提督になったし艦娘ぶち犯すか 作:ぽんこつ提督
提督が着任した日から一週間が経とうとしていた。
この方から学ぶことは多い。
そんな理由で長門は、提督の側に出来るだけ居るようにしていた。
最近では、提督との信頼関係も出来つつあるように思う。
「提督。珈琲です」
「ああ、ありがとう」
大淀が珈琲の入ったマグカップを置いた。
部屋の中に良い匂いが満ちる。
長門は戦闘に関すること以外、とんと不器用だ。大淀のように雑務をこなしたり、美味しい珈琲を淹れたりといった事ができない。
適材適所。
昔はそう思っていたが、今は少し羨ましく思う。
提督は少し珈琲を啜った後、話を始めた。
緊張感――を超えた、極限まで張り詰めた空気が室内に満ち、虫の羽音までもが聞こえて来そうなほど部屋の中が静まり返る。
提督のお言葉を一言一句聴き漏らさず、更にそこに込められた意味を少しでも掬うため、だ。
「いいか、先ずは――」
会議に参加していた艦娘は最初八隻だったが、今ではその数を大きく増やし、二十四隻となっている。
理由は二つ。
一つ。指令をこなす内に「これほどの作戦を考案するなんて、一体どんな作戦会議をしているのか」と、提督の戦術立案を実際に見て学びたい、と志願する艦娘が来る様になったから。
二つ。提督が戦術を考える時間があまりに速く、一週間前の極々限定された海域ならいざ知らず、今の広大な海域を股にかけた作戦概要では、元の八隻では追いつかないから。
以上の理由から、会議に参加する艦娘を増やしている。
上記の通り、深海棲艦に侵略されていない海域は、一週間前と比べて格段に増えた。
増やしたのは――何を隠そう、この鎮守府だ。
今にして思うと、初日の勝利は本当に小さな勝利だった。
二日目には一日目よりも大きな戦果を挙げ、
三日目には二日目よりも、
四日目には三日目よりも。
提督の神がかり的な戦術と、日に日にモチベーションが高くなって行く艦娘達。加えて海域を解放したことにより、資材の補給も安定してきた。最早この鎮守府が挙げる一日の戦果は、過去に類を見ないほどだ。
神通と提督の言う通りだ。あれ程度の戦果で舞い上がっていたのが恥ずかしい。
「……ここが怪しいな」
提督が指差した場所。
今まで一度も話題になっていない、非戦闘区域だ。
というのも、この付近には捨てられた港があるだけで、深海棲艦からすれば攻撃するメリットがさほどないのだ。
こちら側としても、あまり防衛する必要性を感じない。
「長門、頼めるか?」
そんな場所に主力艦隊を送り込むなど、正気の沙汰ではない。
しかし――
「もちろんだ。この長門、全力を尽くすと誓おう」
長門は力強く返事を返した。
この提督が間違った事を言うはずがない、という確信。
それから、ここ数日で培われた信頼関係。提督は自分を信頼しており、意味のない仕事を任せるわけがないと、長門は信じていた。
◇
いざ『第一艦隊』が指定海域に到着しても、事前情報通り、近くには駆逐艦イ級一匹いない。
さて、ここから一体何が始まるのか……。
長門は意識を張り巡らせた。同時に、『第一艦隊』の空母が艦載機を飛ばす。
「――え?」
その時だった。
海底から突如、巨大な深海棲艦が現れたのは。
どうやら相手にとってもこの事態は予想外だったらしく、お互い完全に硬直した。
「……はぁ!」
先に動いたのは長門だった。
まったくの無防備だった新型深海棲艦に対し、
長門は『何かあるかもしれない』という心構えをしていた。
その僅かな差が、二人の初動を分けた。
「グッ――!」
長門の拳を顔にもらった新型深海棲艦は、顔を歪めた後、再び海へと潜っていった。
(そうか! こいつは潜水艦としての能力を有しているのか!)
