それぞれの戦う理由   作:ふぃりっぷす

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冒頭でランク戦について触れてますが……ガチで書き始めるとキリがないのでランク戦については省略で←

では今回も宜しくお願いします。



那須 玲②

【春日雄也・古賀隊隊室】

時が経つのは早く、もう12月に差し掛かろうとしていた。

 

A級のランク戦も今期から参加しており、暫定ではあるが前回のランク戦で嵐山隊を抜きA級5位に着けることができた。

 

ここまでは順風満帆なのだが、俺たち、というか諒だけなのだが、ある意味ではA級1位よりも高い壁が目の前に迫っていた。

 

テーブルの上に広がる教科書。

ミミズが張ったかのような文字だらけのノート。

諒の口から洩れる呪詛。

 

「……別に数学できなくても生きていけっからいいだろ」

 

「そう言うけど他の教科もできないよね? 前回は赤点1つとは言え他の教科もギリギリだったんだから。諒の赤点をなるべく回避するよう俺も雄也も多方面からお願いされてるんだからさ」

 

「マジで担任頭抱えてるからな……お前」

 

「知らねぇよ……」

 

――そう、期末テストが刻々と近づいてきていたのであった。

 

「何であたしたちもこんなことになってるの?」

 

「ホントですよ~」

 

「今日うちの隊室来たのが運の尽きだったな。2人ともそんな成績がいいわけじゃないし、ちょうどよかったと思えば……」

 

「思えないわよ!」

 

ついでに、今日はゲスト(巻き添え)も来ている。

 

諒が時間空いていることを聞きつけ、弧月の指導を仰ぎに来た熊谷、それについてきた玲と日浦、まぁ那須隊の面々だ。

 

熊谷と日浦も学業は平均以下レベルらしく、「せっかくだし2人も見てもらったら?」という玲の一言で、残念なことに勉強会に参加させられることになった。

 

―――

――

 

時折美奈ちゃんや熊谷、日浦から質問が飛んでくるが、その時以外、場はかなり静かなものだった。

 

本日のメインである諒はと言うと、出足はずっと文句ばかり口にしていたが、集中し始めたのか口を開くことなく教科書の問題をスラスラと解いていた。

 

そもそもこいつは頭が悪いわけではなく、ただでさえ勉強しない上に授業中は寝てばっかりであるがために成績が悪いだけなので、こうやって強制的に勉強する環境を作ってやれば、ある程度は見れる成績を取ることができるのだ。

 

「雄也先生! 質問!」

 

「ん? どれ?」

 

「雄也じゃなくて俺に聞いてくれていいんだよ?」

 

「現代文だから雄也くんがいいかな。お兄ちゃんより教わってて楽しいし」

 

「……雄也、お前除隊」

 

美奈ちゃんから質問を受けると、すぐさまシスコン野郎が横入りしようとしてきた。しかし速攻で妹に戦力外通告を受け、俺はなぜか八つ当たりされる羽目になった。理不尽だ。

 

「……とりあえずこのシスコンは置いといて、どの辺?」

 

「これなんだけど――」

 

目を通してみると、去年自分たちもやった話だった。

 

百年待っていてくれと残し死んだ女の言葉を忠実に守り、最後は自分の望み通り女と再会するという話。

 

「この百合って女の生まれ変わりらしいんだけど、何でかを明日の授業までに考えないとだからヒントが欲しいな、って思って!」

 

「百合は復活の象徴だよー。それに「百」年経って「会(合)」いに来たんだから女でいいんだよー」

 

「……まぁ今シスコンが言ったのが模範解答の一つなんだけどどう?」

 

妹から戦力外通告を受けたのに、頑張って干渉してこようという兄の姿がなかなか痛々しく見えてきたが、まぁ答えはこんな感じではあるんだよな。

 

「それは私もわかってるよ。ただ雄也くんなら何かもっと面白い考えとかあるんじゃないかなって思って!」

 

面白い……ないことはないが、ハードルが上がってしまったな……。

 

「……まぁ今の答えに対しての根拠ならあるっちゃあるけど、授業から逸脱するだろうしなー」

 

「聞きたい!」

 

「まぁいいか。……俺たちも去年やったけど、なんと言うかそもそもの宿題の質問自体が若干ナンセンスなんだよなー」

 

本来聞くべきは、百合が女の生まれ変わりか否かではなく、なぜ男が百合を女の生まれ変わりと認識できたか、ってことだろうに。とりあえずその線に誘導してあげよう。

 

「美奈ちゃんは誰か好きな人がいたとして、その人が100年その場で待っててくれなんて言われたらどう?」

 

