よろしくお願い致します。
【春日雄也・古賀隊隊室】
隊長会議のある日は毎回決まった時間に集まっているのだが、今日はどうも会議が長引いているようだ。いつもだと戻ってきているはずの時間を過ぎているが、今日はまだ清隆が隊室に戻ってきていない。
暇だったので俺は隊室に置いておいた本を読み、美奈ちゃんはせっせとログをモニターに写す準備をし、諒は隊室の一角で素振りをしていた。
俺が持ち込んでいる大量の本を除けば隊室にあまり荷物も置かれてないので、諒が木刀を振るスペースは確保できてはいるが……トリオン体とはいえやっぱ怖いからやめてほしい。
……ちょうど本を半分くらい読み終わった頃に、隊室の扉が開いた。
「ごめん、会議長引いた。待たせたかな?」
「言うて大して待ってないから問題ない」
そうこうしていると、隊長会議が終わった清隆が隊室に戻ってきた。
「おかえりー。こないだのログ写す準備もうできてるよー」
「ありがとう。けどまぁ先に報告からかな? 一旦モニターのとこに集まろうか」
清隆の言葉を受け、皆モニターの側のテーブルに向かう。
全員が椅子に腰をかけたのを確認すると、清隆が口を開いた。
「さてと。じゃあまずは、一番気になることから話そうか」
「昇格戦のことか?」
「そうそう。日時は5月8日の午後から。ゴールデンウィーク明けの水曜日だね。相手は……また二宮隊になった……なんかごめん……」
「「……」」
清隆は謝罪し、俺は無言となり、いつも笑顔の美奈ちゃんも真顔になった。何も知らないのか、諒は俺たちを見てぽかんとした表情を浮かべた。
「あ? どうした? 3人とも?」
「そう言えば諒は知らないんだったか……」
「まぁ部隊のランク戦あんまり興味なかったみたいだしな……」
「二宮隊と何かあるのか?」
「……俺たちは今まで4回昇格戦に挑んで全敗している。そのうちの3回が二宮隊だ」
ちなみに残り1回は太刀川隊だ。……A級トップ勢ばっかが相手であるところ、清隆は多才さの代償に運を奪われている気がしてならない……。
「昨日防衛任務前に鳩原さんに訓練付き合ってもらった時に、昇格戦の相手になったときはそろそろ手加減してください、と言っておくべきだったかな……」
俺たちは今まで昇格目前までは何度かいっているのだが、最後の最後で悔しい思いをし続けてきた。
特に二宮隊とは相性が悪く、完全に火力に押されて圧倒され、3回とも潰された。
それでも前回の昇格戦のときは、二宮さんをあと一歩のところまで追い詰めた。
だが、とどめを刺すべく、弾丸を発現させたその瞬間悲劇が起きた。
手元に発現させたトリガー目掛けて鳩原さんが狙撃をしてきたのだ。
おそらくこんな頭がおかしい真似ができるのはボーダー内ではおそらく鳩原さんと、できたとしても東さんくらいだろう。清隆もかなりの狙撃の腕は持っているがさすがに発現した弾丸トリガーを打ち抜くことはできない。師を超えるのはなかなか大変なようだ。
さて、話は戻るが、俺が発現させた、発射されるはずだったアステロイドはそのまま雲散霧消し、次の瞬間には二宮さんにハチの巣にされ、ベイルアウトしていた。
非常に苦い記憶である。
というかそもそもの相性が最悪だった。
元々古賀隊は2人しかいなかったわけで、しかも片方は弧月も使えるとは言え基本的には狙撃手。必然的に俺がフロントを張らないといけなくなるわけだ。正直無理だろ、俺射手だし。
あの頃は釣りや待ちなど、確実に取れるポイントを奪いにいく戦い方でB級の上位には難なく食い込めていたが、高火力・手数で押してくる二宮隊にそもそも勝てる道理もなかった。
俺と二宮さん、清隆と鳩原さんでそこまで実力に差があるわけではないが、そこに辻、犬飼先輩が加わってくるとなるともう止めようがない。
圧倒的な火力と数の暴力の前では、正直一泡吹かせることはできても最終的には潰されてしまっていた。
「まあまあ、二人とも、クヨクヨしない! 今回は諒くんもいるんだから何とかなるよ!」
まぁ美奈ちゃんの言うとおり、フロント張れて、しかも実力も文句なしの諒がいるからかなり楽になる。
前期まではロースコアでランク戦を進めてきたが、こいつ1人入っただけで、ゴリゴリの点取りチームになってしまったわけだし。
実際、草壁隊とかも緑川の加入で急激に力をつけたわけだし、1人の存在で強さや部隊のスタイルがガラリと変わることは普通にありえることだと考えていいだろう。
にもかかわらず、きちんと戦術として纏め上げられるあたり、清隆はそういう面ではやはり頼りになる。
「もちろん策は考えるけど……でもまぁ今回は諒がいるからかなり違うよ。3人いるから今までみたいに手数でガン押しされて押し込まれるとは考えにくいし。そういえば諒は確か辻とはランク戦やってたよね? 結果はどんな感じなの?」
「トータルで40本やって36対4で勝ち越してる。黒星については昇格してすぐだったし、まだトリオン体に慣れてなかったから落とした感じだ。ここ最近は1本も落としたことはねぇな」
辻もかなりの実力者のはずだが、それですら軽く捻ることができるとか本当に恐ろしいなこいつは……。
「さすが。じゃあ辻は諒に任せれば問題ないね。あとは俺が上手いこと鳩原さんを押さえればいいし」
「二宮さんと犬飼先輩はどうすんだよ……」
「そこはお前の出番でしょ。射出系トリガー使い同士上手いことやって。諒が辻落とすまで粘れば大丈夫だよ」
「テキトーすぎるぞ、おい」
「冗談冗談。来週までには何とか勝つための作戦は考えておく。ただ俺の見立てでは、俺が鳩原さんをきっちり抑えること、諒が辻を落とすまで雄也が粘れること、この2つを完遂できれば二宮隊にも十分勝てると思ってるよ」
「なるほど。まぁおんぶに抱っこで悪いがよろしく頼む」
「任された。じゃあ昇格戦についてはここまでにしよう。あとはなんか新入隊員絡みの書類仕事あるみたい。嵐山隊からヘルプの要請来てるから雄也か美奈子のどっちかは時間空けておいてほしい」
「わかった、俺が時間作れるだろうから引き受ける」
「りょーかい! お願いねー」
「うん、じゃあ決まりだね。報告は以上かな。あとはログ見ながらランク戦の反省会やって、焼肉に行こう。雄也、財布にどのくらい入ってる?」
「わかってるよ、今日の予算として諭吉一人連れてきてる」
「さすが、話が早い。じゃあ今日は諒と美奈子の分は俺と雄也で出すから」
「すまん、ご馳走になる」
「二人ともゴチになります!」
「いえいえ、お気になさらず。じゃあ美奈子はログを流しちゃって。サッと終わらせて飯にしよう」
こうして、ランク戦の反省会をとっとと終わらせて、一同焼肉へ向かった。
この時、お高めのお肉の大争奪戦になったのはまた別のお話である。
昇格戦の設定としましては、原作には明確に出ていないため独自設定となります。
ランダムに選ばれたA級の部隊とタイマン張って勝てば、と言うことにしています。
多分、今後原作で昇格戦についての詳しい設定も出てくるのでしょうが……。
とりあえず、パッと思いついたこの方式で、と言うことで。
……原作読んでる方は、時期的なもののツッコミは一旦なしでお願いします。ちゃんと拾いますので。