Fate/Blue Order   作:カレーネコ

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遅くなりましたが 第3話です。
fgoでのプロローグ。
なるべく原作の流れを守っていくつもりです。
GVの性格は若干ノリよく変わっています。

おかしいところがあれば、感想で指摘していただければ幸いです。


カルデア

「フォウ……?キュウ……キュウ?」

 

…………?

 

「フォウ!フー、フォーウ!」

 

………何かの鳴き声……?

 

意識が明瞭になっていく。

体の感覚からしてどうやら倒れているようだ。

目を開けて、しばらくぼんやりとしていた

視界が徐々に開けていく。

 

「…………………………。」

 

明瞭になった視界に1人の女の子が映し出される。

自分と同い年ぐらいであろう少女が、

訝しげにこちらを覗き込んでいた。

 

「…………あの。朝でも夜でもありませんから、

起きて下さい、先輩。」

 

その言葉に未だ倒れたままなことに気付く。

とりあえずさっと起き上がり、疑問に思ったことを聞いてみる。

 

「えっと、君は誰、かな?」

 

「いきなり難しい質問なので、返答に困ります。

名乗るほどのものではない––––––とか?」

 

時代劇?

 

「いえ、名前はあるんです。

名前はあるのです、ちゃんと。

でも、あまり口にする機会が少なかったので……

印象的な自己紹介が出来ないというか……」

 

「いや、普通に名乗ってくれればそれで……」

 

フランシスコ・ザビエルです!とか言われたりしたら

すごく反応に困る。

挨拶は普通が一番だとボクは思うのだ。

 

「……コホン。

どうあれ、質問よろしいでしょうか、先輩。」

 

誤魔化したな この子。

 

「お休みのようでしたが、通路で眠る理由が、

ちょっと。

硬い床でないと眠れない性質なのですか?」

 

……そういえばどうしてボクは倒れていたんだ?

まだ頭がぼんやりしていて思い出せない。

 

「ボクはここで眠ってたのか?」

 

「はい、すやすやと。

教科書(テキスト)に載せたいほどの熟睡でした。」

 

そんなに?

本当に自分はどうしてこんなところで……

 

「フォウ!キュー、キャーウ!」

 

「……失念していました。

あなたの紹介がまだでしたね、フォウさん。」

 

ボクが考え込みかけるとリスみたいな動物が

荒ぶりだした。

というか、本当に何だこの生物。

 

「こちらのリスっぽい方はフォウ。

カルデアを自由に散歩する特権生物です。

わたしはフォウさんにここまで誘導され、

お休み中の先輩を発見したんです。」

 

なるほどフォウ、(きみ)か。

いや、見つけてもらえなければ自分は倒れっぱなしだったかもしれない。

目を覚ましたのも鳴き声のおかげだった気が……。

そう考えるとお礼を言うべきだろう。

 

「えと、フォウ、だよね。ありがとう。」

 

「フォウ?フォウフォーウ!」

 

別に気にしなくていいとも、

みたいなニュアンスが伝わってきた。

意外と高い知能を持っているのかもしれない。

 

「フォウ。ンキュ、フォウフォーウ!」

 

なんてことを考えていたら、ではこれにて、

みたいな感じでどこかに行ってしまった。

 

「またどこかに行ってしまいました。

あのように特に法則もなく散歩しています。」

 

「にしても見たことない動物だな……。」

 

ボクが呟くと

 

「はい、わたし以外にはあまり懐かないのですが、

先輩は気に入られたようです。

おめでとうございます。

カルデアで2人目の、フォウのお世話係の誕生です。」

 

「え?」

 

サラッと変な役職に任命された気がしたが、

 

聞き返すことはしなかった。

 

視界に別の人物が入ってきたからだ。

帽子にスーツ、スボンに靴まで緑で固め、

尚且つ着こなしている。

何だかどことなく胡散臭い……?

