プチファンタジー・ストーリー   作:クリステリアン

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第36話 役立たず

 次の日は、屋敷を出てまた次の町に向かって歩きだした。今度こそ、コンパスの指している北東の町を目指す。

エドラント大陸(こっち)へきてもう結構歩いてるけど、まだ悪魔と出くわさないな」

「うん…コンパスの通りに進んでるのにな」

 4人は昼時まで荒野を歩き、昼食をとることにした。みんなで料理を作り、食べる。食後の後片付けのあとは少し木陰で休憩をした。

 サンクはきのう洞窟で手に入れた盾の錆を落としていた。一生懸命磨くと、あれだけ錆びてみすぼらしかった盾が、少し古くなった盾くらいには綺麗になった。

 

 その後は再び歩く。しばらくすると、茂みの向こうに2匹のバッタの魔物がいて、「あっあれ!」とサンクは興味を惹かれたように近づいていった。

「これははじめて見るなー」サンクは新しい魔物を見つけるとよくこうして喜んで見にいくことがあった。

「サンクってよっぽど魔物が好きなのね」

「あぁ!こんなにいろいろいるなんて全然知らなかった!」サンクはバッタの魔物を触り、嬉しそうだった。「この魔物はどんな技を使うんだろう…」

 再び歩き出す4人。

「まぁサンクは魔物を使って戦ってるから、魔物に興味があるのも無理ないな」とユードー。

「ぼくは魔物があんなに戦えるものだなんて思いませんでした」とラファエロもいう。

「なんか魔物同士を戦わせる競技もあるらしいな」

「うん!おれ、そのうちそれに出たいと思ってるんだ!」サンクは張り切っていた。

 ユードーは、「ふぅん、だが、それならほかにも魔物を使ってるやつらがいっぱい出てくるだろう。世の中にはもっと強い魔物もいる。サンクの魔物はそいつらだろう?物理攻撃したり、火を吐いたり…それだけじゃあこの先強敵が出たとき太刀打ちできないだろうな」といった。

 フィリナは、「あらぁ、魔物は戦えば強くなるわ。チビドラも育つとバハムートになるわよ」といった。

「なんだ!?バハムートって!?」

「そんなわけないです( > < )」

 4人は喋りながら歩いていった。

 

 そして昼過ぎ──。一行はようやく次の町であるリッセルに到着した。町を観光し、様々な店が並ぶ通りを歩く。武器や防具や、様々なアイテムや旅人用の便利グッズなど…。「これなんかいいなぁ」いろいろと気になる道具はあったが、値札を見ると『6000M』と書いてある。「うっ」とたじろぎ、結局その日は食品や日常品の補充以外は買わず店を見て歩いて宿屋にもどった。

 

 

 

 次の日となり、一行はまた町を旅立つ。次の町までは少し遠かったので4人は夕方ごろになりようやく町に到着した。疲れていたのですぐに宿屋を探し、部屋に入る。

 その後、夕食に、4人は宿屋の食堂へ食べにいったのだがそのときほかのお客が、「知ってるか?最近グランツライヒ領に出た悪魔のこと」「えっ、どんな話だい?」と話しているのが聞こえた。

「そこの領主の夫婦が悪魔の力によって石にされちまったらしいぜ」

「えっ?石?そりゃまたけったいな…」

「その話本当ですか!?」いてもたってもいられず、4人はそのお客の話に割り込んでいた。

「な、なんだい?お前たち…」驚いているお客に、「おじさん!おれたちその悪魔を探して旅してるんですけど、その場所ってどこにあるんですか!?」とサンクはいう。

「グランツライヒ領はこっからもう少し北東へいったところにあるけど…」

「ついに悪魔の話が聞けたか…」「やっと居所がわかったぞ…」4人は高ぶる気持ちをからだににじませていた。

「でもその悪魔には結局逃げられたんだろ?」

「うむ、まだ石のままだそうだ。領主が石にされたんじゃグランツライヒ領は大変だろうな」

「おれたちも安心して旅できねぇ」

「怖い怖い」男たちはまだ喋っていた。4人は深刻そうに顔を見合わせた。

 

 夕食後、4人は部屋へもどり話し合った。地図を広げ、「グランツライヒ領っていうのはこの町の北東ですから、あと半日も歩けば着けそうですね」とラファエロ。

「北東か…。コンパスの示していた方角通りだな」

「石にする悪魔なんてそうそういないからきっとそれが探していた悪魔でしょうね」

「じゃああしたさっそくそこへいってみようぜ!」サンクはいい、みんなも賛同した。

「朝になったらすぐ出発しよう!」ということで、今夜は早めに寝ることになったのだが、みんな興奮してなかなか寝付けなかった。

 

 

 

 そして朝──。

 サンクたちは支度をして宿屋を出た。町を歩いて通り抜け、やがて草原に出る。コンパスを確かめると、「ここを北東に歩いていけば、探している悪魔は見つかるでしょう」「よぅし!じゃあそこに向かって進もうぜ!」4人はきのう聞いたグランツライヒ領目指して歩いていった。やがてあたりは草のまばらな荒野に変わっていき、町を出て1時間ほどたち、ちょっと休憩を取っていたとき──。

