ロクでなし魔術講師と死神魔術師   作:またたび猫

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皆さんお久しぶりです‼︎ 新たな話を書きました‼︎
応援ありがとうございます‼︎


今回のお話は自分なりにはかなりの重要なお話だと
思っています‼︎


『感想』や『評価』に『しおり』、そして
『お気に入り』などをよろしくお願いします‼︎
皆さんの応援などよろしくお願いします‼︎

読んで貰えたらありがとうございます‼︎



(早く評価が伸びて欲しい‼︎)
【豆腐メンタル作者の心の声】



逃れられぬ罪と業

アルザーノ帝国魔術学院では、魔術競技祭開催前

の一週間は、競技祭に向けての練習期間となって

いる。具体的にはその期間の全ての授業が三コマ

——午前の一、二限目と午後の三限目——で

切り上げられ、放課後は担当講師の監督の下、

魔術の練習をしてよいことになっている。

 

 

「はぁ……」

 

 

 放課後。針葉樹が囲み、敷き詰められた芝生が

広がる学院中庭にて。グレンは適当な木に背中を

預けて座り込み、自分のクラスの生徒達が競技祭に

向けて魔術の練習を行っているさまを、

疲れたような遠目で眺めていた。

 

 

呪文を唱え、空を飛ぶ練習をしている生徒がいる。

念動系の遠隔操作魔術でキャッチボールをしている

生徒達がいる。

 

 

攻性呪文(アサルト・スペル)を唱え、植樹に

向かって電光を撃つ練習をしている生徒がいる。

 

 

中庭の向こう側では、システィーナとルミアが

ベンチに腰かけて呪文書を広げ、難しい顔で

羊皮紙に何かを書き連ねており、その周りを何人

かの生徒達が、あれこれ相談しながら取り囲んで

いる。彼女達は競技用の魔術式の調整をしている

らしい。グレンのクラス一同は今、一週間後の

競技祭に向けて静かに盛り上がっていた。

 

 

 

「まったく熱心なこった……人の気も

知らないで……」

 

 

昨日までの熱血ぶりとは一転、今日のグレンは

テンション駄々下がりだった。なにしろ

見てしまったのだ。他のクラスのそうそうたる

参加メンバーを。

 

 

 

召喚【コール・ファミリア】の呪文でネズミの

使い魔を召喚し、偵察に向かわせたのだが、

他のクラスは案の定、学年でも優秀さで有名な

生徒達が、複数の競技に何度も繰り返し出て

くるようだ。各々尖った部分で対抗して

いるので、グレンのクラスの生徒達がまったく

何もできずに……ということはないだろうが、

そもそも地力が違う。どうひいき目にみても

勝つ見込みは薄い。グレンの餓死の運命は、

もはや冗談抜きで確定になりつつあった。

 

 

 

「ちくしょう、ずるいだろ……優秀な奴ばっか使う

なんて、どいつもこいつも勝ちゃそれでいいって

言うのかよッ!?勝利よりも大切なものって

あるだろ、くそぅ!」

 

 

 

自分も参加メンバーを成績上位者で固めようと

思った事実は、すでに忘却の園だった。

 

 

 

「ちぃ……今からでも無理矢理、編成を

変えるか? 担当講師権限で……」

 

 

今もそんな悪魔の囁きが胸の奥底から

聞こえてくる。だが、グレンはふと、生徒達を

見る。皆、楽しそうだった。昨日までは気後れ

して尻込みしていたようだが、皆、なんだかんだ

で少しでもいいから競技祭に参加したかったの

だろう。生徒達は生き生きとしながら、自分が

出場する魔術競技の練習をしていた。そんな光景

が、グレンの古い記憶の片隅を微かに突き、ふと、

思い出す。

 

 

 

「魔術競技祭……あぁ、そう言えば……俺が

この学院の生徒だった時も……そんなんあった

ような気がするな……」

 

 

 

生徒達が楽しそうに練習する光景を見てグレンは

ようやく思い出した。この学院に魔術競技祭など

という伝統行事があったことを、今の今まで本当に

すっかり忘れていたのだ。

 

 

「ま、無理もねーか。俺、この学院の卒業後、

とんでもなく濃い三年間を過ごしてたわけだし……

なにより競技祭に参加したこと、

一回もねーしな……」

 

 

 

今から数年前、この学院の生徒だった頃の

自分に思いを馳せる。

 

 