 

「ああ、そこにいたのかマシュ。

だめだぞ、断りもなしで移動するのは良くないと……

おや?先客がいたのか。

君は……見たところ今日から配属された新人さんだね?」

 

「どうも。ガンヴォルトといいます。」

 

挨拶は基本。目上らしい人物相手なら尚更だ。

 

「ふむ、ガンヴォルト君と。

招集された48人のマスター、

その最後の1人というワケか……。

はじめまして、ガンヴォルト君。

私はレフ・ライノール。

ここで働かせてもらっている技師の1人だ。

ようこそカルデアへ。歓迎するよ。」

 

「ありがとうございます。

これからよろしくお願いします。」

 

真面目そうな人だ。好感が持てる……筈なのだが。

何故だろう。どこか信用しきれない感覚。

魔術師特有の雰囲気ともまた違う、何か、

得体のしれないモノを相手にしているような……。

 

「よろしく頼むのはこちらだよ、ガンヴォルト君。

今回のミッションには集まった48人のマスター、

全員の協力が必要だ。私なんかとは違い、

君たち量子ダイブ適性者は本当に希少だ。

全世界から掻き集めても尚、

50人にも満たないのだからね。

わからないことがあったら、

私かマシュに遠慮なく……おや?」

 

 

「そういえばマシュは何を話してたんだい?

珍しいな。以前から面識があったとか?」

 

「いえ、先輩とは初対面です。この区画で熟睡していらしたので、つい。」

 

「熟睡……?ガンヴォルト君が、ここで?

……あ、さては入館時にシュミレートを受けたね?

あれは慣れていないと脳にくる。」

 

……そういえば…。

確かにそんなものを受けた記憶がある。

 

「シュミレート後、意識が覚醒しないままに

ここまで歩いて来たんだろう。一種の夢遊状態だ。ガンヴォルト君が倒れたところで

マシュが来たんだろう。」

 

なるほど。

納得出来る説明だった。

 

「レフ教授。すいませんが、そろそろ……。」

 

「ん?ああ、そうか。所長からの説明会があった。

確かにここで井戸端会議をしている暇はないか。」

 

「説明会、ですか?」

 

なんだろう、それは?

 

「先輩のように本日付で配属されたメンバー達

へのご挨拶です。」

 

「ようはボス直々の新人達への最初の挨拶(しつけ)さ。

本当は君を医務室に送っておきたいんだが……、

所長は些細なミスも見逃せないタイプだからね。

遅刻でもしたら向こう1年は延々トイレ清掃、

なんてことになりかねない。」

 

選ばれた希少なマスターとは一体……。

いや、確かに遅刻は良くないけど。

 

「五分後に中央管制室で始まる。

この通路を真っ直ぐだ。急ぎなさい。」

 

礼を言って、管制室へ向かおうとすると

足が少しフラついた。まだシュミレートの影響が

残っているらしい。

 

「レフ教授、わたしも説明会への参加が

許されるでしょうか?」

 

「うん?まあ、隅っこにいるくらいならば多分……

どうしてだい?」

 

「先輩を管制室まで案内しようと。

途中でまた熟睡されるかもしれないので。」

 

今の状態からして否定できないのが辛い……。

 

「君を1人にすると、所長に怒られるからなぁ……。

結果、私も同席するということか。」

 

……ご迷惑をおかけします。

 

「まあ、マシュがそうしたいなら構わないよ。

ガンヴォルト君もそれでいいかな?」

 

「はい。まだ少しフラつくので、

正直いって助かります。」

 

ご厚意に甘えさせていただく。

これでは本当に倒れかねない。

 

「向かいながらだが、他に質問があれば聞くよ?」

 

それを聞いて、ボクはさっきからずっと疑問だったことを聞いてみる。

 

「この子、どうしてボクを先輩と呼ぶんですか?」

 

「……………………………。」

 

黙ってしまった。

 

「ああ、気にしないで。

彼女にとって君ぐらいの年頃の子は

みんな先輩なんだ。」

 

……?余計にわからなくなった。

 

「でも、はっきり口にするのは珍しいな。

いや、もしかして初めてかな?」

 

ええ?

 

「私も不思議になってきた。マシュ。

どうして彼が先輩なんだい?」

 

「理由……ですか?ガンヴォルトさんは、

今まで出会った人の中で一番人間らしいです。」

 

それがどうして先輩呼びに?

