ということで、夏目の元へ向かうためにあの場から離れることが出来たので俺としては心底安心した。しかし、どうしてあんなにも嫌な感じがしたのか・・・。ってそうだ、眼鏡。
「祓い屋よ」
「何かな」
「これを」
懐から、俺が踏んで割ってしまった眼鏡を差し出す。大切な商売道具を割ってしまって本当に申し訳ない・・・。特に名取さんにとっては妖を見やすくするための物だし。
「落ちていたのを踏んで壊してしまった。済まなかったな。弁償はする」
「ないと思ったら落としてしまっていたのか。ありがとう。でも弁償って、どうやって?」
「私は普段人間界に溶け込んで居る故、一般通貨は持ち合わせている」
神様が口座に振り込んでくれているらしい生活費を削れば、だけどな。最初は、家には存在していた欠片すらないが両親が実はどこかに居て、定期的に仕送りをしてくれているのかなと思っていたのだが、そんなことはなかった。不思議に思って神様にメールしてみればそもそも両親は居ない・・・亡くなったことになっていて、定期的に仕送りをしてくれているのは神様だった。しかも双子の分を含めても贅沢ができるぐらいの金額を入れてくれている。
あまり甘え過ぎるのは良くないけど、高校卒業するまでは少し甘えさせてもらおう。あ、贅沢できるからと言って贅沢に使わないからな?貯金だ貯金。就職氷河期始まってからの金欠が一番怖いんだから。
「それなら、弁償の代わりに君が普段人間界でどうやって活動しているのか教えてもらえるかい」
「どうということはない。ただの学生だ。・・・夏目とは同級生だな」
「夏目を知ってるのはそれでか」
「あぁ」
知ってるのは元からだけど。
と、そうこう話しているうちに夏目の家に着いたみたいだ。白毛玉が頭の上でぴょんぴょん跳ねているので余程嬉しいのだろう。
俺も何だかんだ言って夏目の家を実際に見るのは初めてなので、なんとも感慨深い気分だ。夏目がやっと落ち着けた場所で、夏目が手放してはいけない場所。
見上げていた視線を下ろして玄関の扉を見れば、何か白いヒラヒラしたものが玄関の扉に挟まっている。紙人形だ。
「アレはお前のか」
「あぁ。夏目が家に帰ったら戻ってくるように術をかけていたんだ。この様子だとまだみたいだけど・・・」
「白毛玉は待つなんて甲斐性ないぞ」
「だろうね」
「あっち」
「っ"あ"!引っ張るなっての!」
ハゲになるでしょーが!次やったら頭の上から下ろすからなマジで!
「ここから先は白毛玉が分かるようだから案内させよう」
「分かった」
白毛玉が俺の髪の毛を引っ張り続けるのでとりあえずその方向に向かうことにする。これ、そのうち頭皮の感覚が麻痺して方向が分からなくなりそうだな。いやまぁ、それくらいなら白毛玉が怒るだけだからいいけどハゲにはなりたくねーなーーー!女子にハゲで不潔って言われてた高校の先生がマジで可哀想だった。そして自分も将来そうなる可能性があるのが辛い。オジサンはね・・・いくら清潔にしてても中途半端に禿げると不潔に見えてしまう悲しい生き物なんだぜ・・・。あっ辛い。
「マコ」
「うん?どうかしたか白毛玉」
「ちゃいろいの」
「あーはいはい、腹が減ったのね」
珍しく名前を呼んできたと思ったらこれだ・・・。
ため息を吐きながらカバンからウインナーを輪切りにしたものを詰めたタッパーを取り出す。しっかしこの、ちゃいろいのって言い方は何とかならないものか・・・。茶色と言えば、って連想でなんか妙なものを渡している気分になる。土や木、食事中にあまり口に出したくないものも含めて。
白毛玉には俺の頭の上でウインナーを食べてもらう訳にはいかないので手のひらに降りてきてもらう。ウェットティッシュで適当に拭くと一瞬嫌そうに身動ぎをしたが、我慢してくれなきゃ一生ウインナーやれねーからな。いや、一生はさすがに嘘だけど。
「そういえば、名取お前自分の式はどうしたんだ?」
「少し、調べたいことがあってね」
「別行動か。名取と夏目が手を組んだとかいう噂をしている小物も居たが、夏目には?」
「何も」
何も・・・ってことは、夏目の家の扉に紙人形を引っ掛けてたのは、ただ近くまで来たから会えたらいいなぐらいのってことか。とは言え、その調べたいこととやらにあの夏目が関わる可能性は大いにあると思うんだけど。なんたって主人公。トラブル吸引体質だからな。
「ところで君、マコっていうのか」
「ん、あぁ、篠田真。でマコ。人間として生活している時の渾名からな」
「そう呼んだ方がいいかい?」
「そうだな、妖で居る間はそうしてくれると助かる」
「分かったよ」
「ところで、ずっと気になってたんだが、妖が人間の世界で暮らしていることに関しては何も思うところはないのか?」
「人に危害を加えるような事がなければ、一応黙認しているよ」
なるほど、名取さんがカイを封印するために動いてたのは、カイが井戸に封印されている妖を外に出そうとしていたからなのか。
しかし、人間に化けれる妖は力が強いし、人間に危害を加えようとしたとして、それを止めるのは苦労しそうだなぁ。的場さんとかあっさりやってのけそうだけど、あの人容赦ないし。
考えてみれば確かに、名取さんは最初からニャンコ先生のことを退治しようとかはしてなかったような。良い大人だ・・・。今ここで名取さんに会って話ができたのはかなり幸運なことだったような気がする。俺の名取さんに対する解釈が間違っていることもわかったし。
でも的場さんにだけは絶対会いたくねぇけど。解釈違いとかしょうもなく怖ぇ。
「こっち」
「おう」
白毛玉の引っ張る方、空き地に歩を進めると、シロツメクサが咲く上に、白い毛の山に押しつぶされている足があった。
「なつめ」
「え、夏目!?」
俺の驚いた声に反応して、白い毛の塊がウゴウゴと動いて、中からかすかにくぐもった声で助けてくれと聞こえる。名取さんと一瞬目を見合わせてから、慌てて二人で山を崩すのだった。
ところで読者の皆さんがお仲間だということを期待しての質問なんですけど、夏目友人帳とか蟲師みたいな作品知りません?