それぞれの戦う理由   作:ふぃりっぷす

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新年度も目前。皆様もお忙しくなる時期でしょうが、何とかやっていきましょう。




古賀 清隆②

【春日雄也・古賀隊隊室】

 

三雲の件で林藤さんや忍田さんと話を着け、除隊にはならないよう取り計らってもらえるよう取り付けることはできた。

とは言え、城戸さんとかはクビにしろと言うだろう。それを2人が抑えられるかどうか……

 

心配ではあるが、もうここまで来たら俺の出る幕はない。

2人を信じて、三雲の処分がどうなるかを待とう。

それに、迅さんも今回の件に関しては首を突っ込んでくるはずだ。

自分で後に起こるだろう大規模侵攻時の切り札としてわざわざ推薦して入隊させた隊員を、みすみす除隊なんて事態は発生させないように動くだろう。

 

ともあれ、昨日から続くこの事件について頭のいい奴からちょっと話を聞いてみたくなったので、俺は隊室に足を運ぶ。

確か今日は狙撃手の合同訓練中があったはずだ。終わったら一度隊室に戻ってくるだろうという推測し隊室に入ると、美奈ちゃんがいた。

どうやらオペレーターも講習会か何かがあっていたようで、それが終わって後、隊室で清隆を待っていたようだ。

 

いつものように本を読みながら10分くらい待っていると清隆が隊室に戻ってくる。

 

「あれ? 美奈子はともかく雄也帰ったと思ってたよ」

 

「ちょっと聞きたいことあってお前を待ってたんだよ」

 

「そっか。で、聞きたいことって?」

 

「昨日から頻発しているイレギュラー門についてどう見る?」

 

「真面目な回答した方がいい?」

 

「できれば」

 

「あっ、私も聞きたい!」

 

少し考えるそぶりを見せ、清隆が口を開いた。

 

「あくまでも俺の考えってだけだからね? じゃあ前提だけど、イレギュラーっていうのは警戒区域の外に出てきている門のことを2人は言ってるんだよね?」

 

「ああ」

「うん」

 

「じゃあそもそもの話だけど、警戒区域の外にできている門の何がイレギュラーなのかは理解してる?」

 

「は?」

「どういうこと?」

 

「言葉の通りだよ」

 

「いや、そりゃボーダーが誘導装置使って、警戒区域内に発生するように仕向けてるから……」

 

「うん、そうだね。だけど、逆に考えてみて。だとすると近界民側からして、市内に門を発生させたつもりが、警戒区域内で門が開いていることになるよね。つまり、今まで俺たちが正常だと思っていたことこそが、近界民にとってはイレギュラーってこと」

 

「「あー、なるほど」」

 

「そもそもの大前提がこれ。ただ今回は誘導装置が通用していない。今までの国とはわけが違って、誘導装置の影響を受けない手段を持っているってことになる」

 

よくよく考えてみれば、清隆の言う通りだ。警戒区域に門ができることが当たり前になってしまっていたから忘れてしまっていたが、本来はどこにできるかわからないものを、誘導装置を利用して、三門市周辺に発生する門を無理やり警戒区域の中に発生させているのだから、近界民にとってはおかしな話だったはずだ。

 

――しかし、今回はそれが通用していない。

 

「こういった問題を解消させようとした場合、近界民がとると思われる手段は2つ。1つはボーダーの誘導装置を強引に突破して、自分たちの思う場所に門を発生させるようにすること。2つ目は今とは異なる窓口で市内に門を発生させること」

 

「なるほど。つか……1つ目の想定が合っていたとしたらもうどうしようもないな。……だが、2つ目はどんな方法がある?」

 

「うーん……警戒区域内に近界民が出てくるじゃん? その時こっそり市内に門が発生する装置を配置しておいたとかかな? もしくは隠密性の高い近界民を紛れ込ませて、そいつを使って門を開くとか。さっと思いつくのはそのくらい」

 

「なるほど」

 

「とりあえず、雄也の疑問には答えたけど……ただ、これはあくまでも問題のごく一部に過ぎないってことに気づいてる?」

 

「どういうことだ?」

 

こちらの顔を伺いながら一呼吸置いて、清隆が口を開く。

 

「近いうちにまた4年前の大規模侵攻のようなことが起こる可能性がある」

 

「えっ!?」

「……マジか」

 

迅さんの予知――近いうちに大規模侵攻が起こるということ。

清隆の読みも合わさって、現実味を帯びてきた。

 

「今回の件で一番の問題は、警戒区域の外に門が出ていることじゃない。誘導装置の影響を受けない、つまり近界民がある程度指定した座標に門を発生させられる可能性ことだよ」

 

「もしそうなら、近界民が侵攻をかけてきたとき、主導権を握られた状態でそれを受けなければならないってことか」

 

「そういうこと。過去4年間、近界によるそれなりの規模の侵攻が起こらなかった理由は、門の出現場所の指定というアドバンテージを一切握れなかったからというのは1つの理由だと思う。近界民は門を通してこっちの世界に侵入するしかないわけで、その門が発生する位置をこっちに握られるっていうのは、攻める側からしたらかなりのリスクを負うことになる」

 

清隆――話の区切りごとに俺と美奈ちゃんの方を見て、理解できているかを確認しながら言葉を続ける。

 

「それに4年前に比べて、こちら側の戦力がかなり底上げされていることも1つの理由。モールモッドとかのような雑兵を大量に派兵されたとしても、出現位置を握ってしまえば余裕をもってそれに対抗する力が今のボーダーにはある」

 

「物量で押し込まれる可能性は?」

 

「攻める側は戦力に出せる限界があるから何とかなるんじゃないかな? 少なくとも4年前の規模ならどうにかなると思う。……何にせよ、もし今軌道上にある国に侵攻の意思がある場合、かなりヤバい状況にあるってことは頭に入れておいた方がいいよ。というか、雄也はあんまり驚かなかったね。結構な爆弾発言だと思ったんだけど」

 

「いや、迅さんとも話してたんだ。遠くないうちに大規模侵攻が起こるだろうって」

 

「なるほど……迅さんも言ってるんなら確定だろうね」

 

「え? だったら早く上層部の人たちに伝えないと」

 

「一応、林藤さんや迅さんを通してもう上には伝わってる。ただ、近いうちに起こるってことしかわかってないからな……」

 

「何にせよ、今俺たちにはどうすることもできないし、開発室からの報告を待とう。とりあえずは門自体が発生しないように障壁張ってるみたいだし、今日のところはもう帰って休もうか。何か進展あったらもしかしたら動かされることになるかもしれないしね」

 

「まぁ明日以降に期待、か」

 

「とは言え、障壁も2日くらいしか持たないはずだし、あんまり悠長に事を構えることはできないけどね」

 

タイムリミットは約2日――その中で何とかエンジニアたちが解決策を見出してくれればいいのだが……。

 


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