 

「ふむ。それは、つまり?」

 

「まったく脅威を感じません。

ですので、敵対する理由が皆無です。」

 

「なるほど、それは重要だ!

カルデアにいる人間は一癖も二癖もあるからね!」

 

「……ええ⁉︎」

 

今ので納得出来るのか⁉︎

というか暗にバカにされた気が……。

 

「私もマシュの意見に賛成だ。

ガンヴォルト君とはいい関係が築けそうだ!」

 

「レフ教授が気に入るという事は、

所長が一番嫌うタイプということ……。

………あの。このままトイレに篭って説明会を

ボイコットするのはだめでしょうか?」

 

「さすがにダメだろうね……。」

 

「それだとますます所長に目を付けられるぞ?

ここは運を天に任せて出たトコ勝負だ。

虎口に飛び込むとしようガンヴォルト君。

なに、慣れてしまえば愛嬌のある人だよ。」

 

……大丈夫かなぁ…?

 

 

 

 

 

 

–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

無事に説明会前に管制室へとたどり着いた。

中心に見えるのは大きな地球儀……だろうか?

その時、一瞬だが目が眩んだ。

 

「先輩の番号は……一桁台、最前列ですね。

空いているこの席はどうぞ。

……先輩?顔色が優れないようですが。」

 

「ごめん、まだ少し頭が……。」

 

「シュミレーターの後遺症ですね。

すぐに医務室へ連れて行きたいのですが……。」

 

マシュが向いた方向には気難しそうな女性がいた。

ああ、これは……

 

「無駄口は避けた方がよさそうだ。

もう始まるところだからね。」

 

 

 

「時間通りに集まりましたね。結構です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

「特務機関カルデアへようこそ。

私が所長のオルガマリー・アニムスフィアです。

貴方達は各国から選抜、

あるいは発見された稀有な……

 

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まずい、意識が–––––––––––––––

 

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–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

遠坂凛と衛宮士郎。

2人から魔術を教わることになったボク。

魔術回路の制御は第七波動(セブンス)の制御感覚と似ていた

こともあって、すぐにマスターしたボクは、

本格的に魔術を教えてもらうことになった。

交換条件として師匠呼びを強制された。

 

 

衛宮師匠に料理を習ったり、紛争国に行ったり、

遠坂師匠が半壊させた屋敷の事後処理に奔走したり、

破損させたデータの復旧に四苦八苦したりと、

イギリスのロンドンと日本の冬木を行ったり来たり、

魔術以外にも濃すぎる日常を送っていたボク。

 

 

そんな日々が三年ほど続いたある日。

ボクは遠坂師匠にある話を持ちかけられた。

 

「人理継続保障機関カルデア……ですか?」

 

「そ。やってることは名前の通り。

人類史の今後の繁栄を観測し、保障する。

何だか色んな研究を統合することで可能になった

偉業らしいんだけど……。」

 

遠坂師匠はその辺、興味なさげだ。

魔術師としては自己の研鑽くらいしか

興味がないので、余所の所業など本当にどうでも

いいのだろう。良い意味で脳筋な人だった。

 

「そこで何か問題が起きたそうでね。

適性がある人を魔術師、そして一般人からも

招集してるらしいのよ。」

 

「一般人からもですか?」

 

現代の魔術師にとって、神秘の秘匿は最優先だ。

それさえも度外視しているということは、

かなり深刻な問題なのだろうか。

 

「そこでなんだけどね?招集中の一般枠。

アンタ潜り込んじゃいなさい。」

 

「………はい?」

 

ナニヲイッテイルンダコノヒトハ?