その頃はすでに、魔術競技祭に参加できるか

否かは成績次第という悪しき慣例が出来上がり

つつあった。当時は平均以下の生徒が切られる

だけだったが、平均以下の生徒だったグレンは

当然、選抜から弾かれた。今思えば、同学年次

の生徒達と比べ、三、四歳も年下だったグレンに

対する仲間外れみたいな感情もあったのかも

しれない。だから、いつも競技祭で楽しそうに

盛り上がるクラスの生徒達を、グレンは一人、

遠巻きに眺めていた。それは、ひどくつまらなくて

寂しい記憶。そんなことを毎年繰り返せば三年目

あたりには、競技祭に対する興味すら欠片も

失せる。

 

 

 

そんな暗い思い出、忘れて当然と言えば当然で

あった。今回、担当講師として競技祭のクラス監督

をすることにならなければ、一生思い出すことも

なかっただろう。

 

 

「ちっ……嫌なこと、思い出しちまったぜ……」

 

 

 

毒突きながら、再び自分のクラスの生徒達が

一生懸命練習している様子に目を向ける。

 

 

すると

 

 

「何がですか?」

 

 

「うわっ!?」

 

 

背後のベンチからノワールが出てきてグレンに

声を掛けるとグレンはノワールの声に驚いて

ベンチから落ちて尻餅をついていた。

 

 

 

「イテテ……誰だよ…って、

ノワールお前かよ? 全く…脅かすなよ…

セリカだと思ったじゃねぇか…」

 

 

「全くはこっちですよ…グレン先生…もっと教師

らしい振る舞いをしてくださいよ……せっかく、

非常勤講師から正式な講師になれたんですから

少しは講師らしい振る舞いや行動をしてみたら

どうですか…?」

 

 

ノワールは呆れた表情を浮かべてグレンに

そう言うとグレンはやる気が無さそうな表情で

 

 

「だって…そんなことを言われてもさぁ…?

俺だって頑張っているんだから少しぐらいいい

じゃねぇか、別に」

 

 

グレンは堂々としたウザい表情を浮かべてノワール

にそう言うとノワールはグレンのウザい表情を見て

イラッとしたのか

 

 

「ウザいです…かなりのうざうざで鬱陶しいです…

そしてキモいです。グレン先生…」

 

 

 

ノワールはグレンのドヤ顔にイラッとしたのか

グレンにそう言った後、無表情でグレンの脇腹を

蹴り上げると

 

 

 

「痛ってーー‼︎ノワール‼︎ テメェ、何しやがる‼︎

更に今の台詞流石のグレン大先生様でも傷つくぞ⁉︎

つうか…今日のお前、なんか俺に対する一言一言や

扱い、態度、全てが酷いぞ‼︎ 謝れ‼︎ 今すぐ謝れ‼︎

謝罪を要求する‼︎」

 

 

 

グレンは脇腹を抑えて悶えながらノワールに

そう言うとノワールはそんなグレンに視線を向ける

が表情を全く変えずに

 

 

「スミマセン…グレンセンセイ…ワルギハマッタク

ナカッタノデスヨ…ワルギハ…」

 

 

 

「お前、今の言葉には一ミリも心にも思って

ねぇだろ‼︎」

 

 

「グレン先生、酷い‼︎僕がこんなにも謝って

謝罪しているのに…これでも足りないなんて…」

 

 

ノワールはシクシクと泣いているとグレンは

 

 

「沢山の人がいる前で嘘泣きをするのは止めろ‼︎」

 

 

 

グレンは額に汗をかきながら必死になって

ノワールにそう言うと

 

 

 

「そこは雰囲気を察して乗って下さいよ…全く…

これだから空気を読めないグレン先生は……」

 

 

 

ノワールはやれやれとした表情をしてグレンに

言うとグレンは

 

 

 

「おい‼︎ 今の何処に読む雰囲気があったんだよ⁉︎

あのままだったら確実に俺がお前を虐めてる絵に

なっちまうだろうが‼︎」

 

 

するとノワールはきょとんとした表情をして

頭を傾げながら

 

 

「えっ?そのつもりでやっていたのですが?

それに、運良ければいつものお決まりの

アルフォネア教授の【究極の攻性呪文】の

『イクスティクション・レイ』をそこのダメ人間

に全力を尽くした一発を景気良くぶっ放して

もらえないかな…?と思っただけですよ? 」

 

 

「よし‼︎そこを動くなよ‼︎ 今、触媒の石は

丁度一つあるから望み通りテメェに目掛けて

ぶち込んでやるよ‼︎」

 

 

 

グレンは不気味な笑みを浮かべながら触媒の石を

【ピン】っと弾いて右手でキャッチして触媒の石

を構えてノワールに向いていた。

 

 

 

「う、嘘ですよね…?

