魔法少女育成計画 Legacys   作:鹿縁

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これは魔法少女育成計画の二次創作です。

ライトノベル板の原作スレにて生まれた16人の魔法少女を題材に、それっぽいものができないかな、という試みによるものです。
空想・妄想・つじつま合わせ・書いてる人の記憶力の都合により原作設定とは矛盾が生じる場合があるかもしれません。御了承ください。

今の所原作1、2巻分の文章を完結させるほどのパワーはありませんが、大まかなストーリーは妄想し終わっておりますので、続きが書けなくなったら設定とあらすじを投下して締めようと思っています。

(時系列は2017年5月24日現在、QUEENS以降の設定となっております)


1.◇苦羅羅

◇苦羅羅

 

 黄色いテープの張り巡らされた正門を前に、苦羅羅(くらら)は苦々しい溜息をついた。

 封鎖された大きな門は当然のことながら一般人には直視することもできない。何重にもかけられた認識阻害と忌避想起の魔法によって、「何だかよくわからないけど近付きたくない」という場所だと思うように仕向けられている。その手の魔法に対する心得のある苦羅羅でさえ、気を抜けば見失ってしまいそうになるほどだ。

 かつてプク・プックの居城だった屋敷は監査部の手によって天井裏から床下の埃一つに至るまで調べ尽くされ、今は許可のない人員の立ち入りを禁じられている。残念であり当然でもあることに、苦羅羅に正式な許可など与えられてはいない。

 苦羅羅は中国武術の拳法家のような衣装を纏った魔法少女だ。前を横向きに並んだ紐で留めた青い上衣から、大きくスリットの入った同色のスカートが続いている。戦闘時には無手か、黒い長杖を持って戦うのが常である。そういう意味では、杖術家でもあるかもしれない。

 優秀なフリーランスの傭兵として名高く、また義に反する依頼は決して受けないという硬派な姿勢がいくらかの敵対者とそれなりのファンを作る職業魔法少女。それが、二年前までの苦羅羅の立場だった。

 今ではどうか。プク派の不審な動きに関する調査という重要だが単純な依頼に失敗し、あまつさえつい先日までプク派の手先として魔法少女の存亡に関わる凶悪事件に手を貸していた愚かな敗残者。あるいは、哀れな反逆者だ。

 門の奥に見える、屋敷の輪郭が目に入る。あの庭の中を、プク・プックと配下の魔法少女たちと一緒に遊び回っていた記憶が蘇る。

 プク・プックの洗脳に浸っていた頃のことを思い出すと怖気が走った。物音一つ立てずに潜んでいた茂みから「プクの知らない子の音がするよ?」と魔法少女の水準から言っても異常な聴力で存在を看破され、逃走しようとしたものの失敗し、羽交い絞めにされたまま目と目を合わせて小さく微笑まれただけで闘志のすべてが抜け落ちた。時が経つにつれてプク・プックに対する根拠のない親愛は増殖し、彼女の一挙手一投足を見逃さずに眺めることだけが何よりも優先すべき事項となった。

 先日の動乱では戦闘に秀でた魔法少女として認識されていたこともあり、装置の奪還を目指す者達を迎撃する役目を負って戦場に出た。不幸中の幸いか、多少の負傷はしたものの命に係わるような大怪我をすることはなくプク・プックの死によって動乱は鎮圧されたが、失った物は大きかった。

 第一に屈辱があった。磨き上げた技量と信念を容易く捻じ伏せられたことも。非道を成す魔法少女を討つ孤高の存在として密かに共感と憧れを抱いていた「魔法少女狩り」までもがプク・プックの手に落ち、その指揮下で戦わされていたことも。たった数名で要塞の中心部にまで乗り込み、数多の障害を打ち払って大義を成した魔法少女たちと相対しながら、尊敬と共に肩を並べるどころか無様な憎しみだけを抱えて殴りかかったことも。

 治療中に病室でじっとしていると、自暴自棄になって自決すら考えたこともあったがそれはやめた。生き長らえた後で命を棄てるなど逃げでしかない。だが、だからといってこれから何をすればいいのかもわからない。

 全ての元凶となったこの屋敷に来れば何か思い立つだろうかと考えて訪れてみたが、屈辱と惨めさが増しただけだった。暗澹とした気分に足取りが重くなりながら、嫌な思い出の詰まった屋敷に背を向ける。

 そこで初めて、いつからか自分の後ろに傘を差した真っ白な魔法少女が立っていたことに気付いた。そいつは言った。

 

「あなたの汚名、返上したくはありませんか?」

 

 


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