提督になったし艦娘ぶち犯すか 作:ぽんこつ提督
ランキングに上がったのかな? と思って見て見ても、加点ランキングに入ってはいるものの、日間ランキングにはない。
あれぇー? と思ってたら、どうやら推薦が書かれてたみたいですね。どうもありがとうございます。
――明け方。
地平線の彼方から太陽がやっと顔を見せ始めた頃。
遊撃部隊『第三艦隊』旗艦・吹雪は、ようやく鎮守府に帰投した。
『第三艦隊』――それは簡単に言えば、「物凄く能力はあるが性格にも物凄く難がある艦娘」を集めた部隊である。
例えば一度スイッチが入ると敵か己が死ぬまで戦いをやめない戦闘狂だったり、戦いの最中不意にトラウマがフィードバックする末期PTSD患者だったり、あるいはそもそもやる気がなかったり。しかし能力はズバ抜けて高い。そんな厄介な連中なのだ。
そんな連中をまとめているのが、鎮守府で一番コミュニケーション能力の高い吹雪なのである。
「はあ……、疲れたぁ」
提督の指示は実に緻密な物だ。
少しの狂いが、大きな誤差になってしまう。
その指示を『第三艦隊』を率いながら遂行した吹雪の疲労度は、推し量れる物ではない。
だが、そう泣き言ばかりも言ってられない。
吹雪は自分の両頰を叩き、気合いを入れ直した。
なんと言っても、これから提督に会うのだから。
「『第三艦隊』旗艦・吹雪です! 失礼します!」
扉の前で、声を張り上げる。
提督の許可が下りると同時に、直ぐに扉が開かれた。
だが、直ぐに入室することは出来ない。
先ずは明石からボディーチェックを受ける。次にいくつかの質疑を繰り返し、吹雪が本当に『吹雪』であるのか確認が取れてから、やっとの入室だ。
部屋の中にはすでに、多くの艦娘が集まっていた。
中心にいるのは――やはり提督だ。
各艦隊の旗艦から提出された書類に目を通している。
「吹雪か。明け方までご苦労」
「いえ! 提督こそ、私達が至らないばかりに。お待たせして申し訳ありません!」
「いや……。私など、ここでくつろいでいただけだよ」
謙遜もここまで来ると厭味というものだ。
今回の戦争で誰が一番の功労者かなど、誰の目から見ても明らかである。
いや案外――提督は本当に『楽な仕事』と思っているのかもしれない。あれほどの事態を前にしてあの落ち着きよう、更には戦術を組み立てるまでの速度を見ると、まだまだ底があるように思える。
一体この人はどこまで……?
戦慄する吹雪をよそに、提督は報告書に目を戻した。
提督が報告書の束を一枚めくるたびに、室内に緊張が走る。
それも無理ならぬ話だろう。
この大規模侵攻は、前例を見ないものだ。通例どおりであれば、深海棲艦を取り仕切る姫級を倒せばそれで終わりなのだが――今回もそうであるとは限らない。
故にこの戦争の終わりは、目の前にいる提督にしか分からないのだ。
全員が緊張する中、ついに提督が報告書を全て読み終えた。
「諸君、ご苦労。我々の勝利だ」
正直に言えば、ホッとした。
もう戦わなくていい、これ以上『墓地』に名前が増えることはない、母国が助かった。安堵が吹雪の体の中に満ちた。他の艦娘も、概ねそんな感じだ。そんな中で、提督はポツリと言った。
「ようやく平和になったか」
自分の昇進や功績などまるで考えていない、素朴な言葉だった。
――吹雪は即座に自分を恥じた。
戦いが終わったから、もう戦わなくていい。
それは艦娘の――いや軍に所属する者の本懐ではない。
市民の平和、それを第一に求めるべきなのだ。
提督はこの功績を讃えられ、階級が上がり、名誉ある勲章を貰うだろう。しかし彼は、そんな事は少しも考えていない。
平和。
ただそれのみを求めている。
なんて高潔な人物なのだろうか。
正に軍人の鑑、と言える。
吹雪はこんな人に会ったのは初めてだった。
――その時、執務室に置いてある電話が鳴った。
大淀がそれを取り、同時に明石が逆探知を開始する。
「提督、大本営からです」
大淀の言葉に、明石が同意する。
「受け取ろう」
提督が電話を受け取った。
そのタイミングで、大淀・明石・長門を除いた艦娘達が部屋を出て行く。大本営からの通達は機密情報。漏洩のリスクは少しでも減らしたほうがいい。吹雪達艦娘も知っておいたほうが良い事は、後で提督の口から伝えられるだろう。そのあたりの取捨選択は、あの人ならば間違うまい。
◇
吹雪が廊下を歩いていると、向こうの方に杖をついた長門が見えた。
改二の後遺症がまだ抜けきっていないのだろう。
提督の前で無様な姿は見せられない――とさっきまでは気丈に振る舞っていたが、提督がこの鎮守府にいない今、その必要はない。
ただ吹雪としては、確かにあの提督は厳しい所もあるが、それ以上に優しい人だと思っている。精一杯戦った結果の負傷ならば、むしろ気にかけてくれるのではないか、と。しかし長門にそれを言った所で、彼女はそれを突っぱねるだろう。