この学院の教師であるグレン先生が生徒に

向かってアルフォネア教授の最大級であり、

人間の分子を破壊する【究極の攻性呪文】の

『イクスティクション・レイ』をぶち込む

なんて…いつもの冗談ですよね…?」

 

 

 

「ほーう、それが最後の遺言か? 面白い

遺言だな…なぁ、ノワール君? なぁ〜に、

大丈夫だ、苦しまないように一瞬で塵にして

やるよ…良かったな?」

 

 

グレンは悪人の様な邪悪な笑みを浮かべながら

ノワールにそう言うとノワールは一歩、また一歩と

後ずさりながら額に汗をかきながら必死になって

グレンに言い訳をしていた。

 

 

「お、面白くないですし、嫌ですよ‼︎

すみません‼︎本当にすみませんでした‼︎

少し調子に乗ってました‼︎

差し入れあげますので許してください‼︎」

 

 

「⁉︎」

 

 

 

ノワールが必死になって慌ててグレンに

そう言うと

 

 

 

「…今、なんと言ったのかな…?

ノワール君、聞き取れなかったよ…

もう一度言ってもらえるかな…?」

 

 

グレンは額に大量の汗をかきながらノワールに

恐る恐ると聞き直すと

 

 

「だから、差し入れを持って来ましたので

どうか…「なーんだ水臭いじゃあないか‼︎

君と僕の中じゃないか‼︎流石ノワール君‼︎

俺はずっと前からお前を信じていたぜ‼︎」」

 

 

 

(えー…)

 

 

ノワールは心の中でそう呟くとグレンはノワール

が用意したホットドッグを必死になって貪りながら

ホットドッグの味の話しを始める。

 

 

「う、美味い‼︎ 美味すぎる‼︎ このレタスや

ブルスト、トマトなどの具材が混ざり合って絶妙な

素晴らしいハーモニーを奏でている‼︎」

 

 

「…はぁ〜……ったく、この手のひら返し…

こりゃ無理だわ…無理無理…絶対に無いわ…」

 

 

ノワールはグレンの情け無い手のひら返しの行動

や味の実況をしている大人の姿を見て溜息を

つきながら呆れていると

 

 

「んで、一体、俺に何の用だ?

俺に用があって来たんだろ?」

 

 

 

グレンがノワールがいくつか用意した複数の

ホットドッグを手に取ってムシャムシャと

貪って頬に頬張りながらノワールにそう言うと

 

 

「…流石グレン先生…ですね…

では、グレン先生…一応聞きますけど…

先程、言っていた魔術競技祭は

勝てそうなんですか?」

 

 

「当然、無理だな‼︎」

 

 

グレンは両手を腰に当ててノワールの前で

堂々と威張りながらふんぞり返っていた。

 

 

「グレン先生…よくそんな事を自慢気に堂々と

威張って言えますね…?まぁ、僕も薄々そんな気が

してましたから…」

 

 

「流石‼︎ 俺の理解者だな‼︎」

 

 

「…全く全然嬉しくない……」

 

 

グレンの言葉にムスッとしたノワールは

表情を浮かべながらグレンを見て言うと

 

 

 

「そもそもさァ、白猫が悪いんだぜ?

それに勝手にあんな事を言ったんだぞ?」

 

 

 

グレンが反省するどころかむしろドヤ顔で

そう言うとノワールは呆れた表情で

 

 

「元の発端であるグレン先生、あなたがそれを

自慢気に言うなよ…って言うか今回の件については

自業自得だろ?」

 

 

 

グレン(ゴミ)に憐れみと蔑んだ目の視線を

向けて見ていると

 

 

グレンはベンチで座り込んで考え込んでいた。

 

 

恐らく魔術競技祭の事だと思う。

そして多分、勝つのは無理だろう。

普通に一週間でどうこうなるとは、

とても思えない。

 

 

思えないが——

 

 

練習する生徒達を、隅っこの方で寂しそうに

眺めている生徒はノワール以外、誰一人もいない。

 

 

「はぁ……やれやれ」

 

 

グレンはがりがりと頭を掻きながら、

立ち上がった。

 

 

「……ま、いっか」

 

 

誰へともなく呟くその顔は、

どこかさっぱりしたものだった。

 

 

 

「ともあれ、当面の食料はなんとか調達を

しないとな。特別賞与とかもう期待してねーが、

餓死はごめんだぜ。今、ノワールが作ってくれた

ホットドッグを恵んで貰ったとはいえ給料日まで

持つはずないし…この学院、シロッテの木とか

生えてなかったかな……あれの小枝がありゃ、

次の給料日くらいまでならなんとか……」

 

 

 

「グレン先生…何を言ってるんですか…?」

 

 

ノワールはグレンの言葉に首を傾げて呆れながら

溜息をついていた。

 

 

そもそもグレンは昨日から水だけで

何も食べていない。仕方なく、グレンが学院内の

森などで食べられる野草や枝を探しに行こうと

した、その時、ノワールが用意したホットドッグ

で今日はなんとか飢えを凌ぐ事は出来たが明日を

生き抜く為に探しに行こうと考えていた。

 

