シルヴァリオグランドオーダー   作:マリスビリ-・アニムスフィア

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第一特異点 邪竜百年戦争 オルレアン 6

 激化を続ける、特異点(フランス)での戦闘。

 その中心は紛れもなくここだった。

 滅亡剣(ダインスレイフ)英雄(ジークフリート)の戦いだろう。ともに英星として高水準の能力値に、格、星辰光(ほし)を有する二人の戦いは、もはや天変地異と変わらない。

 まさしく竜と英雄の戦いだった。

 

 天井知らずに上昇していく出力、圧力。暴力はブレーキの壊れた暴走特急が如く、どこまでもどこまでも加速して甚大な被害をまき散らしながら、まだだと叫んでいる。

 こんなものじゃないだろう。もっとだ、もっと見せろと、大欲まみれの滅亡剣(ダインスレイフ)はさらに熱を上げていく。

 

「――!!」

 

 そして、それにジークフリートが追従するものだから――。

 

「――あぁ、良いぞ。それでこそだ、愛しい英雄!」

 

 ダインスレイフもまた、覚醒するのだ。

 いたちごっこの覚醒合戦と言えばいいのだろうか。覚醒が起きるたびに不条理に、理不尽に、常識を破砕してどこまでも上昇していく出力。

 もはや、二人を中心に空間がゆがみ、世界に亀裂が刻まれるかと思われるほどだった。

 

 どこもかしこも酷いありさまであり、無事といえるのは、錬金術師と聖女くらいだろう。だが、彼らとて無事というには程遠い。

 ただ、単に、竜の魔女と聖女の問答が続いているから無事というだけ。

 

 乱痴気騒ぎはどこまでもどこまでも広がり続けている。この特異点の境界面に位置する村にすら届くほどであり、その余波で人が死んでいく。

 生き残るすべなどありはしない。連続する超新星の顕現、限界突破の危険度。もはや、常人には何が起きているのかすら、いいや、渦中の人間ですら、誰一人として何が起きているのか、把握などできなかった。

 

「――っ!」

 

 リツカは知らず喘ぐ。陸上で溺死しそうなほどの圧力。もはや、ここは宇宙空間。人間が、生きられる場所ではなく。

 輝ける超新星であったとして、この状況を乗り切ることは出来ないだろう。

 

 先の特異点で戦ったような暴走はない。なぜならば。

 

「あれはチュートリアルだからな」

 

 人知れず、呟くのはどこかでこれを観測しているマリスビリーだった。

 暴走(アレ)は、いわゆる戦闘方法を教える荒療治。誰だって武器を初めて持たされて、戦えと言われた戦えるわけもない。

 だからこそ、新暦で最も悲惨であったアドラーの事件を再現し、あの場の残影などを呼び寄せて、こちらで施した施術を起動して、戦い方を無理やりに学ばせたのだ。

 

 予想外なのは本当に英雄が出てきてしまった点であるが、それをリツカは乗り切った。ならばこそ、もう大丈夫。あのような邪道はもうない。

 

「私は、君の輝きがみたいんだ。見せてくれよ、我が愛しい英雄(リツカ)。君の雄々しい姿を、我が心に焼きつけたいのだ。だからこそ、君を選んだのだから」

 

 恍惚とした表情で、マリスビリーは、リツカに期待するのだ。

 さあ、見せてくれ、お前の輝き。人類の中で選んだ、最も素晴らしき(ふへんてきな)男よ。

 

 その願いに応えるかのように、リツカは、意思を滾らせる。

 

「ここでは死ねない。俺はまだ、死ねない!」

 

 意思を滾らせ、覚醒する。

 意志力の多寡が全てを決める。

 意志力さえあれば、不可能はなく、全ては乗り切れる。

 

「――とでも思っていたのか。ふざけるなよ、そう都合よく行くものか」

 

 獣の特徴を持っている女はそういった。

 その矢に宿す星殺しに天井など知ったことかと己の意志力に対して上昇を続ける威力。太陽神星(アポロン)月天女(アルテミス)の加護を受けた矢が、雨のように降り注ぐ。

 

 破滅を宿す恒星から降り注ぐ太陽風。どのように強力な星だろうと、アルテミスの加護の前には無力。覚醒、出力上昇。

 それがどうした、それはこちらも同じ。どれだけあげようが、こちらも同じく上昇するだけ。上昇する星殺しの出力。

 相手の星辰光に干渉し、無理やりにその防御をこじ開ける。そして、その威力を直接叩き込むのだ。

 

 回避不能。弾速および着弾範囲から逃れるには、他の英星を振り切る必要がある。

 

「まだだ――!」

 

 諦めない。たとえ何があろうとも生存を。マシュの無事を

 何より、まだ彼女も諦めていないから。覚醒。進化。

 二人の同調はより強く深まっていくが――。

 

 桁違いに上昇する出力。互いに相乗させて、強化する――。反動で内臓がいくつか破裂し、骨にひびが入るが、それでも今は、躱すことが最優先。

 