だから吹雪は怪我の事には触れず、普通に話しかけた。
「長門さん」
「ん、吹雪か」
「お疲れ様です。『第一艦隊』旗艦として、大活躍されたそうですね。流石長門さんです!」
「私の力など、微々たるものだよ。それを今回痛感させられた」
長門はチラリと自分の杖を見た。
「しかしそれを言うなら吹雪こそ、よくぞあの『第三艦隊』に奇襲をさせられたな。普通ならば、誰かが先走ったり、奇声を上げてしまいそうなものだが」
「あはは……もう慣れましたから」
実際そうなりかけた所を、吹雪が殴って止めたのは秘密である。
「司令官はいつお帰りになるんですか?」
「分からん。なにせ内閣総理大臣・大本営元帥・天皇陛下――お三方からの表彰だからな。それに……」
「それに?」
「提督はもしかしたらもう、戻って来ないかもしれない」
「えっ」
「今回の件、大本営は重く見ているだろう。大打撃を受けた事も、提督の功績も。提督は特進し、大本営入りする可能性が高い」
「そんな……」
驚愕しながらも、頭の冷静な部分が告げる。
提督の才能は、一つの鎮守府のためだけに使うのは惜しい。もっと広い視野で指揮したほうが良いのではないか。そもそも今回の件にしても、提督が大本営で指揮を取っていれば、未然に防げていたのではないか。
それに――提督にしても、幼い頃から大本営で教育を受けているはずだ。最近来たばかりの鎮守府よりも、大本営の方が居心地がいいに違いない。
「吹雪、私は怖いんだ……」
長門が震えた声で言った。
こんな長門を見るのは、初めての事だ。
「あの方がいなくなった。たったそれだけのことで、急にまたあの惨劇が起こるんじゃないかと、次に誰の名前が刻まれるのかと……不安で仕方がないんだ」
「長門さん……」
「もし、もし仮にだ。提督が着任するのがたった三日間遅かったとする。その時私達は生きていたか?」
「――半々、でしょうね。生き残りはいるでしょうが、多くが死んでいたと思います」
「私も同じ結論だ。半々、つまり私か吹雪、どちらかはここにいない事になる」
長門は杖を持っていない方の手で、吹雪を抱きしめた。
吹雪の背中に回された手が、そして大きな体が震えているのがわかる。
何かを言わなくてはならない――でないと、長門は胸の中に異物を作ってしまう。異物――恐れや迷いが一度生まれてしまうと、それを消すのは難しい。そしてそれは、死を招く事になる。
それが分かっていながら、吹雪は迷っていた。
単純に。何を言っていいのか、分からないのだ。
「少し通して貰っていいかしら、急ぎの用事があるのだけれど」
そんな時二人に声をかけたのは、加賀だった。
「あ、ああ。すまんな、今どく」
「ありがとうございます。そういえば……長門さん」
「なんだ?」
「先程赤城さんから聞いたのだけど、提督は今日中にお戻りになるそうよ」
長門は驚いた。
加賀の相方――赤城は提督の御付きとして、大本営へ共に向かった。そして加賀はあまり冗談を言う様な性格ではない。それを思えば、この言葉は真実だと言う事だろう。
「何故だ……」
「先程貴女が言った通り、提督には大本営勤務の話が出たそうよ。けれど「鎮守府には艦娘がいるから」と断ったと、そう赤城さんから聞いているわ」
提督は分かっていたのだ。
長門を始め、艦娘達の心理状態を。
戦術面だけではない、心理学的な面でも提督は高い能力を保持している様だ。
「それでは私は失礼します」
「待て。さっき用事があると言ったな……今は全艦娘が休暇中のはずだが、何か厄介ごとが出来たのか? 力になれるなら、この長門になんでも言ってくれ」
「いえ。ただ、提督の武勇を歌に残そうと思っただけよ」
加賀が作詞・作曲に優れているのは、この鎮守府にいる誰もが知っている。きっと良い歌が出来るだろう。
「それなら、武勇だけではなく、提督の優しさも詩に入れてもらえませんか?」
「何を言ってるの――」
――最初からそのつもりだわ。
加賀はそう言い残し、自室へと戻っていった。
◇
鎮守府の正門に、赤城を除いたすべての艦娘が集合していた。
左右に分かれ、一つの道を作っている。
普段騒いでいるお調子者も、この時だけは直立不動の姿勢を崩さない。
彼女達は待っているのだ。
この鎮守府の主人を……。
「総員、敬礼!」
長門の合図に合わせ、全員が敬礼をする。
一糸乱れぬ、とは正にこの事。
揃い過ぎたために、一人分の音しか聞こえなかったほどだ。
弛まぬ訓練と――深い忠義のなせる技だろう。
艦娘達が作った道を進むのは、一人の男だ。
純白の軍服に、三つの金で出来た勲章を掲げた一人の男。
彼は後ろに控える赤城と共に、堂々とこの道を歩き出した。
彼は道を進み終えた後、振り返って言った。
「今日は無礼講だ」
艦娘達がワッと騒ぎ出す。
――その歓声は、戦争が終わり、日常が戻ってきた事を告げる鐘だった。