それぞれの戦う理由   作:ふぃりっぷす

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太刀川隊とのバトルの直前です。
今月中に書き終えたいと言っていましたが、普通に無理ですね、ペース的に←

では今回もよろしくお願い致します。


古賀隊③

【春日雄也・ボーダー本部・古賀隊隊室】

 

いよいよ太刀川隊とのエキシビジョンマッチ当日となった。

 

作戦の詳細を詰めるため、一同隊室に集まっていた。

 

「さて、作戦……と言えるほどのものじゃないんだけど、もうちょっと細かく話そうか」

 

清隆の言葉に、皆がその方を向き直した。

 

「じゃあまず前提として、今回太刀川隊と戦う上で気をつけなければならないことはわかる?」

 

「やっぱり太刀川さんとのマッチアップか?」

「んー、でも出水先輩を抑えるのが最優先なんじゃないかな?」

 

「2人とも残念。雄也は何かわかる?」

 

2人の出した解は一見妥当なものに思えるが、清隆がわざわざ聞いてくるくらいだから、おそらく普通に想定できるような答えではないのだろう。大体こんなことを聞いてくるときは、並の感覚では想定できないケースが多い。笑顔で取り繕ってはいるが、こんなことを聞いてくる当たり本当に性格悪いな、こいつ。

 

とは言え、俺は一応清隆の考えている作戦をある程度把握しているから予測はつく。おそらく残る1人のことだろう。

 

「……多分だが、これは今回の戦いに限った話だな」

 

「おっ、わかってるじゃん」

 

「え? 雄也くんわかるの?」

 

「今回どんなことをやりたいかくらいまでなら把握してるからな。清隆の求める答えどうか自信はないんだが……想定外の紛れを発生させないことかな」

 

「うん。ニュアンスとしてはちょっと違うけど、概ねあってるよ」

 

「で、その想定外の紛れってのはなんなんだ?」

 

「唯我」

 

「は?」

「でも唯我くんってそんなに強くないよね?」

 

諒はともかく、オペレーターの美奈ちゃんにまで強くないと言われるとは……唯我、哀れ。

 

「そうなんだが……まぁガンナーだし、もしかしたら、ってのは普通にあり得る話だから」

 

「なるほどー」

 

実際、銃手厄介ではある。距離を置いて、しかもハンドガンとはいえある程度連射できるとなると普通にマグレが発生することもありうる話だ。

 

今日のような戦いの中で、唯我なんぞに落とされるわけにはいかないので、申し訳ないが早々に退場させておきたい。

 

「もしかしたら、もそうだけど、俺が太刀川隊の人間なら、太刀川さんからあまり離れてない場所に隠れてもらって、いざと言うときの援護に使うだろうし、そう考えると唯我邪魔だよね。そういうわけで、合流される可能性もあるから、その前に唯我をさっさと落としておきたいんだよ」

 

清隆の言うことも一理ある。実際タイマン張ってる時に横から茶々入れられるのは正直うざいし、気を取られてその隙にやられる、なんてことも十分ありえることだ。

 

タイマン張るというと聞こえはいいが、あくまでも俺たちがやるのはチーム戦なわけだから、横から茶々入るのも当たり前のことだし、それが責められることではない。当たり前の戦い方だ。

 

「何か具体的な方法でもあるのか?」

 

「うん。ユズルのとこの北添さんの見て思いついたんだけど……」

 

「てきとーメテオラとか言われてるやつのこと?」

 

「そうそう。あれを合成弾使って威力増し増しで雄也にやってもらおうかな、と」

 

たまに清隆に付き合ってもらい、前々から色々合成弾を試していたのだが、そのうちの1つに、今回の戦いにおいて清隆の御眼鏡に適う物があったらしく、これの調整等をするために、この間のミーティングが終わった後に呼び出されていたわけだ。

 

メテオラ同士の合成弾。身も蓋もない話をすれば威力が高いメテオラをぶっ放せる、と言うだけの話なのだが、トリオン量の多い俺が使えば、銃手並の射程でゾエさんのそれ以上の威力を発揮することができる。

 

今まであまり使い道もなかったし、何よりトリガーセットの都合上使うことができなかったから、今回が初のお披露目となる。

 

それをガンガンぶっ放せば、突然の出来事に対応するだけの実力のない唯我を動揺させられるし、あわよくば落とせるだろう。そうでなくても清隆が恐慌状態の唯我を確実に仕留めてくれるはずだ。

 

「フィールドはこっちで決められるからね。市街地Aということで、着弾座標とか弾数とかの設定はについてはこの間雄也と決めておいたから。これで唯我を落とせればよしだし、落とせなくても唯我はビビッて慌てるだろうからね。見つけ次第倒せばいいと思うよ」

 

「着弾予定座標はマップに印をつけているところ。転送されて10秒かからないうちに発射するつもりだから対象範囲に入らないよう気をつけといて。威力とか爆発の範囲も通常のメテオラに比べると桁違いだから、そこも注意をよろしく」

 

「わかった」

 

「うん。で、唯我を落とした後は手筈通り諒には太刀川さんとやってもらう。で、出水なんだけど――――」

 

「は?」

「あ?」

「え?」

 

想定外の提案に、俺たちは驚き一瞬空気が止まってしまったが、清隆は構わず次の言葉を続けた。

 

………

……

 

 

「はぁ……わかったよ」

 

「恩に着るよ。2人もそれでいい?」

 

「はぁ……まぁ俺は太刀川さんとやれればいい」

「了解! あれ? そう言えば雄也くん、今回に限った話ってどういうこと?」

 