「逃がしません」

 

 その時、空間が、引っ張られた。

 

「な――!」

 

 十字架に拳を握った女が、空間を引っ張ったのだ。これこそが、神すら殺すとされるヤコブ神拳。その術理、その新暦版。

 感応したアストラルを、増強した筋力で、相手事引っ張った。

 言葉にすれば単純だが、いったいどれほどまでに彼女の能力値は増強されているのだと恐ろしい。

 

 そして、再び矢の範囲にぶち込まれた。そこに更なる追撃が走る。

 

「さあ、血を啜ろうぞ」

「その血を、流しなさい。私の為に」

 

 二体の英星が来る。

 槍を持った男と、拷問具を武器とする女。

 絶体絶命。

 

「いいや、まだだ」

「はい、まだ、諦めません!」

 

 この戦闘が始まってから十度目の覚醒が巻き起こった時。

 滅亡剣と英雄の覚醒進化が百を超えた時――。

 

 特異点に生じた軋轢、英星召喚という極晃星との接続を行っていたのをぶち壊して始まった戦闘だったゆえに、それは巻き起こった。

 本来ならば、接続不可能。

 依り代も、縁もない状態における上位次元との接続が成されてしまった。無論、相手側も狙っていたことではあるが、其れゆえに、上位次元の住人はここに限定的な召喚を成し遂げた。

 

「天墜せよ、我が守護星――鋼の冥星(ならく)で終滅させろ」

 

 それは、飢えた狼の遠吠えのようにも聞こえた。

 

 絶望(きぼう)を喰らうべく、常闇の底から、地獄の番犬が姿を現す。未熟な貸出品(レンタル)などではない、本家本元(オリジナル)がその牙を剥く。

 飛翔していた矢の全てが、死に絶えた――。

 

「冥王の御許に仕えて幾星霜。渇きと餓うえを亡者の血肉で潤しながら、尊き光の破滅を祈る傲岸不遜な畜生狼。

 呪詛を吐け。希望を喰らえ。嘆きの顎門(アギト)を軋きしらせろ。牙より垂れる猛毒がどうしようもなく切に切に、天の崩落を望むのだ。

 絢爛(けんらん)たる輝きなど、一切穢けがれてしまえばいいと」

 

 言葉にするのも馬鹿らしいほどの呪詛がまき散らされる。それがその場にあるだけで、あらゆる星が滅亡する破滅の呼び声。

 終末に狂い哭く冥狼の咆哮が戦場に轟いた。

 

 希望よ穢れろ。光り輝く者全てよ、我が汚濁(さけび)で汚してやろう。傲岸不遜な畜生王は、奈落に響く絶望の詩を謳う。 

 眩い光の破滅を願いが、駆動する。

 

「死に絶えろ、死に絶えろ、すべて残らず塵と化せ。

 慟哭(さけび)も涙も無明へ墜ちた。闇に響く竪琴だけが、我が唯一の拠所」

 

 もはやあらゆる英星がその存在を感じ取って、動きを止めていた。これは、まぎれもなく、英星にとって毒以外のなにものでもない。

 否、元来光側である英星は、この奈落の慟哭(さけび)を無視することなど不可能だ。なにせ、相性が悪いどころではない。

 これは紛れもなく英星の天敵。

 太陽系を放逐された終星(ならく)の眷属。なによりも先にこれを滅ぼさなければならないと行けないと感じた。

 

「ならばこそ、死界の底で今は眠れよ吟遊詩人。愛の骸と寄り添いながら。

 怨みの叫びよ、天に轟け。虚空の月へと吼えるのだ」

 

 地獄の底から、鎖を引きずり闇の冥狼が、今その身体を地上に這い出してきた。

 これこそが真なる星殺し。

 滅奏の詩。

 かつて吟遊詩人が奏でた悲哀の詩が鳴り響く。

 死界を統べる冥王(ハデス)の眷属が今ここに――。

 

超新星(Metalnova)――狂い哭け、呪わしき銀の冥狼よ(Howling Kerberos)

 

 万象を終滅させる反星辰光(アンチアステリズム)の化身が、ここに降臨した。

 

「――――」

「せん、ぱ、い――」

 

 よって、全てはその瞬間に終わったと言っていい。

 あらゆる全てが、消滅した。

 敵の攻撃も、こちらの攻撃も、戦闘もなにもかもが。

 噴出する闇の波動に降れたものは、例外なく全てが死に絶える。急激な環境変化、星辰体が満ちる世界からの滑落は、すさまじいまでの影響を生物に与える。

 木々は枯れ果て、わずかに残っていた草原は、何も残らぬ荒野と化した。小型の虫などは、全てが死に絶えた。

 それは当然、俺やマシュにも影響があり――。

 

「ぐ、がああああ――」

「ああああ――」

 

