遅くなりましたが、今回も宜しくお願い致します。
【春日雄也・三門市内】
見たことのない近界民が警戒区域外に出現し、市街地は狂乱の渦に包まれている。
木虎を先行させたが、木虎だけで対処できるだろうか……急がないとな。
だが何にせよ、まずは本部に連絡を取ることにした。
『忍田さん!』
『雄也か。市街地に近界民が出現したみたいだが、どうなっている?』
『大型のが1体……記録上でも見たことがないやつですね。街に爆弾を落としながら、現在市街地を旋回中です。とりあえず、たまたま同行していた木虎を先に行かせて対応させています』
『了解した。雄也も急いでそちらに向かってくれ』
『了解』
忍田さんの指示も受け近界民の方に目をやると、街の上を旋回してはいるが、黒煙を上げており爆撃も止んでいた。木虎が上手いことやったな、と思っていたら、その木虎から通信が入った。
『か、春日先輩!』
どうもかなり焦っている様子だが……嫌な予感がするな。
『どうした? 何かあったか?』
『この近界民……このまま街に堕ちるつもりです!!』
『んだと!?』
『攻撃していたら急に固くなって……それにこのトリオンの密度……自爆するかもしれません!!』
『ちっ……今そっちに急いで向かうから……ん? ……もう少し待ってろ』
攻撃を受けると装甲を堅くするようなやつだったか……? 装甲を破れないらしく、トリオン量が比較的少ない木虎では対処しきれない相手だったようだ。
しかもあの図体で街に墜落して爆発となると、被害もかなり大きくなるだろう。
やはり、俺も行くべきだったと判断ミスを反省しながら、木虎の元へ向かおうとすると、知った顔が近界民を見上げていた。
……そういえばこいつはこの近界民のことを知っているんだったな。緊急事態ではあるが、木虎が対処できなかった相手だ、情報を得て対処するのが得策だろう。
「空閑くん」
「かすが先輩?」
「正直問答している時間もないから率直に聞こう。あの近界民を知っているな?」
「知ってるよ」
「そうか……今木虎があれの対応をしているが、どうも思わしくないことになってしまったみたいだ。何か対処法をあるのなら教えてほしい」
「わかった。レプリカ」
空閑が何かに呼び掛けたかと思ったら、空閑の背後から黒い豆粒のようなものが級に現れた。
「うおっ、何だこれは」
「私はレプリカ。ユーマのお目付け役だ。早速だがあのトリオン兵はイルガーと呼ばれるものだ。大きなダメージを受けると、付近で最も巻き込める人間の多い場所を目掛けて落下。全ての内臓トリオンを使って自爆する」
「つまりは今のうちに攻撃通して、空中で爆発させればいいのか?」
「その通りだ。だが、今の状態になったイルガーは並大抵の攻撃では傷つけられないほど防御力が上がっている。キトラはボーダーの精鋭のようだが、それでも破壊できないとなると……」
「いや、大丈夫だ。俺がやる」
「かすが先輩にはできるのか?」
試すような口ぶり――いっちょ俺の強さを見せつけてやるか。
「……空閑くんは疑っているようだが、木虎も十分にやれる奴なんだ。――だが、今回のようなことに関しては、俺は木虎の数段上を行くからな」
「ほう」
「一応確認だが、他の近界民と同じように口の中の核を壊せばいいな?」
「それで問題ない」
合成器を起動させながら、木虎に通信を飛ばす。正直、あの近界民の装甲を貫くのにどのくらいの火力が必要かわからないので、とりあえず最大出力で攻撃するに越したことはないだろう。そうなると木虎が近界民の上にいたままだと恐らく巻き添えを受けるので一旦退場してもらうことにした。
『木虎、聞こえるか?』
『は、はい!』
『とりあえずそいつから飛び降りろ。俺がやる』
『わかりました。お願いします!』
木虎が飛び降りたのを確認すると同時に、グラスホッパーを上手いこと使いながら空中を駆け、近界民の正面までやってきた。
同時に、籠められるだけのトリオンを籠めてアステロイドを3回起動させる。
合成器を介し手元に発現させた合成弾は、ランク戦で使っているものとは比べ物にならない威力だろうということが一目でわかるほど禍々しいものだった。
「トライデント!」
手元から合成弾を相手の顔面目掛けて射出する。
射程もある程度抑え、分割することなくそのまま1発ぶっ放した、もはや砲弾とも言えようトリガーは近界民を貫通。近界民は空中で爆発し、街への被害を防ぐことができた。
……完全にオーバーアタックだったな、これ。やっぱまだ色々設定とか考えないといけないな。
