楽器が全ての幻想紀行記   作:上黒峰 夜ウサ

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短めです


第四項/働きたくないでござる

 

「ふう、ただいまーっと」

 饅頭屋、団子屋で貪り食ったあとは、里の店、特に日常使うことになる店を案内してもらい、慧音とは分かれた。

そして今は家に一人で戻ってきたところだ。

もちろん、睡蓮がなんとなく言った「ただいま」にも反応する声は無いはずだ。

 

「おかえりー」

 

あった。なぜあるのか。

「え、まってちかづいてくるこわい」

とてとてとて、と廊下を走ってくる音が聞こえる。あ、こけた。

「あれ、こけた……ほんとに誰だろ」

 こけるとかかわいい泥棒だな、とか陽気なことを考えている睡蓮。

いや、危機感なさすぎか。

 

「いたた……おかえりなさい、睡蓮」

「あ、はい、ただいまです紫さん」

 どこかキリっとした顔で睡蓮に挨拶する紫であったが、おでこが赤く、廊下の木目がついているので台無しだった。

睡蓮はm9(^д^)みたいなことをした。扇子で頭を叩かれた。

「いたい……」

 当然である。

「まったく、人の失敗を笑わないでよ……」

 いや、紫は妖怪なのだが。人型か。

「いや、ごんっ!って大きい音が聞こえたので」

「あ、やっぱり聞こえていたのね……」

 いや、もし聞こえていなかったらなぜ睡蓮が笑っていたのか。

「ゲフンゲフン……さて、今日の用事は」

「紫さん、誤魔化せてません」

「えー……」

 

「さて、で、今日の用事はなんですか?」

「ええと、今日は仕事について聞きにきたのよ」

「仕事……ですか?」

 はたらきたくないでござる、とは睡蓮の本音。

能力を使って食べ物を出して、地産地消で食ってきたかったらしい。

そこまでして働きたくなかったのか。

「ええ、仕事よ。このままじゃ食べていけないでしょう?」

「そうですねぇ……」

 紫もはたらきたくないでござるオーラを感じ取ったようだが、ガッツリ無視して先に進めた。

正しい選択だ。

「でも、しばらくの間は香霖堂で交換してもらったこのお金がありますし……」

 睡蓮は霖之助に現代のお金を幻想郷のお金に交換して貰っていた。

しかもかなり高額の。霖之助も涙目である。

「なるほど……でも、速めに決めておくのよ?後で困るから」

「わかりました」

 

「さて、今日の話はこれだけですか?」

「いいえ、これからが本題よ」

「え」

 どうやら睡蓮の懐事情はオマケだったようだ。

睡蓮は、現状それ以上大事な話を思いつかなかったようだ。だが。

「本題は……今 夜 は 宴 会 よ ! ! ! 」

「それ……本題?」

「ええ、何より大事だわ。さて、藍に用意してもらったから早くいきましょ!」

 花より団子、いや、仕事よりメシのほうが大事な紫だった。

 

 


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