そして夜があけ、4人は町での支度をすませ、また町を出発した。
東を進んでいくが、この先にはもう大きな町はない。しばらくは荒野を進まなくてはならなかった。1日、2日と野宿をし、次の日も荒野を歩く。
夜になり、夕食を取った後も4人は薄暗いなか、少しずつでも歩いた。昼間、荒野を歩いてきたときにもそうだったが、もしかしたらどこかに小さな集落でもあるかもしれない──としばらく野宿を続けていた4人は人里を探し求めていたのだ。
4人はとある森の付近を歩いていた。夜の森は黒く、不気味だった。するとその森の近くに……
「なんだ?あの光」
たくさんの淡い光がゆらゆらと漂っているのが見えたのだ。サンクたちが見つめていると光はだんだんこちらへ近づいてくる。
ラファエロはハッとして「あれは……悪魔です!こちらを襲おうとしています!」
「なんだってぇ!?」
よく見てみると、漂っている光には目があるようだ。
悪魔たちはこちらに近寄り、なんだかこちらに取り入ろうとしているようだ。
「わっ!なんだか気味が悪いな!」ユードーはさっとよけ、その悪魔を拳で殴った。だが、拳は素通りし、殴れなかった。「なんだ!こいつも物理攻撃が効かないタイプか!?」ユードーはまた寄ってくる悪魔を避ける。
「チビドラ!そいつらに火を吐いてやっつけろ!」
チビドラは悪魔目がけてゴォーッと火を吐いた。火が当たった悪魔はギィエー、キャアーと小さく声をあげ、次々と消えていく。
「次はあっちだ!」また火をあびせ悪魔をやっつけていく。
悪魔たちはサンクたちにちょっかいは出してくるがそれでどうなるというわけでもなかった。
「どうやら、あまり強いものではないようですが、それでもやはり触らないように気をつけるべきです」
サンクはまわりの悪魔に次々と火をあびせていき倒していたが、数が多くてまだまだ全部は倒せそうになかった。
フィリナはさっきからなにかに集中して力を溜めていたが、やがて、「催眠術!」手を広げて叫んだ。
すると……目の前に波がおき、漂っていたたくさんの光はピタリと止まり、もうこちらに近づかなくなった。続いて「ナイトメア!」黒いもやが悪魔たちのところへ進んでいくと、そのもやが次々と包み込んでいった。やがてそのもやが晴れたかと思えば、あれだけたくさんいた悪魔たちの姿はすべて消えていた。
3人はあっけにとられ、「悪魔がいなくなってる……」「倒したのか!?」
「えぇ、眠らせてからナイトメアでね。ナイトメアは眠っているとき限定の技なの」
「眠らせるだって?」サンクは驚いていた。
ユードーが、「おいおい、そんなことができるんならこれまでのクエストで敵と戦ったときも、眠らせちまえばよかったじゃないか」といった。
「催眠術は敵のレベルが高いと命中率が下がるわ、今回はみんな弱いのばかりだったから効いたのよ」とフィリナ。
なんでも催眠術というのは敵とのレベル差によって命中率が変わり、敵がよほど低いレベルでないとほとんど効かないそうだ。そして、これまでサンクたちが戦った敵のなかに、フィリナより低いレベルだった敵はほとんどいなかったらしい。
「なんだー、そうゆうことかー」ユードーはがっかりしたようにいった。
「レベルって?」サンクはきょとんとして聞いた。それを見て3人はあぜんとした顔でサンクを見た。
「なんだ、これまでレベルも知らずに戦ってたのか」
「レベルってゆうのはそれが基礎値からどのくらい強くなったかを数値化したもので、人や魔物や悪魔、だれでもあるものよ。基本的に戦いを積めば高くなるわ」
「まあ職業や種族によって得意分野や強さは違いますし、レベルが高い方が必ず勝てるわけではありませんが、おおよその目安になるでしょうね」
サンクは3人に教えてもらい興味深そうに聞いていた。
「へぇ、で、レベルっていうのはどうしたらわかるんだ?」
「それを見る道具が売っているわ。あと、熟練した冒険者になると見ただけでわかるようね」
「ほかにも道しるべの館にいけば鑑定師に調べてもらえます。もっともそこではレベルだけでなく、HPやMP、攻撃力などの各種ステータスも知ることができますが」
「へぇ……」サンクは興味深そうに聞いていた 。
「でもいまみたいにレベルが低くないと効かない技なんて意味がないな」
「弱い悪魔でも放っておくと合体して強くなることもあるわ」
フィリナは悪魔のいなくなった夜の平原を眺めた。
そんなこともありつつ、サンクたちは次の日も旅を続けた。
