近くで寝ていたサンクたちはその声に目を覚まし、寝ぼけまなこであたりを見回した。
「なんだ?」
「あ、あれ…」
フィリナの示す方向を見ると、そこにはぼうっとたたずむなにか妙なものたちがこちらを見ていた。それを見てサンクたちもぎょっとし、「な、なんだ…?あれ…」といった。ランタンをつけてみる。その妙なものたちは5、6匹いて、サンクたちはその姿を恐る恐る眺めた。
「こいつら一体…」「まさか、悪魔…?」
ラファエロはじっと見つめ、「いえ、どうもみんな魔物のようですね」
フィリナも「ほんとだわ、みんなアンデッドの魔物ね」といった。
「この丸い光はウィスプね。こっちの紫色のからだをしてるのはエスプリッチ」フィリナは魔物を手で示しながらいった。ほかにも骸骨のような魔物や青白く光るゴーレムみたいな魔物がいた。先ほどフィリナの顔を覗き込んだ白い顔は、布をかぶったようなアンデッドの魔物だったのだ。
「その通り、わしらは魔物じゃ」突然エスプリッチがいった。4人はぎょっとして「魔物が…」「喋った…!!」と驚く。
「この屋敷はわしらのような一度死んでいるものが集まり棲家にしているのじゃ」
「一度死んでるだって?つまりここはお化け屋敷ってことか?」とユードーは魔物たちを見る。
「今夜この部屋にきてみたらお前たちが眠っているのを見つけた。お主らなにゆえこの屋敷におるのだ?」
魔物にきかれ、4人は戸惑ったように顔を見合わせた。
「…その、さっき野宿しようとしたら雨が降ってきて、どっか雨をしのげる場所を探してる途中この屋敷を見つけたんだ」
「てっきりだれも住んでないと思ったもんだから入ってみて…」
魔物はそれを聞くと、「ほほぅ、お前たちは旅をしておるのか」といった。
「えぇ」「まぁ…」
「冒険者ということだな」
「あぁ!」
魔物たちは顔を見合わせた。
「それでは、さぞいろんなところを見てきたんじゃろうな」
「そりゃあ、いろんなとこにいったさ」
「あぁ!あちこち旅してきて、ギルドで依頼を受けて、そのたびにあちこち出向いて…」
4人は冒険者としてのこれまでの苦労やおもしろかったことなどを話した。魔物たちはそれを聞き、目と目でなにかを合図しあったようだった。
エスプリッチは、「そうか…じゃあわしらからもお前たちに1つ頼みがあるんじゃが聞いてもらえるだろうか」といった。
「え?」4人は驚く。
「実はある山にある洞窟にいってもらいたいのだ」と魔物。
「洞窟?」
「あぁ、この屋敷から東にいったところにトライル山という山がある。そこの洞窟にペールゴーストが住んでおるんだが、わしらは以前、そのゴーストといろいろあってな、ある手紙を届けて欲しいんだ」
「手紙?」
「あぁ、昔のことを…謝りたい」
4人はポカンとそれを見つめた。
「いってくれないだろうか?」
4人は少しの間お互いの顔を眺め合う。そして結論は決まり──
「山へ、手紙を届ければいいんだな…?」
「おお!いってくれるのか!」
「まぁ…」と頷く。
「会いにいって欲しいのはロイドという名のペールゴーストだ。手紙を渡してくれたらお礼を渡そう」と魔物はいった。
「詳細はあした話そう。今夜は遠慮なくここに泊まってくれ、ではあすまた改めて」
魔物たちは部屋を出ていった。ドアが閉まり、サンクたち4人は顔を見合わせる。
「…なんか、妙なことになっちゃったな…」
「魔物からの依頼かー」
「でもここってユーレイ屋敷だったなんてな…てっきりだれもいないと思ってたのに…」
「あしたまた話を聞けばいいわ。とりあえず今夜はもう寝ましょう」
「そうだな、眠いしな」ユードーはあくびをし、またランタンを消した。そして4人は再び眠りについた。
翌朝──。雨はすっかり上がり、晴れた日差しが窓に差し込んでいた。4人は起き上がり、昨夜のことを思い出してアンデッドたちがまたくるのを待った。たしかきょうまたくるみたいなことをいっていた。
だが、待っても待っても魔物たちは姿を見せず──4人は痺れを切らして探しにいくことにした。
ドアを一つ一つ開けて部屋を次々に覗いてみる。すると、カーテンの閉まったままの薄暗く、豪華な調度品に囲まれた大きな部屋に魔物たちはいた。
ソファにもたれていたエスプリッチに、「ねぇ、おれたちに手紙を届けてほしいんじゃないの?」とサンクは肩を揺さぶった。
エスプリッチはそれまで寝ていた目をとろんと見開き、「おぉ、そうだった」ゆっくりとからだを起こすと「わしらこの時間になるとそろそろ眠くてな、おい、お前たち、起きろ」棺の中やら床の上で寝ていた魔物たちは揺り起こされ目を覚ました。
