幸いにも今回は国内だから、然程準備も必要ないですし(白目)
では、今回も宜しくお願い致します。
【古賀美奈子・古賀隊隊室】
お兄ちゃんと雄也くんが戦いを始めたその時。私と諒くんは隊室で2人がその姿をモニター越しに見ていた。
本来狙撃手トリガーだったり射手トリガーをメインに戦う2人が弧月で戦う姿には微妙に違和感があるけど、2人とも攻撃手の隊員のそれと比べても見劣りしない戦いをしているところを見ると、本当にこの2人は強いんだなー、とも思う。
ふと、後ろから諒くんが声をかけてきた。
「清隆のサポートはしなくていいのか?」
「相手が雄也くんだしねー……2人とも得意なトリガーじゃないけど本気でやってるみたいだし、どっちかに肩入れするのは無しかな? どっちみち大したことできないからっていうのもあるけどね」
「そんでも上からの指示なら、清隆のサポートをするのが筋じゃねぇのか?」
諒くんの言ってることが、ボーダーの隊員としては正しいってわかってる。
それでも――
「それでも、だよ」
「雄也になんかあんのか?」
「雄也くんもだけどお兄ちゃんにもね」
お兄ちゃんにも雄也くんにも、私は本当に助けられた。
だからこそ、どちらかに加担なんてできない。筋が通らない。
「……お兄ちゃんがボーダーの試験受けたのって、私のわがままがきっかけなんだよね」
特に口にするつもりもなかった言葉が、思わず私の口から漏れ出した。
「4年前にお父さんとお姉ちゃんが死んじゃって、それからお母さんがずっと働いてたんだけど、お母さんも働きすぎて倒れちゃってね。私も何かできることがないかな、って思ったときにボーダーの募集があってさ。私が試験を受けるって言ったらお兄ちゃんも一緒に受けることになって……でも、私はトリオン量が足りなくて落ちちゃったの」
一度言葉が漏れてしまったら、それが止めどなく溢れてしまう。
諒くんはそれを黙って聞いてくれていた。
「お兄ちゃんって見ててもわかるけど、才能あるからそれこそ今A級の部隊の人とかにも勧誘されてたし、雄也くんだって本当は玉狛支部の部隊に入るはずだったの」
2人ともそれぞれに選んで然るべき道があった。
「逆に私はオペレーターを目指したのはいいけど、特別優秀だったわけじゃないからどこかの部隊に入ることができなかった。そんな時にお兄ちゃんが雄也くんを連れてきて部隊を組むことになったの」
思い出す。画面の向こうで戦う2人――
お兄ちゃんが雄也くんを引き摺ってきて、3人で部隊を組もうと言ったあの瞬間を。
苦笑いしながら、仕方ないな、と雄也くんが誘いを受けてくれたあの瞬間を。
力がなかった私のために――
「元々は私のワガママから始まったことなのにね。それでも2人は自分たちのエリート街道を蹴ってわざわざ私を拾ってくれたの。だから――どっちかに肩入れするとかはできないよ」
「そうか……まぁあいつらは特に気にしてねぇと思うがな。……おっ、ケリついたか?」
漏れ出た言葉が止まると同時に、2人の戦いも終わった。
「雄也くん、トリオン体解除されちゃったね」
結果としてはお兄ちゃんの完勝。
射手トリガーを使う以上、点じゃなくて面での広範囲の攻撃が主になるんだから、周囲への被害は避けられない。
特に雄也くんがソロのときの基本的な戦い方は、メテオラやハウンドを序盤に多用して相手の動きを制限して先手を取るものだから、いくら射程を制御できる技術を持っていたとしても警戒区域内の家とかを壊すことになってしまう。そのことにかなりの抵抗がある以上、お兄ちゃんと本気で戦えなかったんだと思う。
2人が問答を始めた。
言い合いではきっと雄也くんではお兄ちゃんには敵わない。
だけど、雄也くんだってそんなことで引くような人間じゃないってことを知っている。
そして、やっぱり、雄也くんはまた立ち上がった。
雄也くんが首に着けてるアクセサリーを手に取ったのを見て、私はモニターの映像を切り、お兄ちゃんに繋がっている通信を全て落とした。
「ん? どうした?」
突然通信を全て遮断した私を、諒くんは怪訝な表情で見てくる。
「ここから先はちょっと映すわけにはいかないから」
「あ? なんでだ?」
「諒くんはまだ知らないんだったね。雄也くんには奥の手があるの」
【春日雄也・三門市警戒区域】
「……ったく、気は済んだか?」
腹に大穴を空け、今にもベイルアウトしそうな清隆に話しかける。
