友人帳の世界に転生しました!   作:まるくら

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一年・・・は経ってないから許してほしい。


第9!

ケセランパサランみたいな奴。もとい白毛玉にもらったガラス玉を加工しようとしたら工具がすり抜けたので、テーブルの上にコップを置いてガラス玉をそれに入れて反射を眺めていたら、もっとあると言って白毛玉がガラス玉の落ちている場所に案内してくれることになった。

という訳で、今日は双子を留守番に置いて妖怪モードだ。白毛玉が頭の上に乗っているせいでなんとも気が抜けるが。

 

「あっち」

「シ○イミ並に分からない説明やめろ」

 

と言うと、髪をちょちょいと引っ張られる。手があったのか。・・・まさか口で引っ張ってるとかないよな?

髪の毛を食われているのか否か、気になりはするが道案内に従うしかないので髪を引っ張られた方に歩き出す。しかし、これだけ小さいのに道を覚えてるのは何でなんだ。俺の匂いとか気にせずに話しかけに来たあたり目印を覚えとくとかそういう知能はなさそうな気がするんだが・・・妖には不思議が詰まってるな。

 

「ひと」

「え?」

 

どこに?木々に囲まれた森の中で視界は悪いし、風に煽られて葉が擦れ合う音はするが、誰かが歩いているような一切聞こえない。すぐ近くに人が居るような気配もないし・・・コイツ何で気づいたんだ?

 

「なぁ、その、人ってどこにいるんだ?」

「あっち」

 

またちょいちょいと髪の毛が引っ張られる。なんか痒くなってきたぞこれ・・・。

個人的には白毛玉もいるし、何かあった時が怖いので無視して目的地に進みたいんだが。そう考えて立ち止まっていると髪の毛を引っ張る力が若干強くなる。白毛玉の方は人がいる方向に行きたいらしい。仕方ないな。何かあっても俺はお前を助けられないから自分で頑張って逃げろよ。祓い屋見習いからすれば丁度いい餌食になりそうだし。髪を引っ張られた方向に進むと、しばらくして獣道に辿り着いた。

 

「あっち」

「この獣道を辿れってか」

 

獣道なんて、熊とかでたらどうしパキッ

パキ?

枝が折れたのとは違う無機質な音に、恐る恐る何かを踏んだ足を持ち上げる。

そこにはレンズが割れ、フレームの歪んだ眼鏡が落ちていた。

 

「あ"~やった」

 

眼鏡を持ち上げると、白毛玉が俺の頭から腕を伝って手に乗り、眼鏡の匂いを嗅ぎだした。

 

「おなじ」

「進んだ先にいる人の匂いと同じってことか?」

「そう」

 

・・・本当はチラッと顔を覗くだけで退散しようと思ってたのに。元は落としたのだろうとは思うが、それでも壊してしまっては流石に弁償しなくては。菓子折りとかって必要か?マズイな、氷河期を越えられなかったせいで身につかなかった社会性がここにでてる。

 

「いく」

「ちょっ、分かったから髪の毛を強く引っ張るな!」

 

地味に痛いからやめろ!禿げるわ!そもそもなんでコイツこんなに人に会いたがるんだ。匂いの元の人に思い入れでもあるのか?

・・・なんて、考えたところでどうしようもない話か。

せめてこの先に居る人間が祓い屋じゃありませんように!半妖になることで強い妖気を神様から貰ったものの、正直俺力の使い方とか分からないからな・・・。

あ、でも検索の能力使えば力の使い方多少は教えてもらえるのでは?半妖だから恐らくニャンコ先生みたいな力の使い方もできそうだし。なんというかこう、破ァ!!みたいな。

ダメだ、思考がギャグ路線に寄ってどうしても現実逃避みたくなってしまう。現実逃避なのは間違いないけれども、逃避しすぎるといざというとき反応できなくなるからここらでやめとこう。

 

「なぁ、その人とは知り合いなのか?」

「ちがう」

「違ぇのかよ!あ、知り合いの知り合い、とか?」

「そう」

「なるほど」

 

