提督になったし艦娘ぶち犯すか   作:ぽんこつ提督

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時間がちょっと飛んでます。
提督がインド入り後の話です。


救出作戦 ④

 インドの一角。

 とあるオープンカフェに彼女――戦艦棲姫はいた。

 

 深海棲艦『戦艦棲姫』は特別な船である。

 彼女の特徴は何と言っても、艤装と本体が離別している点だろう。

 彼女はその特性を利用し、人間社会に溶け込んでいた。早い話がスパイである。

 

 1週間前。

 戦艦棲姫はとある情報をキャッチした。

 大戦の煽りを受けた不知火達が孤立した、という情報である。

 彼女は考えた。

 自分で殺すのは簡単だ。いくらあの部隊が訓練された精鋭だとしても、自分は艦娘など及びもつかない絶対的な力を持つ船。簡単にひねり潰せる。

 しかし、それでは面白くない。

 最も面白い殺し方は何か?

 またも彼女は考える。

 そして思いついた。

 同士討ちさせるのはどうだろうか、と。

 

 ちょうど今、彼女が潜入している海軍の一つに『対艦娘用部隊』を作っているところがある。深海棲艦を打倒した後の、世界の覇権争いに用いる為だろう。その存在を聞いたときは「深海棲艦に勝つ気でいるなど、人間とはなんと馬鹿なのだろう」と思ったものだが、道化としては悪くない。

 彼女は海軍に働きかけ、その部隊を動かした。

 戦地であるインドには「軍に背き深海棲艦側についた艦娘の処理のため」と言ってある。流石に向こうも疑ってきたが、深海棲艦側である戦艦棲姫は、簡単に証拠をでっち上げる事が出来た。

 

 尤も、特殊な訓練を受けたと言っても、所詮は人間。

 艦娘を殺せるレベルまでは到底達していなかったが――戦艦棲姫が渡した深海棲艦側の武器と、彼女自身の指揮で武力を底上げしたお陰で、一定の水準には達した。

 結果は見ての通りだ。

 

「フフフ……」

 

 深海棲艦である自分が人間を指揮し、人間の味方である艦娘を殺す。

 なんと楽しい遊びだろうか。

 特にこの――護っている人間に撃たれ絶望に染まる艦娘と、自分達から攻撃したにも関わらず、仲間を殺された憎しみに燃える人間達の顔といったらない。

 思わず笑みも溢れてしまうというものだ。

 ああ、しかし、悲しいことにそれももう終わりが近い。

 彼女の優秀過ぎる脳は、考えたくなくとも不知火の位置を僅かな情報から割り出してしまう。後はそこに部隊を派遣して終わりだ。

 

 彼女はパソコンで地図を見ながら、無線で指示を送ろうとした。

 その時――

 

「相席してもいいかな?」

「!?!!!?!??!?」

 

 戦艦棲姫はうっかり艤装を展開する所だった。

 それもそのはず。

 1週間前。突如現れた提督にして、深海棲艦の快進撃を少しの戦力・期間で止めた男。今深海棲艦の間で最も警戒されている横須賀鎮守府提督その人が、いきなり目の前に現れたのだから。

 

 戦艦棲姫は人の脳を遥かに超えた性能を持つ、灰色の頭脳をフル回転させた。

 先ず、この提督はこちらの正体を看破していると見てほぼ間違いない。でなければ、こんな場所このタイミングで話しかけて来るわけがない。一体どうやって戦艦棲姫のスパイ活動を見破ったのか、どうやってこの場所を特定したのかは不明だが――とにかく正体が見破られている事と見ていいだろう。

 

 次に、何故目の前に姿を現したのか?

 如何に天才的な指揮能力を持っていようと、身体能力は人間のそれ。戦艦棲姫がほんの少し力を込めれば、ブルーベリーを潰すような手軽さで殺す事ができる。

 

 しかし――戦艦棲姫はそれをしない。出来ない。

 

 何故なら、それが相手の狙いなのだから。

 戦艦棲姫はそう提督の狙いを看破する。

 今の戦艦棲姫は人間の姿をしており――加えて立場ある人間だ。艦娘が発砲した事が知られれば、真相はさておき、反艦娘派に隙を与える事になる。

 故に提督は、自ら戦艦棲姫の前に姿を現したのだ。

 自分を餌とし、戦艦棲姫に尻尾を出させる為に。

 まず間違いなく、何処かから空母や軽空母がこっちを狙っているだろう。戦艦棲姫が手を出した瞬間、四方八方から狙撃される事は想像に難くない。

 

(落ち着け……落ち着け私。相手が危険を冒して姿を現したと言う事は、私が深海棲艦である証拠はまだ掴めていないということ。冷静にこの場をしのぎきれば――)

「いやあ、素敵なメガネですね」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 

 ば、バレている!?

