突然だが、結婚した。
相手は迷いの竹林の案内人、藤原妹紅だ。
まあ、一目惚れである。
不死だから、と渋る彼女に猛アタックを仕掛け、ようやく頷いてくれた。
結婚生活は実に幸福だった。
男勝りな口調のわりに仕草は優美で、丁寧なのが同棲し始めて知りえたこと。
夫婦生活は毎日が充実していた。
妹紅は竹林に行き、俺は店で働く。そんで、夜になったらお互いのことを話して笑うのだ。
妹紅の特殊な体質故に子供はできなかったが、まあ特にほしかったわけでもなかったのでよしとする。
妹紅は少し寂しそうだったけれど。
でも、何十年と経つうちに、変化は現れてくる。
しわが増え、髪も少し後退してきた俺に対し、妹紅は俺が惚れた美しい姿のままだった。
そんで、限界だってわかったのが仕事中にぶっ倒れた時。
目を覚ましたら妹紅がそばにいて、泣いてた。
彼女は色々な人を看取ってきたから、おそらく、そういうのが分かるんだろう。
俺がぶっ倒れて、数か月が経った。
体は満足に動かせず、呼吸するのさえつらい。
大丈夫か、と聞いてくる妹紅に対し、美人が看病してくれてるからな、と強がって見せる。
でも、分かってた。おそらく俺は数日のうちに死ぬだろう。
だから、店の奴らを呼んで、後は頼んだぞって、笑って伝えた。
店主の座を引き継いだ霧雨の小僧は、泣きながらもうなずいた。
辛気臭え顔すんなって、頭を叩いてやった。
やり残したこと全部終わったその日に、寝る前に悟った。
ああ、死ぬなって。
だから、俺が倒れて以降、泣きそうな顔で俺の顔を見つめる妹紅に別れを告げる。
告げた途端、嫌だ、死ぬなって縋り付いてきたけど、さすがに死神様に逆らえるほど俺は強くない。
俺たちが出会ったからの話をした。夫婦になってからの話をした。
そして、俺はいつの間にやら死んでいた。
どんぶらこ、どんぶらこ、と死神様の舟があの世に進んでいく。
長いとも短いともとれない時間で舟は彼岸にたどり着いた。
死神様の先導で着いたのは大きな広間。
正面に座るは鬼も逃げ出す地獄の最高裁判長。
俺の人生読み上げて、貴方は白です、と淡々と告げる閻魔様に土下座した。
どうか、記憶を持ったまま、生まれ変わらせてほしい、と。
なりません、と閻魔様は言う。道理に反することだから、と。
ならば稗田家の娘はどうなのだ、と問うと、あれは幻想郷のための例外です、と。
ならば例外を俺にも適用してくれ、と。なりません、と閻魔様はいう。
お願いします、なりません。お願いします、なりません。
この繰り返しがどれほど続いただろう。
俺を先導してきた死神様がとうとう布団を敷いて寝入ったころに、閻魔様は音を上げた。
分かりました、ならば地獄で千年働きなさい、さすれば例外を認めましょう、と。
そんなこんなで五百年。あと五百年で妹紅に会えるぞ、と。
今日も俺は地獄でひいこら働くのだ。
あなたと過ごす五十年の為ならば、千年だってへっちゃらさ、と今日も男は地獄で笑う