 

「だーかーらー、カルデアの招集中の一般枠。

そこに一般人として滑り込んじゃいなさいって

言ってるの。」

 

「そういうことじゃないですよ!見たところ、このカルデアの主導者ってアニムスフィア家ですよね!エルメロイ家との繋がりがある遠坂家の弟子……

しかも一般枠でなんて無理に決まってます!」

 

ボクらしくもなく口調を崩してツッコむ。

シアンも声こそ出さないが、呆れているのが

伝わってきた。

ちなみにシアンの存在は未だ誰にも知られてない。

師匠達にも伝えないのは自分でもどうかと思うが、どちらもうっかり口を滑らしそうで信用できない。悲しいことに。

 

「ふふっ。その辺をこの私が考慮していないとでも思って?」

 

(「『思います』」)

 

シアンと心の声が重なった。

 

「その目、信用してないわね……。

だけど今回は完璧よ!これを見なさい!」

 

自信満々に渡された書類に目を通す。

カルデア配属マスター適性者採用書……って

 

「採用書⁉︎」

 

「既に根回しはバッチリよ。貴方はどこの派閥にも属さない零細魔術師の家系ってことになってるわ。魔術師登録してないから一般枠にも

捩じ込めたのよね〜♪」

 

いや問題はそこではなく。

 

「なんで勝手にこんなことを⁉︎

事後承諾にも程がありまs

 

「残念!異論は認めないわ!

今回のミッションで貴方は1番目立つ功績を挙げてきなさい!それが免許皆伝の条件よ!」

 

「え、えぇ……。」

 

そんな感じでなし崩し的にボクのカルデア行きが

決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

「大丈夫ですか先輩?」

 

あの後、ボクは俗にいう[寝落ち]をしてしまったらしい。

怒れる所長の制裁を受けたボクは初期メンバーから外され、自室待機を命じられていた。

 

「やってしまった……。」

 

「見事な寝落ちでしたね。

それに、どことなくレム睡眠だった印象でした。」

 

「それはどうでもいいかな……。」

 

「ともあれ、所長のチョップで完全に覚醒したようで何よりです。先輩の部屋までは……「フォウ!」きゃっ⁉︎」

 

「危ない!」

 

突如マシュに飛びかかったフォウに反応し、

とっさに捕まえる。

 

「大丈夫?」

 

「あ、はい。少し驚いただけですので。

……あの。フォウさんを放してあげてください。

いつものことなので。」

 

「あ、そうなんだ?」

 

「フォウフォーウ!」

 

手の中でジタバタしていたフォウを放すと、

フォウは再びマシュに飛びかかっていった。

 

「わぷっ。……フォウさんはこのように、

まずわたしの顔に奇襲をかけ、背中に回り込み、

最後には肩に落ち着きたいらしいのです。」

 

「……慣れてるんだね。」

 

フォウの行動に遠慮がない。

舐められているか、余程懐かれているか。

この場合は後者なんだろう………多分。

 

「フォウさんがカルデアに住み着いて、

もう1年になりますので。

ですが他のスタッフの前には姿を現さないので、

一種の都市伝説みたいになってますね。

〈彷徨うビッグ白リス〉だとか。」

 

「へ、へぇ……。」

 

極まった語呂の悪さだった。

 

「フォウ!クー、フォーウ!フォーウ!」

 

「ふむふむ。どうやらフォウさんは先輩をライバルとして迎え入れたようですね……。しかし人間を

好敵手扱いするリス(のような何か)は

アリなんでしょうか…?」

 

「いや、ボクに聞かれても……」

 

魔術の世界は未だにわからないことだらけだな……

 

「まあ、フォウさんの方ですから明日には

忘れているでしょう。それはそれとして。」

 

「?」

 

「実はもう目的地に着いています。

こちらが先輩用の個室となります。」

 

さっきから立ち話になっていたのはそれでか。

 

「……そうか。ここまでありがとう。」

 

なんだかんだで会った時からお世話に

なりっぱなしだ。この借りは必ず返そうと決める。

 

「なんの。先輩の頼み事なら、昼食(ランチ)を奢る程度までならうけたまわりますとも。」

 

それはどちらかというと先輩がすることでは?

 

「それではわたしはこれで。運が良ければまた

お会いできるかと。……おや、フォウさんが先輩のことを見ていてくれるのですか?

ならば安心ですね。」

 

「キュー、キュ!」

 

ボクの信頼はリス以下なのか?