 

グレンがそう考えているとノワールは

中庭の向こう側のルミアとシスティを見て

 

 

「グレン先生……

貴方はあの二人を見てどう思いますか?」

 

 

「ん? あぁ…まぁ…あんな事件があったのにも

関わらず魔術を神聖する所はちょっと困っては

いる…だが、あいつらの笑顔を見ていたら

魔術競技祭を勝たせてやりたいと思ちゃうん

だよな…」

 

 

グレンがシスティとルミアを見てノワールに

そう言うとノワールはそんなグレンの言葉を

聞いた瞬間、顔を下の地面に俯いて

 

 

「愚者…貴様は一体、どうして…魔術の何処に

そんな風に思えるんだよ…」

 

 

ノワール無意識のうちに聞こえない位の小声で

呟いて頭の中でいくら考えても頭をひねっても

それらしい答えは全く浮かばなかった。

 

 

そしてただ、ノワールが考えられたのは『魔術』

や『魔術師達』がいるこの世界を憎む事しか

考えられなかった。

 

 

「おい、ノワール? 何か言ったか…?

って、おいおい大丈夫かよ‼︎

手から血が出てるじゃねぇか‼︎」

 

 

 

拳を強く握りしめてポタポタと血の雫が地面に

こぼれ落ちてグレンが心配していると

 

 

「さっきから勝手なことばかり……

いい加減にしろよ、お前ら!」

 

 

 

突然、激しい怒声が耳に飛び込んでくる。

 

 

「……なんだ?」

 

 

グレンが面倒臭そうにその方向へ目を向けると、

どうやらグレンのクラスの生徒達と他のクラスの

生徒達の何人かが、中庭の隅で言い争っている

らしかった。

 

 

「……おーい、何があったんだ?」

 

 

放っておくわけにもいかず、ため息混じりに

グレンがその場所へ向かった。

 

 

件の生徒達は、今まさに相手へ掴みかからん

ばかりの一触即発の雰囲気を放っていた。

 

 

「あ、先生!? こいつら、後からやってきた

くせに勝手なことばかり言って——」

 

 

グレンのクラスの生徒、カッシュが興奮気味に

まくし立てる。

 

 

「うるさい! お前ら二組の連中、大勢で

ごちゃごちゃ群れて目障りなんだよ!

これから俺達が練習するんだから、

どっか行けよ!」

 

 

カッシュに相対する他クラスの男子生徒も、

やはり興奮気味に言葉を吐き捨てる。

 

 

「なんだと——ッ!?」

 

 

「はいはい、ストップ」

 

 

グレンは取っ組み合いを始めたカッシュと

男子生徒の首根っこを掴んで、左右へ強引に

引き剥がした。

 

 

「あがが……く、首が……痛たた……」

 

 

「うおお……い、息が……く、苦し……」

 

 

「ったく、くっだらねーことで喧嘩

してんじゃねーよ……お前ら沸点低過ぎだろ」

 

 

生徒達が大人しくなったのを確認して、

グレンが手を離す。

 

 

首を解放された二人がむせながら地面に

這いつくばった。

 

 

「えーと? そっちのお前ら……その襟章は

一組の連中だな。お前らも今から練習か?」

 

 

「え……あ、はい。そうです……

その……ハーレイ先生の指示で場所を……」

 

 

比較的大柄な生徒二人を、腕力だけであっさり

制したグレンの姿に萎縮してしまったらしい。

一組の生徒達は先ほどまでの威勢を引っ込め、

殊勝に応じる。

 

 

「ふーん、そう……」

 

 

がりがりと頭を掻きながら、周囲を見回す。

 

 

「うーん、まぁ、確かに俺ら、場所取り

過ぎか……悪かったな。全体的にもちっと

端に寄らせるからさ、それで手打ちに

してくんね?」

 

 

「ば、場所を開けてくれるなら、それで……」

 

 

なんとなく丸く収まりそうな雰囲気に、

様子を見守っていた生徒達が安堵するが——

 

 

「何をしている、クライス! さっさと

場所を取っておけと言ったろう! 

まだ空かないのか!?」

 

 

怒鳴り声と共に二十代半ばの男がやってくる。

学院の講師職の証である梟の紋章が入ったローブ

を羽織り、眼鏡をかけた神経質そうな男だ。

その男の名は——

 

 

「あ、ユーレイ先輩、ちーっす」

 

 

 

「ハーレイだ! ハーレイ! 

ユーレイでもハーレムでもないッ! 

