その運命に、永遠はあるか   作:夏ばて

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十七話

つれていった先は城塞都市へ着任初日に寄った、街はずれにある小さな湖畔だ。

管理している厳つい中年男性とは以前から面識があり、時々足を運び釣りに精を出している。

 

「何だシオン。しばらく見ねえと思ったら、女くわえこんでやがったのか」

受付をすっぽかしていた経営者がいつの間にか小屋から顔を出しており、金を投げ入れておいた空き瓶をベルのように振っていた。

 

「ボスもしばらく見ないうちに、剣呑さに磨きがかかったな」

相変わらずのことだが客足の途絶えている釣り場、いくらシオンが売り上げに貢献してやっても焼き石に水っぽい。

 

こうやって趣味で生きているから一般よりも貧乏の部類かもしれないが、娘の嫁ぎ先が一流の楽器商ということもあり、そちらから援助してもらっているそうなので、遊びにきた途端屍とご対面する恐れはない。

 

「顔が広いのね」

「まーな」

クルルシファーと隣り合わせで釣り糸を垂らしてしばらく経っているものの、引きの気配がない。

 

飛び込んで突き刺し焼いて食う。

ただの釣りならそうしていたが、ここはキャッチ&リリースが掟。

もし破ればボスに落とし前として、ドスで指を詰められる。

 

「今日は元気ないな。シオンのお悩み相談室の窓口はいつでも開いてるぜ」

ちらりと一瞥すると、シオンは愉快そうに笑った。

 

「女はあなたみたいに、年がら年中能天気ではいられないのよ」

 

「失礼だな。俺だって夜飯を牛にするか魚にするか悩んだりするぜ。昨日は間をとって両方一人前食ったけどな」

 

「それは間をとると言えるのかしら?」

気のない返事をして、クルルシファーは大きく腕を伸ばした。

 

もはや釣りではない、糸を垂らし続ける我慢大会から先にリタイアするようだ。

飽きが混ざってきたシオンも、竿を上下させて水面に無数の波紋を広げていた。

 

「『奏者』様ってなに?」

唐突に、昨晩の持ち上がったその名について切り出す。

 

以前にされた天使についての言い伝えや、アルテリーゼの発言にあった『奏者』と呼ばれる存在。

ユルミ教国の新王国に対する認識が、どうも気がかりになっていた。

 

「天使の呼び名よ」

「その天使ってのは例のクーデターに出没したアレか?」

 

新王国では帝国を滅ぼした『黒き英雄』が語り継がれているだけだが、神と天使が信仰対象のユミル教国ではそれ以上に有名だと言っていた。

でもその天使について、新王国の認知度は低い。というか皆無ではなかろうか。

 

「帝都を追われた帝国軍が態勢を整えようと雲隠れしていたアリーシア山脈に、神は天使を送り百五十の歩兵と五十の機竜使いを滅した。私たちの国ではそう伝わっているのよ」

 

連続的に伸びる細長い山地には、まだ未踏の地がいくつもあり、長く留まらなければ身を隠す場所には打ってつけだ。

近場のシンガ村ステアリード家からアリーシアが連想されていたのも合点が行く。

 

「似たような言い伝えがユミルにもあって、誰もが重ね合わせてしまったのよね。それに襲われた野営所にはハープの音色が響いたと、いかにも後から付け加えたと思われる俗説まで広まれば、余計想像が掻き立てられるわ」

「ラッパ吹きじゃなくてハープ弾きか。不協和音で脳に直接ダメージを与えるとか恐ろしい天使様だな」

おどけるようにシオンは笑い飛ばした。

シンガ村に物資調達しにきた兵士も、天に召されてしまったというわけだ。

 

「たまたま命拾いした生存者によって広まった噂話だけれど、『黒き英雄』の伝説が大きすぎて根付いていないでしょうね」

ユミル教国だけが祀り上げていて、『黒き英雄』よりも繋がりのある『奏者』が大人気のようだ。

帝国を破滅に追い込んだ怪物が人間なのだから、クルルシファーも天使の正体が機竜使いだと直感的に感じ取っている。

アルテリーゼが昨日驚いていたのも、『奏者』を捕まえたからと思ったからか。

 