「別に気晴らしできたわけじゃないよ。指令からの指示だったし、相手が近界民であるわけだから断る理由も特になかったし。それにしても、それ本当にズルいよ」
「使っていいと迅さんから許可も出たからな……マジで大丈夫だよな……?」
「それ使う前にこっちの通信とかは全部美奈子が切ってくれてるからその方面での証拠は残らないし、もし何かあっても新型の独自トリガーを使った、とでも言えば雄也の場合は通じるでしょ」
「……確かに」
「さて、受けた命令に対してやれることはやったし、そろそろ俺もトリオンもう切れるし、一足先に休んでるよ。玉狛の近界民のことはまた暇なときにでも聞かせて」
「はいよ」
そう言うと清隆のトリオンが切れたらしく、ベイルアウトしこの場から姿を消した。
さて、迅さんたちがどうなったか気になるところだが……このまま行くわけにもいかない。
そうなると、玉狛に帰るしかないのだが……ある程度距離を取ったとは言え、何らかの拍子で迅さん以外に見られるのはマズいし、とりあえず換装を解いてから一足先に帰るか。
【全体視点・古賀隊隊室】
作戦室の奥、3つ並んだベッドの1つに何かが落ちてきたような衝撃音が諒と美奈子の耳に聞こえた。
戦闘体が解除され、隊室まで強制転送された清隆が戻ってきた音だった。
「いやー、やっぱりやられちゃったよ」
「あっ、お兄ちゃん。お帰りー」
「ただいまー……あれ? 諒もいたんだ」
「一応な……しかしお前が負けるっちゃ思わんかったな」
「まぁ普通に戦う分には流石に負けないよ。ただ私物の方使われたら流石に厳しいとこはあるかな」
「普通に押し切ったじゃねぇか」
「でも結局負けて戻ってきたわけだし」
一度は雄也を倒したにもかかわらず、その後何があったかわからない諒は怪訝な表情を浮かべながら清隆に尋ねる。
「……通信切られたから見れなかったけどよ、お前なんでベイルアウトしてんだ? あいつ戦闘体解けてただろ」
「あー、あれね。雄也が黒トリガー使ったんだよ」
「なるほどな。ん? でもトリオン切れてただろあいつ」
「黒トリガー」と聞いても驚いた素振りを見せない諒に逆に清隆が少々驚いたようだが、そのまま話を続けた。
「あの黒トリガーだけど、トリオンを充電しとけるんだよ。実質雄也は残機が皆より1つ多い感じかな?」
「それずりぃな。……ん? そしたらあいつS級になるんじゃねぇのか?」
「何か理由があるっぽくて、黒トリガーのこと本部には伝えてないみたい」
「だったら知ってるのはどんくらいいるんだ?」
「俺と美奈子は部隊組むときに教えてもらった。あとは多分玉狛の人たちくらいじゃないかな? 少なくとも迅さんは知ってるみたい」
「黒トリガーの能力は?」
「まぁそれは追々……というか俺も全様をわかってるわけじゃないから。まぁ、ちょっと玉狛の黒トリガーも気になるし、雄也に直接話を聞こうと思ってるから、その時についでに聞いてみようかな」
「つっても、話すような時間があんのか? 黒トリガー持ちの近界民となると、今回が駄目でも二の矢三の矢バンバン送り込むだろ」
「いや、それはないでしょ」
「何でだ?」
「今回の編成で無理だったら本部としてはもう天羽に頼るしかないんだけど、そうなると場合によっては警戒区域の外にも被害が出るかもしれないからね。本部としても玉狛側としても正直それは避けたいと思うよ」
「じゃあどうすんだよ」
「まぁいい感じの落としどころ見つけるしかないだろうね。まぁその辺は迅さんがある程度予測してやってるだろうから、何とかなる気がするけど……あー、疲れた。美奈子、帰るよ」
「はいはーい。じゃあね、諒くん」
若干の含みを残したまま話を切り上げられたため、諒としては少々消化不良な部分もあるが、この一件については清隆もこう言っていることだからとりあえず収拾はつくのだろうと飲み込んだ。
そんなどうでもいい政治的なことよりも諒は――
「黒トリガーか……やべぇ、一回やってみてぇな……」
雄也の黒トリガーがどんなものなのか、ということと、戦いたいという欲に頭が埋め尽くされていた。
雄也が黒トリガー持ちである、ということの明言はもうちょい後出しの予定でしたが、感想欄にも質問か指摘かが入りましたので今回の内容に突っ込みました。
もっとぶち込みたいことも色々あり、例えば迅の副作用についての個人的な考察とか、雄也の過去のお話とか。どのタイミングに入れようかとか悩むところ…
後者については若干の前振りはできたしいいか……前者どうしよう……
では、今回も拝読いただきありがとうございました。