ハーレイ=アストレイだッ⁉︎ 

グレン=レーダス、貴様、何度、人の名前を

間違えれば気が済むのだ!? てか、貴様、

私の名前を覚える気、全ッ然! ないだろッ⁉︎」

 

 

二人の間で、このやりとりはもうすっかり

お馴染みらしい。

 

 

気楽に挨拶したグレンに、学院の講師ハーレイは

もの凄い形相で詰め寄った。

 

 

 

「……で? ええと、ハー……なんとか先輩の

クラスも今から競技祭の練習っすか?」

 

 

「……貴様、そこまで覚えたくないか、私の名前」

 

 

ぴきぴきと拳を振るわせるが、ハーレイは

つき合ってられんとばかりに話を続ける。

 

 

 

「ふん、まあいい。競技祭の練習と言ったな? 

当然だ。今年の優勝も私のクラスがいただく。

私が指導する以上、優勝以外は許さん! 

今年は女王陛下が直々に御尊来になり、

優勝クラスに勲章を賜るのだ。

その栄誉を授かるに相応しいのは私だ!」

 

 

 

「あっはっは! うわー、凄い熱血すねー、

頑張ってください、先輩!」

 

 

道化じみたグレンの態度に、ハーレイは

忌々しそうに舌打ちした。

 

 

「それよりもグレン=レーダス。聞いたぞ? 

貴様は今回の競技祭、クラス全員をなんらかの

競技種目に参加させるつもりなのだとな?」

 

 

 

「え? あぁ、うん、はい、まぁ、

そうなっちゃったみたいっすね……不本意

ですけど」

 

 

 

「はっ! 戦う前から勝負を捨てたか? 

負けた時の言い訳作りか? それとも私が

指導するクラスに恐れをなしたか?」

 

 

 

グレンは困ったように頭を掻いた。

自分はどうもこの、ハーなんとかと名乗る男に

敵視されているらしい。

 

 

ことあるごとに、こう一方的に突っかかって

来るのだ。最初からよく思われてはいなさそう

だったが、思えば非常勤講師だった頃、心を

入れ替えて真面目に授業をし始めたあたりから、

さらに敵視されるようになったような気がするが

……その因果関係はわからない。まぁ、とにかく

今回も適当にあしらうのが吉だろう。

 

 

「いやぁ、そうかもしれませんねー、なにせ、

ハー……なんとか先輩のクラスには学年でも上位

の生徒達が特により集まっていますからねー、

いやー、もう、優勝は先輩のトコで決まりかも

しれないっすねー、あー、女王陛下の勲章

羨ましいなー」

 

 

ひたすら道化を演じるグレンに、ハーレイは

苛立ったように歯噛みする。

 

 

「ちっ……腑抜けが。

まぁ、いい。さっさと練習場所を空けろ」

 

 

 

「あー、はいはい、今すぐ。ええと、

あの木の辺りまで空ければ充分ですかね?」

 

 

グレンはハーレイのクラスの生徒達が練習する

のに必要充分だろうと思われる面積分を充分に

考慮して、場所割りを提案するが——

 

 

 

「何を言ってる? お前達二組のクラスは全員、

とっととこの中庭から出て行けと言って

いるのだよ」

 

 

そんなハーレイの一方的な言葉に、その場の

二組の生徒達が凍りついた。流石にグレンが

渋面でこめかみを押さえ、抗議する。

 

 

「先輩……いくらなんでもそりゃ通らんでしょ……

横暴ってやつですよ」

 

 

「何が横暴な物か」

 

 

ハーレイが吐き捨てるように言い放つ。

 

 

「もし、貴様に本当にやる気があるのであれば、

練習のために場所も公平に分けてやっても

いいだろう。だが、貴様にはまったくやる気が

ないではないか! なにしろ、そのような成績

下位者達……足手まとい共を使っているくらい

なんだからな!」

 

 

「——っ!?」

 

 

「勝つ気のないクラスが、使えない雑魚同士で

群れ集まって場所を占有するなど迷惑千万だ! 

わかったならとっとと失せろ!」

 

 

そのひどい言い草に、グレンのクラスの

生徒達はしゅんと、表情を暗くし……

 

 

——お前みたいな劣等生、栄えある競技祭に

出場させるわけないだろう? グレン。

 

 

——わかったらとっとと失せろ、

お前は足手まといなんだよ!

 

 

 

そんな生徒達の姿が、いつか、どこか、

誰かの姿に、どうにも被って……

 

 

「あぁ……ったく、もう、今日は本当に次から

次へと思い出したくもねーことを思い出せて

くれんなぁ……あー、やだやだ……」

 

 

突然、意味不明なことを呟きだしたグレンが、

困惑を隠せない周囲の生徒達をよそに、いきなり

ハーレイの鼻先へ、びしりと指を突きつける。

その勢いで両袖に腕を通さず羽織ったローブが

ばさりと翻った。

 

 

「お言葉ですがね、先輩。うちのクラス、

これはこれで最強の布陣なんすよ。

やる気がない? 勝負を捨てた?

