その後は4人で町を散策しがてら買い物をしたり食事をしたりした。それからギルドによって次の依頼を探してみた。
壁の依頼書を見る。壁には指名手配になっている悪魔や犯罪者、それに行方不明のペットの写真なんかもはってあった。
「こっちは採取クエストか、なになに?これは……」
魔物から取れた素材や鉱石の納品、珍しい薬草etc……。
「今回はあまりいい討伐の依頼はないなぁ。これでいいかな」
結局、ある植物の採取クエストを受けることにした。クエストにはあすの朝いくこととなった。
朝となり、サンクたちはクエストに出かけた。今回の依頼はブレールスグリというこの地域特産の植物の採取だった。4人は地図を見て話し合い、西部の山や森のあるあたりを探してみることとなった。
森の中を探しながら歩いてゆく4人。しばらく森を進んだところに、ようやくブレールスグリを見つけた。4人は喜んで採取する。
スグリをしまい、「思ったよりすぐに見つかってよかったなー」「それじゃ、そろそろもどろう!」
すると、4人は木の向こう側になにか動くものがいるのに気づいた。
「ん?」「なんだ?」
見てみると、それは小さくて茶色い魔物でスグリを食っていた。4人はしばらくそれを見ていたが、フィリナはハッとしていった。
「……あれは!」
先ほどギルドで見たペットの写真にそっくりだったのだ!!
「確かギルドで捜索願が出ていた魔物だわ!」
「なんだって!?」サンクたちも眺めてみるが、確かに先ほど壁の張り紙で見た魔物の気がする。茶色い魔物はさっと向こうを向き、走っていってしまった。
「あっ!いっちゃう!」
「捕まえよう!」
4人は急いで追いかけるが、魔物はさっと茂みに入ってしまい見失ってしまった。
「あれー?」
「どこにいったんだ?」
4人はとりあえず茂みの近くを探してみた。あちこち歩いてみるが見つからない。
すると、遠くになにか建物があるのに気づいた。そしてその建物のほうへ魔物が走っていくのが遠くに見えた。
「いたぞ!」
「あんなところに!」
4人もそこまで走る!魔物はだれか建物のそばに立っていた青年に飛びついた。4人は驚いて速度を緩めた。青年は茶色い魔物を抱き上げ、なでていた。4人はゆっくりとそこへ歩いていった。
「あの……」
青年は4人に気づき、「なんだ?きみたちは」
「おれたち、その魔物を追って」
「その魔物、ブレールのギルドで捜索願が出てるものにそっくりなんです」
青年は魔物を眺め、「先週、この家の庭に入り込んでいたから保護したんだ。捜索願が出ていたのか」
サンクたちは男に近づき、「それじゃあ、おれたちがギルドまで届けておくんで……」魔物を受け取ろうとしたが、男は渡そうとしなかった。
「ところできみたちは一体なんだ?」男は4人を見、「このあたり一帯はうちの敷地内なんだけど」
4人はそれを聞いて焦り、「わたしたち、ギルドの冒険者なんです……」
「人の土地とは知らなかったんです……すみません」と謝った。
男は、「そうか。それなら許そう。ぼくはここの主のリストというものだ。ここでは魔物をたくさん育てているからこいつも保護した」
「魔物を?」サンクは驚く。
「ほら、あれがそうさ」
リストの見た方角には家の横に柵や小屋があるのが見えた。
4人はリストに連れられ柵のあるあたりを案内してもらう。柵のなかには何匹かの魔物がエサを食べたり寝転がったりしていた。
「わあーっ」4人は驚いて眺めた。
「この魔物はきのこそっくりだ」
「それは山にいた魔物で毒による攻撃を得意としているんだ」
「この魔物は馬にそっくりね」
「そいつは遠くへいかなきゃいけないときに乗り物として便利に使わせてもらってるよ」
そこへ、「師匠、その人たちは?」とだれか男がやってきた。背は低く、丸顔にだんごっ鼻で青年か少年か判別しにくかった。
「あぁ、さっきうちの前で出会って、いま魔物たちを見せてあげてた。こいつはぼくの助手」
助手はこちらにお辞儀し、4人も慌てて頭を下げた。
「いろんな魔物がいるなぁ」
「全部で何匹くらいいるんですか?」
「そうだなあ……いまはざっと20匹くらいかな。そうだ、こっちにもいるんだ」4人はリストに連れられ家のなかに入れてもらった。
するとそこには、小さな魔物たちが5、6匹いた。サンクたちは喜び、その魔物に近づいてみた。魔物たちはこちらにじゃれつき、なでてあげた。
