プチファンタジー・ストーリー   作:クリステリアン

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第29話 海辺のサバイバル(節約)生活Ⅱ

 それからも4人はそれぞれ依頼や闘技大会をがんばる日々が続いた。その日も川原にみんながもどったあと、食料を集めた。

 フィリナは食料がある程度集まったので、調理器具を出し、下ごしらえをしたりしだした。きょうもまた魚と野草のスープだろうか…そんなとき、音がして、みんながもどってきたんだと思いフィリナは顔をあげた。

「ヒイィィィ!」それを見てフィリナは毛を逆立たせたじろいだ。なんとサンクとユードーのうしろのフメイジュが死んだイノシシを持ち上げてやってきたのである。ぶらんと垂れ下がったイノシシは傷で赤く染まりポタポタと血が滴っている。

 ユードーは、「さっき野草を取ってたらちょうどイノシシを見つけたんでおれたちで狩ったんだ。ちゃんと血抜きもしておいたぞ」

「な…な、そっ…!!」

 フィリナはなおも身を引いていたが、サンクが、「ここんとこ魚と野菜ばっかだったからな。やっぱり肉も食べたいってことで狩ることにしたんだ」といった。

「さっそく食べようぜ!」ユードーはナイフを取り出し切り始めた。

「解体、できるの?」

「うむ、1人旅のころはたまにやってたからな」ナイフがグサリと刺さり、どんどん皮や骨、肉が切り離されていく。イノシシの形から血のついた肉や骨が現れる様はとてもグロテスクだ。

「うぅ…」フィリナはうしろの木から隠れてそれを見ていた。

 やがてユードーは夕食分の肉を切り分けた。残りの肉は冷蔵BOXにしまっておくことにした。火をつけてジュージュー焼き始めた。

「なんか、さっき死体を見ちゃったから食べにくいわね」

「フィリナはいらないのか?」

「たっ食べるわよっ!」

 やがておいしそうな匂いが。

「わあっ」

 肉が焼けマスタードとか酢でソースを作ってこんがりと焼けたステーキと茹でた野草を付け合わせにしてみんなで食べた。肉はユードーの趣味によりかなり分厚かったが、「うむ、ちゃんとなかまで火は通ってるようだな」「う~ん」「おいしい!」みんなおいしそうに味わっている。久しぶりに肉を食べ、今晩はそれだけでもうお腹いっぱいになってしまった。肉だけで食事をするなんてとても贅沢な気がした。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 さて、次の日も4人はクエストや闘技大会に出かけていった。その日も荷物の配達を終えたフィリナは、また町を見てからテレポートでアレスポッドにもどってきた。グタッとする。

 ギルドで報酬を受け取り、またキャンプ地へともどる。すると、「フィリナ!」サンクがこちらにやってきた。「サンク!きょうは早いのね!」「うん、いつもより早く終わったんだ」「ラファエロは?」「ちょっと寄りたいとこがあるからあとから来るってさ」「きょうはどんなことをしたの?」「きょうは…」2人で話しながら歩いていった。

 町を抜け、「それでさ、雑草を取らされたんだけど…」サンクはよそ見をしながら歩いていた。建物の角を曲がろうとしたそのとき──「ん?」ドンッ!とサンクはだれかにぶつかりよろめいた。

 ズズーンと、「おぅ、なんだ?おまえ、人にぶつかりやがって」男が2人に突っかかってきた。うしろにも数人の柄の悪そうな男たちがおり、どれもこれも大柄で強そうで2人は顔をひきつらせ青ざめた(ギャグ顔で)。

「どうした、どうした?」「こいつがぶつかってきやがったんだ」「別にわざとじゃ…」サンクは弁明するが、男たちは、「そんな言い訳通ると思ってんのか?あぁ?」「生意気に女つれやがって」とにじり寄る。フィリナは素足に短いローブだ。

 ダメだ──聞く耳持たない。サンクは前に出た。サンクがポロやチビドラに目配せしたときうしろから喧嘩を売ってきた男の肩をだれかがつかんだ。「なんだ?」とたん、地面に突き飛ばされた男!みんながびっくりしていると、「おれの連れになんか用か?」そこにはユードーが立っていた。「なっなんだ?おまえ」ユードーは腕を鳴らし、いまにも戦う態勢を見せている。男たちのうちの1人がハッとし、「こいつ…!きのうの闘技大会で優勝してたやつだぜ…!!」と叫んだ。「なんだって!?」みんなは驚いていた。「あぁ…会場で見たから間違いない」「おまえあの大会出てたもんな…」ユードーが近づくと、男たちは恐れ後ずさり、やがて「ひ~っ!!」と走り去ってしまった。