ふっ、馬鹿言わんといてくれませんかね? 

無論、俺達は狙ってますよ? 優勝をね。

まぁ、せいぜい油断してウチに寝首を

掻かれないことっすね」

 

口の端を釣り上げ、グレンは不敵な笑みを

浮かべている。

 

 

そんなグレンの放つ不思議な威圧感に気圧され、

ハーレイが脂汗を浮かべる。

 

 

「……く、口ではなんとでも言えるだろうな、

口では。だが、事実、お前のクラスはシスティーナ

やギイブルといった優秀な生徒達を遊ばせている

ではないか……ッ!」

 

 

「ほう? なるほど……つまり、えーと……

ハー? なんとか先輩は、あくまでウチの

クラスの布陣を伊達や酔狂の類い、と、

おっしゃりたいわけですか……?」

 

 

「そ、そうだ……それ以外の何がある! 

成績上位者を使い回すのは競技祭の定石だ!

 私のクラスだけはない、どのクラスも

毎年やっていることだろう!?」

 

 

「くっくっく……

どうやら先輩だけでなく、学院中の講師共は皆、

ボンクラの無能だったようだ……まーさかまさか、

成績上位者で出場枠を固めるだけで、勝てるなどと

思っていらっしゃったとは……

ふはーっはっはっは! 笑止!」

 

 

ひとしきり悪役のように哄笑し、グレンは

ハーレイに堂々と宣言する。

 

 

「いいっすか? 先輩。 俺達は全員で勝ちに

行く、全員でな。目指す一つの目標の前に、誰が

主力だとか足手まといとか、んなもん関係ない。

皆は一人のために、一人は皆のために、だ。

その一体感こそ何よりも最強の戦術なんですよ?

わかりませんかね?」

 

 

「くっ……そんな非合理的な精神論が

通用するとでも……ッ!?」

 

 

 だが、そんなハーレイの反論を、グレンは

胸を張って切り捨てるように返す。

 

 

「給料三ヶ月分だ」

 

 

「な、何ィ……ッ!?」

 

 

「俺のクラスが優勝する、に俺の給料三ヶ月分だ」

 

 

グレンの宣言に、ハーレイは当然、周囲全員が

どよめいた。

 

 

特にグレンのクラスの生徒達が、ぽかんとした

表情でグレンを見つめている。

 

 

「しょ、正気か、貴様……ッ!?」

 

 

「さて、どうしますかね? 先輩。

この賭け乗りますか? いやぁ、三ヶ月分は

大きいですよねぇ? もし負けたら先輩の

魔術研究が、しばらく滞っちまいますよね……?」

 

 

「ぐ……ぅ……ッ!」

 

 

講師職にとって給料は重要な意味がある。

教授職ともなれば、学院から研究費が多く

下りるが、講師に回される研究費は雀の涙だ。

よって、講師が功績を挙げるために自分の魔術の

研究を進めるならば、その研究費は自分の給料から

出さなければならない。

 

 

魔術講師は高給取りのようで、

実際は常にかつかつなのである。

 

 

当然、ハーレイも三ヶ月分もの給料を失うような

リスクは避けたい。三ヶ月分の給金を失えば、

その間、ハーレイの魔術研究は確実に遅れて

しまう。

 

 

負ける気はしないが、しょせん勝負は水物。

どう転がるかわからない。

 

 

それに——このグレンの妙な自信に満ちあふれた

表情、余裕の態度。

 

 

何か、策が、あるのか——?

 

 

「くっ……いいだろう!」

 

 

だが、生徒達の手前、ハーレイもここで退くに

退けないのだろう。

 

 

「私も、私のクラスが優勝するに、

給料三ヶ月分だ!」

 

 

脂汗を浮かべながら、ハーレイは

忌々しそうに宣言した。

 

 

「ふっ……流石、先輩。いい度胸です。

気に入りましたよ? やっぱ、

そうこなくっちゃね……くっくっく……

いやぁ、ごっつぁんです、せ ん ぱ い?」

 

 

 

どこまでも余裕綽々に、不敵に笑うグレン。

 

 

 

「ちぃ……ッ! こ、この私に楯突いたこと、

必ず後悔させてやるぞ……ッ!」

 

 

 

恨み骨髄とばかりに、ハーレイはグレンを

烈火のごとく睨みつける。そんな二人の様子を、

はらはらしながら見守る生徒達。

 

 

そして。

 

 

表面上、不敵な表情を見事に保ったまま、

グレンは心の中で頭を抱えていた。

 

 

 

(うちのクラスの生徒達バカにされて、

なぜかイラッとして、ついやっちゃったけど、

おいおい、どうすんのコレ? 冗談じゃねえ!

