シルヴァリオグランドオーダー   作:マリスビリ-・アニムスフィア

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第一特異点 邪竜百年戦争 オルレアン 5

 英星の召喚が成立した直後に、廃城の床が爆ぜあがる。それは、ただの隆起ではない。さながら竜の鱗のように、いいや、それは咢門だ。

 竜が大口を開いて、こちらを呑み込まんとしている。

 

「マスター!!」

「――っ!」

 

 俺は動けない。このままでは――。

 死を予感するが――。

 その時、全てが、静止した。

 

 形を成す、星辰体。聖晶石(かく)と意思を受け取った英星が、ここに静止軌道(けいやく)を定める。

 彼こそは、偉大なりし錬金術師。

 荘厳なる恒星の最も近くを周回するがゆえの最優の魔星(ヘルメス)

 最高の英星が、今ここに舞い降りた。

 

 さあ、見るが良い、これこそが、伝令神たる男――の、

 

英星(サーヴァント)錬金術師(アルケミスト)ルシード・グランセニック。召喚に応じ参上した。しとどに濡れる青く可憐な一輪の薔薇――おお、それはまさに貴方のこと。

 瑞々しい未熟な果実よ、その白桃が如き美の極限で今日も私を狂わせるのか。幼き魔性の艶つやを前にこの身はもはや愛の奴隷。ゆえにどうかそのおみ足で、憐あわれな奴隷に甘美な罰をお与えください……ふみふみ、と」

 

 告白である。

 突き付けられた指とともに、異次元へぶっ飛んだ愛の言葉が添えられた。

 何を思って、そんな行動に出たのだろうか。いや、まったく理解できないが、最悪なことにこの告白を聞いてしまったら理解できてしまった。

 こいつ、幼女趣味(ロリコン)だ。

 

「…………」

「…………うん――チェンジで! 見ず知らずの君、君の愛には僕は応えられないんだ!」

「せ、せせせ、先輩!? ま、まさかこちらの方のことが!?」

「あ、いえ、あ、はい、こちらからも丁寧にお断りします、はい。あ、それとマシュ、大丈夫、俺は、女の子が大好きです。おっぱいとか好きです。はい」

 

 というか、なんだこれ……、え、さっきまでドシリアスな戦闘の真っ最中じゃなかったっけ。

 なんで、テケトンしてんの? おい、なんだこれ、何が起きてるんだ。てか、何を口走ってんだ俺。それは内に秘めておくことじゃないのか。

 

 などと思っていても、時間などは止まったりしていない。

 廃城の天井を砕き現れるダインスレイフ。

 さらに、もう一人のジャンヌ・ダルク。強欲竜を手繰る魔女。その配下として召喚された一騎当千の英星たち。

 現れる五騎の英星。

 状況は、最悪だった。

 

「――なんて、こと、まさか、まさかこんなことが起こるなんて。ねえ。お願い。誰か私の頭に水をかけてちょうだい。まずいの。やばいの。本気でおかしくなりそうなの」

 

 黒いジャンヌは、嗤う。嗤う。嗤う。

 なんて滑稽なのか。なんて、哀れなのか。

 

「ねえ、ジル! なにあれ、ばっかじゃないのアレ! ああ、ジルはいないんだった」

「――あなたは……あなたは、誰ですか!」

 

 問うは、ジャンヌ・ダルク。

 

「それはこちらの質問ですが……ジャンヌ・ダルクですよ、もう一人の私」

 

 あらゆる憎悪を燃やして、奈落で吠えたてる魔女だ。

 力、憎悪。それらがある閾値を超えた瞬間、それは猛毒に変わる。どのような聖者であろうとも、どれほど高潔な人間であろうとも、復讐の炎、怨嗟の呪縛は、いともたやすく人間性を剥奪し、復讐の鬼へとヒトを落とすのだ。

 そんな怪物となったヒトが何をするのか、そんなものひとつしかないだろう。

 

「ああ、なんて醜い。未だに、未だ何一つわからず聖人気取り、虫唾が走るわ。だから――全てを潰しなさい、強欲竜(ダインスレイフ)

 

 破壊を。

 あらゆる全ての滅亡を竜に願う。

 応えるは、強欲の竜にして滅亡剣(ファブニル・ダインスレイフ)

 

「言われるまでもねェ。それに、英星召喚、ああ、そうか。テメェがそうか」

 

 滅亡剣が、あらゆる暴虐を引き起こしていた暴竜は、雇い主の命を受けて、まさに動き出さんとしたその瞬間。その動きを止めて、視線を俺へと向ける。向けられる覇気は、まさしく竜そのものだ。