「フンッ」ユードーはふんぞり返ってそれを見た。サンクとフィリナはポカンとそれを眺め、「ユードー、大会で優勝したって…」ユードーは「あぁ、きのうの円盤投げでな。まぁたくさんある競技の1つに過ぎないが」

「すごい!」「すごいわ!」サンクとフィリナは口々に驚きを表した。

「きょうは大会の予選だけでな、いつもより早く終わってちょうど帰るとこだったんだ」

「それで通りかかったのね。ちょうどいいところにきてくれてよかったわ。追い払ってくれてありがとう」とフィリナ、「あしたも大会に出るの?」とサンクがいった。「あぁ、あしたは格闘技の試合だ。それで今回の闘技大会は最後なんだとさ」それを聞き、「じゃああした見にいこう!」と2人はいいあった。ユードーから時間を聞き、予定を確認していた。

 

 

 

 次の日──。

 大会の行われるコロシアムの前でサンクとラファエロのもとまでフィリナは走ってやってきた。

「ハァ、ハァ……間に、あった?」「フィリナ、落ち着けって」フィリナは請け負っていた依頼をできるだけ早くすませてから急いでやってきて、どうにかユードーの出る時間にはぎりぎり間に合った。サンクとラファエロはきょうは休みをとっていた。

 闘技大会の行われるコロシアム。面積2万㎡ほど、屋外型で円形をしており観客席には街内外から訪れた観客が多数ひしめいている。

 司会者が現れ次の試合が始まるアナウンスがあった。

「いよいよです」観客席で、サンクたちは固唾をのんで見ていた。ついに選手が登場した。

「あっ!ユードーだわ!」闘技場にはプロテクターを付けたユードーと相手選手がいた。そしてレフェリーの合図で試合が始まった!

 さっそくユードーが相手にパンチを繰り出す!相手はそれを受け倒れこむ!続いてユードーは相手の後ろ首に肘鉄を下ろしたが、これは相手によけられ、相手もパンチで反撃!それをよけたユードーが相手のからだに勢いよく体当たりして相手は地面に叩きつけられそのまま倒れ込んでしまった。

「痛そうだわ」フィリナは眉をひそめ、サンクとラファエロは息をのんで見ていた。

 レフェリーがカウントを取る。が、10数えても相手は伸びていてついに起き上がらなかった。KO!観客席からわっと歓声があがった。ユードーの勝利に、3人もキャイキャイ声をあげていた。

「わあっ!」「いつも通りのすごさですね」

 その後、いくつかの試合を経てユードーは途中何度か攻撃を食らいながらも順調に勝ち進んでいきそのたびに3人は歓声をあげた。

 そしてついにユードーは決勝戦まできた。会場にアナウンスがあり、ユードーが登場する。ワアアッと歓声があがった。そして対戦相手が登場する。こちらも歓声があがった。試合が始まる!

「うおおりゃああ!」ユードーのパンチ!が、相手はサッとよけ、隙をついてユードーの腹にパンチ!「うっ」それを食らい、のけぞる!かなり効いたようでユードーは苦痛な顔だった。立ち方もふらりとしている。サンクたち3人はハラハラして見ていた。続いて相手選手は殴ろうとしてくるが、それをユードーは凄まじい気力で見切り、腕をつかんだ!そして地面に放り投げる!相手選手はベシャと地面に叩きつけられた。ユードーはそこを押し潰そうとしたがよけられた。

 その後も2人は激しいパンチやキックを交え、何度も攻撃を食らう。これまで見たこともない接戦に3人は「あんなに苦労するなんて…」「勝てるでしょうか」と驚いていた。2人ともくたくたといった感じだ。

 相手がこちらに蹴りを入れようとしてきたとき、ユードーはそれを見切り、足をつかむと「ハァァ…」 相手のからだをグルグル回して地面に叩きつけた!「ぐあっ!」ズシャッ!地面に叩きつけられ、相手はついに倒れた。レフェリーが近づきカウントを取る。