いっくらなんでも三ヶ月断食とか保たねーぞ、

俺死ぬぞ? 東方の仙人じゃあるまいし……ッ!)

 

 

 

要するに、威風堂々たる態度で

グレンは戦々恐々としていた。

 

 

 

策? そんなものは当然、ない。

 

 

「おのれ、グレン=レーダス……

貴様という男は……ッ! 魔術師としての

誇りも矜恃もない、たかが第三階梯(トレデ)の

三流魔術師がこの私を愚弄するなど……ッ!」

 

 

 

(うっわー、怒ってらっしゃる……

めっちゃ怒ってらっしゃるがな……

あっはっは、やっべえ、どうしよ!?)

 

 

グレンは思わず売り言葉に買い言葉で

喧嘩を売ったことを今、激しく後悔していた。

 

 

 

(よし……土下座だ。こうなったら、

土下座しかねえ。今から一生懸命、心を込めて

謝ればきっと許してくれる——いざ、目で見よ! 

俺の必殺固有魔術(オリジナル)

【ムーンサルト・フライング土下座】を——)

 

 

 

グレンが見栄もプライドも恥も外聞も

全てまとめて大遠投しようとした、その時だ。

 

 

「そこまでです、ハーレイ先生」

 

 

凜と涼やかに通る声が、グレンの機先を制して

ハーレイの言葉を封じた。

 

 

「それ以上、グレン先生を愚弄するなら、

私が許しませんから」

 

 

 

声の主は、いつの間にか駆けつけてきた

システィーナだった。

 

 

(なんてタイミングで出てきやがんだ、

この白猫ぉ——ッ!?)

 

 

グレンは泣きたくなってきた。

 

 

「貴様、システィーナ=フィーベル!? 

あの名門フィーベル家の……くっ!?」

 

 

ハーレイはシスティーナの介入に

明らかな狼狽を見せている。

 

 

「そもそも、練習場所に関する貴方の主張には

どこにも正当性がありませんし、グレン先生に

対する侮辱行為も不当です! これ以上、

続けるなら講師として人格的に相応しくない

人物がいることを学院上層部で問題にしますが、

よろしいですか?」

 

 

「ぐぅ……ッ!? 

こ、この親の七光りがぁ……ッ!」

 

 

明らかに余裕をなくしたハーレイが

システィーナを睨みつける。

 

 

 

 

だが、予想外の事態が起きてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「さっきからギャーギャーと野良犬みたいに

騒ぎ立ててテメェ等、うるせぇよ……」

 

 

「の、ノワール…?」

 

 

グレンが寒気を感じながらも声がする方を見ると

ノワールが立っていた。

 

 

しかし、いつものノワールとは違和感を

感じていた。

 

 

「ハゲだか、ハーゲンだか知らないけど、

さっきからたかが第三階梯(トレデ)の

三流魔術師がとか言っているけど、教師として

その三流の魔術師に負けてるくせにたかが階級が

高いからって自称(天才)と言って第五階梯

(クィンデ)と周りからちやほやされて自分の

気に入らない奴がいたらネチネチと批判して

大人気ないし、たかが『名誉』や『勲章』、

『高い階級』がある事がそんなに偉いのか?

あんた何様なんだよ?まさか、自分自身が

『神にでもなったつもりか?』」

 

 

「お、おのれ‼︎ノワール=ジャック‼︎」

 

 

(ノワール君…?)

 

 

ルミアもノワールがいつもと違う違和感が

分かると気付いた時にはハーレイがノワールに

睨みつけて叫んでいた。

 

 

だが、ノワールが今迄心の奥底に抑えこんでいた

負の感情が決壊した。ノワールの心はまるで

泥の様なドス黒くて醜い己の今の感情を

抑える事が出来きず、更には左手にはめている

手袋をハーレイの眼鏡に向けて投げつけていた。

 

 

「勝負しろ…ハー……ハーゲン

僕に勝ったらさっきの言葉を撤回してやるよ?」

 

 

「ハーレイ‼︎ ハーレイ=アストレイだ‼︎ 貴様‼︎

自分で何をやっているのか 分かっているのか‼︎

私は貴様より年上だぞ‼︎年上には敬語を使って

敬わないか‼︎」

 

 

 

「駄目‼︎ 手袋拾って謝ってノワール君‼︎」

 

 

ルミアは必死になってノワールに言うが

ルミアの声はノワールには全く届いておらず、

ノワールはハーレイをまるで『愚か者』を

見るような冷めて瞳で呆れた表情で見ていた。

すると、ハーレイの怒りの矛先をグレンから

ノワールに変わっていった。

 

 

