シルヴァリオグランドオーダー   作:マリスビリ-・アニムスフィア

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地方都市といったな、アレは嘘だ。


序章 特異点A 極点英雄聖戦 アドラー

 次瞬、莫大なる熱量を束ねた光帯が、この場にある全ての骸骨兵を薙ぎ払った。アダマンタイト製の骸骨兵であろうとも、その熱量に耐えられるはずもない。

 実に■■■分の■■を燃やした熱量なのだ。もはや、個人で扱えるエネルギー量を超過して、なおも増大している。

 星辰体と感応すればするほど湧きあがる無限の熱量。天を焦がし、世界すらも焼却する浄化の炎が、今、剣に、その肉体に、この世界に付属(エンチャント)されていた。

 

「まだ来るか」

 

 たとえどれほどの敵が来ようとももはや、この身を傷つけること能わず。もはや、そんな段階は超過して久しい。光帯は、未だ一つ。

 しかし、それでもなお、もはや止める者はいないのだ。俺には、見えていた。

 

 基準値(AVERAGE):D

 発動値(DRIVE): AAA

 集束性:A

 拡散性:A

 操縦性:D

 付属性:AAA

 維持性:B

 干渉性:A

 

 膨大な熱量を扱う痛みと、莫大な反動が襲う中、己のステータスが透けて見える。まさしく、何が起きたのか不明な進化だった。

 己は、確かにアマツに連なる系譜ではあったが、このように優秀であっただろうか。

 否、己は正しく劣等であったはずだ。だが、しかし、今、己に見えているステータスは――。

 

 ――そんなもの気にしてどうする。

 

 刹那、声が響いた。

 

「ああ、そうだ」

 

 そんなもの気にする必要などない。総じて重要なのは、意思力であり、今、己が、戦えるということ。

 ありとあらゆる全てを轢殺して、マシュを護ることができるということだ。

 

 基準値から発動値に移行した星辰奏者を止めるには、この程度ではお粗末に過ぎた。本領を発揮した星辰奏者を骸骨兵で止めることなど不可能。

 どれほど数が多くとも、どれほど敵が、普通の人間よりも優れた星辰体兵器であろうとも、この状況を覆す事は出来ない。

 

 莫大な熱量たる光帯を纏ったアダマンタイトの剣が、また一人、また一人と骸骨兵を溶断する。自壊してもおかしくない熱量を持ってなお、アダマンタイトの発動体は壊れることはない。

 赤熱もなく、ただ光帯を纏って、それを剣として、盾として敵を殲滅する兵器となる。

 

 斬滅する。光帯斉射。噴射制御による超加速(ブースト)による光帯爆撃。圧倒的なまでの性能差を見せつけている。

 聖杯探索、救済せよ航海者(Silverio Grand Order)――対象に星の特性を付与することに長けた光帯操作の星辰光(アステリズム)

 直線放射可能な遠近両方に力を発揮する破壊の星は、進化した別人のごときステータスだからこそ可能となったものだ。

 

「GAAAAAA」

「邪魔だ」

 

 あまねく光に焼かれて、邪悪なる者一切よ、安らかに息絶えよ。

 鍛え上げた一刀がアダマンタイトを両断する。師に落第を突き付けられた刃は、今や鋼鉄すら両断する技の冴えを見せていた。

 

 連続する進化、終わらない覚醒。

 果たして、今、動いているのは自分なのかすらわからなくなりつつあった。

 だが、脳裏に焼き付いた映像が、更なる意思力の火を着けて前へと進める。

 

「護るんだ」

 

 もはや名前もわからぬ少女。

 記憶の中の彼女を必ずや守り抜く。

 

「そのためならば――」

 

 この身すら惜しくはないのだ。

 いいや、違う。

 

 ――そうだ、我が半身よ。

 ――自らを犠牲とした守護などなんら意味を持たない

 ――真に救うというのなら、まずは生きることだ。

 

 そうだ。

 まずは、生きなければならない。この両手を誰かに伸ばすために。

 ゆえに――

 

 ――ああ。

 

「「まだだ!」」

 

 この程度で足りるはずなどありはしない。

 そうだ、まだだ。

 一足飛びに訪れる進化。より強く、より強靭に。

 燃え盛る高濃度星辰体に感応し、更なる力を引き出していく。

 剣一本で足りないのならば、

 

「借りるぞ」

 

 骸骨兵の腕へ手を伸ばす。灼熱の光帯で切り飛ばし、左腕にアダマンタイトの剣を、やつらの腕を掴みとる。

 二刀など使ったことなどない。だが――。

 