「1、2、3…」ピクリと動き、起きようとする相手選手。「6、7、8…」が、結局立ち上がることはできず、力尽き伸びた。「10!」ワァァ!!とコロシアム中から歓声が沸き上がる!3人も歓声をあげながら顔を見合わせ喜びあっていた。ユードーは両腕を上げ、勝利のポーズをとっていた。

 これで町の闘技大会も終わり、ユードーは今回もまた優勝という快挙を成し遂げたのだった。3人も誇らしい気持ちでそれをたたえた。それにこれによって賞金も手に入るだろう。

 

 

 

 その後の晩餐会(いつもの川原での夕食であるが)で、夕食を食べながら3人はユードーをたたえ喜んでいた。

「でもすごいな、優勝するなんて」「しかもきょう以外に出た種目もですからね。同じパーティとして誇らしいです」「ユードーが筋力に優れてるのは知ってたけどあそこまでとはね」もぐもぐステーキを食べながら。

「いや、ありがとうよ。みんな」先ほどの戦いで、ユードーは顔やからだが少しはれたり傷ついていたが、そこはラファエロが治してくれてすっかり綺麗になっていた。

「まぁ、大抵楽に勝てたけど、最後はさすがに決勝だけあって思ったより手こずったぞ。やはりおれもまだまだ戦い方を磨かねばならんな」ユードーは自分の拳を握りしめ、見つめた。今大会での表彰と賞金受け渡しが4日後にあるそうだ。

 

 ユードーは大会も終わり暇になったので次の日からはまたサンクやラファエロとクエストにいっていた。一方フィリナは、休んでいた町お抱えのエスパーの病気が治り、このところずっと続いていた運送屋の仕事がきょうまでで契約終了だといわれた。

「いままで本当にありがとう」と雇い主からはお礼をいわれた。そこでフィリナは次の依頼を受けようと、アレスポッドのギルドで、サンクたちがもどってくるのを待った。サンクたちがもどってくると、フィリナはかけていき、「わたしもあしたからまた一緒にいくわ。これまでの仕事の契約が終わったの」

 そこでサンクたちと一緒にフィリナもあした仕事の依頼を受けようと職員にきいてみたのだが、サンクたちのこなしている依頼はそろそろ繁忙期も終わって手伝いもそれほど必要ないのだ、といわれてしまった。きみたちががんばってくれたおかげかもな、と褒められたが、それなら今後サンクたちもまた新しい依頼先を探さねばならないということだ。

「おれたち、お金が必要だからまたなにか依頼が欲しいんですけど」「依頼か」職員は書類をめくり眺めだしたが、「あっそうだ!」となにか思い出したように叫んだ。

「じつはある悪魔の討伐依頼があるんだ。その悪魔は前に依頼を受けて全国のギルドに指名手配書を貼っていたんだがうちの町にいることがつい最近わかった」「悪魔だって?」依頼を持ちかけられて、4人も依頼書を覗いてみた。ギルド職員はさらにその依頼について説明。すると報酬が、これまでの雑用クエストよりもはるかによかった。

「さすが、討伐クエストだけあって報酬がいいな」

 これさえクリアしてしまえば残りの船代はすべて稼ぎ終わることができるだろう。

「その依頼、受けます!」4人は職員から悪魔のいる場所を教えてもらい、討伐書を受け取った。まだあしたまでは仕事を引き受けていたので、討伐には明後日いくことにした。

 

 そして翌朝。きょうはサンクとユードーとラファエロは最後の雑用クエストにいくことになっていた。そしてサンクたちは出かけていき、フィリナはそんなサンクたちを見送った。フィリナはもう仕事もなく、きょう1日特にやることもなかった。みんなが帰ってくるまでどうやって過ごそう……フィリナは考えていたが、そうだ!あれを作ってみよう!と思いついた。この町で節約生活を始めてからというもの食べるものはずっと魚貝や野草ばかりだった。最近はサンクやユードーがとったイノシシ肉も加わったが、それだけでは足りない。フィリナはそろそろパンが食べたくて仕方なかったのだ。小麦粉なら買ってあったはずだからそれで自分で作ってみよう!フィリナは嬉しそうにキャンプ地へともどった。

 

 川原で。石の上に材料を出しフィリナは考えた。小麦粉にボール、それにフライパンなど。本当は卵や牛乳も欲しかったが、いまはないのだから諦めるしかない。さぁ、さっそくパン作りの開始だ!まずは生地を作らなければいけない。フィリナはパンなら以前作ったことがあるのだ!

