装衣姿で正門に立っていたクルルシファーが、今日は薄水色のドレスで着飾っていた。

一人ではなく軍服の男と話していて、その男とは――

「ベイルてめー、人の女に手を出すなんていい度胸してんな」

何やら盛り上がっていたため、ベイルに体当たりをして突き飛ばす。

 

「落ち着けって、誤解だ。俺の守備範囲は年上と言っただろう」

クルルシファーの細い腕をひいて肩を抱き、俺の女アピールをするシオンを、面白いネタを拾ったかのように、ベイルはにやにやと楽しそうに眺める。

 

「私はあなた一筋よ、シオン君」

「だとよ、良い彼女を持ったな」

肩を叩かれ祝福されるが、心の底からの発言ではなさそうなので、それを振り払う。

 

「からかいに来たんなら帰れ」

「だからそうつんけんするなって。クロイツァー卿がこれからどんな処罰に科されるのか、興味はないか?」

「………長くなりそう?」

当事者のシオンもあの決闘がどういった意図で組まれたのか、興味はあるが、こんな所で時間をかけたくない。

 

要点だけをまとめてくれたベイルによると、無法者を雇っていただけでは飽き足らず、クロイツァー家が主導となった遺跡の盗掘や対立者への圧力など、掘れば掘るほど湧き水のように出てきたので、これから王都で取り調べを受けるために護送されるようだ。

 

城塞都市に赴任したばかりのベイルも、バルゼリッドを送り届けるために一時離れるので、それを報告しにわざわざ学園に寄った。

 

「じゃあベイルは暫く向こうに行っちまうのか。行ったり来たりして大変だな軍人も」

「シオンもどうだ?給料だけはいい職場だぞ」

「死んでも嫌だね」

男臭そう空間では生きていける自信がないため、丁寧に遠慮しておく。

 

シズマによろしくとベイルに頼み、シオン達は用意されていた馬車に乗る。

 

目的地は婚約を結ぶために指定されていた高級商業地区のレストラン。

服装の規定はなく、普段着でも来場拒否にはならないとクルルシファーからは言われた。

 

「あなたには、その衣装が似合っているわ」

「俺も制服よりは、そういう生地の薄そうなドレスが好きだな」

彼氏の特権であるスキンシップも本日限りとなるのは手痛くても、それが金と引き換えになると考えれば、それほど大きなダメージではない。

 

機甲殻剣が男のステータスとなりつつある社会なので、実際に王都では複製品が売られていたりもして、機竜使いもどきがそれを餌に女を釣っていたりもする。

人肌が恋しければ、その手段もありだ。

 

馬車に揺られ目的地の高級レストランへ到着すると、店の前にいたアルテリーゼとともに店内に入る。

店内には女性の店主ひとりしかおらず、アルテリーゼが貸し切りにしたことが伺える。

 

伯爵家の財力は半端ない。

ちょっとでいいので分けてほしい。

 

「ようこそおいでくださいました。お嬢様、シオン様」

完膚なきまで叩きのめし、放心状態だったアルテリーゼも、一晩立てば回復したようで、恭しい挨拶から始まった。

 

そこからアルテリーゼの謝罪の言葉が連なるも、心地いい子守唄を聞いている気分となってしまったシオンは、眠気との勝負を優先してしまい内容が頭に入ってこない。

 

開き直られたら許してやらなかったけれど、指二本ぐらいが妥当な失態を犯したことへの反省の色が示されたので、頭を下げられても困るのはこちらだ。

 

「あなたの誠意はもう十分伝わったわ。そうよね、シオン君」

「訳ありの男に引っかかるってことは執事ちゃん、あんた男を見る目ないな。変な男と結婚しないように注意しろよ」

変な男の代表格のシオンに言われれば説得力が跳ねあがる。

 

笑いを誘う冗談に、頭を上げたアルテリーゼの固い面持ちが和らぐと、対面に座る二人の顔を交互に見た。

 

「愛を育むお二人の仲を引き裂こうとした事実は消えません。せめてもの罪滅ぼしとして、シオン様を婚約者の第一候補として推挙させていただきます」

「第一候補だと?」

誰が得をするのだ、そんなことをして。

高らかな宣言をするアルテリーゼを、口を半開きにしたシオンが凝視した。

 

結婚なんて男の墓場、するつもりもないのに勝手にアルテリーゼが暴走している。

 

「アルテリーゼは一つの物事に入れ込んでしまうと、周りが見えなくなってしまうから、放っておけばそのうち治まるわ」

「治まるっていつ頃だよ」

「さあ?私とあなたが正式な婚約を結ぶ時までかかるかもしれないわね」

だから恋人すら作りたくないのに、それを飛び越えて結婚とかあり得ないのだが。

 

嫌そうな態度をとらずむしろクルルシファーは乗り気でいるのは、非常に濃い恋人ごっこ生活をしていたせいだとすると、やらかしてしまった感がある。

 

振り返ればファーストキスを奪い、デートでも積極的に手を繋ぎ、膝の上にも乗せたり、距離感がリアルな一週間だった。

 

異性として意識してしまえば演技からでも恋に発展するし、その恐れを考慮していなかったことに落ち度がある。

 

「あら、私では不満かしら?」

悪戯な笑みを浮かべるクルルシファーが不満な男などいるはずもなく、シオンも貰えるなら貰っておきたい。

 

実家が金持ちだし、いざという時には養ってもらえる。

 

毒抜きにも進んで引き受けてくれそうなクルルシファーには夜も満足できそうではあるも、美人は三日で飽きてしまうのは男の性。

だから女をとっかえひっかえするハーレム野郎の気持ちが分からなくもない。

 

悩み抜いた末に出したのは、とりあえず唾を付けとくという屑な結論だった。

 

クルルシファーの腰に手をまわすと、あらん限りの力で引き寄せ、強引にその唇を塞いだ。

触れるだけなんて生易しいものじゃない荒々しい口づけでも、瞳を閉じるクルルシファーは抗おうともせず、拙いながらも必至で求める。

 

予告なしでおっぱじめられて迷惑なのはアルテリーゼ。

アルテリーゼは両手で顔を覆い、一部始終は見ていないように振舞うも、指の隙間から食い入るように大人のキスを覗いていた。

 

期待に応えようと一生懸命なクルルシファーを可愛く思うも、これより先に進むには場所が悪いので、彼女の肩を掴み顔を離す。

腰が抜けたのか、クルルシファーはそのまま倒れるようにして胸元に飛び込んでくるので、優しく包み込む。

ほんのりと頬を赤らめるクルルシファーの、何かを訴えるような上目遣い。

 

「本気になってもいいかしら?」

「今更かよ」

顎を上げ、角度を変えたキスを落とす。

 

ぎこちないけど、これからの成長に期待しよう。

経験のある女よりも、まっさらな女のほうが教えがいもあるので、また明日からが楽しみだ。

 

一週間の依頼で得たものは、給料三つき分の報酬。

 

あと女。

 




三巻から切り替えていきたいと思います。

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