……PIPIPIPIPI……束ちゃん、朝だよ、起きて♪……PIPIPIPIPI……
「うぅぅん、なのちゃぁん」
篠ノ之束は布団に包まりながら、自分と似た声が録音されている目覚まし時計を止める。
ベッドからむくりと起きて、カーテンから差し込む太陽の光を浴びると、それでもうすっかり目が覚めた。
それから、青い人参柄の寝間着でベランダまで歩いて、ガラス窓を開き外の空気を浴びたら、
「……気温は17度、湿度50%、朝から晩まで快晴。うん、小春日和だね♪」
今日の天気を予報して、自分の頭脳と肉体の健常さを試した。
身体で感じる外気のみを情報として、朝一で頭脳をフル回転し「予測」するこの天気予報は、しかし気象衛星の予報など目じゃないほどの正答率を誇る。
僅かな情報から正当を引き当てるのは中々に骨の折れる作業だが、束にとってはこれがまた、いい準備運動になるのである。
結果は、今日も快調。この世の中で最も優れた頭脳も肉体も、寸分狂いなく在るという結果に、束は満足した。
次はクローゼットを開いて寝間着を脱ぐ。
九歳にしては発育のいい束は、上着の下に一丁前にブラジャーなどを付けている。淡桃の下着はどちらも子供らしくなく、おしゃれでいて少し色っぽい。
クローゼットの中から引き出した衣服は、小学校の制服――ではない。青と白のエプロンドレスだ。
あっという間にそれを着て、次は部屋に備え付けた洗面台で髪を整える。まっすぐ下ろした赤紫色の長い髪は、普段から丁寧に手入れされていて、見る人を振り向かせる色艶があった。
それが終われば、最後に机の上からウサミミ型のカチューシャ・メカを手にとって、頭の上に乗っける。
これで、篠ノ之束のコスチューム――彼女の友人の友人二人から言わせれば、「一人不思議の国のアリス状態」――が完成した。
鏡の前でコスプレじみた自分の姿をひとしきり眺めて自画自賛した後、束はようやく、家族の待つ下階に降りていく。
ちなみに、現在の時刻は午前七時五十分。
小学生がのんびり朝の準備を終えるには、少し遅すぎる時間帯であった。
「束! 早くしないと遅刻しちゃうわよ?」
だから、リビングに降りた束を待ち受けていたのは、束の朝ごはんを用意しながらも心配そうな母親、篠ノ之沙耶の声だった。
束は自分の母親相手に、いかにも退屈そうな顔で――しかし目線はしっかり合わせて、答えた。
「大丈夫大丈夫、もーまだ分かんないかなー、束さんの行動は何から何まで計算ずくなんだって」
「でも、いつもだって起きるの遅いけど、今日はいっとう遅いじゃない! お父さんだってもう境内に出ちゃったわよ?」
沙耶の不安そうな言葉をよそに、束はテーブルにつく。
そして、既に並べられていた焼き鮭に味噌汁に白米の純和風な朝食をかっこみ始めた。
お椀を引っ掴んでがつがつ口の中に注ぎ込むような食べ方である。
「もう、束ったら、女の子がそんな食べ方しちゃいけないわ」
「ひーのひーのらいじょーふ」
「またお父さんに叱られてもいいの?」
ごっくん、と最後のご飯粒を飲み込んだ束は不機嫌そうに答える。
「いいよーだ、あんなハゲ親父が何を言ったって関係ないもんねー」
「こら、束! お父さんのことをそんな風に言っちゃいけないでしょ!」
「べーだ」
母親の叱咤も束には、暖簾に腕押し糠に釘。全く聞き耳を持たない体たらくだ。
しかし、これでも束にとって、また、束の両親にとっては、まだ良好な関係と言えるのである。
何故なら、ほんの一年前までは、こうして会話することもほとんど無かったのだから。
天才として自己を確立した束は、もう両親と会話する必要を感じず。そんな束を、両親の方は理解できずに気味悪がり。
そんな形で塞がった現状が、ある日突然、
「……今日の晩御飯は……なんでもいいけど……うん、なんでもいい。それだけ」