 

水色髪ロングウェーブのフィリナのママン「さぁフィリナ、きょうはパンを作りましょうね」

フィリナ「わぁい」

ママン「こうやって生地をパンの形にしてね」

フィリナ「うん」お手手でこねこね

ママン「あとは焼くだけよ」

フィリナ「わぁい」

 

 ……あれ?小さい頃のことを思い出し、フィリナは難しそうに眉を寄せた。

 自分は生地がどうやってできるのか知らないではないかorz

 フィリナはうなだれたが、気を取り直す。仕方ない、とりあえずあの感じ目指してやってみよう。

 

 とりあえず、小麦粉を水でこねてみよう。フィリナはボールに小麦粉をあけた。それから…と塩も取り出す。パンになにも味がないのは寂しいから塩味くらいは必要だろう。塩も少し入れ、水を加えながらこねてみた。パンの生地をイメージして……もう少し柔らかかったような気がする……水を足してみよう。うっ…ベトベトして、気持ち悪い生地になってしまった。もう少し小麦粉を足して…と、どうにかパン生地っぽいものがボールにできた。少し硬い気もするがこれ以上水を加えるとベトベトになってしまうのでこんなものなのだろうか?

「あとは」フィリナは石で土台を組み、火を起こし、そこにフライパンを乗せた。そして薄く油をひき、生地を丸っぽく形成してそこに入れる。火が通りやすいように少し平ら目だ。しばらく焼き、そろそろいいかしら…とひっくり返してみる。裏面はちょうどよさそうなきつね色に焼けていた。フィリナはそのまましばらく待ち、もう一面も焼けるまで待った。試食しようとする。「ひゃん」焼けたものに触れ、フィリナは熱さに手を引っ込めた。すぐには食べるのは無理なようだ。少し冷まさないといけない。粗熱が取れるまで待ちそれを手でつまみ眺める。

「う~ん」なんかパンとは程遠い、硬くて変なものができた。普通パンはもっとふかふかしているものだが、これはほとんど膨らんでない。とりあえず食べてみよう。はむっとフィリナは食べてみるが、む…と難しい顔になった。硬すぎる…なかもパンのように空気が入っていなくておいしくない。とにかくこれはパンではない。この作り方は明らかに間違っている。

 フィリナは思い悩んだ。一体どうすればパンが作れるのかしら……そして思いついた。あっ、そうだ!フィラナはボールに残っていた生地を見た。もしかしたら生地をしばらくおいて発酵させれば膨らむのかもしれない!そう思いつき、フィリナは張り切ってバッグから冷蔵BOXを取り出してみた。そしてそこにボールを入れる。こうすれば今度はもっとパンらしいのが作れるかもしれない!それに、ちらとフライパンを見た。たしかパンはオーブンで作るものだったはずだ。やはりフライパンではダメだったのかもしれない。

 この川原にはおそらく以前は石造りの建物が建っていたのだろう。建物が崩れたあとの瓦礫の石がそこかしこに転がっていた。これを使ってオーブンぽくしてみよう!

 まずは、よさそうな瓦礫を川へ持っていき、それを水で洗った。なかなかの重労働だったがフィリナはがんばった。そしてそれを組み立てていく。うちにあったオーブンを思い出しながら土台を作り、右、左、うしろ、そして天井…と…。崩れないようしっかりと。うん!なかなかよさそうなのが作れた!フィリナはさっそくさっきの生地を焼いてみようと冷蔵BOXから取り出した。

 ん?生地を見たフィリナは拍子抜けした。しばらく発酵(?)させたつもりなのに生地は膨らんでいるように見えない。生地は時間をおいても膨らまないものなのか…。いや、これでも焼いてみればパンらしくなるのかもしれない。それに今度はオーブンもあるのだ!

