私は休日出勤のオンパレードでGWなんてありませんでしたが……(白目)
【春日雄也・玉狛支部自室】
一斉駆除から数日が経った。
あれ以降警戒区域の外で門が開くことはなく、一旦は三門市内に平和が訪れた。
大規模侵攻の心配がないわけではないが、特に迅さんが何も言ってこないのでまぁ今のところは大丈夫なのだろう。
今日は防衛任務もなく、特にやることがあるわけではないので、クリスマスも近いし玲とどっかに行ったり、プレゼント送るとして色々と調べている最中だ。
しかし――そんな時間も長くは続かない。
「雄也ぁ!!」
「うおっ! ビックリした。いきなり何だよ?」
勢いよく開く部屋の扉。見慣れた顔と聞きなれた大声。桐絵だった。
若干涙目で俺の部屋に突撃してきたが、何かあったのだろうか。
「あたしの! どら焼き!」
「……は?」
「どら焼き食べたのアンタ!?」
……少しでも心配して本当に損をした。どうせ陽太郎だろ……。
「耳元でうるさいな……俺じゃないよ……」
「じゃあ誰なの!?」
「下に迅さんとか栞がいるみたいだし、そっちにも聞いてみりゃいいでしょ」
まぁどうせ食ったの陽太郎だろうけど。
とりあえず桐絵の意識を下の階にやり、俺は俺でクリスマスプレゼントを何にするかを考えようと、机の上のパソコンに向かい直した。
――が、次の瞬間。
背後から襟首を掴まれる感触。
椅子から引きずり降ろされ、そのまま部屋の外まで引きずり出される我が体。
「ん? ……ってちょ、ちょい待て! 痛っ! け、ケツが! オイコラ桐絵!! ……ってオイ! 階段!! 階段!!! だっ! ケツ! ケツがっ!! い、痛ぇ!! やめろこの馬鹿!!」
そしてそのまま階段を引きずり降ろされる……ケツが痛ぇ……なんでこんな目に遭わなきゃならんのだ……。
平穏に過ごすはずの俺の休日は、幼馴染の野蛮なふるまいによって消え失せることとなった。
そのまま迅さんや栞がいると思われる1階の広間まで引きずられる。
「あたしのどら焼きがない!!! 誰が食べたの!!?」
またしても勢いよく扉を開く桐絵に、部屋にいた迅さんと栞、そして客と思われる他3人が一斉にこちらを向いた。
そして、その3人のうちの2人は知った顔だった。
「あれ?」
「かすが先輩……?」
「あれ? 三雲くんに空閑くんに……真ん中の子は誰だ?」
そういえば迅さんが「うちに新人入るからよろしく」とかなんとか言っていた気がするが……そういうことか。
「あれ? 雄也くん知り合い?」
「一応な。……そうか、新しく玉狛に入る隊員って3人のことか」
「はい。宜しくお願いします」
「よろしく」
「(ペコリ)……あっ、わたしは雨鳥千佳です」
「ああ、よろしくな。修、遊真、千佳ちゃん」
「ところで……大丈夫ですか?」
「……もう慣れてる」
一応は広報もやっている建前上、ダサいところはあまり見せられないのだが……もういいや(白目)
脇の方では桐絵が陽太郎の両足を掴み逆さ吊りにしてるし……どら焼きくらいで大騒ぎしすぎだ……なんで俺は引きずられたんだよ……意味わかんねぇ……。
そんだけ大騒ぎしているもんだから、玉狛の部隊の残り2人も騒ぎを聞きつけてこっちの部屋にやってきた。
「なんだなんだ。騒がしいな、小南」
「いつもどおりじゃないですか?」
レイジさんと京介が来て多少は周りを見たのか、桐絵がようやく新人3人の存在に気づいた。
「新人!? あたしそんな話聞いてないわよ!? なんでウチに新人なんか来るわけ!? 迅!!」
「まだ言ってなかったけど実は……この3人、俺の弟と妹なんだ」
この人は何を言っているのか、と言わんばかりに空気が固まる。
なぜこんなつまらない嘘をつくのだろうか。長年の付き合いをもってしてもわからない。
「えっ、そうなの?」
こいつは何で騙されているのか、と言わんばかりにまた空気が固まる。
なぜこんなつまらない嘘に引っかかるのだろうか。長年の付き合いをもってしてもわからない。
桐絵の恥ずかしい騙され絵図も一旦止め、栞がうちの面子の紹介を始める。
