滑り込みで間に合った……
では今回もよろしくお願いいたします。
【春日雄也・ボーダー本部】
修と風間さんが訓練室へ向かう中、俺と諒は事の発端に立ち会った隊員の下へ向かった。
「京介、遊真。何があった?」
「あれ? かすが先輩と……さっきの剣の人」
「風間さんが模擬戦を仕掛けて、修がそれに答えたところです」
「遊真にじゃなくて?」
「はい。修に、です」
「……あれじゃぁ無理だな。腰引けてっし勝てる目が見えねぇ」
「言うなよ。まぁ確かに天と地ほどの実力差はあるが……」
遊真の実力を確かめたいと言うのであればまだわかるが、修に勝負を吹っ掛けるのは正直訳が分からなかった。
そして気が付けば訓練室の中ですでに2人は向かい合っていた。
模擬戦開始の合図とともに、修はレイガストとアステロイドを起動し風間さんを迎え撃つ構えを見せるが……案の定瞬殺された。
カメレオンを起動し姿をくらませ、隙間を縫ってスコーピオンでの一撃。
風間さんお得意のパターンで1勝、また1勝と勝ちを積み上げていった。
「カメレオンで隠れて動き回って隙をついて一撃を入れるやり方なら、レイガストで盾張ろうが意味がねぇ。脇を抜けて斬ってお終ぇだろ」
諒の言う通りそのままの戦い方。テンプレ通りではあるが、それだけに強力な一手である。
だが――
「まぁやり様がないわけではないんだが……」
修だって戦う手段が皆無と言うわけじゃない。
カメレオンの弱点に気付けさえすれば、それが適うかは別として、手の打ちようはある。
「どうすんだ?」
「とりあえず可能な限り弾速落として大量のアステロイドを訓練室内にばらまいて、カメレオン解いて対応せざるを得なくしたところでズドン、かな? 本当は四方八方にバンバン射出し続けて牽制したいところなんだけど、修のトリオン量の最大値じゃそれは無理だし弾速を犠牲にするのが最善手だろうな」
「そんなんで風間さん倒せっとは思えんが?」
「やり様はあるとは言ったけど、勝てる、とは言ってないだろ。普通に防がれる可能性の方が高いし、ぶっちゃけかなり分の悪いギャンブルなんだがこうするしかない。100回やって1回決まるかどうかの賭けに出るしかこの実力差をひっくり返す手段はないっしょ」
「まぁそうなっか。……終わったみてぇだな」
気付けば2人の戦いは終わっていた。
途中でカメレオンの弱みに気付きはしたものの、だからと言って風間さん自身の強さに対抗できるわけもなく、24の黒星を積み重ねてしまうという修にとっては苦い事案となってしまった。
まぁ上いる人間はこんだけ強いんだってことをその身に直接叩き込まれるというのも1つの経験だろう。
身に染みて上の人間の強さを知っていれば、今後の自分の成長の測りには使えるし。
――ところが、予想外の展開となった。
訓練室から出てくるものかと思いきや、またしても2人は向かい合っている。
どうやらまだやるらしい。
「終わってないじゃん」
「だが……目の色変わったぞ。腹を括ってやがる」
何かしらやりそうだという空気を諒は感じているようだが……何か策はあるのか?
模擬戦開始の合図が響く。
修はアステロイドを起動させると、超スローの散弾を訓練室中にバラまいた。
「お。お前の言ってたことやってんじゃねぇか」
「さて……こっからが勝負だ。どう転ぶか……」
風間さんもカメレオンを解き、自分に向かってくる弾への対応を行いつつ修の方に向かう。
それを見て修は再度アステロイドを手元に携え、迎え撃つ姿勢を取っている
ここまでは俺の考える展開。
こっから上手く隙を付けるか……
しかし、修の取った行動は俺の想像とはまるっきり異なるものだった。
『スラスターON!』
一通りアステロイドへの対応を終え、修に向かっていく風間さん目掛けて、レイガストで突撃を敢行した。
「突っ込んだ!?」
「なるほどな」
風間さんも想定できていなかったようで後手を踏んでおり、気づけば壁際まで追い詰められていた。
これ見よがしに修はレイガストで風間さんを閉じ込めつつ攻撃を防ぐ。
そして、すぐにまたレイガストを変形させ弾をぶち込むための風穴を開けた。
これはまさかの大金星あるな。
「戦闘員としちゃ雑魚に変わりはねぇが、頭は回るじゃねぇか」
「修! やっちまえ!」
想定外の展開に思わず俺も声を上げてしまった。
が――
『伝達系切断。三雲ダウン』
風間さんの一撃が先に届いていた。
修がアステロイドをぶち込もうとしたところからスコーピオンを通し、修の首を貫いていた。
「惜しかったな」
「だが分けなら十分だろ」
「え?」
諒の言葉に再度訓練室の方に目をやると、レイガストの内側に蔓延していた煙が晴れ、左半身が破壊された風間さんの姿が見えた。
「おお……マジか……」
結果は引き分け。