 このメガネが深海棲艦の特徴的な目をごまかす特殊な装備である事がバレている!?

 

 戦艦棲姫は取り乱した。

 それを嘲笑う様に、目の前の男はニコニコと笑っている。

 ――いや、顔は確かにニコニコとしているが、歴戦の船である戦艦棲姫には分かった。

 この男、胸の内に何かドス黒い物がある。それも今まで見た事がないほど、黒く悍ましい物。

 一体それは何か……?

 深海棲艦に向ける黒い感情といえば、戦艦棲姫の知る限り一つだ。

 それは『憎しみ』。

 深海棲艦に住む場所を奪われた。あるいは家族や友人、恋人を殺された。そういった理由で深海棲艦を恨む者は人間・艦娘問わず少なくない。何度も海に出ている戦艦棲姫はそれこそ飽きるほどこの手の輩は見てきたし、沈めてきた。

 だが――この男は今まで沈めてきた者とは違う。

 戦艦棲姫の勘が、かつてないほどの危機を告げていた。何故か体は震え、両手で肩を抱いてしまう。

 

「ッ!」

 

 悪寒が一層強くなる。

 恐る恐る提督を見ると、彼は先ほどの笑顔とは打って変わって、恐ろしいほどの真顔で戦艦棲姫の胸部装甲のあたりを見ていた。

 悪寒が一層強くなる。

 何故だ。何故胸部装甲のあたりを? まさか――ペンダント型の無線に気がついているのか?

 悪寒が一層強くなる。

 いや、今更そんな事がバレていても何ら不思議ではない。むしろ十中八九、この男は見破ってくるだろう。にも関わらず、何故か胸部装甲及びその付近のネックレスを見られると震えが止まらない。

 ……はたと、戦艦棲姫は理由にたどり着く。

 

(まさか……この私が命の危機を感じている?)

 

 それは根源的な恐怖。

 部下はともかく、本人には何の力もないこの男を前にして、自分は命の危機を感じているのだと、戦艦棲姫は結論付ける。

 胸部装甲の先には、心臓がある。

 先程の震えはその為だろう。それ以外考えつかない。

 

(こ、殺すか! 今ここで!)

 

 ここで提督を殺せる可能性は低い。

 その上失敗しようが成功しようが、戦艦棲姫は命を落とすだろう。

 だが、それでも!

 この男だけはここで殺しておかなければならないと!

 この男を他の深海棲艦に会わせてはならないと!

 戦艦棲姫の勘が告げていた!

 

「艤装てんか――」

 

 決めるが早いが、戦艦棲姫は艤装を展開し始める。

 しかし、先手を取ったのは戦艦棲姫ではなく――提督であった。

 

「日本語、お上手なんですね」

 

 戦艦棲姫は戦慄した。

 日本語――そうだ。

 あれほど証拠を残さない様にしていたのに、うっかりと日本語を話してしまった。

 いや、そうではない。

 話させられたのだ。

 目の前の男に。

 いきなり出てきた事で平常心を乱された。

 その上あまりに自然に日本語で語りかけてくるから、思わず受け答えしてしまった。

 普通異国の地に来て、母国語を話す奴はいない。それをするのはよっぽどの馬鹿か、あるいは策士だけだ。

 そして目の前の男が考えなしの馬鹿ということだけは絶対にあり得ない。

 つまり――

 

「ぁ、ぁぁあああーーー!」

 

 戦艦棲姫は逃げ出した。

 背中からでもヒシヒシと感じるあの男の視線。それが完全に無くなるまで、戦艦棲姫は恥も外聞も無く、必死に走って逃げた。

 

「はあ、はあ、はあ……ここまでくれば、はあ、流石にあの男も――!?」

 

 そして気付く。

 周りにまったく人間がいない事に。

 インドは人口の多い国だ。自然に人がまったくいなくなると言う事はない。つまり、人払いが済んでいるということ。

 

 罠に嵌められた……!

 戦艦棲姫は頭を働かせる。

 あの男の『アレ』はハッタリだったのだ。

 全ては戦艦棲姫をこの場所に誘導するための!