 間近で波動を浴びたために、もはや戦闘継続など不可能だった。

 死んでないだけ、マシだろとでも言いたげな闇の冥狼は、わずかにこちらをみただけで、すぐに視線は目の前のに集った英星に向けられる。

 どうやら敵ではないのか? しかし、それならばこちらにまで被害を出すのはどういうわけだ。まるで、先ほどまでの覚醒が気に入らないとでも言わんばかりのその態度は――。

 

「乱痴気騒ぎも大概にしろってんだ。世界を破滅させて、まだ足りないのか、おまえたち」

「おーおー、久しぶりじゃあねえか、冥狼(ケルベロス)さんよォ。遊びたかったんならさっさと出てくればいいものをよォ」

「また、おまえか。まったく、つくづく光ってやつはどうしようもない。だが、悪いな。今回も時間がない。加減なしだ――死ねよ、光の亡者ども」

 

 闇の冥狼の咆哮が轟く。振動する大気、次元、特異点の全て。何が起きるのか、わかってしまった。何をするのかわかってしまった。

 ほとばしる反粒子の波濤はとめどない。これより行われるのは、まぎれもない全力の能力行使(アンチ)。死に絶えろ、死に絶えろ、死に絶えろ。

 呪詛の念が、噴出し、光に泥を塗る。

 

 まずい、ここから離れなければ間違いなく、死ぬ――。

 この能力に敵味方の区別なんてつかない。つけられない。ただ全てを滅奏の詩で、破滅させてしまう。

 だが、どんなに意志力を出そうとも、身体は動かない。蓄積されたダメージ。反星辰体が身体を蝕んでいる。たただただ冷たく、冷え切っていく。

 

 ――まだだ。

 ――このようなところで、終われるはずがない。

 

「あ、く――」

 

 わかっている。そんなことはわかっている。わかっているが――。

 

 その時、ガラスの薔薇が咲き誇った――。

 

「――まったくもって優雅ではありません」

 

 戦場に響く新たな声。

 それは否定する声。

 

「貴方はそんなにも美しいのに。まったくよろしくないわ」

 

 銀悠冥狼の在り方も、戦い方も。

 思想も、主義も、あらゆる全てがよろしくない。

 それは確かに仕方のないことなのだろうと、わかってはいるのだろう。

 

「ああ、わかっているさ。俺が塵屑だってことくらい」

「もう、そういうところもです」

「えい、せい、ですか」

 

 もう一騎の英星がここに現れる。

 それは優雅な、赤い衣装に身を包んだ女性。

 

「ええ、そうよ。さあ、名乗りをあげましょう。嬉しいわ。これが正義の味方として、名乗りをあげるということなのね!」

 

 優雅に、とても楽しそうに彼女は笑顔を浮かべて硝子の馬車とともに現れた。

 

「それじゃあ、この方々は連れていくわね、狼さん」

「ああ、勝手にしろよ。ただし、逃げられるかは保証しないがな。我が奈落の叫びを聞け――闇黒星震(ダークネビュラ)全力発動(フルドライブ)

 

 あとは勝手に自己責任で助かってくれ。

 発生するごく小規模の大破壊(カタストロフ)。廃城を含む範囲を滅却する闇の波動が発生する。それはまさしく星辰滅奏の滅びの詩。

 遍く全てを否定するおぞましき冥界の瘴気が、全てを蹂躙して死の常闇へと攫って行く。

 

「あらあら、すごいわ! でも、あまりはしゃぐわけにもいかないわね。ここは戦場ですもの――お待たせしましたアマデウス。ウィーンのようにやっちゃって!」

「任せたまえ。死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)

 

 それは、世界の敵が殺した人々への鎮魂歌。

 この曲を聞いたものは、動けなくなる。敵の英星たちが動けなくなる。

 荘厳なる曲によって。

 

「それではごきげんよう皆さま。オ・ルヴォワール!」

 

 彼らが足止めをされている間に、俺たちは逃げ出した――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「さて――」

 

 全てを破壊したあとに、冥狼は立っている。既に体は崩壊を始めている。未だ、この特異点に立つには、あらゆる条件が足りていない。

 よって此度の干渉はここで終了だ。次の特異点があれば、今よりももっと干渉できるだろう。それもこれも、あの男の光の君主の企みのせいだ。

 

「どいつもこいつも生き汚い」

 

 だが、これで再起するまでの時間を稼げるだろう。

 本当ならば、あの英雄二人を先に進めてはならない。

 

「だが、世界を元通りにするには、奴らを進める必要がある。まったく、厄介なことをしてくれる」

 

 だが、それでもやるしかない。

 あの日向を、あの再会を護るためならば――。

 




というわけで、あまりにもとんちきがとんちきするので、闇の冥狼さんが出張してきました。

アタランテさんの性能がガチでシルヴァリオ世界だとヤバイ……
意思に従って無限上昇する出力、星殺し。

さすがアタランテさんだぜ。

そして、茨木ちゃんを殴り続けて、最短が5ターン。もっと短くしたい。

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