その運命に、永遠はあるか   作:夏ばて

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二十一話

遺跡調査に参加したら医師による診察を受けるがある。

育成機関なだけに、健康管理は徹底していて、嫌々ながら女医による診察を受けたシオンは、機竜開発研究所・工房に顔を出していた。

 

ディアボロスとの交戦で潰れてしまった≪ワイバーン≫の装甲の修理、付け替えでリーシャとアルフィンがせっせと働いている横で、優雅におやつのマフィンを頬張っている。

 

「シオン」

アルフィンに手招きをされたので、≪ワイバーン≫を装着しようとマフィンを飲み込み、機甲殻剣を受け取る。

寄りかかるように≪ワイバーン≫に背を預け、金属の装甲に包まれる。

 

ただそれはほんの数秒の出来事だった。

 

「新しくつけた腕が重いからかな、軸がそっちに寄ってる」

装甲から吐き出されたシオンが着地する。

そう注文を受けたアルフィンは、微調整のため工具を片手に、再度≪ワイバーン≫に向き直る。

 

この二人にとってはお約束事のやり取りに、途中まで手伝ってくれていたリーシャが不満顔で突っかかってくる。

 

「どこかにミスがあったか?」

「あると言えばある。ないと言えばない」

どっちつかずな返答に、技術者としてリーシャは合点がいかないように首を傾けていた。

修理した≪ワイバーン≫に欠陥があるわけでもなく、既に遺跡調査出発前と変わらない状態にまで戻してある。

不備はないのだ。

 

「問その一、身体を半分に割ったとしよう」

シオンが伸ばした人差し指が、リーシャの鼻先からずるずると下に落ちていき、人体を真っ二つに切った。

学園長室で胴払いを教えたように、リーシャがこくりと頷いた。

 

「その右半身と左半身を天秤に乗せたら、どっちに偏ると思う?」

「うーん、釣り合う?」

「答えは、はいそのまま動かないで~」

軽い足取りでリーシャの背後にまわり込んだシオンが、とんっと背中を小突いた。

上半身から前のめりに崩れそうになるのを、足で支え体勢を整えたリーシャだったが、それでもまだ良く分からない顔で見つめてきた。

 

「利き足利き手側の筋肉が発達してる、つまり姫様の場合は右半身に比重が傾いている」

シオンがした行為は、利き足の調べ方。

咄嗟に出てしまう足が利き足であり、リーシャは右だったが左が先に出る人もいる。

 

「人間ってのはたいがい片側に寄るんだよ。」

「お前もそうなのか?」

「俺はちょうど中心に寄るように鍛えてある」

歩くという動作も、意識しなければ自然と半身に片寄ってしまうほどで、日々の力仕事で鍛えられている鍛冶職人や木こりなどは、筋量の差が顕著に現れている。

身体の歪みや怪我を招く予防として、また体内の力をスムーズに伝達させるには、なるべくバランスは保っておいた方がいい。

機竜使いにとっては無駄知識だが。

 

「だから装甲機竜も左右均等調節してほしいってわけなんだが、戦闘中に装甲が溶けたりして結局アルフィンの頑張りは無駄になるんだけどな」

「でも装甲の重量ならまだしも、筋肉は計器では測れないだろ?」

至極もっともな指摘だ。

切って測ってくっつけるなんて、粘土のようなことはできない。

四肢の微細な変化を正確に感じ取っているか。

言語化は難しく、そんな小さな変化を気付けると豪語されても、自分なら信じられない。

 

「シオン」

そうしているうちに、アルフィンからお声がかかった。

 

「よし、おっけーだな」

訂正を伝えたら次は完璧に仕上げてくる専属の技師。

たまに利き手であった右手を使いすぎてしまい、右半身が発達してしまうと、アルフィンは機竜の左半身を気持ち重くしてくれて、機竜と接続時にちゃんと軸ができるように調整してくれる。

素晴らしい技術者として育ってくれたことに感謝し、機甲殻剣を鞘に納める。

 

「さてと、さくっとやってくるか」

気負いはしない。

ほどよい緊張感を胸に、工房からクルルシファーと待ち合わせている学園の正門へと早足で向かった。

 

