では今回も宜しくお願い致します。
【春日雄也・ボーダー本部】
「ボーダー本部長、忍田真史だ。君たちの入隊を歓迎する。今日から君たちは――」
今日は9月の新入隊員の入隊式で、今は忍田さんが集まった新入隊員に向け挨拶をしている。
本来は嵐山隊が表に出て、裏でいろいろやるのが俺、清隆、美奈ちゃんの仕事だったのだが、どういうわけか俺と清隆は表に出ることになっていた。
「何で俺たちも表に出てんだよ。どうせお前が忍田さんになんか言ったんだろうが」
「まぁまぁ落ち着いて。いいじゃん、手当ももらえるし」
「答えになってねぇ……」
「先輩方、新入隊員たちの前なので喋らないでください」
小声で清隆を追求するも、軽く流されてしまい、挙句木虎から怒られてしまった。
少なくともこいつは金目的ということは分かったが、なぜ俺は毎度毎度こいつに振り回されてるのだろうか……。
「――私からは以上だ。この先は嵐山隊と、今期から入隊指導に加わってもらった古賀隊の2人に従うように」
忍田さんが壇上から降りたところで、嵐山隊と共に前に出る。
同時に黄色い歓声が沸き上がる。
さすが嵐山さん人気だなー。と思っていたら、清隆の方にも女の子の視線が集まっているようだった。
そんな中、嵐山さんが1歩前に出て口を開く。
「嵐山隊の嵐山だ。これから入隊指導に移るが、攻撃手と銃手を志望する者はここに残ってくれ。狙撃手志望の者はうちの佐鳥と古賀隊の古賀に着いて訓練場に向かってくれ」
指示に従い、10人弱の新入隊員が2人に連れられ狙撃手の訓練場に移動を始めた。
残った新入隊員に対して、嵐山さんがボーダーについて軽く説明を始めた。
一方で俺はとある新入隊員を探していた。
三雲修――本来不合格であろうところ、迅さんの推薦により隊員になることができた少年。
できれば今日までのうちに迅さんに話を聞きたかったが、タイミングが合わず結局聞けずじまいだった。
軽く見まわしてみると、写真で見たあまりパッとしない印象のメガネの少年がいた。
何か特別な雰囲気を醸し出しているわけでもない、いたって平凡な中学生にしか俺には見えない。
トリオン量が少なくても戦闘などのセンス次第では確かに合格することもあるが、とてもそうは思えないし、推薦するほどの隠れた才能を持っているようには見えない。
だとすると――
『多分一人入隊すると思われるんだが……どうもそいつが大規模侵攻の被害を抑える切り札みたいなんだ』
以前鳩原さんが密航した際に迅さんに言われた言葉。
こいつが切り札……? こいつに何かあるってのか……?
まぁ仮想戦闘モードでの訓練も初っ端にあるわけだし、そこで確認してみよう。
―――
――
―
うん、とても切り札とは思えない。予知間違えたな、これは。
説明も終わり、仮想戦闘モードでの訓練ができるブースまで移動し、新入隊員の戦闘訓練が始まった。
そして三雲の出番となり、俺はそれを見ることとした。
……結果としては制限時間の5分以内に倒すことができなかった。
大体これで戦闘員の向き不向きは分かるのだが……時間切れはさすがに論外だろう。
今後に期待するとしても、現状では戦闘員候補生としては落第レベル、というのが俺の感想だ。
ただ、近界兵の弱点にはすぐに気づいたようでそこを狙おうとはしていたのは評価できる。だが、運動や戦闘のセンスはあまり良くなく、肝心の弱点に対しての攻撃ができないまま終わってしまった。
頭と戦術眼は悪くなさそうなので、オペレーターになった方がいいんじゃないのか?
―――
――
―
一通り戦闘訓練が終わり、皆一休みしていた。
あまり有望株はいなさそうなのが残念だが、まぁ努力次第では伸びる隊員も出てくるだろうから皆頑張ってもらいたい。
とは言え、木虎、黒江、緑川、ついでに諒のように、ここ数期の新人がインパクト強めだったこともあり少々物足りない感じは否めない。
「よし、一通り終わったみたいだな。じゃあせっかくだし新入隊員の皆には現役の隊員の力も見てもらおうか。そうだな……雄也! ブースに入ってくれ!」
「はい?」
え? 俺?