 暴虐が人の形をしているのだと言われても信じられるくらいの圧力。まさしく、その圧力は英星。

 

 しかし、今は、俺を見定めたいのか、篭手剣(ジャマダハル)を下げている。しかし、それが何の慰めになろうか。

 その圧力、この場で釣り合うのはジークフリートのみ。この場で暴れられた瞬間、あらゆる全てを破壊しつくすまで止まることのない大災害の開始だ。

 

「そっちのお嬢ちゃんも面白れェじゃねえの。これだから、人生ってのはやめられないなァ。そう思うだろう、なあ、カルデアの天星奏者(マスター)よォ」

「――マシュに手を出す気なら、容赦しないぞ」

「おーおー、良いねイイネェ、そういうのは好きだぜ。なぜなら、おまえの本気が伝わってくるからだ」

「本気、だと……?」

「ああそうさ。本気だ。本気になれば不可能なことなんてありはしない。そう思うだろう、オマエもなァ」

「あー、最悪だ。こいつ、どこぞの総統閣下と同類じゃあないか。あー、マスター、出来れば、僕としてはこのまま帰りたい(にげたい)んだけど、どうかな?」

「そうも言える状況じゃ、ないと思うぞ」

 

 どうあがいても、あの暴竜(ダインスレイフ)が逃がしてくれるはずもない。逃げようと背を向けた瞬間に終わる、それがわかってしまう。

 何より、五つの英星が、いまだに竜の魔女に率いられているのだ。アレらが一斉に襲ってきたのなら、こちらに勝ち目はない。

 だからこそ――。少しでも戦力がほしいがゆえに。

 

「貴方の力を貸してほしい」

「いや、止めてくれよ。僕が光の亡者(あんなの)に勝てるわけないだろう。僕は臆病者なんだ。あんな怖いのとは絶対に戦いたくない」

 

 そう、ルシード・グランセニックは、最高にして最優の魔星である。

 全資質オールA。空間がゆがむほどの出力を有し、星の封印すら可能とする星辰光(アステリズム)を有してはいるが、彼は戦闘者ではないのだ。

 出来ることならこんな戦闘(こと)はやりたくないし、今すぐにでも逃げたい(かえりたい)。これでロリのひとりでもいたならばまだ話は別になる可能性も無きにしも非ず。

 それがもし、愛しい死想恋歌であったのならば、彼はもう少しだけ意地を見せたかもしれないが。

 

 現状、この場において、戦う理由はないし、彼が戦ってもいいと思うほどの何かもない。見知らぬマスターには悪いが、呼び出したのが悪い。

 こういう場には、もっといいのがいたはずなのだ。

 

 色即是空(ストレイド)殺塵鬼(カーネイジ)を呼んで来い。

 戦闘を行える精神性と相応に強い星を持つ者ならば彼らが適任だ。錬金術師は、戦闘を行う者じゃない。伝令神として、ただ導くのみ。

 英雄譚を手繰る者ではなく、英雄譚になるべくして生み出されたものでもなく、ただどこにでもいる、誰かの為に立ち上がることができるだけの只人(だれか)に過ぎない。

 

 ゆえに、現状は何一つとして改善はしていない。

 

「――わかった。それじゃあ、戦わなくていい。その代わりにジャンヌさんを頼む。それくらいは、頼まれてくれ。マシュ、行くぞ」

「はい!」

 

 ――ここで終わるわけにはいかない。

 ――人類を救う。

 

「ああ、わかってる」

 

 そのためにアダマンタイトの剣を構える。彼の登場のおかげで、状況の流れは一度止まった。それゆえに、今は凪ぎ。

 ここからどうするかは、全てこれから次第。ならばこそ。

 

「行くぞ――」

「行くわよ――」

 

 手持ちの星を、いかに運行させるかが、勝負を分ける。

 その中で、自らも戦わなければならない。だが、

 

 ――是非もなし。

 ――我らの旅路が果てるのはここではないのだから。

 

 人よ、生きよ。

 どうか、生きよ。

 

 その祈りを胸に。

 

「マシュ、ジークフリートさん!」

「はい!」

「ああッ!」

 

 決死の戦いへと、赴くのだった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 決戦の火ぶたが切って落とされた。よって始まるは血で血を洗う殲滅戦に他ならない。

 互いに互いが全滅するまで、終わらない闘争だ。

 よって、彼女もまたその渦中にある。

 傷がまだ完全には癒えていないために、戦えないことに歯嚙みしながら、彼女は、ジャンヌ・ダルクは竜の魔女へと問いを投げかける。

 

 彼女は自分なのだ。だからこそ、どうしてこうなっているのかがわからない。

 