「この魔物たちもやっぱり戦闘能力があるんですか?」とラファエロ。
「もちろん。水とか火とか電気とか、みんなそれぞれ力を持ってるよ。そうだ、外に連れていって見てみるといい」
リストにそういわれ、外に面したガラス戸を開いて4人は魔物と一緒に外へ出た。そして魔物たちに頼んでみると、魔物たちはそれぞれ自分の技を見せてくれた。
「わぁーっ!」4人は驚き、魔物たちの出す、火や水、電気などに見入った。
「こりゃ、なかなか強そうだ」
「いろんな役に立ちそうね」
サンクも自分の魔物たちが使うのと似たようなそれらの技を眺め、自分のとどちらが強いのだろうと思ったりした。こんな魔物をいっぱい持つリストは一体どういう人なんだろうと。
「その魔物たちもそろそろ向こうの柵のなかに入れてやる時間です」と、助手が魔物たちを向こうまで連れていった。
4人はそれから助手と一緒に魔物の世話をしてみたり、触れ合ってみたりして楽しんだ。
しばらくし、サンクが1匹の魔物の世話をしていたとき、その魔物が走っていってしまった。「あっ!おい!」
サンクは追いかけ捕まえる。
「捕まえたぞ!」
魔物は部屋のなかにいきたがっていた。するとそこには真剣な顔で机に向かってなにかやっているリストが見えた。
サンクは近づいていき、のぞいてみた。どうやら魔物に関連する道具を扱っているようだ。
リストがこちらに気づき目が合った。
サンクは驚き、「あっ、えっと、それなんですか?」ととっさにきいてみた。
リストは、「魔物たちのエサを調合しているんだ」
「エサ?」
「あぁ、この棚にあるのがそうだ」
サンクも入ってみて棚を見てみると、棚にはいくつか箱が並んでいたり、なにか難しそうな専門書がいろいろ並んでいる。サンクにはかろうじてそれが魔物についての本だとわかった。
「興味があるのかい?」
「え?」
「魔物のことについてさ」
サンクは頷き、「はい、おれも魔物を持ってるから」下に目を向けついてきていたポロやチビドラを見た。
「その2匹がきみの魔物かい?」
「ほかにもいるけど、このバッグのなかに!」サンクは地面に置いてあったバッグを取り、そのなかから魔物を取り出した。この部屋はわりと広く天井が高いので木の魔物も出すことができた。
リストはそれを見て、「へぇ、そんなのも持ってるのか。でもきみ、いつも魔物をそのバッグに入れてるのかい?」
「はい、だって一緒に連れて歩けないから」
リストは棚に手を伸ばし、なにか小さなケースのようなものを取った。そしてそのケースを開くとなんとそこから1匹の魔物が飛び出した。サンクは驚いて眺めていた。
「普通は魔物をしまう必要があるときはこうゆうケースに入れておくもんだよ。これは魔物専用のケースでバッグに入れておくよりずっと魔物にとっていい環境だし、体力の消耗も防げるんだ」
リストの持つケースをサンクは「へぇ」と興味津々に眺めた。
「そうだ。きみにもこれをあげるよ。その魔物たちを入れてあげるといい」
リストはサンクにケースをくれた。サンクはケースを渡され、驚いてそれを眺めていた。
「このなかに魔物が入れれるんですか!?」
サンクはさっそく試してみた。
「よぅし!それじゃあフメイジュ!このなかに入れ!」サンクはケースをフメイジュに向けた。
「魔物に向けて蓋をあければいい。そうすればケースのなかに入る」とリスト。
サンクは蓋をあけてみた。すると、フメイジュがそのケースのなかに吸い込まれるように小さくなっていき入っていったのだ。
「わぁっ」驚くサンク。
あんなに大きいフメイジュが本当に手の中に収まるサイズのケースに入ってしまった!こんなに小さくなるなんて……まるでフィリナの使うミニマムみたいだ。
もう一度蓋をあけてみるとまたフメイジュは出てきて大きくなりサンクはまたまた驚く。再びフメイジュをケースにしまい、続いてアカザカナもしまった。サンクはもう一度手の中のケースを眺めた。
「すごい!こんな便利なのくれて、ありがとうございます!」
リストは頷き、「きみも魔物を使うみたいだからね。ギルドでも魔物を使ってクエストをこなしてるんだろ?」
「はい、仲間に比べたらおれはまだまだだけど、でもこいつらのおかげでだいぶ戦えるようになったんだ!」サンクは魔物たちを見て答えた。
リストはそんなサンクを眺め、「そうか。きみ名前は?」