という束からの一言をきっかけに、ゆっくりと氷解していったのだ。
それから更に一年かけて、今はようやく、母親とまともに会話を交わせるまでになった。
最も父親とは相変わらずそりが合わず、口を開けば喧嘩腰になってしまっているのだが。
「はい、ごちそうさま」
「ごちそうさま。歯磨きは?」
「大丈夫、ちゃんとするって」
沙耶に小言を言われながら、束は懐から緑色の小さいガムを取り出して口に含む。
そして、十秒ほど咀嚼してからぺっ、と外に出し銀紙に包んで捨てた。
「束、それは?」
「新発明の束さん特製完全歯磨きガム。これを十秒噛むだけであら不思議、歯ブラシ要らずで歯垢も食べカスも全部取れちゃうのさ」
「まあ、また何か作ったの」
沙耶のつぶやきに、束は首肯する。
妙なものばかり作る発明少女、というのが海鳴市での束の肩書みたいなものだった。
「はい、終わりっ、それじゃあ行ってきます」
「急ぐのよ。まだ神社前のバス、あるとは思うけど」
「だいじょーぶだって、昨日秘策を用意したのだっ」
束は玄関に向かい歩き出し、靴を履いてドアから外へ出た。
と思いきや、ぐるりと庭を回ってリビングの窓の向こうまで歩いていく。
何事か、というように見つめる沙耶の目の前で、束は。
「かうんとだうーん。すりー、つー、わん、ふぁいあー!」
背中に背負ったランドセル、ではなく人参型単装ジェットパックに点火して、轟音を残して飛び立っていった。
「……まぁ、相も変わらず……」
真っ直ぐ飛び上がる自分の娘を見て、沙耶夫人は目眩を起こし、こめかみを強く押さえた。
そんな母親の様子を知ってか知らずか――という表現は正しくないだろう、恐らくはもう『識っている』――束は、海鳴の空を飛ぶ。
その時速は時速150km以上。だから同じ市にある小学校まではあっという間なのだが。
あっさり通り抜けてしまった。
それもそのはず、束の現時点での目標は学校ではない。
目指すはそこから5kmほど離れたバス乗り場。8時10分着11分発、今日の交通情報を予測すればプラス二分程度、だから十分に間に合うはずだ。
束はエンジンの出力を下げて飛行高度を落とす。体が重力と慣性に従い、斜め下へ一直線に落ちていく。
「いやっほぉぉお!」
閑静な住宅街が見えてくる。着陸先は歩道だ。
そう、ちょうど短いツインテールな茶髪の女の子がバスに乗り込もうとしているその瞬間に。
「なーのちゃーん!!」
くるくる、と前転して勢いを殺し、しゅたっ、と着陸した。
「あ……束ちゃん」
そんな束の姿を、なのははバスのタラップに片足を乗っけながら見つめていた。
これが、束の目的である。なのはの家と束の家は学校を挟んで真逆の方向だが、しかし束は、なのはと一緒に学校へ登校しなければ気がすまないのだった。
「なのちゃんおはよう!」
「うん、束ちゃんおはよう」
ウサミミ少女の唐突な着陸シーンを見て呆然とするバスの乗客。しかし束となのはは極平然に挨拶を交わした。それがまるで極普通のことであるように。
「今日は空から来たんだね」
「そうだよー、昨日作ったばかりの携帯型軽量ジェットパックだよ。今『分解』するからちょっと待っててね」
そのまま二人はバスの奥、ちょうど二人分の隙間が空いている最後部座席へ向かい、並んで腰掛けた。
そして、束が胸元に背負い込んだ人参ジェットが、彼女の右手で引っ掻くように触られると。一瞬で細かい部品単位まで『分解』されて、そのまま彼女のバッグに仕舞われた。
これが、篠ノ之束の得意技の一つ、『分解』である。おおよそこの世にある機械やメカならば、束の天才的頭脳がそれを解析して、指先の僅かな動作だけでバラバラにしてしまうのだ。
「束ちゃんのそれ、何時見ても凄いね……あ、そうだ。ジェットパック、後でなのはにも使わせてよ」
「あーごめん、これ小さくしたから燃料が片道分しかないのだよ。だから、また私の家に遊びに来てくれた時でいいかな?」