密かに傷付きつつ、ボクらは別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

「ふう……。」

 

割り当てられた自室でベッドに座り込む。

なかなか質の良いベッドだった。

 

『大丈夫?GV。今日だけで2回も気絶しちゃってるんだから無理しちゃダメだよ?』

 

シアンは心配してくれていたようだ。

というか字面だけ聞いたら完全に重病人だな……

 

「いや、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。」

 

お礼を言ったらシアンが

「べ、別に。私はGVの……ゴニョゴニョ

とか言いつつそっぽを向いてしまった。顔が赤いが今のシアンは風邪をひいたりしないはずだ。

何故だろう?

 

「むぅ、GVのアンポンタン!」

 

「なんでさ……。」

 

そんなことを考えていたら何故か罵倒された。

師匠から感染った口癖が出る程度には唐突だ。

シアンを宥めつつ、今後のことなんかを相談して

いると、急に扉が開き、誰かが入ってきた。

シアンが慌てて姿を隠す。

 

「マギマギ☆マリ〜♪キュートにキラーン……ってうぇええええええええ⁉︎誰だ君は⁉︎」

 

こっちのセリフなのですが。

 

「ここは空き部屋でボクの聖域(さぼり場)だぞ⁉︎

誰の断りがあってここにいるんだい!?」

 

「なんでさ。」

 

よくわからないが、とりあえず言いたいことが

1つ。

仕事しろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

「いやぁ、すまないね!少しパニックになっていたみたいだ。初めましてガンヴォルト君。

予期せぬ出会いだったけれども、

改めて自己紹介させてもらうよ。」

 

部屋に侵入してきた男を落ち着かせ、

とりあえず自己紹介を、という流れになった。

 

「ボクは医療部門のトップ、ロマニ・アーキマン。

何故かみんなからはDr.ロマンと呼ばれている。

理由はわからないけど言い易いし、君も遠慮なく

そう呼んでくれ。なんだかんだで気に入ってるし。格好よくてどこか甘くていい加減な感じが特に。」

 

ニコニコしながらそう語るドクターに、

あぁ、これがシアンが言ってたゆるふわ系か……という感想を抱いた。

 

「初めまして、ドクター。」

 

「うん、今後ともよろしく……ん?」

 

「………………………」

 

「うわ、その肩に乗ってるのって噂の

〈ビッグ白リス〉⁉︎マシュから聞いてはいたけど

ホントにいたんだ!」

 

本当に噂になっていたらしい。

 

「手懐けたり出来るかな?はい、お手。上手く出来たらオヤツをあげよう。」

 

「……………………フウ。」

 

ドクターの手に微塵も興味を示さず、ベッドで丸まるフォウ。

 

「……あれ?今、すごく哀れなものを見る目で無視されたような………?」

 

何というかみじめだった。

閑話休題。

 

 

「……ま、まあ君の話は予想がつくよ。君は今日来たばかりの新人だろう?所長のカミナリを受けてここに来たとかじゃないかい?」

 

「……驚きました。正解です。」

 

流石は医療部門トップ。頭はいいらしい。

 

「ならボクと同類だ。何を隠そう、ボクも所長に叱られて待機中だったんだよ。"ロマニがいたら現場の空気が緩むのよ!"って追い出されちゃったんだ。」

 

予想外に理不尽な理由だった。

 

「まぁ、ボクの仕事っていってもマスター候補やスタッフの健康管理くらいだからね。今みたいな状況ならぶっちゃけ機械の方が確実で信頼できるんだよね!」

色々と台無しだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

「……以上がこのカルデアの構造だ。何か他に聞きたいことはあるかい?」

 

ここで、"実は全部知ってました"なんて言うのは無粋の極みだろう。ドクターがあまりに楽しそうに喋るので言うに言えなかったのだが。そんなことを考えていると、ドクターの腕に巻かれた機械から着信音らしき音が鳴った。

 

『ロマニ、あと少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか?』

 

聞こえてきたのはレフ教授の声。ボクにも似たようなものが支給され装着しているが、これにはどうやら通信機能が付いているらしい。このサイズで他にも多数機能が付いているなら、この世界ではかなりハイテクなものではないだろうか。

 

『急いでくれ。今、医務室だろ?そこからなら2分で到着できる筈だ。』

 

そんなことを考えている間に通信が終わったようだ。が、最後に聞こえた言葉に引っかかりを覚える。

 