つまりは、その人経由で会いたい人が居るって訳だ。

できれば俺を巻き込んでほしくなかったんだけど、なんてため息をついていると、森をぬけて少し開けた場所に出た。

と同時に、全身を謎の寒気が襲ってくる。悪寒ってやつだ。全身に鳥肌が立った事を触っていなくても分かってしまう。

 

「っ戻るぞ!」

「だめ」

「はぁ!?」

 

駄目って何で!俺は一刻も早くこの場所から逃げた

 

「おや?」

「ぴっ」

 

思わず情けない悲鳴を上げてしまったが、待てよ?この透き通ったミステリアスな雰囲気纏ったその声は。チリンという鈴の音と共に気配が一つ増える。恐る恐るそちらの方に振り返れば。

 

「祓い屋の、名取か」

 

今、本当に今は会いたくなかった・・・!信用は出来る人だと思う。でも名取さんが甘いのは恐らく夏目に関することだけではないだろうか。夏目が居ないこの場で、俺のように力の強い者に会って、何もされずに帰れればいいんだが。

せめて的場さんじゃなかったことに安心するべきかな・・・。

そう迷いつつも、名取さんからその隣に視線を移す。そこには柊が居る。柊が居るということは、夏目は既に名取さんに出会っているということだ。

彼の優しさに、理解者が居るのなら、良かった。

 

「君は、どうしてここに?」

「・・・私はコイツの付き合いで来ただけだ」

 

そう言って白毛玉を見せるように手のひらに乗せる。

 

「お前が会いたかった人ってのはこの男か?」

「そう」

「会いたかった?」

「どうやら、お前の知り合いに用があるらしい。橋渡しをしろということだろうさ」

 

名取さんに真っ直ぐ見られることがこんなにも怖いとは。的場さんみたいに見境のない人じゃなくて良かった・・・いや本当に。

しかし、さっきから悪寒がどうしても消えない。名取さんが現れたことでもしかしてここに陣でも隠しているのではと思ったが、どうやら違うらしい。悪寒は先程から増すばかりでちっともおさまらない。

 

「用、というのは?」

「なつめ」

「夏目に?」

「白毛玉ストップだ」

 

慌てて白毛玉の口を塞いで名取さんに背を向ける。まさかこいつの口から夏目の名前が出てくるなんて思わなかったんだが!しかも名取さんの前で!

なんというか、この件に名取さんが関わることが確定したような気分だ。

一先ず状況が分からないことにはこの先の話をコイツに任せたくないという思いがある。現時点で名取さんが夏目の友人帳のことを知らない場合、こいつの口から友人帳関連の話をさせるのは不味い。

 

「白毛玉、お前何で夏目に会いたいんだ?」

「なまえ」

「!友人帳に名前があるのか・・・。いいか白毛玉。お前の協力は俺もしてやるが、その代わりにあの祓い屋の人に友人帳のことは絶対に話すな。いいな?」

「わかった」

 

名取さん達に聞こえないくらいの小さな声で話して、向き直る。

 

「どうかしたのかな?」

「すまない、私もコイツがどうしたいのか詳細を知らなかったので今再確認していたところだ。・・・折り入って頼みがある。コイツを、夏目に引き合わせてはもらえないだろうか」

「素直に協力すると思うかい?」

「分かってる。アンタがコイツと夏目を引き合せることで、コイツが夏目に良くないことをするかも知れないのは、イ"ッテ!」

 

噛みやがったコイツ!

 

「噛むな馬鹿!良くないことをするってとこに腹立ててんだろうが、仕方ないんだよ!これはお前自身がどう考えているかじゃなくて信用の問題なんだ!不満なのは分かるけど一旦落ち着け」

「ふふ、あはははは!なんとも、気が抜けるね。いいよ。どうやら悪い妖ではないようだし、協力しよう」

「本当か!」

「ただし、夏目に危害を加えるようなことがあれば即刻退治させてもらう」

「あぁ。私も、コイツも、お前の友人に決して害を与えないことを約束しよう」

 

最初から危害を加えるつもりなんてないが、ひとまずはそれを条件として、お互いに握手を交わすのだった。


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