どうりで、今回の親玉が見つからないはずだ。
短い間に、長門は全てを理解した。
深海棲艦は鬼や姫クラスになると、二つの船種の能力を持つことがある。
例えば南方棲戦などは戦艦でありながら、空母並みの制空値を誇っている。
今回の新型深海棲艦は恐らく、空母か戦艦の能力を持ちながら、潜水艦としての能力も持っているのだ。
恐らくその能力を使い、非戦闘区域からこっそりと観察する事でこちらの手を読み、今まで優位に立っていたのだろう。しかし急に上手くいかなくなったことに業を煮やし、再度接近――提督はそのタイミングと場所を読み、ここに長門を派遣したのだ。
相手は隠密行動のために、何のお供も連れていない。これ以上のチャンスはないだろう。
「こちら『第一艦隊』旗艦長門!」
長門は提督の意図を理解すると、すぐ様司令部に連絡を取った。
出たのは提督ではなく――大淀だ。連合艦隊旗艦としての高い指揮能力を誇る大淀。本来ならこの時間は、別の任務に当たっているはずである。
この事態を予測した提督が、あらかじめ呼び出したのだろう。
「連合艦隊出撃ですね? 準備は出来ています」
「ああ、そうだ。……提督のご指示か?」
「ええ。長門さんが接敵したのとほぼ同じタイミングで、私に指示が下りました」
やはり……か。
最早驚きはしない。
あの方はそれくらいやってのけるのだという信頼と、それから尊敬の念が強まるだけだ。
そこに来て、長門はまた一つとある事実に気がついた。
(解放した海域が、見事に連合艦隊の通り道になっている。ここまで織り込み済みか)
そう。
昨日までに解放した海域が、見事に連合艦隊の道になっていたのだ。これならば連合艦隊は何の消耗もなく、この海域まで来ることが出来る。
つまり、前日までの戦いはすべて、この日の為の仕込みだったのだ。
一体いつからこの形を思い描いていたのか、長門には想像もつかない。
「さて。連合艦隊は補給物資も持って来るらしい。帰りの分の燃料は考えなくていいそうだ」
長門の言葉に呼応するように、艤装が虚空から出現する。
いや、艤装だけではない。
長門が身に纏う服もまた、その姿を変えていく。袖や縫い目に山吹色のラインが入り、スカートや胸部の服が布面積を増し――最後に漆黒の長マントがはためいた。
「改二実装!」
――改二。
それは一部の艦娘にのみ許された、一つ上のステージ。
火力・装甲・速度――全てのステータスが一時的に跳ね上がる。
尤も、何のデメリットもないわけではない。改二には強烈なフィードバックがあり、いかに長門と言えど、一時間も改二の姿になれば、丸三日は筋肉痛で動けなくなる。また、消費する燃料も段違いだ。
「待ちに待った……本当に待ちに待った艦隊決戦だ。改装されたビッグセブンの力、とくと味わうがいいさ」
だが改二には、それでもあまりあるメリットがある。
長門の主砲から放たれた弾は、深海棲艦ごと海を焼き払った。通常時とは比べ物にならない火力だ。
「旗艦長門より通達。『第一艦隊』総員、改二の実装を許可する」
長門の号令によって、『第一艦隊』の面々も改二となる。
『第一艦隊』は戦艦二隻・空母二隻・軽巡洋艦二隻の計六隻からなる部隊であり――驚くべきことに、メンバー全員が改二へと至っている、鎮守府唯一の部隊なのだ。
連合艦隊が到着するまで残り十分――長門はその間に、全ての決着をつける気でいた。
◇
結局。
鎮守府は勝利した。
そこには語るべき事など何一つない。
敵の虚をつき、数で圧倒して司令塔を倒す。その後は散り散りになった深海棲艦を各個撃破。逆転劇など何一つない。全てが提督の指示通り、淡々と進められていった。
教科書通りの、完璧な戦いだ。
「クソッ!」
だが長門は、その結果に満足していなかった。
『第一艦隊』は善戦したものの、連合艦隊が到着するまでに新型深海棲艦を倒す事は出来なかった。
とはいってもほとんどの体力を削り――連合艦隊はほぼトドメだけを刺した形だ。
最初の戦況から考えれば、大躍進と言えるだろう。
何の誇張もなく、国を救ったのだから。
それでも長門は、喜びよりも悔しさの中にいた。
つい一週間前までは、考えられなかった事だ。
平和になった海を見て、それでもなお満足出来ないなど。
ましてやあの状況から勝利し、更にはその勝ち方にまで拘るなど。
……神通の言っていた意味が、今なら分かる。
『――この程度か』
一週間前、提督はそう言った。
『長門、頼めるか?』
そして今日、提督はそう言った。
汚名返上のチャンスだった。
提督が求める水準の働きをし「よくやった」と言って欲しかった。そしてそのチャンスも与えられていた。それを再びとり溢したのは、誰であろう長門だ。
「ここに誓おう。海よ、私はまた帰ってくるぞ」
帰り際、長門は平和になった海に誓った。
今度こそ暁の水平線に、提督が望む勝利を捧げると。
長門は誓いを胸に、提督の待つ執務室へと帰った。
改二はゲーム内だと一度なればずっとそのままですが、
ここではスーパーサイヤ人的な一時的な強化状態だと思って下さい。