「ほら、普段のランク戦はポイントの取り合いだから。皆一斉に唯我狙うから策もクソもなく唯我は真っ先にベイルアウトだ。今回みたいな戦いになると、雑魚だから、と放置しがちになって意識から外しちゃうじゃん? さすがにそれは舐めすぎだし危険だよ」

 

「あー、納得」

 

「さて、時間だしそろそろ行こうか」

 

「ああ」

「おう」

「じゃあ皆、頑張って!」

 

戦いに向けての準備は万端。いざ、出陣。とでも言ったところか。

 

 

 

 

 

 

【全体視点・実況席】

 

「さぁ! 太刀川隊と古賀隊のエキシビジョンマッチが間も無く始まります! 実況の武富桜子です」

 

実況の竹富桜子の元気な声が観客席に響く。

 

「では本日の解説者ですが……太刀川隊と古賀隊の対戦ということでその道の実力者に来ていただきました!」

 

「まずは個人総合3位で攻撃手2位の風間隊の風間隊長です!」

 

「よろしく」

 

「そしてもう1人は個人総合2位で射手1位の二宮隊の二宮隊長!」

 

「……ふん」

 

攻撃手、射手のスペシャリスト同士のマッチアップと言うこともあり、それぞれの実力者が解説に呼ばれ、実況席の方も準備万端といった感じだ。

 

「ではまず風間隊長。今回の見所の一つとして太刀川隊長と黒木隊員のマッチアップがあると思いますがいかがでしょうか?」

 

「旋空を使う分太刀川が有利だろう。だが、それを掻い潜って間合いに入ることができたら黒木に分がある」

 

「純粋な剣での強さでは黒木隊員の方が上と言うことでしょうか?」

 

「あくまでも多少は分があるという程度だ。大して力量に差はないだろう」

 

太刀川と黒木については、風間の目から見たら大差ないらしい。

 

しかし、この風間の言葉に観客席は少々ざわつく。観客席の反応は太刀川圧倒的優勢だろう、というものだった。

 

実際に黒木、太刀川のランク戦での結果は太刀川が優勢ということもあり、他の隊員たちは太刀川の方が強いという認識だった。

 

ただ、実際に2人はB級のランク戦が始まってから個人ランク戦をしていない。トリオン体となることにより運動性能が向上するのだが、想定以上に運動能力が上がってしまいそれに黒木が慣れるのに時間がかかってしまったこともあり、本調子で太刀川と戦ったことはなかった。

 

つまり、互いに万全の状態で戦うのは今回が初めてなのだ。

 

風間ほどの実力者ともなれば、今現在の黒木の戦闘能力を考慮しどちらが優勢かということも判断できるが、一般の隊員ではそうはいかず、ランク戦の結果だけでどちらが優位かを判断するしかないため、こういった反応になったのも仕方ないことだ。

 

「なるほど、ありがとうございました。では二宮隊長。もう一つの見所として出水隊員と春日隊員という合成弾の名手2人の戦いですが、それについてはどうお考えでしょうか?」

 

「春日との正面切っての打ち合いは流石に分が悪い。互いに射手としてのプライドもあるだろうが、出水がそこを堪えて春日との戦いに拘らず、太刀川の援護に回るなら普通に勝機はある。ただ――」

 

「なんでしょうか?」

 

「今挙げた2つとは別に、古賀隊には古賀がいる。太刀川たちがこの曲者相手にどう対応するかだ」

 

「二宮の言うとおりだな。単純に狙撃手としてもかなり優れているが、B級のランク戦を見ていると絶妙なタイミングでアシストをしていたり、どこからともなく急に現れて弧月で相手を切り伏せたりと上手いことやっている。小隊での戦闘の上手さにおいてはおそらく他の2人より一段上にいるだろう。フレキシブルに動けるという点も考慮すると、東さんよりも厄介な相手だろうな」

 

「特に黒木が入隊してからより際立ってきた。強力なフロントが1枚入ったことで戦局を見極めることに、より集中できるようになったということなのか? とにかく今まで以上に面倒な相手になった」

 

春日の実力を認めながらも2人が気にしているのは古賀のことで、このことにまた周囲はどよめいた。

 

風間、二宮に言わせれば、個人の能力が突き抜けている2人のことよりも、その2人を上手く使い、尚且つ自分も動きながら戦場の流れを支配できる古賀の存在こそが太刀川隊にとっての脅威である、ということを暗に発していた。

 

ランク戦において、単純に個人の能力だけである程度ことを決めることができてしまうB級下位層以下の隊員からしたら、春日、黒木の両名の高い戦闘力で成り立っている部隊であり、古賀はただのそれなりに上手い狙撃手という認識だ。

 

だが、それより上にいる隊員たちに言わせれば、複数部隊での戦いというフィールドにおいて、上手いことやられる、つまりその場の流れを容易く持っていってしまうことができる古賀の存在の方が余程驚異的なのだ。

 

「なるほど。ではおふたりは古賀隊優勢との見方でしょうか?」

 

「そうだな……古賀隊の方が有利だろう」

 

「ふん、そもそもの戦力の問題だ。同レベルの実力者の集まりの中で、雑魚が一人いる太刀川の所が不利なのは決まっているだろう」

 

そして、案の定唯我はボロクソにけなされていた。唯我、哀れ。

 

「は、はい。ありがとうございました……おっと、そうこうしている内に転送の準備が整ったようです! ではエキシビジョンマッチ! スタートです!!」

 

 




実況席でのやりとりだけ、三人称視点に変えています。


今回も読んでいただきありがとうございました。

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