「何故、このようなことを――」

 

 ジャンヌ・ダルクは問う。

 ジャンヌ・ダルクは答える。

 

「なぜ、どうして、そんなものは明白でしょうに」

 

 憎いから。この国が、すべてが。

 

「人類種が存続する限り、この憎悪は収まらない」

 

 それは明確な人類廃滅の意思。死に絶えろ死に絶えろ。廃絶の意思が、波動となって広がってあらゆる全てを滅ぼしていくのだ。

 

 

「これこそが、死を迎えて成長し、新しい私になったジャンヌ・ダルクの救国方法。貴女には理解できないでしょうね。いつまでも聖人気取りで、憎しみも、喜びも、見ないフリをして、人間的成長をまったくしなくなったお綺麗な聖処女様にはね!」

「な……!? 貴女は、本当に、私なのですか……」

 

 その言葉に、黒ジャンヌは呆れたようだった。

 

「私は、どうしても。そう思えない」

 

 自分は、決して、何があろうとも、誰かを恨んだことなどないのだから。

 

 それは破綻している。人間的にもおかしい。

 誰かを恨まない人間などいない。それが、自分を殺した相手など最もたるものだろう。恨みがあって当然だ。もしかしたら、竜の魔女の方が、何よりも正しい在り方なのかもしれない。

 

 だが――。

 

 ジャンヌ・ダルクは、そうではない。

 

「貴女は、本当に、誰なのですか――」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 こちらの人数は二人。相手は五人。

 全てを潰すという、圧倒的なまでの覇気。

 ダインスレイフは、ジークフリートさんが抑えている。アレはマズイ。一度光の英雄を見たおかげで、アレの性質を直感する。

 

 アレは光に憧れた者。ゆえに、光の英雄が奉じる基本仕様を有している。

 つまり、覚醒と進化。

 敵が強ければ強いほど強くなる化け物スキルは、現段階でも駆動している。何より頭がおかしくなりそうなのは、その覚醒を、あの男は容易く息を吸うように行う点だ。

 本気だからできる。などというただの意志力で、息を吸うように覚醒し、それをこちらにも要求してくる。本気を出せ、本気を出せ、本気を出せ。

 

 どこまでも人間の力を信じる強欲竜とジークフリートの戦闘は、暴風雨がそこで生まれているかのようだった。卓越した技巧、超越した意志力による凌ぎあい。

 世界すら割りかねないほどの超重量の意志力を燃料に、戦闘は激化の一途をたどる。

 

 しかし、それは決して、こちらが楽になったというわけでは断じてない。

 残りの五騎の英星がこちらに向かってきている。

 

「――よろしい。では、私は血を戴こう」

「いけませんわ王様。私は、彼女の肉と血、そして腸を戴きたいのだもの」

「強欲であるな。では、魂はどちらが戴くか」

「魂など、要りません。名誉や誇りで、どうして美貌が保てましょうや」

「よろしい。では、魂は私が戴くとしよう」

 

 圧倒的なまでの覇気を放つ槍を持った男。滴る血の臭い、すさまじいまでの気配は竜かと見まがうほどであるが、確かに感じられる王気。

 彼こそは王。ただ一人、全てを串刺しにして領土を護りし者。

 

 もう一人は女。茨を思わせるドレスを纏い、仮面をつけた淑女。あらゆる全て、自らの下にあると言ってはばからない貴族性。

 旧暦の貴種としての青い血が形になったかのような女であり、しかして、そこにあるのはただ一つの嗜虐性のみ。あらゆる全ては自らの為にあるのだ。

 だからこそ、皆すべて悉く、血を流せ。

 

 まず来たのは、男。凄まじいまでの脚力の加速は音を置き去りにしたかのよう。人間であれば反応不可能の攻撃。

 

「――!!」

 

 それでも、反応する。相手は星辰体存在であれば、俺の星ならばその運行を手繰ることができる。しかし、敵にもマスターがいるのならば、操れない。

 だが――。

 

「視ることくらいは!!」

 

 星辰体を手繰るという俺の星の性質上、星辰体を視認できる。攻撃の全てが星辰体であるのならば、その出だしを見ることによって、軌道を読むことが可能。

 あとは直感と心眼、観察眼を総動員して躱す。

 

 だが、そこに獣の如き騎士が突っ込んでくる。手に持っているのは、どこにあったのかわからない木の棒。だが、星辰体と感応し、それはすさまじいまでの力を秘めていることがわかっている。

 獣の如く咆哮する漆黒の騎士の一撃は、重い。

 

「ぐっ――」

 