「ここ、医務室じゃないですよね?」

 

「…………(スッ)」

 

「目を逸らさないでください。」

 

「うぐぅっ!」

 

隠れてさぼってるから……とボクが呆れていると、ドクターは開き直った。

 

「まぁ、少しくらいの遅刻は許されるさ!Aチームは問題ないって話だったし!」

 

……もう何も言うまい。

 

「まあ、呼ばれたからにはちゃんと行くさ。お喋りに付き合ってくれてありがとうガンヴォルト君。暇になったら医務室を訪ねに来てくれ。今度はケーキをご馳走しよう。」

 

「はい、それでは。」

 

『(ケーキ!)』と反応したシアンに苦笑しつつ、見送る。

ゆるふわした笑顔でドクターが扉を開けようとした時

 

–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

「なんだ?明かりが消えるなんて、なにか––––––––––

 

瞬間。響く爆音。地鳴りの如く揺れるカルデア。照明が紅く明滅し、緊急警報が鳴り喚く。

 

《緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、及び中央管制室にて火災発生。中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第2ゲートから退避してください。繰り返します––––––––––––––》

 

「今のは爆発音か……⁉︎」

 

「一体なにが起こっている⁉︎モニター、管制室を映してくれ!みんなは無事なのか⁉︎」

 

職員証をモニター横のパネルにかざし、ドクターが叫ぶ。音声認識機能が付いているらしいそれは指示どおり管制室を映し出した。

 

「これは……!」

 

燃え盛る業火。瓦礫に溢れていた。動く者は皆無。機能が停止したらしいカルデアスが、黒い太陽のように炎で照らされていた。そしてボクは気づいた。気づいてしまった。いや、目を逸らそうとしていただけか。

 

「…………じゃあ、あの娘(マシュ)は……?」

 

初めて会ったのは数時間前。一緒にいたのは1時間もないだろう。それでもボクは彼女を好ましく思っていたし。友達になれそうだとも思っていた。フラッシュバックする。元の世界の記憶。アシモフが放った凶弾。はしる激痛。閉じゆく視界のなかでしあんがおなじくうちぬかれてたおれていくのガミエテツギニメザメタトキニソコニハシアンノツメタイツメタイナキガラガカラダガシンジラレナイホドオモクテボクハナニモデキナクテ–––––––––––––––––––––––––––––––––––––ッ!

 

「っ⁉︎ガンヴォルト君⁉︎」

 

舌を噛んで痛みで無理やり頭を正気に戻したボクはドクターの横をすり抜け、駆け出していた。

能力と魔術を併用し、全速力で管制室へと駆ける。

 

「もう!何も出来ないのは嫌なんだっ……!」

 

走る。走る。馳せる。

20秒足らずで管制室へとたどり着いたボクを待っていたのは、文字通りの地獄だった。

 

モニターではわからなかった。炎はまるで竜のように叫び。崩れ続ける瓦礫たちは狂ったように嗤う。肉が燃える匂いが酷く鼻につく。そこは地獄だった。

それでも、ボクは踏み込む。生き残りが、マシュがいるかもしれない。だから。

 

「シアンっ…!頼む……‼︎」

 

『わかってる。絶対見つけてみせる!』

 

シアンが歌で超音波式探査(ソナー)もどきの探知を行う。ボクはその間に自分の足で探すだけだ。

 

《動力部の停止を確認。発電量が不足しています。》

《予備電源への切り替えに異常があります。職員は手動で切り替えてください。》

《隔壁閉鎖まであと40秒。中央区画に残っている職員は速やかに––––––––––》

 

1分か、2分か。いや、10秒かかっていないかもしれない。シアンが叫ぶ。

 

『GV!その先、30メートル先!あの娘がいる!』

 

「っ!」

 

シアンが指示した方向へ翔ける。炎も落ちてくる瓦礫も関係ない。電磁結界(カゲロウ)がある以上、全て無視できる–––––––––––––––!!

