「ふう、ただいまーっと」
饅頭屋、団子屋で貪り食ったあとは、里の店、特に日常使うことになる店を案内してもらい、慧音とは分かれた。
そして今は家に一人で戻ってきたところだ。
もちろん、睡蓮がなんとなく言った「ただいま」にも反応する声は無いはずだ。
「おかえりー」
あった。なぜあるのか。
「え、まってちかづいてくるこわい」
とてとてとて、と廊下を走ってくる音が聞こえる。あ、こけた。
「あれ、こけた……ほんとに誰だろ」
こけるとかかわいい泥棒だな、とか陽気なことを考えている睡蓮。
いや、危機感なさすぎか。
「いたた……おかえりなさい、睡蓮」
「あ、はい、ただいまです紫さん」
どこかキリっとした顔で睡蓮に挨拶する紫であったが、おでこが赤く、廊下の木目がついているので台無しだった。
睡蓮はm9(^д^)みたいなことをした。扇子で頭を叩かれた。
「いたい……」
当然である。
「まったく、人の失敗を笑わないでよ……」
いや、紫は妖怪なのだが。人型か。
「いや、ごんっ!って大きい音が聞こえたので」
「あ、やっぱり聞こえていたのね……」
いや、もし聞こえていなかったらなぜ睡蓮が笑っていたのか。
「ゲフンゲフン……さて、今日の用事は」
「紫さん、誤魔化せてません」
「えー……」
「さて、で、今日の用事はなんですか?」
「ええと、今日は仕事について聞きにきたのよ」
「仕事……ですか?」
はたらきたくないでござる、とは睡蓮の本音。
能力を使って食べ物を出して、地産地消で食ってきたかったらしい。
そこまでして働きたくなかったのか。
「ええ、仕事よ。このままじゃ食べていけないでしょう?」
「そうですねぇ……」
紫もはたらきたくないでござるオーラを感じ取ったようだが、ガッツリ無視して先に進めた。
正しい選択だ。
「でも、しばらくの間は香霖堂で交換してもらったこのお金がありますし……」
睡蓮は霖之助に現代のお金を幻想郷のお金に交換して貰っていた。
しかもかなり高額の。霖之助も涙目である。
「なるほど……でも、速めに決めておくのよ?後で困るから」
「わかりました」
「さて、今日の話はこれだけですか?」
「いいえ、これからが本題よ」
「え」
どうやら睡蓮の懐事情はオマケだったようだ。
睡蓮は、現状それ以上大事な話を思いつかなかったようだ。だが。
「本題は……今 夜 は 宴 会 よ ! ! ! 」
「それ……本題?」
「ええ、何より大事だわ。さて、藍に用意してもらったから早くいきましょ!」
花より団子、いや、仕事よりメシのほうが大事な紫だった。