「あっ!」ユードーが、バッグを見て叫んだ。

「どうも宿屋に忘れ物をしてきたらしいんだ。悪いけどさっきの町までもどってくれないか?」

「えーっ!」「めんどくさいわねぇ」 4人は嫌がりつつも、仕方なくまた町まで走ってもどることにした。やがて町に着き、宿屋まで向かうと、ユードーはなかに入り、忘れ物を取りにいった。だが、しばらくして出てくると、ユードーはガックリした顔をし、「この宿屋にはなかった」といった。

「ええっ!?」「じゃあ捨てられてたの?」

「いや、宿の主人にも聞いてみたんだが、捨てた覚えはないそうだ」ユードーは考えながらいった。「どうもここに忘れたわけじゃなかったらしい」

「それじゃ、どっかほかのとこで落としたとか」

「いや…宿の中でしか出さなかったと思うが」ユードーは思い出していたが、そのときハッとして、「そうだ!忘れたのはここじゃなくてきのうの朝出てきたとこだ!あの宿屋で出したのは覚えてるんだが、それ以降は見た覚えがない!」

「きのうの朝…?」「あぁ、リッセルの町の…」

「じゃあ今度はそこまでいくのかよ?」

「たしかあそこってここから少し離れてて丸1日歩かないと着きませんでしたよね」きのうあの道のりを歩いて4人はくたくたになってしまったのだ。

「フィリナ、あの町までテレポートでもどってくれないか!」とユードー。「あそこまではだいぶ遠いし、もどるのはめんどくさいよ!頼む!」

 む~っ、とフィリナは面倒そうな顔をしつつも、「しょうがないわねぇ」とみんなと手を繋ぎ、テレポートしてくれた。

 

 フッと、リッセルの宿屋の前に着き…。宿屋に入り、ユードーは受付の女主人に忘れ物のことをきいてみた。すると、「はいはい、あの服ね。忘れてあったようだからちゃんとここにとってありますよ」と洋服を出してくれた。みんなは喜び、ユードーは洋服を受け取った。

「よかった!やっぱりここだったんだな!」

 4人は宿屋を出て「いやー、助かった!面倒かけたな!それじゃ、またさっきの場所にもどるか!」とユードーはいった。

「また歩いてあの町までいくのはめんどくさいよ!フィリナ、テレポートでもどってくれ!」とサンク。

「またぁ?」フィリナはラファエロを見、「ラファエロはテレポートは使えないの?」ときいた。

「ぼくは男だからテレポートは習得しなかったんです」とラファエロ。

 フィリナは仕方なさそうに、「それじゃ手を繋いで」というとテレポートした。

 

 目を開けると、そこはけさ出てきた町の宿屋の前だった。「さぁ、着いたわ」

 ユードーは周りを見、「さっきの宿屋の前じゃないか」

 サンクは、「じゃあまた悪魔のいる場所を目指さなきゃな!」

「これから?」

「だってここからあと少しみたいだし、それに早くいかないとまた逃げられるよ!」

「そうだな。それにきょうはまだ時刻も早いし」とユードーも頷いた。

「う~ん…」

 いまちょうど午前中であった。4人は再び町の出口へと歩いていった。

 

「でもどうせならおれたちがさっき休憩してた場所へテレポートしてくれりゃよかったのに。そうすりゃこんなさっきと同じ道を歩かなくて済んだのにな」とユードー。

「それは無理だわ。テレポートできるのは宿屋の前だけだもの」

「なんだって!?」

 正確には自分がMP回復した建物の前じゃないといけないそうだ。

「前に休んだ宿屋の前限定とかなんてしょぼいテレポートなんだ!」

 これまでフィリナのテレポートが宿屋の前ばかりだった謎がようやく解けた。しかも、話を聞けばテレポートは記憶を元にしていくので長くても3ヶ月以上たってしまうとできなくなってしまうらしい。それ以上だと記憶が薄れてしまうそうだ。

「記憶力が悪いんじゃないのか?」とユードーはいうが、人よりかなり優れた記憶力を持ってして3ヶ月なのだ、といい返されてしまった。

「ワープポイントといって同じ力を込めた2つのパネルがあれば、建物の前以外でも離れた場所同士で行き来できるけどね」

「ワープポイント?」

 フィリナがアレスポッドで運送屋をしてたときに使ってたやつだ。ワープポイントというのは定期的にMP注入が必要で、設置には国の許可がいるらしい。

 

 さっきの荒野に来て、4人は食事を食べてからその後も歩いていったが、その途中魔物の群れに出くわし、襲われたりした。

「ポロ!突進だ!」「おりゃあ!」と攻撃!いつのまにか後ろに回り込まれ、フィリナもとっさにライトアタックやブライトボールで追い払った。なんとか魔物たちを撃退し、4人はホッとして再び歩き始める。

「しかしさっきは驚いたなー」

「あんなにたくさんの魔物に出くわすなんてな」

「しかも襲ってくるなんていつもはそうそうありませんよね」

 