 

《システム レイシフト最終段階に移行します。座標 西暦2004年 1月 30日 日本 冬木》

《ラプラスによる転移保護 成立。特異点への因子追加枠 確保。》

《アンサモンプログラム セット。マスターは最終調整に入ってください。》

 

『GV!こっち!ここ!』

 

先行していたシアンが再び叫ぶ。そこには………下半身を巨大な瓦礫に潰されて、しかし、確かに生きている彼女がいた。

 

「……………………、あ。」

 

「しっかり!今、助ける!」

 

雷撃は使えない。この瓦礫を砕けば、マシュにもダメージが通ってしまう。単純に、退かすしかない……!

 

「………いい、です。……助かりません、から。それより、早く、逃げないと……」

 

「断る!」

 

「っ、えっ?」

 

「絶対に助ける!絶対にだ!」

 

能力と魔術による肉体の同時強化。酷使される肉体が激痛という悲鳴をあげるが、そんなものは知ったことじゃない……!

 

『GV!』

 

「っ!これなら!うぉおおおおおおおおっっっ!!!」

 

シアンの歌による強化。三重の強化を得た肉体がとうとう瓦礫を退かすことに成功する。

 

「…うそ。ほん、とに……?」

 

瓦礫は退かした。後はマシュを治すだけ。

ボクの第七波動(セブンス)蒼き雷霆(アームドブルー)の力の源であるEPエネルギーに魔術回路を接続し、擬似生命力として魔力に変換。限界以上の魔術を行使する。治癒魔術はボクの最も適性が高い魔術。

生きているなら、絶対に助けてみせる……っ!

 

「あ………………。」

 

「何……………⁉︎」

 

機能停止していたカルデアス。システムが復旧したのか再び稼働したそれは、しかし以前まで輝きとはまるで違っていた。

 

《観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを書き換えます。》

《近未来100年までの地球において人類の痕跡は発見できません。》

《人類の生存は確認出来ません。》

《人類の未来は保証出来ません。》

 

「カルデアスが真っ赤に……。いえ、そんな、ことより……。」

 

《中央隔壁 閉鎖します。館内洗浄開始まで あと60秒です。》

 

「隔壁が…もう………っ!」

 

「これ、では……外には…。」

 

歯を音がするほど、噛み締める。救命措置は終わっている。後はマシュに本格的な治療を施せばいい。ホムンクルスなんてものがある世界だ。下半身が潰された状態でも十分見込みはあるだろう。時間さえあればボクでもなんとかなる。が、その時間さえ今はない………‼︎

 

「……なんとかなる。」

 

それでも言葉を絞り出す。

 

「なんとかなる、してみせる。」

 

もう目の前で誰かを失うのはごめんだ。何か方法はある。考えろ考えろ考えろ考えろ!

 

《コフィン内マスターのバイタル 基準値に達していません。レイシフト 定員に達していません。》

《該当マスターを検索中・・・・発見しました。》

《適応番号48番 ガンヴォルト をマスターとして再設定します。》

《アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始します。》

 

『じ、GV!なんだか様子がおかしい!』

 

シアンの声が聞こえたが今はそれに耳を傾ける余裕がない。隔壁を破壊する?却下。原子炉なみの造りをしている管制室の隔壁は数十秒じゃ壊せない。地下にある発電所に逃げ込む?ダメだ。時間が足りなさすぎる! 時間が足りない。有力な案も全て時間に潰される。こうしている間にもタイムリミットは迫っているというのに––––––––––––––

 

「…………あの………せん、ぱい。」

 

「っ!」

 

マシュの声に思考を引き戻される。その顔を見てわかってしまった。ボクではもう、彼女を助けられないのだと。

 

「てを、にぎってもらって、いいですか?」

 

《レイシフト開始まで あと》

 

「……ああ、もちろんだ。」

 

《3》

 

彼女の手を握りしめる。せめて最期の瞬間までこの手を離すことはしない、と。

 

《2》

 

「…………あ」

 

彼女が弱々しくその手を握り返したのを感じて–––––––––

 

《1》

 

《全行程 完了(クリア) ファーストオーダー 実証を開始します。》

 

ボクの意識は途絶えた。




データが4回消えるという悲劇。
原因は排除しましたが、MPをゴリゴリ削られました。
次回からは特異点F。
6月中旬までに書けたらいいなぁ。

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