「うん、楽しみにしてるね!」
二人は和気あいあいと語りあう。小学一年生の頃からずっと友達で、クラスも一緒。
まさに仲良しこよしの大親友、そんな二人の微笑ましい朝の会話と言うべきだろう。
「…………」
その両脇で、金髪と濃い紫髪の少女が二人、揃って硬直していることを除けば。
「あ、束ちゃん。アリサちゃんとすずかちゃんにも、おはようだよ」
「え……あ、そうだ。おはよう」
先程の「なのちゃんおはよう」よりもかなり投げやりなおはようが放たれてから、二人は漸く意識を取り戻した。ついでにバスも発車した。
「え、あ、おは、よう……」
「お、おはよう、束ちゃん」
顔の筋肉が上手く動いていないようで、引きつり気味なおはようを返した二人の名は、アリサ・バニングスと月村すずか。
二人共、束と同じく高町なのはの親友である。
しかし束にとっては、あくまで「友達の友達」にしかすぎないので、
「ちえっ、この束さんが挨拶してやったんだからさ、君たちももう少し元気に返してもいいんじゃない?」
などとのたまうのであった。
「あ、アンタねぇ、そんなこと言われても、今のあれ、何よ」
「何って、見てわからない? 全力疾走も電動スケボーでかっとぶのもいまいちマンネリ気味だったから、今回は空から飛んできたの」
「はぁっ!?」
人間が空を飛ぶなんて、不可能ではないけど色々と難しいことだ。しかしそれをさらっと成し遂げ、ごく簡単なことだと喋る束にアリサが驚く。
「いっつも思うけど、アンタほど無茶苦茶な小学生は居ないわよ」
「そりゃそうさ、束さんは天才だもん。天才というのはそういうものなんだ」
鼻高々に宣言して憚らない束。アリサとすずかは苦笑いを浮かべるが、ただ一人なのはは、
「そうだよね、束ちゃんは凄いよ」
と、素直すぎるくらいに明るく賞賛していた。
「あはは、そうでしょそうでしょ! 束さんは天才だからね! さぁもっと褒めて!」
「うんうん、凄いよ、束ちゃんは」
「あははははは! なーのちゃーん! なのちゃんなのちゃーん!!」
褒め言葉を受けて馬鹿笑いしていた束は、ついに嬉しさの余りなのはへ抱きついた。
そのまま胸元へ頬ずりするのを、なのははただ受け止めて、後頭部を優しく抱きしめたりもしている。
スキンシップと言うには少し距離が近すぎるかもしれない触れ合いに、両脇の二人はただただ圧倒されっぱなしだった。
「……アリサちゃん」
「うん、言いたいことは分かる、分かるから言わなくてもいいわよ」
「いや、でも言わずには居られないかな。いつものことだけど……なのはちゃんって、よくああいう対応ができるよね」
「それがなのはのいい所……と思いたいわ。ちょっと行き過ぎ感半端ないけど」
仲良しを通り越してもはやいちゃついている二人を見て、嘆息するアリサとすずか。
バスが学校へ着いて全員降りても、状況は何ら変わらなかったが、二人ともそれを窘めようとはしなかった。
それは、なんだかんだ、束にしてはこれでも抑えめになっている方だからかもしれない。
なのはと知り合ったばかりの束のべったりぶりは、それはもう酷かったのだ。
朝から晩までずっと今朝のようなテンションで一緒に居たがり、誰かが話しかけようとしたら舌打ちして追い払う。あげくに、家族とか関係なしに一緒にいたいからと、高町家に無断で居候しようとするくらいだった。
それに比べれば今は、ここまでなのはにべったりしているのは朝だけで、授業中にはちゃんと静かにするし、なのはが二人と遊びたい、と言えばきちんと離れてくれる。
大分マシになっていると言うべきだった。
「はい、皆さんおはようございます」
「おはようございまーす!」
束たちが教室へ着くとちょうどチャイムが鳴り、教師が入ってきて挨拶した。