「サンクです」
「サンク君、きみこれからもそれでやっていく気はないかい?」
「え?」
サンクがきょとんとしているとリストは説明してくれた。なんでも魔物を使って敵をやっつけたり、人々のために役立てる魔物使いという職業があるそうだ。
「きみは魔物が好きみたいだし、魔物を使うことにも向いていそうだ。それからいまはまだそれほど盛んでないが、魔物同士を戦わせる大会があるのを知ってるかい?」
リストは魔物への指示の出し方や勝敗の決め方などいろいろとバトルのことを教えてくれた。
魔物同士を戦わせる……それを聞き、想像し、サンクはなにか気持ちが駆られたように、胸の中に熱いものが広がるのを感じた。ぐっと手に力を入れ、その姿に思いを馳せていた。外からは、みんながはしゃいでいる声が聞こえる。
リストはそんなサンクを見て、微笑み、やりかけの作業を片付けた。
その後ほかのみんなの元にもどり、一緒に魔物たちの世話をしたりして過ごした。そんなとき──
ルルル……リストのつけている腕時計から音が聞こえた。その途端、「これは……」リストは真剣な顔になった。
サンクたち4人は不思議そうに眺める。
「またお仕事ですか?」と助手、「あぁ!」リストは家のほうへ走っていった。
そして部屋のなかにあった土台付きのプレートを眺めている。4人も眺めてみると、そこにはなにか白っぽいオオカミのようなものが写っている。
「シルバーウルフだ」とリスト。
「なんだ?そりゃ」
「悪魔ですか?」
「いや、シルバーウルフという魔物からは悪魔は生まれない。だがこれはこの魔物が森から出てきてしまい、ある村に近づいてしまったようだ。万が一人を襲ったりしたら危険だ!すぐに保護しなくては!」
リストはすぐに出かける用意をした。小屋から馬の魔物を取り出し馬車につなげる。魔物の馬車は普通の馬車よりずっと速いが、数が少ないらしい。サンクたちもリストについて一緒にいくことになった。
リストは通信機で知らせを聞きながら馬車を操作し、やがて馬車はあっという間に問題の場所へと着いた。
「グォォ……」
そこには白銀で大きいオオカミの魔物が唸り声をあげながら歩いているのが見えた。みんな馬車から降りたつ。
「ここは村も近い!すぐ森の奥へ追い返さないと!いけっ!」
リストは鳥や花の魔物を向かわせた。
「森へ帰るんだ!」リストは森の奥を指し示し、魔物たちはシルバーウルフに威嚇する。が、シルバーウルフはグワッと魔物に反撃してきた!
「よけるんだ!」リストが叫び、魔物たちはよけた。
「つるで縛れ!」花の魔物がつるを伸ばし、シルバーウルフの手足を縛ると、身動きが取れなくなりドッと倒れこんだ。もがくシルバーウルフ。
「ふぅ……」息をつくリスト。「ううむ……この魔物はいつもならいうことを聞いてくれて、こんなふうにむやみに襲ってきたりはしないのだが……」
フィリナはシルバーウルフを見ていて気がついたように、「あの魔物、混乱状態みたいよ」
「なにっ!?」リストもじっと見てそれに気づいた。
「本当だ……ううん……たぶん森にいるほかの魔物なんかの技を食らってしまったんだろう」
「ガウッ!」いつのまにかシルバーウルフは縛られていたつるを引きちぎり、抜け出そうとしていた。リストはそれに気づき、「みんな!」さらに2匹の魔物をくり出し叫んだ。
「その魔物に攻撃するんだ!ショックを与えるうちに混乱が治るかも知れない!」
リストの魔物たちは向かい、次々に体当たりしたり殴ったりしだした。花の魔物はもう一度つるで縛ろうとしたが、それより速く相手の前足にぶちのめされ、伸びてしまった。
「あっ!仕方ない!敵の攻撃に気をつけながらもっと攻撃を続けるんだ!」
魔物たちはさらに攻撃する。すると、シルバーウルフの毛が逆立ちうなると、うっすら黒いオーラが見え出した。途端、あたりに闇が広がり、その闇がリストの魔物たちを包む。
次の瞬間、リストの魔物たちはよろよろしてへたり込んでしまった。
「まさかあんな技が使えるとは……こちらの魔物が大ダメージを受けてしまった……」
サンクは自分の魔物たちを見、「ポロ!チビドラ!その大きい魔物に攻撃するんだ!」と向かわせた。
「ワウッ!」「ギャッ!」ポロとチビドラは張り切って向かい攻撃した!サンクはほかにも「いけっ!フメイジュ!」フメイジュも向かわせた!