「待って、美奈子に好きn「お兄ちゃん、黙って。そんなに暇なら茜ちゃんたちの勉強見てあげてて」はい」

 

またしても清隆がカットインをかまそうとしたが、一蹴された。いと哀れなり。

 

「うーん……100年待ってる間に私死んじゃうね?」

 

「あくまでたとえ話だけど、まぁそんな100年その場に座って待つなんて普通出来ないよね?」

 

「うん」

 

「けどこの話だと、その到底できないであろうことを成し遂げないと男は女と再会することができないんだよ。でも男はそれをやり遂げた」

 

「星の欠片が丸くなったり、墓石に苔が生えるほどの長い時間を男はずっと墓の前で、ただただ女の言葉を信じて待ち続けてたんだよ。だからこそ、突然咲いた百合を女の化身だということとか、百年という長い時間が過ぎていたことに気づくことができたってとこかな」

 

「ほえー……なんかロマンティックだね……確かに授業ではここまでは聞かれないと思うけど」

 

ただ、この話の本質はそんなことではない。

 

「もっと言えば、これはロマンティックな話ってだけじゃないよ。転じて考えれば、自分の理想を貫くためにはどうすべきかってことが書かれてるわけ」

 

「と、言うと?」

 

「理想を貫いたり、夢を叶えるためには、その理想に対して切実に、まっすぐに向かっていくことしか実現する方法はないってこと。主体的な行動の中でしか事は成就しないってことを作者は言ってるんじゃないかな? 次の話で言えば、木の中に埋まってるものを掘り出すんじゃなくて、自分で仁王を掘らなきゃ仁王は掘れないよってこと」

 

「ほー……さすが雄也くん!」

 

「いやいや、あくまで俺の感想だから。……まぁそうすると、今言ったことを一番体現しているのは、そこで黙々と問題解かされてる赤点野郎なんだよな」

 

自分が最強の剣士でありたい、ということを諒は常日頃思っているらしい。そのためにやるべきことは欠かすことなく実行し、自分の理想にただひたすら向かっている。それ故に剣道は同世代では敵なしだし、ボーダーで言えば、ポイントこそかなりの差はあるがあの太刀川さんと同格以上と言うことを昇格戦で知らしめた。

 

……まぁそのために学業を疎かにした結果、こんなことになってるわけだが。

 

 

――

―――

 

ある程度時間が経ったところで、今まで集中していた諒の集中力もついに切れてしまったため、今日のところは切り上げ、諒は今、美奈ちゃんと一緒に訓練室で熊谷の訓練に付き合っている最中だ。

ついでに清隆と日浦は狙撃手の合同訓練があるらしく、既に隊室を後にしていた。

 

必然的に残るのは俺と玲なのだが、特に今日は訓練するつもりもないし、てきとーに雑談を繰り広げていた。

最近知ったのだが学校では桐絵と同じクラスらしく、学校での様子を聞いてみたが普段の姿からは想像できないような姿をしているらしい。

 

お淑やか?……家にいるときは何かある度にガンガン締め技をかけてくるやつのどこにお淑やかさ要素があるんだよ……

 

そんなこんなでいつの間にか結構な時間が経っており、熊谷と日浦からそろそろ帰宅するという連絡がきたので、それじゃあ、ということで玲も帰り支度を始めた。

 

「今日は邪魔しちゃったみたいでごめんね」

 

「いや、気にしなくていいよ。2人もテスト近いしちょうどよかっただろうしいいんじゃない?」

 

「そうね」

 

「ねぇ、雄也くん。今日雄也くんが美奈子ちゃんにしてた話だけど……」

 

夢十夜の話かな?

 

「ん? あれがどうかした?」

 

「うん。あれ聞いててね、私もちょっと頑張ろうと思ったの」

 

「そうなんだ。なんかあるの?」

 

玲の方に目をやると、玲は目を伏せ震える手でネックレスを握りしめていた。鳥の羽を模したデザイン。俺が玲の誕生日プレゼントにあげたものだった。

 

少し間を開けて玲は顔を上げた。何かを決めた眼。真っ直ぐに俺を見つめていた。

 

「うん。私……雄也くんのことが好きよ」

 

「……え?」

 

「すぐにじゃなくていいけど……なるべく早く返事が欲しいな……じゃあ、今日はありがとうね」

 

それだけ言い残し、玲は隊室から出て行った。

 

………

……

 

……あっ、そういやテスト近いし俺も勉強しないと。

 

突然の告白にどうしたらいいかわからなくなった俺は、現実逃避に走るしかなかった。

 




年内、あと1回くらいは投稿できそうな気がしてきた……


それでは次回もよろしくお願いします。

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