シルヴァリオグランドオーダー 作:マリスビリ-・アニムスフィア
マシュの身体が輝きを発し、新たな姿を取る。それは紛れもない奇跡だ。感応した
助かるはずのなかった命に新たな息吹が与えられていく。
――
――強大な力を持つ魔星の力を人の身にて恒常的な戦力としようとした計画だ。
頭の中の存在が、目の前の事象について解説を挟んでくれる。
曰く、英霊人化計画。英霊と呼ばれる、特異点に記録された強大なる星の力を人の身に宿し、恒常的な戦力とすることを目的とした計画。
マシュ・キリエライトは、この計画唯一の成功例である。
――ここに来て、その結果が実を結んだということだ。
「助かるのか」
――助かる。
その言葉に安どした。頭の中に声が聞こえているということの違和感に俺は一切気がついてなどいなかった。
次第に光は収まり、マシュの無事な姿が――。
「ぶっ――」
そこにあったのは、騎士甲冑がごときエロ衣装を身に纏ったマシュである。ヘソというかお腹は出ているし、色々ときわどい。
なんだ、この衣装は――。
「ん――先輩?」
「マシュ! 良かった無事だったんだ」
考えるのは良そう。ちょうどマシュも起きたことだ、変なことを考えている暇などない。何より、ここは既に危険地帯。
どこから敵が現れてもおかしくないのだ。
「とにかく移動しよう」
「そう、ですね」
「立てる?」
「はい、身体は万全です」
大盾を持ったマシュは、確かに何かが違うように思えた。人間とは何かが隔絶している。根本的な数値では同じであっても、おそらくは桁が違うのではないかと思った。
――そうだろうな。
頭の中に響く声は無視して、この場を離れ、無事だった一軒家へと入って休む。
燃え盛る街。もはや、ここに生命の息吹などありはしない。
ここがどこか、既に答えは得ていた。ここはアドラー帝国の首都。帝都だ。一度だけ、訪れたことがある帝都にこのような形で来ることになろうとは。
しかし、全てが燃え盛っているとはどういうことか。
「おそらくは、この時間軸は
「なるほど。ともかく、ここが特異点ということで問題ないんだよね?」
「はい、そうだと思います。星辰体濃度は、どれも異常値を指示していますので」
「そうなると、これからどうするかだね」
通信は繋がらない。あちらでも何かが起きたのか、それとも単に機材のトラブルなのかはわからないが、完全に孤立してしまっている。
今のところ、敵は見ていないが、まだまだこの帝都には何か得体のしれない敵がいることは気配でわかる。先ほど戦ったような存在がまだいるのならば厄介だ。
だが、向かう場所ははっきりしていた。
「帝都の中央ですね」
帝都の中央には、かつてモン・サン=ミッシェルと呼ばれた旧暦の建造物、そこにはかつての日本軍の施設と一部融合した状態の施設がある。
この軍事帝国アドラーの根幹であり、日本のテクノロジーが眠る場所でもある。今や、そこは尋常ではない量の星辰体であふれかえっている。
何かないという方がおかしい。よって、目指す場所はおのずと決まった。
――
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
「何が来ても、先輩と一緒なら大丈夫です!」
「ありがとう、マシュ。行こう」
目指す先が決まればあとは行くだけだ。
敵はいない。だが、その征く手はこんなを極めた。
時代を支える炎の叡智。しかし、今やそれは全て人に牙をむく。嚇炎は全てを燃やし尽くさんと火の粉を振りまいていた。
「――――」
郊外に出ていたからこそ、殺戮はなかった。だが、中央に向かうにつれて、世界が血で染まっていく。地獄とはかくあるべきだとでも言わんばかりに。此処こそが地獄、これこそが地獄絵図。
これこそが、かつて巻き起こった聖戦の最中に起きた魔星と呼ばれるものどもの暴虐の跡など知った。
全ての阿鼻叫喚、全ての絶望を混ぜ込んだ魔女の窯の底。ぐつぐつと煮えたぎる窯の底ゆえに逃げ場など
全てが炎上している。こここそが地獄の底だ。ならばどこへ逃げるというのか。逃げられるわけがない。逃げられる場所などありはしない。
人はいないが、燃え盛るだけの建物が、かつての惨状の恐ろしさを伝えている。
「マシュ、大丈夫?」
「は、はい、先輩は、大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫だよ」
これほどの暴虐の跡ではあったが、人の気配が何一つない。
いいや――。
「先輩!」
甲高い音が響き渡る。金属と金属が奏でる殺意の旋律。
マシュの大盾が何かの攻撃を防いだと理解した時には、既に敵が目の前にいる。地面に落ちたのは鋼鉄の苦無だった。
武器を構える音がする。それは――。
「
帝国製星辰奏者。それも、どこぞの特務部隊員というべき雰囲気を身に纏った星辰奏者が三人、行く手を遮っていた。
――
頭の中の声が告げるのは、彼らの所属。
――どうやら、この特異点は様々な相互作用によって成り立っているらしい。
――先ほどの魔星の残影は、今もなお生きているが、こやつらの場合は既に死んでいる。
「ああ、だから、さっきのやつほど存在感がないわけか」
いうなれば先ほどの残影以上の影と言える。まさしく、かつての焼きまわしどころか、本当に影法師と言っても過言ではない。
だが――。
それでもなお、裁剣天秤といえば精鋭中の精鋭だと聞いている。帝国最強の星辰奏者を有する特務部隊。それは各国でも有数の部隊であるという。
一部、飢えた女が率いているだとか、部隊長はパシリにぞっこんだとかいう意味不明な噂も多々あれど、その強さだけは折り紙付きだ。
「マシュ!」
俺はマシュに声をかけながら発動体を抜いた。
「はい、マシュ・キリエライト、行きます!」
「「創生せよ、天に描いた星辰を――我らは煌く流れ星!」」
基準値から発動値へと変遷。
超進化の如く、既存の速度を振り切って超高速戦闘へと移行する。
俺の基準値と発動値への上り幅は、異常ともいえる。それはもう進化というよりは確実に別人になっているというような状況。
あまりの差から現在進行形で反動が襲っている。それは激痛。苦痛。ありとあらゆる痛みを内包し、内臓が抉られているかのような痛みとなっているが――。
――そうだ。痛みなど胆力でどうとでもできる。
などと、頭の中の声が言っているが――。
「笑止。それは
俺の疾走は、出だしから止められていた。
「く――!」
出力だけでもかなりの差があるというのに、三人の星辰奏者は反応した。ほとんど0から100への切り替わり。こちらは手の内をまったく見せていない状況での不意打ち気味の全力疾走。
されど、まるでその昔に、このくらいの上り幅とかでの不意打ちでも喰らったことがあるかのように対応して見せてくれる。
さすがは裁剣天秤というべきか。だが、不意打ちを防がれたくらいでどうにかなるわけでもない。戦闘の優位を保有することはできなかったが、それでもなおこちらの出力の方が上だ。
であれば、力で順当に押し勝つという結果になるはずだが――。
「ぐ――」
「先輩!」
先ほどのダメージが尾を引いているというよりは――。
「相手が巧い」
三人は自らの特性を理解している。それゆえに連携に隙が無い。
無拍子で放たれる苦無と、相手の影からくる死角からの斬撃。そのどれもが、長年の訓練で染みついた殺し技であり、何より狙いがいやらしい。
手首足首、頭部、心臓、首。どれもが一撃必殺の致命傷狙い。さらに言えば、そこに正当な剣術という正面切っての戦闘技術まで持ち合わせている。
技巧は精鋭と言っても差し支えない。それが三人。こちらは二人。特に、俺の
「やあああ!!」
よってこの戦闘の主軸になるのはマシュだった。
別人のようになっているというのは彼女も同じであるようだ。英霊人化計画。デミ・サーヴァント。こちらと何等かのパスがつながっている。
そのおかげで起きているのは単純な出力の桁の底上げ。彼女の発動値はそこまで高いわけではない標準的と言ってもいい。
だが、しかし、同じランクでも、それを選別する為の桁が違うのなら、基準が違うのならば意味をなさない値だ。
彼女は今、並の星辰奏者では相手にならないほどの出力を有している。その上――。
「熟練した騎士だな、まるで」
そういった印象はついぞ受けなかったので、彼女のどっしりとした大樹のように根を張ったかのような立ち姿には驚かされる。
十数年を生きた少女ではない。あれは生涯を騎士道に捧げた本物の騎士だ。
――当然であろう。それこそが、英霊人化計画の要だ。
つまるところ、特異点に記録された極大の星をその身に宿すことで力、それから経験の全てを受け継ぐということなのだ。
ならば、ここは彼女に任せよう。