 フィリナは生地を丸く形成し、トレイの上に乗せた。それからオーブンの奥や両脇に薪を入れ、そこに火をつけた。オーブンのなかを覗き、火が大きくなってきたらそこへ生地の乗ったトレイを入れる。あとは焼けるまでしばらく待った。

 オーブンのなかを覗きながら、生地に色がつくくらいまで焼いた。なかはまだ火が燃えている。取っ手をかけ、トレイを取り出した。見た目はフライパンのときよりパンらしい見た目をしている。つんつんとつつき、熱さを確かめつつ、冷めるまで待ってからそれを口にした。

「……」やはりオーブンで焼いても硬かった。生地はまったく膨らんでいない。これもあまりおいしくない。どうやらこれも失敗のようだ。

 一体どうすれば生地が膨らむだろうか……フィリナはう~んと考えた。これまで生地を発酵させたり、オーブンで焼いてもだめだった。あとは……フィリナはまだ試してないものを考え、ふと思いついた。そうだ!そしてバッグから取り出したのは砂糖である。これなら柔らかくなるかしら?と砂糖を眺める。パンに砂糖の甘みはなかったように思うがもしかしたら砂糖を入れなければ柔らかくならないのかもしれない。今度は砂糖を入れてみよう!

 フィリナはさっそくボールに新しい小麦粉を入れ、塩と砂糖を入れてこねてみた。あまり甘いのは嫌なので砂糖は少しだけだ。そして生地を形成しまたトレイに乗せる。オーブンの火はまだ残っていたので少し薪を足してからトレイを入れた。また、焼けるまで待つ。

 よさそうな色に焼けたので取り出した。…見た目はさっきと変わらないようだ。そして冷めるまで待ち口に入れてみた。

「……」さっき食べたのとほとんど変わらないではないか!少しだけ甘みが加わったように感じるが生地は相変わらず硬い。

 フィリナは悩んだ。もっと簡単にパンが作れると思っていたのに…。フィリナは再び材料を眺めてみた。一体どうすればパンが作れるのだろうか?お母さんが作っていたみたいに……フィリナはあの生地を思い出した。そういえば、あのときの生地はわたしが作ったのよりもっと柔らかくてふわふわしていた気がする……ふわふわ?フィリナははたと思いついた。そうだ!生地にメレンゲを入れたらふわふわするのではないだろうか!?フィリナは顔を輝かせたが、すぐに、でもいまは卵がないではないか…とガックリした。

 フィリナはそのまますとんと座り込み、ボーッと休んだ。ただただぼんやりと自分の出した調理器具やら自分が作ったオーブンやら眺めた。

 自分がこれまで作ってきたものはなぜかすべて硬かった。ひとまずもう少し柔らかいものを作ることを考えなければ……ボーッとフライパンを見るうちに、そういえば、とフィリナは思い出した。前に朝食にホットケーキを作ったことがあったっけ。野宿の翌朝、サンクたちと一緒にホットケーキを作った様子を思い浮かべた。パンではないが、あのホットケーキは柔らかかった……とあのときのことを思い浮かべた。でもあのときは(わざわざメレンゲにはしなかったが)卵とミルクも使った。今回はそれがないのだ。フィリナはうつむいた。やはりパンにはその2つがないとダメなのかしら……フィリナは考える。でも悩んだってその2つはないし、ほかにパンに入れるとよさそうなもの……あっそうだ!フィリナは思いつき、今度取り出したのはバターだった。たしかバターロールというのがあった。今度はこれを入れてみたらどうだろうか。が、フィリナはバターを厳しい顔で眺める。パンが出来上がったときのためパンに塗る分も取っておきたいが、もしかしたらパン作りに必要かもしれない。フィリナは泣く泣くバターをボールに入れた。バターはあまりたくさんないので大奮発だ!そしてまた小麦粉や塩と一緒にこねた。オーブンの火は消えていたのでなかの消し炭をかき出し、また新たな薪を入れ火をつけた。そして形成し、トレイに乗せた生地を焼いた。今度はうまくできてくれればいいのだが……。

 10分後──。覗いてみて、そろそろいい色に焼けてきたのでオーブンから取り出した。フィリナはドキドキし、冷めてからそれを口にしてみる。

「……」また難しい顔になった。やっぱりまだ硬い、さっきのよりバターの匂いがするだけだ。とてもバターロールという感じではない!