学校の名前は、私立聖祥大附属小学校。小学校から大学までエスカレーター式の私立聖祥学園、その小等部で、親にはそれなりの学費、本人にはそれなりの学力が要求される。
制服は男女共に白を基調としていて、統一された色彩がいい子で並ぶ教室は、見る者に秩序と規律を思い浮かべさせるものであるはずだが――このクラスだけに、一際異彩を放つ存在がある。
無論、篠ノ之束のことだ。
束だけが只一人、お気に入りのエプロンドレスを着込んでいる。彼女は体育の時も体育着を着ずに、このドレスで授業を受けるのだ。
「篠ノ之束さん」
「はぁい」
いかにも適当そうに手を挙げて答える束に対し、教師は眉を僅かに歪めるだけで叱責しない。
どうやら、彼女の自由奔放っぷりの矯正を、既に半ば諦めているようだった。
制服のこともそうだが、束は大人が何を注意しても叱ってもどこ吹く風で、気にも留めずに我を通す。
そして束には、大人相手に我を通すだけの力と頭脳もある。
束の態度が問題になり、校門で制服のチェックが行われた時などがいい例だ。
その時束は、教師たちの目には制服に、しかしその他の人間にはエプロンドレスに見えるカムフラージュ制服を発明して着て行き、堂々と校門でのチェックを通り抜けたのだ。
ここまでされては、と束の我の強さに教師が折れる形で自由服装を認められた。
しかしそれでも、束にしてみれば柵だらけで、雁字搦めなのが学校という場所だ。
朝8時半から15時まで、六時間も拘束されて、束にしてみればずっと昔に覚えてしまった極易しい知識をだらだらと垂れ流されるだけなのだから。
しかし束は、どれだけ不承不承でも、不真面目でも。ちゃんと毎日学校に通って、遅刻一つしていなかった。
「高町なのはさん」
「はいっ!」
束とは打って変わって、元気に返事をするなのは。
このなのはこそが、つまらないルールだらけの学校に、束を繋ぎ止める鎹であった。
要するに、なのはに会えるから学校へ行くのだ。
なのはと六時間、同じ時間を過ごせるからこそ、つまらない授業に付き合ってやって、ガキみたいなクラスメートとも一緒に居てやるのだった。
そんな訳で、束は授業中椅子に大人しく座りながらも、授業は何も聞かずに新しい発明のアイデアを纏めつつ、授業を真面目に受けるなのはを見ながら過ごしている。
だから、朝の挨拶から意識は飛んで、次に教師の言葉を意識したのは、二時間ほど経ってのことだった。
「この前皆に調べてもらった通り、この街には沢山のお店がありましたね」
所謂「総合的な学習の時間」に移って、教師は「お店しらべ」についての話をしていた。
この街、つまり海鳴市にある様々なお店について調べて、纏めて発表するというのが学習の内容だ。
「このように、色々な場所で色々な仕事があるわけですが」
教師はここで一拍止めて、束たちを見やった。
だが、束にはそこから先の言葉を安易に予想できてしまうので、興味の欠片も持たずに目を背けている。
「みなさんは将来、どんなお仕事に就きたいですか? 今から考えてみるのも、いいかもしれませんね」
ほら来た。と束は内心で辟易した。
要するにこの学習は、お店についての調べ学習であると同時に、生徒へ自分の将来について考えさせるためのものなのだ。
しかし、束にとってそんなことは――今更改めて、考えるような問題ではなかった。
だから、授業が終わったお昼休みになのはと、ついでにアリサやすずかとも一緒に屋上で昼食を食べながら、束は愚痴を漏らすのだった。
「あー、つまんない! 今日もまた超絶つまらない授業だったよ!」
「にゃははは……そうなんだ、私は結構考えさせられたんだけど」
屋上のベンチに座りながら束は不機嫌を顔に浮かべてお弁当を食べる。
なのははどうやら、先程の授業が胸に留まっているようで、
「うーん、将来かぁ……束ちゃんは、もうだいぶ決まってるの?」
と語っていた。