空を仰げば一面に飲み込まれそうな漆黒が広がっていた。

 

太陽はどうして沈んでしまうのだ。

些細な疑問を小さい時に尋ねたことがあった。

 

どうやら太陽を司る神様も常に人間たちを照らし続けていると疲労が溜まってしまうらしく、顔を引っ込めて体力回復に努める必要があると諭されたが、氏神の太陽神がサボってんじゃねえ。

 

駄目な神、略して駄女神だなと罵倒したこともあったが、今となっては駄女神でいてくれてありがとうと言いたい。

 

薄雲が被ってはいるが、暗くなければ月はこんなにもはっきりと浮かんでいなかった。

 

「さあ、行こうぜ」

学園の入り口に差し掛かり、クルルシファーの影を捉えた。

隣に並びシオンは機甲殻剣を勢いよく掲げたのだったが、

「ごめんなさい。私の我が儘を押し通してもいいかしら?」

クルルシファーは驚天動地のひと言を口走った。

 

 

 

 

ここまで順調にモチベーションを高めたシオンと、あくまで冷静なクルルシファーが決闘場に指定された三番街区の教会跡地に赴いたものの、立っているのはバルゼリッドとアルテリーゼ、そしてクルルシファーの三名のみ。

 

クルルシファーのパートナーであるシオンは、浮かない表情で瓦礫に腰かけていた。

 

「お嬢様、これは一体……」

「おたくんトコのお嬢様がさあ、一人でやりたいんだとよ」

生き場のない無念さを、拾い上げた瓦礫に込め、教会の外壁へ投げつけている。

 

「開始の合図がかかってから後悔しても遅いぞ、我が未来の妻よ」

バルゼリッドには好都合な提案だが、納得はしていなさそうだ。

『王国の覇者』としての誇りが邪魔をしていて、考え直すように返しても、クルルシファーの決意は揺るがなかった。

 

「貴族の揉め事に巻き込んでしまった彼には、特等席で私の勇姿を目に焼き付けてもらいたいのよ」

「自ら希望を捨てるなど愚かな女だ。だがオレは手加減をするつもりはないぞ、クルルシファーよ」

「望むところよ、まとめて相手をしてあげるわ」

 

事前に通達されている通り、王都のトーナメントのルールに則る。

追加ルールとして、遺跡跡地からの意図的な逃亡は反則が設定された。

 

当たり前だが、装甲機竜を纏ってからスタートだ。

一時期、詠唱符を唱えている隙に機甲殻剣をぶん投げ、ドロップキックで蹴り倒し、馬乗りで降参宣言をさせちまえばいいんじゃね、と下位の実力不足のランカーの間で流行したことから、曖昧だったトーナメントの規則は、その騒動を期に細かく定められるようになった。

 

それぞれが装甲機竜を召喚し、運命の一戦の幕が上がる直前、シオンはクルルシファーに声をかけようとしたが、出掛かった言葉を引っ込めた。

 

 

「では、決闘開始です」

アルテリーゼが叫んだ直後、クルルシファーの≪ファフニール≫が飛翔した。

 

一対多数の闘いで一番いいのは、多勢に無勢な戦いはしないことだ。

 

尻尾巻いて逃げるのが一番だとしても、逃げるという選択ができない場面などいくらでもある。

 

五十や百の手練れを相手にしなければならない時は勝ち目なんかないので別だが、数打ちを構えるそれなりの敵だったら、リーダー格、いちばんの実力者を殺せば、あとは致命傷を貰わないように立ち回りながら地道に数を減らしていく。

 

逃げるにしても打ち合うにしても、一対多の闘いでは防御に専念するのが定石なのだが、片手で数えられる程度なら先手を取って、一気呵成に攻め込んでしまったほうが実りはある。

 

機竜戦ではどうか知らんけど。

 

 

ダガーをバルゼリッド目掛けて投擲したクルルシファーは、素早く≪凍息投射≫のトリガーを引く。

 

遠距離からの狙撃に特化している特殊武装の強みを生かしたいところだが、フィールドが限定されている以上、退いて撃って退いて撃ってを繰り返すことはできない。

 