「ただ勝てば良い」

 

 かつて、世界を渡る剣士(ストレンジャー)の言葉だ。二刀など手段にすぎない。

 畢竟、ただ切れれば斬撃などどうでも良いのだ。肝要なのは勝つこと。

 片手になり分散した力は、光帯の火力で補う。

 加速する殺戮舞踏。振るわれる刃と光帯は、何より強く敵を切り飛ばしアダマンタイトの残骸に変えていく。

 

「もう良いだろう。出てきたらどうだ」

 

 どれ程かを狩ったあと声をあげる。

 骸骨兵の洪水が止まる。

 俺の直感は既に捉えている。

 

 虚空から女が現れる。妖艶な雰囲気を纏い、肉感的な身体つきをしているのがわかるが、黒い影に覆われた姿では意味を持たない。

 心眼が看過する。これでは、真価は発揮出来ないだろうと。

 

 だが。

 

 それでもなお、女は戦うのだ。戦わなければならぬゆえに。

 

「天昇せよ、我が守護星――鋼の恒星(ほむら)を掲げるがため」

 

 宣誓される起動序説。

 魔星特有の恒星を奉じる圧倒的なまでの愛欲が流れ出す。

 

「情欲と、愛欲と、繁殖と、豊穣よ

 海に浮かんだ真珠の泡へ、どうか血肉を宿して欲しい

 濡れた肢体に、滴る蜜は止め処なく。西風は魅了され、季節の女神は侍従となった。悶える雌雄の悦びで地表に愛が満ちていく」

 

 無数の機械蜂が女王蜂に従う眷属のごとく、女の周囲を鉄色の雲霞となって滞空する。

 極めて高い拡散性、操縦性、維持性の三性質を用いることで、数え切れないほど膨大な機蜂の群れを個々それぞれ、同時に操作しながら長時間展開する。

 

 かつて、この場所で繰り広げられた聖戦の残影が、新たなる英雄の登場に牙を剥く。

 

「さあ、若き王様。黄金の林檎をどうか私にくださいな

 褒美として、理想の媚肉からだを授けましょう。木馬の蹄に潰されようと、禁忌の果実を貪りながら褥の奥へと篭もりなさい」

 

 流れ出すは甘い蜜香。甘たるく胸焼けがするほどに心地よい官能に酔いしれろ。

 甘い夢を見れば良い。妖しき娼婦の腕の中で幼子の如く眠れ王よ。

 

「楽が束の間あるならば、そこは正しく桃源郷なのだから

 繋がり抱き合い交わって、甘い巣箱に溺れましょうや」

 

 魔星アフロディテ-No.θ=イヴ・アガペーの残影が、今ここに、その星を発現する。

 

超新星(Metalnova)――妖娼神殿、蕩ける愛の蜂房なれば(Hexagonal Venus Hive)

 

 蜂の群体が、攻撃を開始した。蜂の一機一機は大した攻撃力を持っていないが、膨大な数の暴威がそれを補う。

 先ほどと同じであるが、結果は先ほどとは異なっていた。倒しても倒しても溢れだす機械蜂。

 かつての残影なれど、残影であるがゆえに、また、その背後に鍛治がいるがゆえに、まさしく正しく蜂は彼女の愛蜜が如く無限に溢れだす。

 

 更に蜂の一機一機が神星鉄(オリハルコン)で出来ており、硬度は、アダマンタイト以上。ゆえに、それを切り払い、溶かし尽くすには数秒の差が生まれる。

 一秒でもあれば彼女には十分。新たなる機蜂が、溢れだし敵の攻撃(あい)を受け止める。

 

 まさしくは、数え切れない量の究極。十や百が減ったところで総体は揺るがない。

 蟲の群れは本能的におぞましく、相手にすれば戦意を保つことも難しい。

 なおかつ蜂らしく、攻撃を当てた相手に強力な麻痺毒を撃ち込む。

 その毒は星辰奏者(エスペラント)の強化された代謝機能を物ともせぬほど強力だ。

 

 痛みも快感に変える露蜂房(ハイブ)の毒は、蓄積されるごとに筋肉は重く弛緩し、中枢神経は痙攣する。

 そんな猛威にさらされてしまえばいかなる者であっても勝利することは不可能。

 

 そう、そのはずだった。

 

 斬戟が――。

 

 煌めいて――。

 

 全てを――。

 

 切り裂いた――。

 

「無限増殖するというのなら、それより早く斬れば良いだけだろう。

 出力が弱いなら上げれば良い。簡単なことだ」

 