「そんなの勿論だよなのちゃん! だーかーらつまんないって言ってるの!」
「そっか。ねえ、教えてもらってもいい?」
「当たり前!」
束はムッとして、胸を張って自分の抱負を述べる。
「私はね、天才だからね! 科学者として素晴らしいものを発明して、この世界を面白く変えて見せる! それが天才ってもんでしょ! ね、ね!」
「ふうん、そっかぁ……ね、アリサちゃんと、すずかちゃんはどうなの?」
大きくなったら宇宙飛行士になる、というレベルで突拍子もなく抽象的な宣言は、物凄く自然に、さらっと受け止められた。この場にいる誰も、束ならもうそれでいいんじゃないかなと思っているのだ。
なのはは続いて、もう二人の友達にも意見を求める。
「え、私? えーと……まぁウチはお義父さんもお母さんも会社経営だし、いっぱい勉強して後を継ぐくらいだけど」
「私は機械系が好きだから、工学系の専門職がいいなって思うけど」
こちらも、少女にしては妙に具体的かつ現実的なプランである。
それを聞いたなのはは益々憂鬱になっていくなようで、声のトーンが下がっていく。
「そうなんだ……はぁ、三人共、凄いね」
「え? なのはだって、お家の跡継ぎ、喫茶翠屋の二代目って道がちゃんとあるじゃない」
「うーん、それも将来のビジョンの一つではあるんだけど、でも……」
理に適ったアリサの指摘にも、なのははやはり、納得しない様子だ。
「やりたいことが、他に何かあるような気がするんだ。けど、まだそれが何なのかはっきりしないんだ」
既に将来のビジョンを固めている三人を見て、なのはは劣等感を抱いているようだ。
少なくとも、会話を聞いた束にはそう見えていた。
だから。
「私、皆と比べて、なんの取り柄も特技もないから」
そう言ったなのはへ、アリサが怒るよりもずっと早く。
「違う!」
びしっ、となのはを指差して、叫んだ。
「束ちゃん……?」
「なのちゃんにしか出来ないこと、やれること、きっとあるよ! 何処かにある! だってなのちゃんは私の友達だもん! この天才の束さんが、ただ一人、そうただ一人! 友達って言える存在なんだ! だから凄いの! それが当然!!」
急に言葉を叩きつけられたからか、ぽかんと口を開けるなのはと、その友達二人。
束はお構いなしに持論を述べ続ける。
「なのちゃんはたまにそういう自信無いこと言うけど、私はなのちゃんのこと、凄い子だって分かってる!」
「で、でもなのはの成績、束ちゃんより悪いし……」
「それは尚更当たり前! 私が天才だからね! でもっ! そういうことじゃない!」
「じ、じゃあなんなの!? 私の凄い所って、何!?」
そう聞いたなのはに、束は、
「それは…………それは…………うん、わからない!」
と言って返すのだから、他の三人はそろってずっこけた。
「た、束ちゃん、それは無いと思うよ……」
「そんだけ自信満々に言って分かんないとかどういうことよ!?」
ツッコミを入れるすずかとアリサだが、それでも束は揺るがずに、
「この私が、天才の私が分かんないことなんだよ。だから、きっと凄い才能があるんだよ。なのちゃんにはね」
と、言ってのけた。
「た……束ちゃん……!」
「ふふー、なのちゃん。私はこの脇役二人のことは脳味噌の裏っかわまで全部分かるけどね」
脇役とは何だ、と騒ぐアリサを無視して、束はなのはに語りかける。
「なのちゃんのことは、まだ分からないことだらけなんだ。おかしいでしょ。二年経っても、べったりくっついても、まだまだ全然分からない。奥が深い。一つ見えたら十個謎が生まれる、だから……なのちゃんはきっと、私よりもずっとずっと、特別なことが出来ちゃうんだよ」
それは、束の混じり気なしの本心であった。
篠ノ之沙耶……篠ノ之家母。オリキャラでございます。これと言って優しくも厳しくもない、ですが人並みくらいには娘を思う母親です。