業腹ではあったが、連携だ。役割分担ともいえる。マシュの大盾は小回りが利きにくい。ならば、小回りの利くこちらがフォローに入り、マシュに攻撃を担当。
役割が明確になれば、それは如実に結果として現れる。連携を回して、相手の攪乱から、打撃、放たれる苦無を盾で躱しつつリズムが一定にならないように緩急を加えながら、相手のペースをかき乱し、マシュの強撃を当て嵌めていく。
「対象の脅威度を更新」
よって、来るのは当然のように相手の切り札。
否、比喩ではなく、現実の意味でも爆裂した。
「きゃあ!?」
「マシュ!」
「だい、丈夫です!」
それは、遠い宇宙、大気成分が常に化学反応を起こし続けている星の異能。 大気の組成へ訴えかけることで発火、燃焼を起こし、当たってしまえば当たれば骨肉を炭化させるほどの威力を内包している。
最悪なのはその取り回しだ。視界に入る範囲ならば、どこでも思うだけで起爆できる。既存の物理法則を無視し、酸素や水素のみならず窒素や二酸化炭素までが常温で爆発する。
更に――。
一人によって放たれた拳に、俺は吸い込まれた――。
「がぁっ!!」
肋骨がその衝撃にいくつかへし折れた。近づくのはマズイ。血反吐を吐きながらも、何とか後退しようとして――。
「ぐっ――」
俺は、相手の剛拳に落下していた。
「先輩!」
なるほど、これは相手の体を使用者に向けて落下させる異能か。一種の引力操作であり、相手を引き寄せた後に繰り出される豪拳は防御を貫通しダメージを与える威力がある。
それはそうだ。相手はいうなれば極小の惑星というべきものだ。重力加速度ほど威力の高い攻撃もない。回避困難、防御貫通。発動体はただ発動体として使うのみで、本来の得物はこちらか。
「先輩、今!」
「駄目だ、マシュ!! もう一人」
「あ、くぅうう!!」
死角どころか正面から飛来した苦無がマシュに直撃する。超高速で飛翔したわけではない。完全に
それどころか、三人いたうちの一人がどこにもいない。
「ぐぁ――」
さらに背後から斬りつけられる。警戒は緩めていない。だが、そこには誰もいない。
「物質透明化能力!」
地表から色を奪うその異星法則。もはや、輪郭すら及ばず、目でとらえることは不可能。最悪なのは、それをあらゆるものに
幸いなのは維持性が低いために、何度も重ね掛けが必要というくらいであるが、それがどうしたというのだろうか。
視えず、爆裂はこちらの行動を阻害し、引力によって引き寄せられる。連携は密であり完全。付け焼刃の連携では歯が立たず、能力に目覚めたばかりのこちらとあちらの年季の差は如実だ。
よってじり貧もいいところ。であれば、早々に勝負を決めるべく光帯の照射にうつろうとするのだが――。
「く――」
防御を緩めれば、抜かれる。光帯は、現状一つしかない。防御か攻撃か、そのどちらかにしか使用できず、防御をおろそかにすればその瞬間に貫かれる。
「それでも」
それでも負けるわけにはいかない。大切な女の子を護るため。なによりも、生きるためには、ここで死ぬわけにはいかないのだ。
――そうだ。
よってなされるは意志力の覚醒。
意志力が全てを左右するがゆえに、当然の如く閾値を越えれば覚醒するのは当然の摂理だった。
出力が十分ならば必要なのは技法ゆえに自らの中から花鳥風月の剣士の技法を呼び起こす。
見切り、心眼。極限まで高まった戦闘勘により、まずは、一人。
「おまえからだ!」
透明化が解ける僅かな一瞬に剣戟を差し込む。
まずは、爆破能力者から。
行動範囲を狭められては厄介。よってここはまずは、彼から。
「マシュ!」
「はい!」
更に次。引力男。落下する先に拳は必ずある。ならば、落下する先にマシュの大盾によるシールドバッシュ。
あとはもう光帯による広範囲爆撃により薙ぎ払った。殺意が消える。
「終わった――かはっ」
「先輩!」
「大丈夫、だ」
星を解除した途端に全身を襲う反動。つくづく難儀なものだと思うが、生きているのなら良い。
さあ、行こう、そう言いかけた時。
「良い戦いだったぜ、お二人さん」
新たな星が、現れた。
トリニティやってると思うけどやっぱりゼファーさんってヤバイよなぁ。
天秤のかませ三人も普通に強いし。
と思ったので天秤エリート三人登場。
キャスニキとオルタの詠唱考えなきゃな。
エミヤ? やつは詠唱もっとるじゃろ。
感想下さい。