飛び道具使いはよくヘタレ野郎と罵られることもしばしば、それでも早逃げを心得ているだけで、非常に頭を悩ませる難敵となる。

 

仮にシオンが飛び道具使いに転向するなら、ひたすらチキンプレイだけを極める。

百歩の距離を保ちつつ、必死にこちらを討たんとばかりに寄ってくる敵の兜ごと打ち抜き、脳漿をまき散ららして伏せる姿を笑ってやる。

ヘタレだなんだほざく輩が、そのへたれに命を奪われるのは無様すぎて笑えないが。

 

要するに、遠距離攻撃を得意としているのなら、ヘタレこそ至高。

 

機竜戦ではどうか知らんけど。

 

 

「不意打ちとは面白みに欠けるが、その判断と手際は褒めてやるぞ。クルルシファー」

着弾すればその部位が凍り付く閃光の対処法として、バルゼリッドは崩れた建物の残骸を戦斧で巻き上げた。

 

「地の利を味方につけるなんて卑怯だぞてめーら。ここお前らのホームスタジアムじゃねえか。腹切って死んで詫びろクソ執事!」

「外野は黙っていてもらえますか」

「ひぇ、さーせん」

≪エクス・ワイアーム≫を纏うアルテリーゼに、ブレードを向けられたので謝っておいた。

 

「大丈夫よ。これくらい、想定の範囲内よ」

まわり込んだアルテリーゼが振り下ろした双剣を、クルルシファーは難なく交わす。

 

お嬢様は落ち着いていらっしゃる。

 

留学生として≪騎士団≫では後方支援がメインのクルルシファーが、慌てずしっかり対応できているのも、積み重ねてきた努力のたまものか。

 

「ではこちらも、想定の範囲内ですか?」

アルテリーゼは空中で機竜を回転させ、更にもう片方のブレードで斬りかかる。

 

弾かれる。

 

≪ファフニール≫の側面に八角形の盾が七つ、青白い光を帯びて展開されており、ブレードの一撃を防いでいた。

 

「………想定の範囲内よ」

 

もう一つの特殊武装≪竜鱗装盾≫、能力は自動防御。

勝手に攻撃に反応して勝手に守ってくれる、狙撃に集中したいスナイパーのお供とも言える能力の武装だ。

 

アルテリーゼの腕が上がっていたのか、クルルシファーの声が少し震えていたのは聞かなかったことにしてあげよう。

 

 

それはさておき、二刀を持つ者がいる。

アルテリーゼ・メイクレアはなにゆえ二刀を手にした。

そう聞くのは野暮なものだろう。

 

晩飯にコンソメスープではなくコーンポタージュを頼んだわけを聞くのと同じようなことだ。

 

一年前に殺したアイツの好物はコーンポタージュだった。

だからせめてもの償いとしてコーンポタージュを頼もう、って深い理由があって注文する奴がいるものか。

 

間合い管理が楽そうだから槍を習う。

使い古された木剣が落ちていたから剣を振るう。

良い長さの木の枝があったから二刀流の真似事をする。

 

だいたいこんな、あってないような理由だし、ケチをつける方が馬鹿だ。

下手であろうと上手であろうと、才覚があろうとなかろうと、選ぶのは自由だ。

 

もちろんシオンも、あってないような理由で剣の道の一歩を踏み出しただけで、師範代の息子ならともかく、あれこれ言うつもりはない。

 

ただ腹は立った。

腹を立てるぐらいなら、問題はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

一国の王、新王国の女王陛下に、小遣いを強請る不届き者が実在するだろうか。

するのだ。

お辞儀名人の如く丁寧な最敬礼で、「小遣いを下さい」と、皆を唖然とさせるシオンという不届き者が。

 

掛け試合の捕まり、収容されていた牢を出され、シズマの好意で国のなんでも屋の職を与えられた数分後、女王に顔見せした途端これだ。

 

常識も何もない男だが、悪い奴ではない。

良い奴でもないけど、リーシャにとっては友達みたいなもので、義母もシオンのことは気に入っている、と思う。

 

 

 

書簡が届いた。

それを握りしめるリーシャは急ぎ足で工房へ戻る最中だった。

 