コンパスの指し示す東を目指しつつ、歩き続けた4人──そして……気づけば4人は海にきていた。結局ここまでの道のりで人里は全く見つからなかった。
「……海ですね……」
「どうゆうことだ?ここまできてもまだ探してる悪魔とやらには出会わなかったが」ユードーはわけがわからなそうに。コンパスは相変わらず東を指していたのだ。
「まさか悪魔はこの海よりまだ東にいるってことか?」
「この海の向こうにはエドラント大陸があるはずですが 」
「じゃあ、あの悪魔もそこにいるってことかよ!?」
4人はただただ水平線が広がる海を眺めた。コンパスをたどっていけば悪魔が見つかると思ったのに……。どうやら4人の知らないうちに悪魔は移動してしまっていたらしい。
「それならなんとかして海を越えないと!!」とサンク。
ラファエロは考え、「海の向こうにいくには、たしかここより南にあるアレスポッドという港町からエドラント大陸に渡る船が出ていたはずです」と、地図を出すよういうとその港町を指で示した。アレスポッドという町はここから約100kmくらい離れたところにあった。
「それじゃ、次はそこから船に乗って悪魔を倒しにいくってことね……」
「ようし!それじゃあその港町までいこうぜ!」
こうして4人はエドラント大陸に渡るため、アレスポッドを目指すこととなった。
今度は南のほうに向かって歩き始める4人。また野宿をしつつ歩き、4人はその方面にある町で一番近い町にようやくたどり着くことができた。長いこと野宿してきて食料はもうほとんど残っていなかった。食事を食べにいき買い物をすると、お金ももう残り少なく、あまり大きな町ではなかったが、4人はまたギルドにいき仕事を探さざるを得なかった。
そして次の日から4人はギルドのクエストをこなしつつ旅を進めていく日々が続いた。ある時はギルドの依頼で街中や自然の中のものをカメラで写真に撮ってまわった。写真がすぐ出てくるタイプのカメラで、少しフィルムが多めに入っていたので、1枚だけこっそり自分たちの写真を撮ったのは内緒だ。またある時はギルドから急きょ頼まれ、猛毒におかされた人間のために悪魔を倒しにいったこともあった。悪魔由来の毒なので毒消し草は効かず、4人は悪魔のところへ向かったが、これが一刻を争う事態だった。4人は走ってクエストに向かい、戦いも急いで方をつけねばならなかった。時間制限クエストだ。町にもどったとき、ギルドマスターから無事に間に合って被害者の毒は消えたと聞かされたときは4人は無事間に合ったことにホッとしたものだ。時間は結構ギリギリだったそうだが。
そしてその日もまたクエストを引き受け、クリアして、帰ろうと荒野を歩いているときのことだった。どこかから声が聞こえてきた。
「うわあっ!」「しっかりして!トニー!」「早く逃げるんだ!」
そして、木々の茂みからだれかがよろめきながら飛び出してきた。
「ギャオォ!」
続いて人より少し大きな2本足の生物が飛び出してきた。
「キャー!」
先ほど茂みから出てきた5人ほどの男女が急いでそこから離れた。みな汚れて、からだに傷を負っていて、なかにはからだから血が流れているものもいてほかのものがその人を抱えて走っていた。
「悪魔だわ!」「襲われてるのか!?」
サンクたちはそれを見て、駆けつけようと足をむける。「待って!」フィリナは引き止め、全員にプロテクションバリアーを張った。
そして急いで彼らのもとに駆けつけた!悪魔の前に立ちふさがる!5人の男女はそんな4人を驚いて見ていた。
「ハアッ!」「ポロ!チビドラ!体当たりだ!」「ブライトボール !」3人は悪魔に攻撃した!が、悪魔はすばやくそれらをかわした。3人はあっと驚く、するといつのまにか後ろに回っていた悪魔が鋭い爪で、ケガをし、うなだれていた男の背中を攻撃した!「グアァ!」「トニー!」男の背中から血がにじみ、男はバタリと倒れた。横にいた長いウェーブヘアの女がしゃがみこみ、必死に回復技をかけていた。だが、相変わらずトニーという男は苦しそうにしている。
「あいつ、おれの攻撃をよけやがったぞ!」とユードー。
「その悪魔、すごく素早いみたいなんです!」弓を持ち、サラサラした髪の美形の男がいった。
どうやら回復能力が低いようで、まだケガをした男はぐったりしていて、ラファエロは見かねてエクスヒーリングをかけてあげた。すると、男のからだの傷はじょじょにふさがっていき、男は目を開け、ゆっくりと動いた。
「ギャアッ!」悪魔は再び風のように動く!