「昨夜お前たちには山へいってもらうことを頼んだんだったな。いいか、いってもらうトライル山というのはこの山だ」魔物は近くにあった巻物を取ると広げ、その地図に載っていたある山を指差した。4人はそれを覗き込んだ。
ユードーは少し考えていたようだったが、「…その山って魔物とか悪魔とかおれたちが立ち入ってもだいじょうぶなのか?」
魔物は、「そうだな、割と強い魔物も多い」えっ!?と4人はたじろいだ。
「だがきみたちのレベルならきっとだいじょうぶだろう。わしが見たとこ」と魔物。
「…」と4人は顔を見合わせた。
4人は屋敷を出発することになり、魔物たちは玄関まで付き添った。
「これが渡してもらう手紙だ」エスプリッチは封筒を差し出した。それを受け取るサンク。「昨夜のうちに書いたんだ。それをロイドというペールゴーストに渡してくれ」
「正確な場所はわからないのか?」ときくユードー。
「あいにくといまはあの山に住んどるとしかわからなくてな、洞窟内を探していればいつかは出会えると思う。手紙を渡したものの名前はアースといえばわかる」とその魔物アースはいった。
4人は、魔物たちに見送られ、ひとまずその山へと歩いていった。
屋敷から遠く離れて、「頼まれた山ってのはここから東へ歩いていけばいいんだよな?」
「そうです。ほら、あの山あいの向こうに高い山が見えるでしょう?」ラファエロが示した先には低い山々の向こうにうっすら険しそうな山が見えており、目的の山にはまだだいぶ遠そうだった。
「北へいかなきゃいけないのにまた遠回りかー」サンクはちょっと不満そうな顔をした。
「それから、魔物に手紙を渡すんだったな」
「そうです。その山に住むゴーストに」
ユードーはちょっと考え、「…あいつらのいってたことって本当に信用していいのか?もし、その山にいったおれたちをなにか危険な目に遭わせようとしてたら…」
そういわれ、みんなは少し顔が曇った。今回は直接魔物から依頼を受けた。ギルドを通さない依頼は相手が信用できないとよほど警戒しなくてはいけない。
「あいつらお化けとかってちょっと気味悪かったしな」とユードー。
フィリナはうーんと考え、「悪い魔物じゃなさそうだけど…」といった。
「とにかく、一応いってみてもし危険そうなら逃げられる用意をしておくんだ!」
4人は小高く盛り上がった草原のなかの獣道を歩いていった。そのうちに日も暮れ、その日はトライル山までたどり着けなかったのでテントで野宿することにした。
朝となり、また出発する。もうだいぶ山も近づいていて、この分なら今日中に山にたどり着けそうだった。そして山はさらに近くなり…
「どうやらあれがトライル山のようですね」地図を見ながらラファエロはいった。
「あともう少しだな!」
「この山に魔物がいるんだよな?」
「そうよ、それでその魔物に預かった手紙を渡して、謝りたいといってたわ」
山は険しそうな形をし、少し霧が立ち込めた怪しげな山だった。4人は山にたどり着く。
「まずは洞窟に入るため入り口を探そう!」
そして、探し始めて30分ほどたち、岩にあいた大きな入り口を見つけたのだ。
「これが洞窟だな」
「よぅし!それじゃ、入ってみるぞ!」みんなはごくっと息を飲み、緊張しながら洞窟へと足を踏み入れた。ランタンをつけると洞窟内がよりはっきりわかった。
「ひょ~、かなり広い洞窟だな」ユードーは上を見ながら。
「じゃあ依頼されたゴーストってやつを探そうぜ!」とサンク。
「ペールゴーストというのは魔物で、だいたいこんな感じの水色のからだをしてるわ」フィリナは紙にかいた絵を見せた。
「この洞窟ではほかにも魔物や悪魔がいっぱい出るといっていました。気をつけて進みましょう」
4人はあたりに気を配りながら進んでいった。フィリナは杖を出し、サンクはいつなにが出てもいいように剣を取り出した。
「しかし、このなかから探すのは大変そうだな、せめてなんか手がかりくらい教えてくれりゃいいのにな」
「仕方ありませんよ。まずはこっちのほうから探してみましょ」
洞窟の中を歩き、あたりを照らしながらゴーストを探していった。その途中、4人はいくつか魔物を見つけた。からだが岩でできた魔物やきのこの魔物……なかには襲ってくるものもいて4人は戦って追い払った。
また、この洞窟ではアンデッドの魔物もよく見かけたが、それは人形や骨のような魔物で、ゴーストではないようだった。でも、4人はなにか手がかりが得られるんじゃないかとゴーストのことを尋ねてみたのだが、アンデッドたちはまるで脳がないようにぼーっとして4人のいうことも右から左へ通り抜けているかのようだった。みんなは諦め、また洞窟内を探す。