24もの黒星を重ねた末の引き分けとは言え、戦闘能力から考えれば十分金星と言えるだろう。
「まさかの出来事が起こっちまったな」
「いや、修のこと舐めてたよ。俺じゃあんな戦い方思い浮かばん」
「頭は回るみてぇだが、戦闘に対しての経験値がまだまだだな……まぁこれからだろ。もし俺にしろお前にしろレイガストを使えたなら、あのメガネより早くさっきのやり方に気付いてっはずだ」
「そうか?」
「たりめぇだ。レイガストをまともに使ったことのない人間がスラスターで突進かまして、壁に押し込んで形態変えて閉じ込めるなんて発想は持てねぇ。それは頭が足りねぇんじゃなくて、知識とか経験とか、言ってみりゃそういう発想を持てるだけの土台がねぇってだけだ。そのための鍛錬だろうが」
レイジさんが使ってるのを見たことは何度もあるから、今回修がやったようにスラスター使って加速するとか通常のシールド同様形状を変えることができるということは知っているし、前者を応用して打撃による攻撃が可能と言うことも知っている。
だが、普段どころか一切使わないようなレイガストでどういう戦い方ができるか。
それを考えた時、俺に思い浮かぶ選択肢はかなり狭いものだ。
それはレイガストと言うトリガーに対しての理解が足りないこと、レイガストで戦った経験がないことによる知見の足りなさが故のものだというのが諒の言い分であり、言われてみれば納得できることだった。
「つーか、そろそろ新人の休憩終わってんじゃねぇのか?」
「あ、そうだ。嵐山さんたちは――」
「雄也!」
オリエンテーションの続きがどうなっているのか、それを問われ嵐山隊の面子がいないか周りを見渡していたら、突然声をかけられた。
「清隆? どうした?」
狙撃手側の指導に当たっているはずの清隆だった。
「とりあえず一発殴っていい?」
「待て。わけが分からん」
しかもいきなり物騒な発言をされるし……何なんだよ……。
「せめて俺にくらいはちゃんと言うこと言っといてくれない? わかってたらアイビスなんて使わせなかったのに……あ、そこの2人は三雲くんと空閑くんだっけ?」
「は、はい」
「……だれ?」
「一応オリエンテーションの最初の方に前にいたんだけど……A級古賀隊隊長の古賀清隆。そこの2人のチームメイトってとこ。確か君たち玉狛支部の隊員だよね? ちょうどよかった。一緒に来てくれない?」
「どうかしたんですか?」
「君たちのお仲間が――」
アイビス……玉狛の人間……思い当たる節は……あるんだよな……
「うわー……」
「見事に風穴空いてんな」
案の定とは思っていたが想定を超える事案となっていた。
壁壊すくらいは予想していたけど、まさか基地の壁に風穴空けるとは……
「千佳ちゃん?」
「あっ、か、春日先輩。ご、ごめんなさい……私……」
「あー、いいよ。気にしなくて。アイビスで的当てしたら、的どころか壁までぶち抜いちゃった感じか……」
「はい……」
「別にここの偉い人もそんな怒ってるようには……見えるけど大丈夫だから」
偉い人こと鬼怒田さんの方を見ると修のケツに一撃くらわせていたが、本当にキレているわけではないだろう。人相悪いからそう見えるかもしれないけど。
気付けば千佳ちゃんは他の新入隊員に囲まれていた。
あんなもん見せられたらまぁそうなるよな。俺だってビックリしたし。
「あの子のこと報告しなかったのは、派手にデビューさせるためか?」
ふと、後ろから声をかけられた。
狙撃手側のスタッフで参加していた東さんだった。
派手にデビュー……か。千佳ちゃんにせよ遊真にせよそうなっちゃったしな……修も風間さんとの一件で悪目立ちしてしまったし。
「東さん。いえ、特に自分にはそんな意図は……まぁ林藤さんや迅さんでしょうね」
「あの2人ならやりかねないか」
「あの人たち、ホント何考えてるかわかんないんですよね……」
「あの2人だから仕方ない」
「ですね」
ただ単に、うちの新人すごいんだぜ、とドヤりたかったのか、はたまた何か別の意図があるのかわからないが、まぁなるようになるだろう。
少なくとも悪いことにはならないはずだ……多分。
余談の代わりに今年の簡易的な総括でも……
今年は13話投稿……月1ペースのクソのんびりした感じになっていますしペースとか上げられたら……とか思いながらも、そうはならない無様っぷり←
転職したら少しは余裕ができると思ったら、今度は勉強しなければならないことが多く結局この有様です(白目)
とは言え最近は感想も頂けるようになり、励みになっています。
……皆カトリーヌが大好きだってことはとりあえず分かった←
今年1年ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。
では、今回も拝読いただきありがとうございました。