 簡単なわけがない。

 筋肉と関節が、異常速連撃で悲鳴をあげている。圧倒的なまでの出力を捻出した結果、反動に耐えきれず内臓がいくつか破裂した。

 だが、そのおかげで危機的状況は脱した。あとは、本丸のみ。この距離ならば、一秒もいらない。

 

「眠れ露蜂房、心配はいらない必ず世界を救ってみせる」

 

 宣誓を告げて、その首を落とす。機蜂は主を失い戦いは終わった。

 

 俺は、それを見ていた。

 圧倒的なまでの勝利。救えぬはずの命を一つ確かに救った。

 だが、これを見ろ。散らばる残骸の山、山、山。もしこれが人間だったならばと思わずにはいられない。

 

 ――生きることは戦いだ

 ――多かれ少なかれ、おまえはこれからこれ以上の悲劇を見るだろう。

 

「ああ……だからこそ」

 

 強くなりたい。

 救いたい。

 誰かを護ることが出来るような英雄になりたい。

 

「そうだ、マシュ!」

「せん、ぱい……かはっ……すごかった、で、す、まるで」

「もういい喋るな!」

 

 駆け寄って彼女の状態を見る。

 

 創傷裂傷死傷殺傷、端的に言って満身創痍。

 まぎれもなく瀕死の姿だ。内臓も壊滅的とあればいよいよもって致命的というものだろう。いや、もはや致命的を通り越して死んでいるといってもいい。

 

 意識を保つことさえ限界に近いだろう。発狂寸前の激痛が身体を襲っているというのに、死ねないし発狂すらできない。

 それでももはや子犬にでもじゃれつかれようものならばばらばらに砕け散りそうなほど。苦痛だけが全身を襲っているようだった。

 

 俺は、無力だった。

 あれだけ敵を倒せても、たったひとりの少女すら救えない。

 

「……マシュ、その」

「せん、ぱい、手を握ってもらっても、構いません、か?」

「ああ、良いよ」

 

 彼女の手を握る。

 いつまでも、強く強く。

 

「――なあ、大和(カミ)様。頼むよ。この子を、助けてくれよ」

 

 まだ、何一つ伝えてない。

 まだ、何一つ返してない。

 だから、だから――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 敵に負けて、瓦礫に押し潰されそうになっていた時、願っていた。

 助けを。少女は、どうしても普通の女の子だったから。

 だから、願っていた。

 

 助けを。

 

「マシュ!!」

 

 そして、助けは、来た。

 すべての絶望(ヤミ)を駆逐した、まさしく英雄。

 その時、視界にうつる雄々しい背中を、マシュ・キリエライトは一生涯忘れないだろう。

 光り輝く刀を手にして、翻る外套、軍服に、一切の汚れはなく、踏みしめた軍靴の響きが、今、ここに、救世主の到来を告げた。

 

 そう、悲劇はこれで終わり。是より先に、悲劇(なげき)の出番などありはしない。

 荘厳な輝きとともに、今、この世界を彩る主演が舞台に上がったのだ。

 彼こそが勇者。

 彼こそが英雄。

 彼こそが、人類を救う者。

 心が喝采する。

 魂が震えている。

 彼こそが、まさしく、本物の英雄なのだと。

 

「すごい……」

 

 あとはもはや、言葉にするだけ無粋だった。

 英雄に負けなどありはしない。

 眼前で繰り広げられる英雄譚(ティタノマキア)の誕生を、マシュ・キリエライトは、ただただその最前列で見続けていた。

 

 それが、愛しい先輩であったがゆえに、抱く念は何よりも大きく。

 

「わたし、も――」

 

 何よりも強く、深く。

 

「私も、あなたのような――」

 

 鮮烈に、荘厳に、気高く。

 

「ううん、英雄(あなた)になりたい」

 

 宣誓は、なった。

 いつか、あなたと共に歩む為に。

 なにより、こんなわたしを助けに来てくれた英雄(あなた)を護りたいから。

 

 手を握って笑ってくれた、あの人の為に。

 

 ――ならば、力を貸そう

 

 さあ、産声を上げるがいい。

 カルデアが犯した罪業(つみ)が今、ここに実を結ぶ。

 共鳴する星辰体(アストラル)

 莫大なまでの輝きを以て、マシュ・キリエライトは、新生を果たす。

 

 その果てに何があろうとも、二人で歩いて行くために。

 

 創生せよ、天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星

 

 異界の空。

 極点の神殿にて集った光を今こそ、地上にもたらさんが為――。

 




ぐだ男のステータスは、あるサーヴァントの改変です。

160くらい詠唱考えるのつらい……。
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