ちなみに俺は京介の流れかなんか知らんが、「さっぱりしたハンサム」らしい。
……「落ち着いた筋肉」に比べれば大分マシか。
そして、迅さんが今回の本題に入った。
端的に言えば、A級を目指している3人を鍛えよう、ということらしい。
遊真を桐絵が、千佳ちゃんをレイジさんが、そして修を京介がそれぞれマンツーマンで指導し、個人としての能力を上げていこうぜといった感じだろうか。
「そういえば迅さんと雄也くんはコーチやんないの?」
「俺は今回抜けさせてもらうよ。いろいろやることがあるからな」
「俺はその入隊式絡みで色々仕事があるからパス。なんかあったらサポートくらいはするみたいな感じで。でもまぁ今日から早速訓練始めるんでしょ? とりあえず様子は見ておこうかな。特に遊真がどんなもんなのか気になるし……あとでいっちょ戦闘してみるか?」
「いいよ、やろうか」
「ちょっと待ちなさいよ。先に私がやるわ」
「そう? じゃあ桐絵の訓練が一段落ついたらやろうか」
「わかった」
正直、遊真の実力がどんなもんなのか興味があったので、一戦交えようかと思ったら、桐絵に先越されることになった。
桐絵が遊真をブースに連れ入ると、他の面々もそれに倣ってそれぞれの訓練を始めた。
桐絵のが終わるまで少々時間がかかるだろうから、本を読みながら終わりを待つ。
……さすがに桐絵が負けるとは思わないが、どうなんだろうか。
そして数十分後――唖然とした表情を浮かべた桐絵がブースから出てきた。
……まさか、負けたのか? 嘘だろ。
と思いきや、10回やって1回負けただけらしい。流石に現状は桐絵の方が上か。
……そうであってもらわないといかんだろ、という気持ちもまぁあるが。
ともかく、桐絵の方が一段落着いたわけだから――
「じゃあ俺の番かな」
「よろしく」
「おう、中に入ろうか」
遊真と共に仮想空間に入る。
とは言え桐絵から1本取ったんだもんな……。こいつ強いな……。
「桐絵から一本取ったんだってな」
「10回やって1回勝っただけだよ」
「それでも十分だ。あいつは攻撃手って括りの中だと、ボーダーで上から3,4番目に位置する奴なんだよ」
「そうなのか」
「さて、遊真は何を使う?」
「うーん、とりあえずさっきも使ったしこれだな」
「なるほど、スコーピオンね……うん、じゃあやろうか」
「よろしく」
遊真がスコーピオンを起動させると戦闘態勢に入った。
俺も空間内に置いてあるトリガーを手に取り起動させる。
お手並み拝見と行こうか……
そして数十分後――
「いやー、4-6で負けちゃった」
遊真、強いわ。多分A級の部隊に入ってもやっていけるだろう。
俺の敗北宣言を聞くや否や、桐絵が詰め寄ってくる。
「は!? アンタ手を抜いたんじゃないでしょうね!?」
「いや、マジでやったよ」
「ちょっと遊真! 本当なの!?」
「本当だぞ。でも、かすが先輩はなんでこの間みたいな射撃型のトリガー使わなかったんだ?」
遊真の言葉に桐絵が首を傾げ、次の瞬間ジト目でこちらをにらんできた。
「……ちょっと雄也」
「どうした桐絵」
「アンタ何使って戦ったの?」
「え? スコーピオン」
「……アンタは何をやってんのよ!!」
「いや、武器くらい合わせないと……普段のトリガーだとさすがに今の遊真相手なら完封しちゃうし」
相性とかあるしね。遊真がスコーピオンしか使えない以上、こっちが射手用のトリガーなんて使おうものなら弾幕張るだけの簡単なお仕事になってしまうし。
なんにせよ、遊真の実力は把握できた。
諒が以前遊真に対して、注意しろ、と言った意味も身をもって分かった。
こいつはおそらく新人の中で群を抜いた存在になる。
仮入隊組には悪いが……おそらく遊真の足元にも及ばない。
……やべぇ、入隊式の日がちょっと楽しみになってきた。
よくよく考えたらこれ書き始めてそろそろ1年。
合間合間で書いていたり、途中海外出張があったりでペースがクソな感じですが、これからも宜しくお願い致します。