「ちょ、リーシャ様!?」

開いた片手で途中で鉢合わせたルクスの手をとって。

 

「厄介なことになったな」

工房につくと機竜の設計書に目を落としていたアルフィンはがこちらを向いた。

ルクスを座らせると、本棚の上に乗せられた紙を背伸びして掴み、テーブルに広げた。

 

「これは……。城塞都市の地図ですよね」

「ああそうだ。シオン達の決闘場所は、ここ」

雑に丸く囲ったのは、リーシャが士官学園に来る以前に、遺跡より出現した幻神獣に襲撃されてしまった三番街区の廃墟跡。

ただ事ではない状況を察したのか、アルフィンも地図を覗き込む。

 

「そしてシオンの恋敵であるバルゼリッドが、クロイツァー家の私兵で人払いをしている範囲が、これぐらいか」

更に一回り大きな円を描く。

戦場を中心に半径約一kl以内には、バルゼリッドが設置した私兵が囲っている。

 

「四大貴族の権限で、警邏隊もこの一帯には立ち入らないように、軍に要請しているようだ」

それを表すように、リーシャは何重にも線を引く。

 

「単刀直入に用件に入ると、シオンとクルルシファーの相手はバルゼリッドだけではない。対クロイツァー家だ」

「まさか、クロイツァー家の機竜使いも決闘に介入するだろうとリーシャ様は考えているんですか?」

「そのまさかさ」

確信はある。

義母より届いた書簡の中身は、先日王都で開かれた軍議の内容であった。

 

「あいつら一世一代の大勝負に出るつもりだ。そのためにバルゼリッドはシオンなんかとの決闘で負けて、信用を落とすことなんてできないんだよ。万が一があれば、死人に口なしって言うだろ」

彼ららしい手口で揉み消してくるはずだ。

もはや行われているのは決闘なんかではない。

いち早く駆け付けないと、決着がついてからでは間に合わない。

 

「余計な心配だと、私からは申し上げます」

「――っ!」

きっとアルフィンは、こういえばリーシャを怒らせると。そうと分かっていても、そういう答え方しかできなかった。

眉の内側がピクリと上がったリーシャが、テーブルに足を乗せてアルフィンの胸倉に掴みかかった。

 

「リ、リーシャ様っ!」

ルクスが引き剥がそうとするが、並々ならぬ思いで歯を食いしばるリーシャはそれでも放そうとしない。

学園で、最も古くからの友はアルフィンとシオンだ。

面識があった者もいたが、王侯貴族のしがらみを抜きにして、純粋に仲良くなったのはこの二人だ。

 

「お前、それでも家族か」

「それも余計な心配です。リーシャ」

火に油を注ぐ発言をするアルフィンに、間に入るルクスの顔色が悪くなる。

女同士の喧嘩ほど恐ろしい天災はない。

普段中の良いリーシャとアルフィンが一触即発の事態ともなれば、おどおど情けなく戸惑うしかなくなる。

 

「失言でしたことは謝罪します。申し訳ありませんでした」

一方的に睨みつけられていたアルフィンが均衡を破った。

アルフィンに悪気があったわけではない。

それくらいリーシャには分かっていた。

一本一本指を解いていき、気まずそうに明後日の方角に身体を向けたリーシャは

「わたしのほうこそ、なんだ……。ついかっとなってしまった。すまない」

しおらしく謝るのだった。

 

「殴られる覚悟はしていましたので、お気に病む必要はありません」

ああなっても動じないとは、長年シオンについて来たアルフィンも伊達ではない。

 

「そもそも私たちが心配しなければならないのは、シオンとクルルシファーの身ではありません」

胸元を直してアルフィンは続けると、さらりととんでもない事を口にした。

 

「まず私兵の数が二十と仮定しましょう。単体で騎士団に毛が生えた実力とします。クルルシファーは戦力として入れず、二十人がシオンに一斉に襲い掛かれば、短くて五分、かかっても十分で敵勢力は――」

遠回しな言い方はせずに、「死にます」と。

 

「決闘形式で二十名が正々堂々と戦うなら、そのような事態にはなりませんが、手段を選ばないものならシオンの剣は心臓を貫くでしょう」

 