 

 う~ん、どうすれば柔らかいのが作れるんだろう……そのとき、「あーきょうでクエストも終わったなー」「お金もあと少しです」わいわいと声がしてサンクたち3人が帰ってきた。いつのまにかもう3人がクエストの終わる時間になっていたようだ。

「うわっ!なんだ!?こりゃ!!」3人はフィリナの近くに広げられた調理器具や瓦礫を組み合わせたものを見てびっくりした。「この瓦礫は一体…」「フィリナ、なにやってたんだよ?」フィリナは調理器具を眺めながら、「パンを作っていたのよ」と真剣な顔。「パンー?」

 フィリナはボールに入った残りの生地を手に取り、今度はなにを試してみようかと考えた。このバター入りの生地も結局硬いままだった。これならまだホットケーキのほうがいい。そう思いフィリナははっとした。そうだ!パンだからといってついパンらしい形にしていたが、そもそもどうやっても生地は膨らまない、それならいっそ、この生地をホットケーキくらいに薄くすれば硬くても気にならないかもしれない!そう思い、さっそくフィリナは生地を平ぺったく伸ばし始めた。

「パンだって」「買わなきゃ無理なんじゃないのか?」サンクとユードーがクスクス笑いあっていた。フィリナは薄く広げた生地をトレイに乗せ、またオーブンで焼き始めた。そして真剣な目でオーブンのなかを見ていた。そんなフィリナに、普通そこまでするかー?とか食い意地が張っているとか2人が笑っていたが、フィリナはまったく耳に入らないように焼き具合を見続けていた。

 やがて生地がいい色に焼けたので取り出した。まだ熱いのでしばらく冷まさなければいけない。その間にフィリナはもう1枚の生地を用意し、火にかけたフライパンに乗せた。もう1枚はホットケーキのようにフライパンで焼いてみようととっておいたのだ。

 焼き出すとすぐに生地がぷくっと波打ち、フィリナはそっと裏側を見てみた。裏には焦げ目がついていたのでひっくり返し、もう片面も焼く。薄いのですぐ火が通るらしい。そして焼きあがったものを皿に移した。

 まずはオーブンで焼いたほうを食べてみる。触った感じ、なんかすごく硬そうだ。口に入れると…パリッとした。ん~?まずいわけではないけど、こんなにパリパリした食べ物は少し自分が作りたかったものとはかけ離れすぎていて、どう使っていいのかわからない。

 う~ん……フィリナはもう1つのフライパンで作ったほうも手にして口に入れてみた。すると……それはむにゅっと柔らかく…。パンとはちがうようだが、もっちりしていてこれはこれでおいしい。…これだったらなんとか使えるのではないだろうか!?

 フィリナはさっそくボールに新しい小麦粉を入れ、張り切ってさっきのような生地を作りだした。サンクたちはそんなフィリナを不思議そうに眺める。そして平たく伸ばしフライパンで焼く、焼く、焼く。

「ふうっ」8枚ほど焼き上がり、フィリナは息をついた。

「それから…」フィリナはほかにも作りたいものがあった。最近は食後の甘味といえば果物くらいでお菓子らしいお菓子を食べていない。フィリナは小麦粉で作った菓子(例えばクッキーのような)も食べたかった。

 材料を眺める。クッキーなのだから砂糖は当然必要だろう。それからあの味、あれは絶対にバターを入れなければいけない。フィリナはボールに小麦粉を入れてみた。それから砂糖、今度はお菓子なのだから砂糖は多めに入れよう。砂糖を加え、次にバターを入れる。あまり少ないとバターの風味がしないので少し多く入れたほうがいいだろう。そしてとりあえずそれを混ぜてみた。すると、生地が馴染みしっとりしてきた。でもまだ粉っぽい…そこでフィリナは生地に水を加えることにした。あまり入れすぎて最初みたいにドロドロになるといけないので少しずつだ。ポタッポタッと…すると、生地が丁度よさそうにまとまった。フィリナはさっそく生地をちぎり丸めて平ぺったくした。それを次々とトレイに並べていく。薪をくべ、またオーブンの温度を調節すると、トレイをオーブンに入れた。そのまま焼けるのを待つ。

 数分たち、オーブンのなかを覗いてみると、クッキーは軽く焼けたようだ。あともう少しだけ焼き目をつけよう。あたりにはポワ~ンといい香りが漂っていて、サンクたち3人もつられてオーブンを覗き込んでいた。そろそろよさそうね!とトレイを取り出す。やはり、クッキーはいい色に焼けていた。

 それを見たユードーが、「うまそうだな!1つくれよ」と手を伸ばす。「まずはわたしが食べるの!」フィリナは手でさえぎった。そして、トレイからクッキーを1つとり、口に入れる。ふわ…とバターの風味がし、サクッとした歯ざわり…なにより小麦粉でできた菓子の味。まぎれもなくクッキーだ。フィリナはそのおいしさに満足そうに味わった。