「五十の機竜使いを奈落の底へと落とした天使様ねぇ……」

「本当に知らないのよね」

「知らないって」

正直にシオンは首を振った。

知らないし嘘もついていない。

 

お調子者の言葉を信じてくれたかは神のみぞ知るところだが、ふっとクルルシファーは微笑んだ。

 

「なら私も質問してもいいかしら?」

「スリーサイズか? ほっせえ身体してるけど男の胸よりは膨らんでるから気にすんな」

「殴るわよ」

感情を強めて警告してくるのに、横から鉄拳が飛んでくるのはいかがなものでしょう。

 

釣りを中断して、左手で軽くいなす。

かなり負けず嫌いなクルルシファーは、欠伸をしてみせる年下の少年にいいようにやられていることが面白くないらしい。

 

一発当てるまでこのやり取りが続きそうだったので、飛んできた拳を受け止めた。

 

「そんなムキになるなって。抱き心地はいいし自信もっていいぞ」

いつもの調子で褒めてあげても、クルルシファーはむっとしていた。

お世辞のつもりはなかったのに。

華奢な体型への劣等感が強い女子の取扱説明書を要求したい。

 

受付から勝手に拝借した釣り竿を放り投げたシオンは、自分の膝を平手で叩いた。

乗れと、そういう意味を込めたが、勇気より気恥ずかしさが上回ったクルルシファーは微動だにしない。

 

三十秒ほどの無言の駆け引き。

先に音を上げたのはクルルシファーのほうで、木箱に座っているシオンの乗るのだった。

 

 

背後から抱きしめるシオンはただ一言。

「痩せすぎ」

風に吹き飛ばされていきそうなほど軽いし細い。

 

胸の発達が遅れている原因も、肉をつけないからだと口にしようとしたが、肘打ちされそうだったので飲み込んでおいた。

 

「でも、女としては上物だな」

首の付け根に指先を這わせて抱いた感想を告げる。

優しく撫でたり、蒼の髪の毛を繰り返し指で梳く。

 

「手つきがいやらしいわ」

「彼氏の特権にいちゃもんつけられてもな」

仮であっても恋人なのだ。

じゃれ合うのを拒絶されるなんてたまったものではない。

胸元に手を突っ込む程度の仲なので、あの行為と比べてしまえば可愛いものだ。

 

「あなたはお付き合いした経験はあるの?」

一週間の契約を抜いたことを言っているのなら、恋人を作ったことはない。

 

恋愛感情を理解するつもりがないため、今後もそんな機会はこないはずだ。

 

「クルルシファーが初めての彼女」

「…………そう」

恋愛経験無し男だったことがお気に召したのか、クルルシファーは脱力し寄りかかってくる。

 

第三者からすれば本物の恋人同士見える二人。

立場を利用して積極的に絡んだシオンならではの成果だ。

 

「名前、やっと呼び捨てにして呼んでくれたわね」

そういえば……会ったばかりの頃はさん付けに敬語で話しかけていた。

 

付き合ってからは敬語は引っ込めたものの、ハニーとふざけたように呼んでいて、敬称無しで呼ぶのは初めてかもしれない。

 

人を敬うのが苦手なので、好んで敬語を使うことはまずない。

慣れて来たら呼び捨てになり、口調も砕けていく。

ルクスにだけは、たった一人の男友達ということで、形だけの敬意を表明しているが。

 

「元に戻そうか?」

「いえ、そのままで良いわ」

浮かない顔をしていたクルルシファーの気分転換になるようにデートに誘い、結果は成功でいいのだろうか。

一体心持ちにどう変化があったのかは汲み取れないが、元気は出たので解決したことにしよう。

 

(………まさか、超絶美形の俺に抱きしめられて舞い上がってんのか?)