誰を討つか。

極端に分けてしまえば、殺しておくべき人間と、生かしておくべき人間。

シオンが区別し、前者には容赦をしなければ、情けもかけない。

例え公爵家の嫡男であろうと、シオンは止まらない。

 

「そこまで強いのだったら、なぜあいつは実力を隠していた」

私兵二十を十分足らずで死に至らす、それも汎用機竜でだ。

幻神獣とも渡り合える高手でも、昔はブレスガンをあちこちに振りまいて、かすりもしなかったのに。

遺跡もそうだが、シオンも謎だらけだ。

 

「隠してなどいません。シオンの台詞を頂戴すると、「装甲機竜動かしたばかりの子供にムキになれっかよ。適当に遊んでやればあのクソザコも機嫌よくなるだろ」とのことでしたので、ただシオンの闘争本能を刺激しない当時のリーシャがクソザコだっただけです」

 

「な、なんだと!」

 

「シオンは根っからの戦闘狂なので強敵でないと力が出せません。公的な権威に支えられているトーナメントに出場する機竜使いは、功名心にのぼせ上がる、当時のリーシャと肩をはるクソザコばかりです。真に強い機竜使いはその腕で身を立て、何らかの責任がある地位に登っているので、あのような大会に出場し表彰台にのぼりチヤホヤされる姿は見るに堪えない。とのことです」

 

「ク、クソザコだと……」

「僕もこれでも参加者だから、できればオブラートに包んで欲しかったな……」

まだまだ言い足りなさそうであったが、リーシャが涙目で訴え、でまた今度に持ち越しとなった。

そもそも装甲と障壁に守られている機竜使いと、血生臭い剣客とで比べるのは酷だろう。

 

「オウシン先生が仰っていました。あれはまごうことなき天才だと。リーシャもその片鱗を垣間見たことはあるのでは?」

 

リーシャの機甲殻剣を合わせた双剣を披露した場面や、校舎裏での模擬戦、それに自分の過去を金にもならない苦労悲話と評価するシオンは、普通ではない馬鹿。

馬鹿と天才は紙一重だったりするが、それを言うならリーシャ自身も天才である自覚を持たなければならない。

装甲機竜の歴史が浅いとはいえ、数年齧っただけで新王国でも五本の指に入る機竜使いなれたのだ。

なら自分はシオンと一括りにされる馬鹿か。

それは違う。

 

あの馬鹿はそんじょそこらの馬鹿とはものが違う、幾つもの兵が荒らす戦場のど真ん中で生を受けたような馬鹿だ。

その身一つでしのぎを削る、油断が命取りになるような戦いを好む馬鹿だ。

機竜使いなんて半端者よりも、喰い殺いにくる虎や熊、幻神獣でないとスイッチが入らない馬鹿だ。

 

でも、ありもしない幻だったとしても、リーシャはその馬鹿に憧れてしまったのだ。

装甲機竜と対峙するシオンの、まだ見ぬ二刀流を。

 

「軍施設に私を連れて行ってください」

リーシャが与えたお揃いのガウンを、アルフィンは服掛けにさげると、ドアノブに手をかけた。

 

「でも軍の施設って一番街区だよね。決戦の地は三番街区の外れじゃ……」

「シオンも止めるとっておきを招集しなければなりませんので、軍の施設であっています」

すたすたすた。

装甲機竜で飛んで行けということらしく、呼び出せるスペースのある外へアルフィンが出ていく。

 

「お前はアルフィンを送ってやれ」

「えっ!? リーシャ様は同行しないんですか??」

「アルフィンにはアルフィンの、わたしにはわたしの考えがある。こっちは戦力をかき集めて一足先に現地に向かっているよ。アルフィンは頼んだぞ、ルクス」

すたすたすた。

女子寮に近い裏口からリーシャが出ていく。

意志とは関係なく格納庫まで引っ張られ、最終的に放置されたルクスにとってはてんやわんやな大騒ぎ。

 

リーシャもアルフィンも、シオンのために行動しているので、なんだかんだ愛されてるなと思うルクスも、シオンのために行動するのであった。

 


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