「ハイ」とフィリナは3人にも1つずつクッキーを配った。3人もそれを食べ、「うまい!」「おいしいです」と喜んでくれ、なかなか好評だった。残りのクッキーは夕食用にしまっておこう、と容器のなかに入れた。

 

 フィリナは、そうだ…と思いついた。どうせなら…「ねぇ、このあたりに果物の木があったでしょ?わたしたちがよく食後に食べている実よ!それを20個ほど摘んできてほしいの」サンクたちはよくわからなそうだったが、またなにかいいものを作るのだろうといわれた通り木々のあるところまで果物を取りにいった。その間にフィリナは鍋の用意をした。

 サンクたちが実を取ってくると、フィリナはそれを受け取り水で洗った。このあたりにはオレンジ色っぽい黄色の実のなる木が野生ではえていて、フィリナたちもたまにそれを取ってきて食べていた。クッキーと一緒に食べたらおいしいのではないかと、フィリナはそれでジャムを作ろうと思ったのだ。

 鍋に果物を入れる。ジャムの作り方なら知っている。ただ砂糖と果物を煮ればいいだけだ。鍋を火にかけた。次第に水分が出てきて柔らかくなる。フィリナはグツグツと、焦げ付かないようたまにジャムをかき混ぜながら煮ていた。その様子はまるで怪しい薬でも作っているようだ、とサンクたちは思った。

 あ、そうだ、とフィリナは()()思いついた。「ねぇ、あとお茶を入れたいからお茶になる葉っぱを取ってきて」とフィリナ。4人は旅の途中でお茶になる雑草が生えていたときたまにそれでお茶を作ることがあったのだ。せっかくクッキーがあるのだからティータイムもしたくなったのだ。もはやいわれるままのサンクたちは草を取りにいった。その間にジャムが出来上がりそれを容器に詰める。

 時刻はそろそろ夕食時になりかけていた。今度はみんなで夕食の支度をし、肉を焼いたり野菜をゆでたりした。

「よぅし!できた!」「みんなお皿を出して!」料理を全員の皿に配り終え、さぁ夕食を食べようという時になり、フィリナはジャーンとさっき焼いたパン?を取り出した。

「ふっふー、さっきわたしが焼いたパンよ!きょうはこれを一緒に食べましょ!」皿を差し出し、サンクたちは1枚ずつ取った。「さぁみんな!食べてみて!」「…これ、パンか?」とユードーはその薄くて丸いものを持ち上げる。「ペラペラだ」フィリナはぷうっと口を尖らせ、「これしかできなかったのよ!さっき食べたときは結構おいしかったんだから!」とパンをちぎって肉を包んで食べる。

「おいしいわ」フィリナは頷きながら嬉しそうにいった。それを見て、サンクたち3人もパンをちぎり、肉と一緒に食べてみた。

「…あ、おいしい」「結構うまいな」「そうでしょ?」フィリナは得意気にいう。

 気づけば、次々と食が進み、パンは小さくなっていた。

「パンは久しぶりなのでおいしいです」「やっぱりパンがあるとちがうな」みんな久しぶりに食事にパンが加わって喜んでいた。魔物たちもおいしそうにパンとおかずを食べていた。

 そして食事が終わり、「次はデザートよ!」フィリナはジャーンと先ほど焼いたクッキーを取り出した。「おおっ、それ」「やっと食べれるのか」「さぁさ、お茶を入れて」ポットから雑草の煮出し汁を注ぎ、みんなに配った。

「ジャムもあるわ!」フィリナはみんなのクッキーの乗った皿にジャムも配った。そしてそのジャムをつけ、クッキーを食べてみる。

 う~ん、おいしい、と笑顔になる。パンはよくわからないものになってしまったがクッキーは一度でうまくできてよかった。やっぱり小麦粉の菓子があるといい。ジャムも上手にできている。ジャムをつけなくてもクッキーだけで十分おいしい。みんなも気にいったようで喜んでクッキーを食べていた。フィリナはお茶と一緒にクッキーを食べ、夢見ていた至福のティータイムを堪能していた。これでこそ苦労した甲斐があったというものだ。




クッキーは、間違ってバターの前に水を入れてこねてしまうとすごく硬いものができてしまいますのでご注意を…。


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