容姿だけは整っている自意識過剰マン。

それがシオン・ステアリード、またの名を四乃森紫音。

 

「ねえ、シオン君」

容貌に優れていた両親に感謝していたのを遮った神妙な声。

 

クルルシファーが少し気まずげに瞳を揺らした。

反射的に耳を覆いたくなったが、判断に心を彷徨わせている間に、クルルシファーが言葉を紡ぐ。

「私の秘密を、聞いてもらえるかしら」

 

 

 

――――

 

 

 

遺跡調査当日、演習場の控え室には『騎士団』から半数ほど選出された生徒と、特別に同行する予定のルクスが待機していた。

 

ところが大切な日に朝寝坊をかましたシオンは、まだ控え室に姿を現していない。

 

出発予定時刻に余裕を持たせた集合なので、これからの計画に狂いは生じないが、『騎士団』顧問のライグリィの貧乏ゆすりが先ほどから止まらない。

食堂でホットケーキを頬張ってるから遅れる。というのが、食べかすを口周りにつけたフィルフィが伝達係として送った情報だった。

 

「よっしゃあ。てめえら準備はできたか?」

ドアを蹴り破り登場したシオンは、悪そびれる風もなく部屋の中心、ライグリィの前まで大股で移動し声を張り上げる。

 

「改めて確認すんぞ。まず各自が用意するオヤツだが、バナナはおやつには入らな――」

「この馬鹿者」

ライグリィが振りかざす画板が脳天に直撃。

絶叫しながらシオンが床を転げまわる。

 

今回の作戦を監督するライグリィも、計算外だった事態があった。

まず一点目が、留学生のクルルシファーが参加の意志を示し、部隊を編成し直したこと。

待機していた生徒も困惑していたが選ばれた精鋭だ、すぐに切り替えていたので作戦に支障はない。

 

二点目は四大貴族のバルゼリッド・クロイツァーが急遽参加を申し出たこと。

 

もちろん反対意見は挙がったものの、相手は四大貴族なのだ。

対等に渡り合える力を持つのはリーシャしかおらず、あれよあれよと言いくるめられ受け入れることになった。

 

部外者の割り込みに、空気は一変したが

「いてーよ教官先生。体罰されたって女王陛下に泣きつくぜ」

ある意味ただ者ではない男が一発でぶち壊した。

 

「お前は馬鹿か?」

「天才だ」

「お前は馬鹿だ」

断言へと即座に変わった。

寝そべっているシオンは立ち上がると、頭のてっぺんを擦りながら整列している生徒の後ろについた。

 

 

「はい、痛んでた個所も縫い直しておいたよ」

騎士団の一員ではないが特例で同行するルクスが、昨日渡しておいたマントを広げる。

 

使い古された衣装だったので、ほつれや擦り切れていた部分もあったのだが、なんとルクスが修繕してくれていた。

 

「ありがとーございます」

さっそく被って身を固めるシオンは、懐をまさぐり紙切れを取り出してルクスへ投げた。

 

「………クレープ無料券?」

「屋台のおっちゃんにもらった。お礼にどうぞ」

城塞都市に拠点を移してからそれほど経ってはいないが、毎日のように遊び呆けていれば自ず顔も利くようになる。

 

有り難く頂戴することにしたルクスが無料券をしまう。

 

「クルルシファーさんが参加するって、シオンは知ってたの?」

知ってたも何も、昨日のデート帰りにユミル教国の庁舎に寄り道しているのだ。

率先して戦地に赴こうとするクルルシファーと、ユミルの役人との言い合いが長引き、また門限に遅れそうになった。

 

「一応聞いてたけど………邪魔者までいるとは」

壁際で佇んでいるクルルシファーへ当てていた視線をずらし、場違いのバルゼリッドへ。

 

「明日シオンが決闘する人だよね」

アルフィン、リーシャ、フィルフィのどれかから仕入れてきたであろう情報をルクスが口にする。

 

「今のうちに椅子で殴って、頭蓋をへこませておくのもありだな」

「ナシだから……。シオンが言うと冗談に聞こえないからやめて」

 

前触れもなく遺跡調査に関わろうとするのだから胡散臭すぎる。

決闘の前に仕掛けてくるのなら、こっちも出るとこが出てしまっても責められる筋合いはない。

下手な動きを見せたらヤっちまおう。

 

 

そう決意を固めたシオンは、装甲機竜を召喚する広さのある演習場へ出ると、クルルシファーが声をかけてくる。

 

「装衣に着替えなくても良いの?」

装衣は幻創機核からのエネルギーを効率的に伝達させ、通常の障壁とは別に、その表面にも強力な障壁を発生させる。

 

着用していれば二重にかけられた障壁により生存率は上がる。

ところがシオンはいつも通りの見慣れた格好なのだ。

 

「それ身体に張り付いて逆に動きにくい」

着たことはもちろんあるが、空気に肌が触れていて落ち着かなかった。

 