 

「ようお嬢さん。お散歩か?」

「!」

 

 突如、背後から声をかけられる。

 戦艦棲姫は急いで距離を取ってから振り向き――笑った。

 無理もない。

 どんな追っ手が来るのかと思えば、いたのはたった一隻の軽巡洋艦だったのだから。

 だが、戦艦棲姫の余裕は、次の瞬間剥がれ落ちる事になる。

 

「艤装展開」

 

 戦艦棲姫の言葉に呼応して、背後に巨大なモンスターにも見える艤装が現れる。

 さっきまで着ていたスーツもドレス型の装甲となり、メガネも電探へと変わった。

 そして、気付く。

 目の前に立つ軽巡洋艦――天龍の極限にまで練り上げられた闘気に。

 

「キサマ、ホントウニテンリュウカ?」

 

 天龍型一番艦『天龍』。

 戦艦棲姫の知るそれは、多少燃費がいいことを除けば並以下の船だ。

 当然、戦艦をも上回る力を持つ戦艦棲姫が遅れを取る相手ではないし、事実何度も沈めた事がある。

 だが……いや戦った事があるからこそ、より鮮明に分かる。

 目の前に立つ天龍は、これまで見てきたどの天龍とも違う。

 今まで出会ってきた天龍の中で、まず間違いなく一番強い。

 体感ではあるが――その力は長門型にすら差し迫るほどだ。

 

「オレが誰かだと? 決まってる」

 

  ――刀を抜きながら、奴は答えた。

 

「オレの名は天龍。フフ……怖いか?」

 

 最初に聞いたときはふざけた口上だと思ったものだが、この天龍を目の前にすれば。なるほど、満更ハッタリとも言えない。

 

 ――これが、あの男の艦娘。

 戦艦棲姫は先程の悪寒を思い出していた。

 ただの軽巡洋艦が長門型と差し迫せまるまでに高められた練度。一体どれほどの修練を積んできたのか。

 やはりあの時殺しておけば良かった。

 戦艦棲姫がそう考えた瞬間――天龍がブレた。

 

 戦艦棲姫は即座に体を捻る。

 次の瞬間、先程まで体があった場所を剣が通過した。

 

 第一刀を避けたからといって、油断していい相手ではない。戦艦棲姫はすぐ様クロスガードで顔を防御する。

 ズガン! とガードの上から天龍の拳が突き刺さった。

 おおよそ拳から出る音ではない。まるでコンクリートとコンクリートをぶつけた様な音だ。

 戦艦棲姫は拳を受けた勢いそのまま後ろに飛び、着地と同時に主砲を天龍に向ける。

 

 ――轟音。

 

 戦艦棲姫の主砲が火を吹き、天龍がいた場所を火の海へと変える。

 普通の軽巡洋艦なら、これで四・五隻沈められるほどの火力だ。

 だが、あの天龍がこれで沈むとはとうてい思えない。

 その証拠に、戦艦棲姫はヒリヒリとした殺気を感じていた。

 

「ソコカ!」

 

 砂煙から、一つの影が飛び出る。

 主砲よりも狙いの着けやすい副砲を構え、戦艦棲姫は再び砲撃。

 中〜長距離は戦艦棲姫の間合いだ。

 このまま距離を取って戦えば――

 

「うらぁ!」

「ッ!?」

 

 いつの間にか背後に回っていた天龍に、背中を切りつけられる。

 何故だ?

 さっき見た影は?

 

 戦艦棲姫の疑問は直ぐに解けた。

 式紙だ。

 軽空母が飛ばす式紙が、いつの間にか空を埋め尽くしていた。

 

「ウチオトシテヤル!」

 

 主砲を構え直すが――打つ前に、主砲を逆に狙撃される。

 発射直前の熱された主砲が暴発し、使えなくなってしまう。

 ダメージ自体はほとんどないが……戦艦棲姫は驚愕した。

 撃たれた感触でわかる。

 今の攻撃は正規空母による弓での狙撃ではない。

 これは単装砲による狙撃(・・・・・・・・)

 つまりこの何者かは、戦艦棲姫の電探に映らない超遠距離から、普通の単装砲を当てる技能の持ち主だということ。

 そんな技見た事も聞いた事もない。

 あの男は一体どれほど艦娘を鍛えて――!

 

 戦艦棲姫が驚愕している間の、一瞬の隙。

 それを見逃す天龍ではない。

 彼女は即座に肉薄し――刀を振り下ろした。












タイトルが云々という感想が寄せられていたので非公開にしていたのですが、もう気にしない事にしました。
冷静に考えたら、このくらいの表現ニュースとかであるし。少女暴行事件とか報道する度にクレーム入れてるのかっていう。

次回は裏で動いていた『第三艦隊』の面々をメインに書く予定です。
ちなみに天龍=2/3神通くらいの力関係です。

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