 受け止めることなんて到底できそうもない。かといって躱せば、振り下ろされた一撃によって砕けた床の破片が散弾のように俺に突き刺さる。

 

「先輩!」

「よそ見をしていていいのかしら!!」

 

 握り込まれた拳。振り上げられた十字架。放たれる二連撃が、マシュを盾ごとぶっ飛ばす。単純な肉体増強の星だ。

 聖職者の如き女は、ありえないほどの力で大気を殴り、空間をへこませる。

 これこそが、聖教国(カンタベリー)に脈々と受け継がれていると言われている拳法。遥か過去では神すらも殺すことができるというヤコブ神拳である。

 

「さあ、血を流しなさい――」

 

 虚空より現出する鋼鉄の処女(アイアンメイデン)。形成されたそれがマシュを呑み込まんとする。

 

「やらせるか!!」

 

 光帯放射にて、迎撃。更に星を切り替え(スイッチ)。二刀を流れるように持ち替えて、相手の挙動を読むことに注力する。

 敵の数が多い。相手の出だしを呼んで先んじていかなければ、この状況は一瞬で瓦解する。なにより――。

 

「くっ!!」

 

 足に突き刺さる矢。 

 どこかにいる射手(そげきしゅ)。足がちぎれ飛びそうなほどの威力の矢が、放たれている。出力をあげないのは、これが理由だ。

 確かに光帯を用いれば、当たらないし、当たっても燃え尽きることくらい可能。だが――。

 

「それだとマシュやジャンヌさんたちが危ない」

 

 あの矢もまた星辰光であるのならば、その軌道を読むことができる。射撃の瞬間を狙ってこちらの身を盾に使って他への被害を減らすつもりだったが。

 

「まだ上がるのか――!」

 

 弾速は、どこまでも高まり続けている。狙いは正確。まるで、どこまで見切れるのか試しているとでも言わんばかりだった。

 そうしなければ、大切な人を護れないぞとでも言わんばかりに。

 

「くそ――」

 

 痛みを気合いで耐えて、放たれる血の杭を躱す。

 

「く――」

 

 躱しきれずに流れる俺の血。

 

「貫くが良い」

 

 その血すらも、王たる男にとっては武器だった。流れ出したばかりの血が俺の腕を貫く。

 

「血は、武器だ」

 

 何よりも強い武器となる。

 串刺しに流れる血は、何よりも恐ろしいだろう。それが同胞の血ならば、格別だ。誰もが恐怖に身をすくませ、隙を晒す。

 

「我が人生を、喰らうが良い――」

 

 男の肉体が弾け、大量の血液が喰いとなって射出される。

 

「Aaaaaaaaaa――!」

 

 構わず漆黒の騎士が突っ込んでくる。

 

「く――」

 

 迎撃の為に、光帯へと星を切り替える。血を蒸発させ、漆黒の騎士の一撃を受け止めるが――。

 

「ぐッ――」

 

 見切りがなくなった瞬間に、胴を貫く矢。

 光帯で防御してなお、その矢は、目標を貫いた。

 

「これ――は――!」

 

 防御など意味をなさない。

 

「――天に坐す太陽神星よ、冥界に座す月天女よ、希う」

 

 獣の特徴を持った女の矢。

 二星の加護を得る。

 弓を弾き絞るほどに増大する出力。青空に輝く太陽神星(アポロン)の加護。

 矢を構成するあらゆる不浄を赦さぬ、月天女(アルテミス)の加護。

 

 光と闇が合わさった灰の矢が、あらゆる目標を穿つ。

 




というわけで、召喚されたのはルシード君でしたが、まあ、彼が早々簡単に戦ってくれるわけもなく。


あと、アタランテさんがFateとシルヴァリオの設定を合わせた結果、凄まじいことになった。
ちょっとこれを見てくれ。

訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)
ランク:B+
種別:対軍宝具
レンジ:2~50
最大捕捉:100人
弓や矢が宝具なのではなく、それらを触媒とした『弓に矢を番え、放つという術理』そのものが具現化した宝具。
“天穹の弓”で雲より高い天へと二本の矢を撃ち放ち、太陽神アポロンと月女神アルテミスへの加護を訴える。

ここだ。
アルテミスと、アポロン……。
月と太陽……
つまり、ヴェンデッタとカグツチの加護を同時使用とかいう、ちょっとアタランテさん、どこの主人公ですか? とかいうレベルのことになっているけど、まあいいよネ。
というわけで、どこまでも出力上昇する星殺しの矢とかいう、クソヤバイ代物が出来上がった。
まあ、これアポート能力なんですけど。借り受けてるだけですけど。


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