 そうしてしばらくの間歩いたのだが、向こうからだれかが走ってくるのに気づいた。それは、若い女性で、女性はこちらに気づくと血相変えた表情で駆け寄ってきた。

「あなたたち!お願い!こっちにきて!」4人は驚き、「どうしたんですか!?」といった。息を切らし、ハァハァいいつつも向こうのほうで悪魔が出て妹が襲われてると伝える女性。

「悪魔だって!?」「本当ですか!?」ラファエロはとりあえず女性にヒールをかけてあげ、みんなは女性に率いられその悪魔のところまで走った 。すると木の向こうになにか騒いでいる声と、大きなものが動いているのが見えた。

「助けを呼んできたわよー」 見ると、女性が大きな悪魔から攻撃を受け、それを必死にかわしているところだった。

「お姉ちゃん!」悪魔の攻撃を受けようとする寸前で、4人は駆けつけ、ユードーやサンクの魔物の攻撃で防いだ。フィリナとラファエロは急いで妹という女性をその場から遠ざけ、姉の元へと連れていった。

「なんとか間に合ったみたいね…」妹は、悪魔から逃げまどい、くたくたに疲れ果てていたものの、特に目立った外傷はないようだった。

 サンクとユードーはその太ったしっぽのない恐竜みたいな悪魔に攻撃をし、フィリナやラファエロもそれに加勢した。助けを求めてきた姉妹は離れたところから身を寄せ合ってこちらを見ていた。

「プロテクションバリアー!」ラファエロがみんなの防御力を上げる!

「うおりゃあっ!」「ポロ!噛みつくんだ!」ユードーとサンクも攻撃し、フィリナも攻撃しようと手を出す。

「ライトアタック!」…が、手からはなにも出ず、フィリナは一瞬なにが起こったのかわからないように目を点にしていた。サンクたちもそんなフィリナに何事かと思って振り向いた。フィリナはもう一度技を出そうと手をかかげてみるがやはり手に光は集まらず、そしてフィリナは気づく。

「MPがない!」「ええ!?」悪魔がこちらに攻撃してきて、4人は慌ててそれをよけた。

「ホントかよ!?」

「MPがないんじゃ戦えないんじゃないか!?」

 技が出ないなら…とフィリナはバッグから鞭を取り出し、それで「ハアッ!」と叩いてみる!

 …が、悪魔はポリポリと尻をかいただけだった。

「なんだ!蚊に刺されたみたいだぞ!」

 MPを込めなければ鞭攻撃は力依存になってしまい弱いのだ。フィリナは落ち込み、いじけたようにしゃがんでいた。

「全然きいてないじゃないか!」「なんだよ!使えねーな!」サンクやユードーに文句をいわれ、「あんたたちがテレポートさせるからでしょ!」とフィリナは怒った。

「グォォ~ッ!」「わあっ!!」また悪魔が突進してきて、4人は慌てて逃げた。

「ちょっと町にもどっただけなのに…」「MP回復まであとどれくらいかかるんだ?」ユードーにきかれ、「あと3時間はかかるわ!」とフィリナは答えた。しかも、眠らなければ完全回復はできないのでいま戦う量だけだ。

「仕方ないなー、フィリナは後ろに下がっててくれ!」

「あぁ!いられても邪魔だからな!」

 サンクとユードーはまた悪魔と戦い始めた!

「チビドラ!そっちに回れ!」「はあっ!」時々敵からも攻撃を受け、「ヒール!」とラファエロは回復させていた。

 後ろに離れて、フィリナはそれを歯がゆい思いで見ていた。MPをなくしたフィリナはなんのエスパー技も使えない。役立たずであった。

「ポロ!いまだ!体当たりだ!チビドラも火を吐くんだ!」

 サンクは魔物で戦っている。チラ、とフィリナはそれを見る。

(サンクみたいに、わたしも魔物で戦えればいいのだけど…)

 MPのないフィリナは魔物の召喚もできないのだ。

(魔物を持ち歩いてればよかった…)とフィリナはそのとき思った。

 その後もサンクたち3人は戦い続け、ついにダメージを与え、「グァァ~ッ!」と悪魔は消えていった。フィリナがいないことで、少し苦戦したが、どうにか勝つことができた。

 さっきの姉妹は駆け寄ってきて、「あっありがとうございます!」とお礼をいった。

「いや、なに、このくらい軽いもんだ」ユードーは得意げに。

「このあたりは魔物も出るようなので気をつけませんとね」

 姉妹は、「わたしたちグランツライヒ領まで帰るところだったんです。近いのでだいじょうぶかと思い、乗合馬車には乗らなかったのですが…」

「なに?グランツライヒ領?おれたちもちょうどそこまでいくところだったんだ。それならおれたちと一緒にいかないか」とユードーはいい、この姉妹も一緒にそこまでいくことになった。

 ユードーと姉妹はいろいろ会話しながら歩き、やがて1時間もすると町に到着した。姉妹はお礼をいい、家にもどっていった。

 

「ここがグランツライヒ領か…」「あの悪魔がここに…」と町を見つめる。

 

 ついに4人は悪魔が出たと噂に聞いた町に着いたのだった!

 


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