「なあ、お前、湖の神様を見たことあるか?」
「蛙?ちげえよ馬鹿、人型のだよ」
「俺は見たことがある。ガキの頃にな」
「ガキの度胸試しってあったろ?湖まで行ってよ、村まで戻ってくるあれさ」
「その時に妖怪に襲われてな、もうダメだって思ったときにその神様が助けてくれたのさ」
「ああ、緑の髪に、透明な羽。ありゃ絶対に神様だ。間違いねえ」
「あん?その形なら妖精じゃねえかって?……ああ、実のところ俺もそれは考えたさ」
「だがよ、考えてもみろ。妖精がわざわざ人間助けて、心配するか?それに、喋り方だって姿だって子供っぽい妖精とは比べ物にならねえ」
「だから、あれはきっと湖に住んでる神様さ。社は見かけたことねえが、秋の神様だって社はねえ。似たようなもんだろ?」
「まあ、実はよ。神様に助けられた直後に社、作ったんだよ。感謝の印にさ。ガキの作ったもんだから、そりゃあ粗末なもんだけどさ」
「もう一回会えんじゃねえかって打算もあった。だが、神様はそれ以来一度も見かけねえ」
「きっと信者がいなくて出てこれねえのさ。守矢神社の神様たちだって、外でそうなりそうだからこっちに来たって話だしよ」
「ああ、だからよ、お前が湖の近くを通った時はさ、社で拝んじゃくれねえか?」
「なに、俺が作った粗末なもんさ、手え合わせて道中の無事を祈ってくれさえすればそれでいい」
「なんでそんな妙な事頼むかって?……あれだよ、一回会って礼がしてえのさ、助けてくれてありがとうってよ」
「だが現れられないんじゃ話にならねえだろ?だからよ、頼むよ。俺とおまえの仲じゃねえか」
「その位ならやってもいい?おっしゃそれでこそ俺の親友だ!」
「ん?他にも話していいかって?そりゃもちろん。増えてくれるんなら願ったり叶ったりだ」
「おっといけねえ、仕事の時間だ。遅れたらあの道具屋の兄ちゃんに嫌味を言われっちまう」
「じゃあな!社の件、頼んだぜ!」
♢
「おはよう、チルノちゃん」
「……うん、また大きくなってたの。力もなんだか溢れてくるし」
「なんだかお母さんみたい?アハハ、せめてお姉ちゃんでお願い」
「私、このままどうなるんだろう?妖精なのにこんなに成長しちゃって」
「……ずっと一緒にいてくれるの?うん、ありがとう、チルノちゃん」
「そういえば、湖の近くの……なんていうのかなあれ、ちっちゃい神社みたいなの」
「最近人がよく来るんだけど、チルノちゃん何か知ってる?」
「湖の神様?そんなのいたっけ?」
「チルノちゃんも知らないんだ。誰なんだろうね、一回会ってみたいな」
「じゃあ、今日はみんなと何して遊ぼっか?」
(早く会ってみてえなあ、あの妖精みてえな神様に)
(会ってみたいな、湖の神様、優しい神様だといいな)
神と信者はすれ違えども、それは確かに信仰だった