ポロやチビドラが噛みつき、フメイジュの枝が伸びシルバーウルフのからだをしめる!
「サンク君……よぅし!ぼくたちも負けてはいられない!みんな攻撃の再開だ!」
リストの魔物たちも起き上がり、リストの指示を受け攻撃しだした。シルバーウルフはガウッガウッとうなり、噛みつこうとしていたが、枝にからだを抑えられうまく身動きできない。
「クルーク!右へ旋回!」
「ポロ!突進だ!」
「いいぞ!そこをつつくんだ!」
「いまだ!体当たり!」
攻撃はさらに続き、オオカミは抵抗しつつもだんだんと弱りかけてきた。
「どうやらだいぶ弱ってきたようだ!」
ラファエロが走っていき気絶していた花の魔物にヒールをかけてあげ、起き上がった魔物は加勢しようとしたが、その頃にはもうシルバーウルフは2人の魔物の攻撃により伸びてしまっていたようで、
「ウワ……」パタン、と倒れてしまった。
「よし!」
「これでいいんですか?」
「ああ!攻撃して混乱を解除するつもりだったけど、結局気絶させてしまったな。さぁ!もうだいじょうぶだ!いまのうちにこの魔物を森の奥へ運んでしまおう!」
リストはシルバーウルフをケースに入れ、ほかの魔物たちももどした。そしてみんなは馬車に乗り込むと森の奥に入っていった。
森の奥で──
リストがケースからシルバーウルフを出すと、ポーションを与えた。魔物は気がついたようで目をパチクリさせていた。
「ガゥゥ……」シルバーウルフはこちらを不思議そうに眺めている。
「一旦気絶させたおかげでようやく混乱も解けたようだな!さあ!いきな!もう人の町まで出てくるんじゃないぞ!」
シルバーウルフはよくわからなそうにのそのそと向こうへ歩いていった。
それをしばらく見届け、リストは、「それじゃ、また屋敷へもどるとするか!」とみんなは馬車で屋敷へともどった。
屋敷にもどると、「お帰りなさいませ。みなさん」助手が出迎えてくれた。
「うまくいきましたか?」
「あぁ、もちろんだ」助手に馬車を引き渡し、助手は馬車の後片付けをした。
リストはこちらを向き、「きみたちには手伝ってもらい感謝する。特にきみ」とサンクを見、「きみの魔物は随分役に立ってくれた。なかなかすごい戦いぶりだったよ」とほめてくれた。
「へへっ」とサンクは魔物たちを見、嬉しい気持ちを感じた。
リストは向こうへいき、もどってくると、そこには最初きたときに見た茶色い魔物を連れてきていた。
リストは茶色い魔物を抱き上げると「はい」と渡してくれた。「この魔物を持ち主にもどしてあげてくれ」
サンクはそれを受け取り、「わかりました」と頷いた。
時間なので帰ることにした4人。4人はリストや助手たちと手を振って別れ、森を歩いた。
「それじゃ、ギルドへもどりましょう!」フィリナはいい、みんなを光で包むとテレポートをした。
そして気づけばブレールの町に立っていた。サンクたちはギルドまで歩いた。
ギルドに着くと、採取したスグリを渡し、報酬を受け取った。それから、捜索願の出ていた魔物を渡し、そのぶんの報酬も受け取ることができた。みんな、きょうは予想以上に報酬がもらえ嬉しそうだった。
「おおっ!こりゃすげーや、きょうはこれで食べにいこーぜ!」
「うん!」
みんなは楽しそうにしゃべりながらレストランへと歩いていった。サンクも歩きながら心の中は先ほどから1つの想いにとらわれていた。きょう、リストのところでのことだ。サンクはきょう、魔物使いに会い、自分の進む道を見つけたのだった!そのことを考え、サンクの胸は情熱をはらんでいた。
これはまだ魔物使いの地位が低かった時代の話である。