それに日常と区別をつけるみたいで快く思えない。

戦いは何か特別なものではなくて、普段の日常に含まれる要素なので、着飾ったりせずにありのままの姿で立ち向かう。

 

障壁も薄くはなるが、申し訳程度の障壁で守られていようと死ぬときは死ぬし、死なないときは死なない。

死にたがりと、アルフィンには言われているが、そのぐらい大雑把に考えた方が上手くいく。

 

「身体の線がくっきりと出るから眺めるのは好きだな。お嬢ちゃん、いい身体してるね」

「訴えるわよ」

酒場で騒いでるオヤジみたいな目つきで観察すると、軽くスルーされてしまった。

 

「作戦開始の直前だというのに女の装衣姿に欲情するとは、ふしだらな男と思わないか。我が未来の妻よ」

会話を聞きつけてきたのか、片頬を釣り上げて笑うバルゼリッドが現れた。

 

「なんか言ったかカス」

「まともに口も利けない蛮族が学園に紛れ込んでいるようだが、よろしいのかな教官殿?」

うっぜえ。

新王国で関わった誰よりも、話していて腹が立つ。

 

身分を笠に着て舐め腐っている人間なんて、殴ればへこへこと頭を下げるのに、この社会でそれは通用しない。

貧民街の住人だったなら、バラバラに刻んで犬の餌にしていたのに。

 

「本番は明日よ」

冷静さを無くし欠けたシオンの手をとるクルルシファー。

ここ数日で彼女役が板についてきたようで、ひとまず落ち着かせようとバルゼリッドから距離をとらせた。

 

顔面も話口調も何もかもが、生理的に受けつけない。

募る苛立ちを発散させようとシオンは石壁を足裏で蹴りつける。

 

「俺をイラつかせることに関しては超一流だなあのクソ野郎」

「あなたとは似た者同士だから反発し合うのは当然でしょうね」

 

部隊長のリーシャや、『騎士団』の面々が続々と装甲機竜を転送し出したので、いつまでも罪のない石壁にぶつけてはいられない。

暗記した詠唱符を唱え、呼び出した装甲を各部位に繋げる。

深呼吸を挟み気持ちを切り替えると、出発の合図がかかった。

 

 

城塞都市から二十klほど離れた位置にあるのが、巨大な白亜の立方体、第六遺跡『箱庭』。

だだっ広い荒野に白い箱、正直気味が悪い。

 

「目標を確認。散開し戦闘態勢に入れ!」

 

飛翔中にリーシャと作戦の確認をしてみたところ、どうやら遺跡調査だけが目的ではなく、周囲に出現した大型幻神獣ゴーレムの討伐も対象になっているという。

 

前方にはゴーレムが、遺跡への侵入者を排除するかのように待ち構えている。

 

二足歩行の金属の塊。

防御力と攻撃力に長ける反面、移動速度はかなりノロマだ。

兎と亀と競争させても、ビリ争いをするとかしないとか。

 

「さっきも言ったが自由に動いていいからな」

まともな連携をとれないのなら、独自の判断で立ち回った方が被害は最小限に抑えられるので、流れに乗り遅れず、戦況に沿った行動をしろとのことだ。

 

事前の作戦では機動性のある≪ワイバーン≫で錯乱し、地上から≪ワイアーム≫部隊のキャノンで核が露出されるまで削る、ちまちましたもの。

 

「なら自由にやらせてもらいますか。フィーちゃんさんは――――いないだと」

こちらの怪力要員のフィルフィと組んで退治しようとしたが、肝心の≪テュポーン≫の姿が見当たらない。

 

「フィーちゃんは命令で城塞都市に残ってるよ」

「結局頼れるのは自分の腕のみってわけか」

同じく≪ワイバーン≫を纏うルクスがそう言ったので、ブレードを構えてシオンは部隊から外れる。

陣形が整うまではまだかかりそうだ。

 

遠距離から地道に攻撃していく戦法は理に適っているとはいえ、しっくりこない自分がいる。

 

(並みの攻撃は通らないから最大充填したキャノン、か)

 

 

斬れるか斬れないかなんて、試してみなければ分からない。

 

 

「だったら、いくぜ。デカブツ」

 