―――
――
―
「何とかなった、か……」
近界民も片付き、とりあえずは何とかなったが、あたりを見渡すと街の被害はかなり大きい。
いつぞやの大規模侵攻以来の――嫌なことを思い出してしまうな、やめておこう。
ともかく、木虎が住民に向けて何かアナウンスしているようだし、今のうちに本部に連絡しておこう。
『忍田さん。春日です』
『雄也か。状況の報告を頼む』
『市街地に現れた近界民を木虎と共に撃破しました。データが欲しいところでしたが、爆発させて粉微塵になってしまいまして……』
『それは残念だが、2人が無事で何よりだ。市街地の被害はどうだ?』
『ちょっと被害が大きいですね……全半壊の建造物が多数。多分死者も出ていると思います』
『そうか……とりあえずは近界民への対応、よくやった』
『ありがとうございます。とりあえず木虎が近隣住民に色々説明しているようなので、それが済み次第、本部に戻ります。その際、午後にお話しした第三中のC級隊員を連れてきますので、そちらについてもお願いします』
『ああ。では、また後で』
忍田さんへの報告も済んだところで、もう一人、声をかけておくべきであろう人物の元に足を運ぶ。
「空閑くん」
「かすが先輩。なんか用か?」
「いや、先ほどの礼を言いに来ただけだ。情報提供ありがとう」
「いえいえ」
「ボーダーという立場上、君をこのまま帰すわけにはいかないのだが……まぁ今回は何も聞かなかったことにしよう」
「いいのか?」
「何か悪意を持ってこっちに来たわけではないんだろ? だったらわざわざ拘束したりするような真似したりしないさ。何なら俺は近界民と同居しているしな」
「そうなのか」
近界民と一緒に住んでいる、と言うと、空閑はとても驚いた表情を見せた。
恐らく三雲から、近界民であることを伏せろとでも言われており、そこから近界民であることを知られることに不都合があると判断したのだろう。
そんな中で「近界民と住んでいる」と言えば、確かに驚くだろう。
どこから来たのかはわからないが、まぁこちらに危害を加えようという意思はなさそうだし、こいつのことは一旦は放置でいいだろう。
……まぁ、近界民ってだけで殺しにかかるような奴らもいるから、気を付けてほしいが。
―――
――
―
騒ぎも一段落し、4人で本部に向かい歩みを進める。
10分も歩くと、本部への直通通路までたどり着く。
『トリガー認証。本部への直通通路を開きます』
「じゃあ空閑くん。俺たちは本部に戻るからこれで」
「ふむ、トリガーが基地の入り口の鍵になっているわけか」
「そうよ。ここから先はボーダー隊員しか入れないわ」
「じゃあおれはここまでだな。なにかあったら連絡くれ」
「わかった」
隊員でないためこの先に入れるわけにはいかないので、空閑はここでお別れとなった。
――だが、彼が近界民であるのであれば……おそらくそう遠くないうちにまた顔を合わせるのかもしれない。そんな気がする。
空閑と別れ、3人で通路を進む。
これから処分が下されるであろう三雲が少々落ち着かない様子だったので声をかけてみる。
「いい友達だな」
「え?」
「空閑くんだよ。君のためにわざわざ木虎に食って掛かるあたり、面白い奴だと思うよ」
「か、春日先輩!」
「はっはっは。まぁ落ち着け、木虎。あの手合いがお前と相性悪いのは分かるが、もうちょい流せるようになろうな? その方がクールでかっこよく見えるぞ」
「そうではなく……はぁ、わかりました。今回は私もアツくなりすぎましたから」
少しは緊張がほぐれたのか、強張った表情に多少の余裕が生まれた。
木虎も落ち着いたようだし、三雲に噛みつくことは今日のところはもうないだろう。
とりあえず、本部に着いたら忍田さんに三雲の罰則を軽くするよう嘆願をしておこう。
空閑のことを話すかどうか……少々悩むところだが、一旦は本部には報告しないでおくか……目的も何もわからないうちに下手に報告しても、問答無用に襲いにかかりかねない隊員もいるので、一旦様子見を……一応、林藤さんと迅さんには報告しよう。
3種類以上の弾丸トリガーを合成できるという、大分前に書いた前振りだけ拾っておきました。
合成弾で思い出しましたが、先日頂いた感想で、アステロイドとメテオラの合成弾は榴弾のイメージがあるとのことでしたが、やはりそのように考える方が多いんでしょうかね……確かwikiでもそんなコメント入ってた気がする。
ともあれ、今回も読んでいただきありがとうございました。