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「な・ぜ・だ!」
妖として夏目との好調と言える邂逅を果たした俺は人間の方でorzっていた。
「何故夏目とエンカウントしないのか・・・!」
そう、あれから妖としても人間としても、どうしてか夏目に会うことがないのである。正確に言えば学校で見かけたりはするのだが、特に用もないし知り合いでもないのにこちらから会いに行くことができない。妖の方ではそもそも見かけない。
イベント来いやぁ!と叫びたくなる衝動を抑えてひとまず普通に座る。
ちなみに俺が今いるのは裏庭的なところだ。他に人が居るところでこんなことをしているわけではないので安心してほしい。
まぁ、ぼっち飯なんだけど。
「玉子焼きがしょっぱいぜ・・・」
寂しさで泣いちゃった涙でしょっぱいとかそういうことではなく、単純に朝弁当を作ってくるときに砂糖と塩を間違えた。高校の時から弁当を自分で作り続けてきたこの俺がこんな初歩的なミスをするとは・・・。
先に処理してしまおう。
「ぎゃっ」
「ぎゃっ?」
箸の先を見れば、なんだかよく分からない毛玉と目が合った。見た目的にはケセランパサランみを感じるのに妙に薄汚れているから違うような気がしてくる。ていうか多分違う。
「何してんの、お前」
「うまそう」
「・・・飯をくれてやるのはかまわないんだが、食事というのにはルールがある。何かわかるか?」
「しらん」
「食べる前にまず手を洗うことだ。洗ってこい」
お前さっき地面に手ついてたじゃんとかそういうツッコミはいらない。何故なら俺にはお手拭きがあったから!あらかじめ準備しておいたのだよワトソン君。ホームズ多分こんなこと言わねーな。
とりあえず玉子焼きだけ食ってしまおう。
「あらった」
「いや、全然汚いんだけど」
何が洗っただ何が。仕方ないので俺のお手拭きで毛玉の体を拭いてやる。お手拭きの布が茶色で良かった。白とかだと流石に抵抗あるしな。
「ほれ綺麗になったぜ」
毛色はどうやら白であったようで、さらにケセランパサランみが増した。
「きいろない」
お手拭きをジップロックに入れていると弁当箱を覗き込んでいた毛玉がそう呟いた。もしやこいつ・・・。
「玉子焼きが食いたかったのか」
コクリと頷いた。まさにその通りだったらしい。不思議と申し訳なさがないのはコイツが無愛想だからなのか玉子焼きが失敗作だったからなのか。
「あれ失敗作でどうせ美味くないから明日また作って来てやるよ。他に食いたいのあるか?」
「ちゃいろいのとこれ」
「ウインナーと味噌汁な。明日また同じ時間に来いよ」
「わかった」
毛玉はてーんてーんと跳ねながら去っていった。アイツあんな移動の仕方するから汚れるんだな。明日また拭いてやらないといけないやつか・・・。
***
妖に時間を指定したところで時計がないから分からないんじゃないかと今朝思いついた不安は、無事というかなんというか、無駄な心配に終わった。
「うまいの」
「早く食わせろと。先にお体をお拭きいたしますよお客様」
毛玉の体を拭く用に持ってきたおしぼりで汚れを拭き取っていく。昨日の今日でだいぶ汚れたな。
「うし、もう食っていいぞ」
毛玉が食べるようにと蓋に乗せて分けてやった玉子焼きに毛玉が飛びつく。余程食いたかったらしい。
味噌汁を飲むのには少し苦労していたようだったが、俺が弁当を食べ終わる頃には毛玉も食い終わっていた。食べる前とあととで体積が全く変わっていないのは何でなんだろう。
「うまい」
「そりゃどーも」
「またきいろいの」
「食いたいならここじゃなくて俺の家に来ることだな。匂いとかで場所分かるだろ?」
「わかった」
どうやら俺はケセランパサランもどきの餌付けに成功したらしい。幸福なんてのは訪れやしないだろうが、妖とはいえ人に感謝されることってのはいいもんだ。
「おれい」
そう言って毛玉はペっと何かを吐き出した。
「ガラス玉?」
パステルカラーが混ざったような綺麗な色だ。妖からもらったものだから人の目には映らないのかもしれないが、小さいから少し加工してストラップとして鞄につけてみてもいいかもしれない。
「ありがたく貰っとく。じゃあ、またな」
またてーんてーんと跳ねながら去っていったが、その様子は昨日とはうってかわって心なしかテンションが上がっているように見える。
結局、その日家に帰ると毛玉は双子とかなり仲良くなっていた。飯を貰いに来るどころか、このままだとコイツ家に住みつくな。別にいいけども。