「ご指名ですよ春日先輩」
「いや、充、お前が行けよ」
「いえいえ。せっかくですしここは春日先輩が」
「仕方ないな……」
あまり進んで前に出るようなことはしたくないのだが、充は代わってくれそうにないし、新入隊員たちはなんか期待を込めた目でこっちを見てくるし、木虎は「早く行ってください」と言わんばかりの目でこっちを見てるもんだから、渋々前に出ることにした。
ただまぁ前に出る以上はやることはやらないといけない。テキトーに済ませるわけにもいかないから……そうだな、とりあえず今回どう立ち回るべきだったかの答え合わせみたいなことをしておくか。
「A級9位、古賀隊の春日雄也だ。ポジションは射手をやっている。射手は今初めて聞く言葉だろうが、とりあえず今の段階では銃型のトリガーを使わない銃手とでも思っていてくれればいい。そうだな……じゃあ答え合わせというわけじゃないが、今回の訓練でどう立ち回ればよかったか、の例を見せておこう。嵐山さん、とりあえず都度お願いするんで、そうですね……うん、計3体出すようにお願いします」
「ああ、わかった」
ちょっとばかり注文を出してブースの中に入る。
『外、聞こえてますか?』
『聞こえてるぞ』
『じゃあこいつらの倒し方だな。方法は大きく2通りだ。1つはシンプルに力でゴリ押し。自分のトリオン量に自信があるのなら今回はこれが一番手っ取り早い。身も蓋もない話をすれば、今回の訓練用の近界兵は攻撃し続ければ倒せるからな。じゃあ嵐山さん、お願いします』
『了解』
『5号室、用意、始め』
『アステロイド!』
アナウンスと共に訓練用の近界兵が出現する。まずはアステロイドを発現させ胴体目掛けてガンガン打ち込んだ。
『記録、4秒』
もちろんその気になればもっとタイムを縮めることもできるが、今回はこんな感じでいいだろう。
『とまぁこんな感じだ。だが、トリオンの少ない場合はこのやり方では時間がかかってしまうからこれは適さない。で、2つ目だが……気付いていた新入隊員もそこそこいたみたいだが、弱点を狙う。今回のやつは口の中にコアがあるんだが、そこが弱点になっている。……さて、次、お願いします』
『用意、始め』
今度は近界兵の口の中目掛けてアステロイドをぶっ放す。弾丸は狙い通りコアを貫き、近界兵はその場に力なく倒れ伏した。
『記録、2秒』
『まぁ新入隊員はこの2通りだろう。じゃあ折角だから俺のやり方でも見せておこうか』
最後にせっかくの機会なので、新入隊員に合成弾を見せてみることにした。何を使うか……よし、あれにしよう。
『用意、始め』
『アステロイド+メテオラ=フェニックス』
選んだのはアステロイドとメテオラの合成弾。
通常のメテオラでは考えられない速度で射出された弾丸は、近界兵に着弾した次の瞬間爆発を起こした。
知っての通りメテオラは着弾時に爆発するわけだが、その攻撃力と引き換えにどうしても弾速が落ちてしまう。
その弱点を補うために通常弾を合成し、弾速の底上げをすることでメテオラの弱点である弾速の遅さをカバーすることができるというわけだ。
さて、合成弾を撃ち込まれた近界兵だが、着弾箇所が大きく抉れ胴体の半分が吹き飛んだ状態で崩れ落ちていた。我ながらなかなかエグい威力をしているな。
『記録、1秒』
『ふぅ……今後この中に射手になりたいって隊員も出てくるだろうが、ある程度極めるとこういうこともできるってとこかな。では新入隊員の諸君。次の訓練も頑張ってくれ。以上だ』
そこまで言い切り、訓練用のブースから出た。それと同時に新入隊員たちが歓声を上げた。
悦に浸っていたいところだが、次の訓練もあるので拍手をやめさせ、次の訓練に向かわせた。
―――
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【春日雄也・玉狛支部】
「迅さん、ちょっといいですか?」
「お、どうした?」
「新入隊員のことなんですが――」
新入隊員のオリエンテーションも終わり、玉狛に帰り着いた俺は真っ先に迅さんの部屋に向かった。
腹も減っていたので、開いている段ボールからぼんち揚げを一袋拝借しながら、今日のことを伝えた。
「そうか……」
「とても大規模侵攻の切り札になりうるとは思えないんですが……一体彼は何者なんですか?」
「わからん」
「は?」
わからん、って……いや、迅さんの予知でしょうが……わざわざ推薦してまでボーダーに入隊させたのに何を言ってるんですか……。
「まぁ少なくともあのメガネ君には何かあるんだと思うよ。だけどそれが何なのかはまだわからない。だから少し目を向けておいてくれると助かる」
「仕方ないですね……わかりましたよ」
「おう、じゃあ下に降りようか。レイジさんがそろそろ飯作り終わる頃だ」
「そうですね」
迅さんの予知も、まだ曖昧なことしかわからないということか……。まぁあんまり焦っている様子もないし、大規模侵攻とやらにはまだ時間的猶予はある程度あるのだろう。
とりあえず、今後も三雲には目を光らせておくか……。
インフルエンザも流行り始める季節です。
身の回りにも一人感染した人が出てきました。
皆さんもお気を付けください。ではまた次回に。