「わっ!」「キャッ!」すると、みんなは次々と倒されていった。どうやらツノで突かれたようだ。
「くっ……」「すごい速さだ……」みんなはよろよろと立ち上がる。「素早そうに見えないのに……ん?」フィリナは悪魔を見てなにかに気づいた。そしてよく見ると、後ろに蝶々が飛んでいることにも……それも悪魔であった。
フィリナは「ハイスピード!」急いでみんなに加速技をかけてやった。
「おぉ!?」ユードーやサンクが自らのからだの変化に驚いた。
「ラファエロ!みんなにハイスピードをかけて!その悪魔にもかかっているのが見えたわ!」
まだ回復してあげていたラファエロは慌てて立ち上がり、まわりのみんなにハイスピードをかけてあげた。すると、みんなは次々と速く動けるようになった。
「なんだこりゃ!」「からだが軽い……!」
ユードーは悪魔に走ってゆき、「おりゃあ!」と殴った!「ギャッ!」跳ね飛ばされる悪魔!今度は速さが上がったのでよけられなかった。
「拙者も……」斧を持った大柄な男も近づき攻撃をしようとしたが、「うっ……」斧を持ち上げるとからだが痛むようだった。ラファエロは男がケガをしていることに気づき、そばにより「ヒール!」回復してあげた。男は自分の傷が治ったことで、悪魔に向かっていき攻撃した!
「ギャッ!」
すると、後ろにいた蝶々が羽を揺らし光り出す……すると前にいた悪魔のからだも光り始めた。
悪魔は先ほどよりも更に速い動きで攻撃してきた!「なんだ!?」「ひっ!」みんなはダメージを受けた。それを見て、「またハイスピードがかけられたみたい、多分あの蝶の仕業よ!」フィリナが示す、悪魔の後ろに1匹の蝶が舞っていた。
「ハイスピード!」フィリナとラファエロで再び味方側にも加速技をかけた。
再び素早さが追いついた。
みんなで悪魔に攻撃した!「いけっ!ポロ!チビドラ!」「タアッ!」ケガを治してもらった2人の男も剣や斧で攻撃した!「サイコキネシス!」フィリナはエスプで石をぶつけて後ろの蝶を攻撃する!弓を持った男も弓を放ち、杖を持った短髪の女もライトアタックで攻撃した!蝶はダメージを受けよろめく。向こうの悪魔から反撃を受け、ダメージを受けたメンバーもいたので、ラファエロや回復役の女が時折回復してあげていた。
そのうちに……「ガファー」2匹の悪魔は倒れ、シュゥゥッと消え、ポトンと魔石を落とした。
トニーという男がそれを拾った。
「助けてくれてどうもありがとう。ギルドから討伐の依頼を受けて悪魔を倒しにきたけど、悪魔がすごく速くてとても攻撃できなくてそのうちにやられてしまったんだ」
「さっきの悪魔は後ろにいた蝶々の悪魔にハイスピードをかけられていたのよ」
「どうりで……討伐の依頼を受けたのは大きいほうだけだったんだが、まさか2匹いるとは……」
つまり、この5人はギルドの依頼で悪魔を倒しにきたものの、悪魔が想像以上に強く、ケガをさせられ撤退し、命からがら逃げてきたところを4人に助けられたということだった。
「おれはケガをしてしまったし、あの速さじゃとても逃げ切れそうになかったから、もしきみたちがきてくれなかったら危なかったよ」
「拙者もみんなのガード役でありながらケガをしてしまって……もしかしたらあのまま死んでいたかもしれん」2人の男は深刻な面持ちをした。
本来ギルドの冒険者というものは危険な職業だ。大抵自分の力に合った依頼しか受けないものの、それでも油断したりして年間に何人かは死亡者も出ていた。みんながみんな強いわけでもないし、テレポートで逃げられるわけでもない。転移道具だって高価なものだ。
サンクたちはこのパーティと話をしながらギルドにもどった。
「きみたちのパーティだけど、きみは武闘家できみは魔物を使って戦うのかい?」
「あぁ!」サンクは頷いた。
「へえ~、そんな方法もあるのか」
「そっちの2人はエスパー?」
「えぇ」「ハイ」フィリナとラファエロは頷いた。
「そうか、この2人もエスパーなんだ」弓を持った男が2人の女を示していった。だが、1人はライトアタックしか技が使えず、もう1人もヒールしかできないそうだ。
「……さっきのあれ、サイコキネシスってなに?」短髪の女がフィリナにきいた。
「サイコキネシスは念力の強いもので、より複雑な動きもできるわ。使うには、その名前の通り心の力が……」ラファエロももう1人の女性にきかれてより上位の回復技の使い方を教えてあげていた。2人は興味深そうに聞いていた。サンクもほかの3人が興味を持っていたので自分の魔物を触らせてあげたりした。みんな喜んでいた。
ギルドに着き、サンクたちとトニーたちはそれぞれ窓口へいった。そして報酬を受け取る。
トニーは、「今回のクエストはきみたちに手伝ってもらったからクリアできたようなものだ。いくらかお金を払うよ」といった。
だが4人はいらないと、ほんとは欲しかったが見栄を張って断った。
4人はその後5人と別れ、ギルドを出た。