急降下からの超低空飛行。

大地すれすれを飛ぶシオンの≪ワイバーン≫は、飛翔型の特性を前面に押し出した機動性重視の機体だ。

削ぎ落された装甲で、ゴーレムの重い一発を喰らえばひとたまりもないが、当たらなければどうということはない。

 

『おいっ! 自由にとは言ったが、勝手にとは言っていないぞ!』

「ハッ、付き合いの長い姫さんなら知ってんだろ。俺が我慢弱く、落ち着きのない男だってことは!」

 

高速で接近する≪ワイバーン≫を感知したゴーレムは、腕を大きく振り上げ、押しつぶすように拳を叩きつけた。

デカいわりには攻撃動作が速い。

 

シオンは推進出力を最大まで上げ、叩きつけを掻い潜ると、スピードを保ったまま巨樹のように太い右足へ、挨拶代わりにブレードをコツンと当てる。

 

甲高い金属音が鳴るだけで、通常の近接武器では大したダメージを与えることはできそうになかったが。

「硬てえけど、何とかなりそうだ」

 

新たに補助武器であるダガーを転送し、逆手に握った。

背後に回ったシオンに、ゴーレムは上半身を捻り、長い腕を伸ばす。

 

後方確認を怠っているシオンと真っ直ぐ突き出された拳が衝突する直前、≪ワイバーン≫が上昇。

垂直旋回の頂上で機体を水平に戻し、空振りに終わったゴーレムの懐へ潜り込む。

 

『ブレードだけでは歯が立たないぞ!』

やってみないと分からないのに、ごちゃごちゃ煩いな。

すれ違いざまにダガーで胸部を抉る。

 

またも弾かれるだけだったが―――殺れる、と確信を持った。

 

 

 

 

『囮を一匹寄越せ部隊長。潰しやすくなる』

『なっ! だから好き勝手暴れるなと――』

『あとで誠意を込めた謝罪してやるよ。早くな』

ゴーレムから約三百mlほど離れた位置で滞空するリーシャに竜声が届く。

やりたい放題の部下を放置しておきたくはないが、聞き分けの悪いシオンのことだ。

どうせシカトを決めこむ。

 

「サポートをお求めのようだが一旦退き再度接触するか、このまま彼に従うか。どうする、姫よ」

ちらりと横に視線を送るシャリスが判断を仰いでくる。

度合いで測るなら、後退して作戦通りに討伐するのが確実だ。

 

その判断をとれないのは、話を聞かないシオンのせい。

放置するのではなく縛っておくのだったと後悔してもしきれない。

 

「わたしが≪ティアマト≫に切り替えて出る。他は安全圏まで退がっていろ!」

息もつかせぬ攻防に介入するのだから人選は妥当だ。

本来ならルクスを選びたいところだったが、仕留めきれなかった場合は火力で押し切らねばならない。

防御に特化しているルクスでは攻略は厳しい。

 

「私に任せてもらえないかしら」

不意にクルルシファーからその声がかかった。

 

「陽動に専念するなら私の≪ファフニール≫のほうが優れているわ」

「いや、確かにそれはそうだが、もしもの事態になればわたしの≪七つの竜頭≫の出番だし、最近全力で放てていないし……」

私欲が混じっていて後半は声量が落ちていく。

ストレス発散には≪七つの竜頭≫をぶっ放すのが一番。

そんな内情はつゆ知らず、クルルシファーは竜声で呼びかける。

 

『倒し切れるのよね、シオン君』

『何度もしつこいな、俺が倒せるって言えば倒せるんだよ。母国戻ったら預言書みてーなの捲ってみろ。しっかり俺の活躍が記されてるぜ』

 

ゴーレムと一対一でやり合りあいながらも、笑いに誘ってしまうようなシオンからの返答。

 

「決まりみたいね、お姫様」

そうとだけ言い残し、迷いなく≪ファフニール≫を動かしたクルルシファーが交戦エリアに侵入する。

 

「だから許可なく動くなよもう! わたしが部隊長なんだぞ、お前たち二人まとめて命令違反で処分してやるからな! 覚えておけよこのバカップル!」

初めての共同作業にご立腹のリーシャは、飛び交う二機の装甲機竜への不満を口にした。

 




最後のヒロインがセリスになりそうですわ
どれもこれもルクス君が奥手なのが悪いということで……

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