だか、ノワールは他の人が集まっている中、

そんな事を御構い無しに更にハーレイに続ける。

 

 

「あなたが尊敬できる人物なら僕もそう言って

敬いますけど先程の発言を聞いていて非常に

不愉快です…」

 

 

「なんだと…?」

 

 

ハーレイはノワールの言葉に更に眉をひそめて

額に青いスジが浮き出ていて怒りのこもった瞳で

睨みつけるがノワールは一瞬にしてハーレイの

言葉を躊躇いもなく切り捨てる。

 

 

「そもそも…グレン先生に負けたからって

自分のエゴ…嫉妬を他人に押し付けるな…

そして勝手に他人を差別してんじゃねぇーよ…

もしかして自分が神様にでもなったつもりかよ?

だとしたら、あんた、自惚れ過ぎだろ?

それに、たかが魔術競技祭で熱くなりすぎだろ?

あまり騒ぐと才能のないあんたの人しての

小さな器がみんなに晒されて知れるぞ?」

 

 

 

「貴様ーー‼︎」

 

 

 

ノワールはハーレイを見下すような虚ろな瞳で

見つめてハーレイが大声で叫んでいる中、

グレンはノワールの虚ろな瞳を見て

 

 

(まさか…セリカが言っていたのはこの事か…?

もし、本当ならこいつは一体…何者なんだよ?)

 

 

グレンは必死になって思考を巡らせ考えていると

 

 

「それに今更になって『魔術』を『崇高』だの、

『孤高』だの、『神の学問』とふざけた御託を

並べて言ってるのは…もしかして『魔術の発展』

や『高次元なる存在に近づく為か?』いくら知識を

沢山増やして賢い賢者になって何処まで行っても

結果は変わらない…この世に魔術がある限り

罪深いーー【ぱぁん】」

 

 

 

ノワールが話しをしている途中に叩く音が響いた。

 

 

(い、一体…何が?)

 

 

ノワールは一体何が起きたか

全く分からないといった顔をしていると

 

 

「なんで…どうして…?

どうして…そんな風に魔術を悪く言うの…?」

 

 

ノワールが声がする方を見るとシスティが

顔を真っ赤にして涙をボロボロと白い肌に

つたって流しながらノワールを見ていた。

 

 

「システィ…ノワール君……」

 

 

ルミアはシスティとノワール見て

心配そうな顔をして見ていた。

 

 

すると

 

 

「システィ、僕は別に人の考えや価値観はそれぞれ

だから言わないけど…あいつは自分の意見を他人に

押し付け洗脳に近い耳触りがいい言葉を並べて更に

今の魔術世界の現実から見ようとせずに目を背け

自分の都合のいい世界に逃げているあの人の神経を

逆撫でするあのハー…『ハーミット先生』に

イライラするんだよ…」

 

 

「き、貴様…調子に乗るなよ……それに私の名は

『ハーレイ‼︎』『ハーレイ=アストレイだ‼︎』

いい加減に覚えろ‼︎『ノワール=ジャク‼︎』」

 

 

ハーレイがノワールに言うとノワールは少し殺意が

こもった憤怒の瞳でハーレイを見るとハーレイは

かなりの動揺して怯みながらもノワールを睨んだ。

 

 

「それにシスティもあの事件で分かっただろう?

この世界…魔術や魔術師が生み出すものは無数の

『憎しみ』と『絶望』だけだって事…魔術は神聖な

学問なんかじゃない…『人の人生』を狂わせる悪魔

の学問だよ」

 

 

 

ノワールの冷たい言葉を聞いたシスティは

そんなノワールの言葉に反論出来ずに

 

 

 

「最低‼︎ 大嫌い‼︎」

 

 

システィはノワールにそう叫びながら練習場所

から去っていった。

 

 

そう後、ノワールは周りを見ると

グレンやハーレイ達の視線が集まった。

 

 

あるものは信じられないという顔をする者、

あるものは敵意する視線などが集中していた。

 

 

「ちぃっ……」

 

 

そんなグレン達の視線に耐えられなかったのか

ノワールはシスティに叩かれて腫れた右頰を

抑えながらグレン達に背を向けて訓練所の場から

立ち去って行く中、グレン達はただノワールの

背後を眺める事しか出来なかった。

 

 

そんなこんなで、瞬く間に一週間が過ぎた。

 

 

今日はアルザーノ帝国魔術学院、魔術競技祭、

開催当日。

 

 

そして、アルザーノ帝国女王アリシア七世を

来賓として学院に迎える日となった。

 




読んでいただきありがとうございます‼︎
これからもよろしくお願いします‼︎


更に『次の新作』も書いていきますので
よろしくお願いします‼︎


豆腐メンタルの自分ですがなんとか頑張って
いきます‼︎




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