提督になったし艦娘ぶち犯すか   作:ぽんこつ提督

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初陣 ③

 提督が着任した日から一週間が経とうとしていた。

 

 この方から学ぶことは多い。

 そんな理由で長門は、提督の側に出来るだけ居るようにしていた。

 最近では、提督との信頼関係も出来つつあるように思う。

 

「提督。珈琲です」

「ああ、ありがとう」

 

 大淀が珈琲の入ったマグカップを置いた。

 部屋の中に良い匂いが満ちる。

 長門は戦闘に関すること以外、とんと不器用だ。大淀のように雑務をこなしたり、美味しい珈琲を淹れたりといった事ができない。

 適材適所。

 昔はそう思っていたが、今は少し羨ましく思う。

 

 提督は少し珈琲を啜った後、話を始めた。

 緊張感――を超えた、極限まで張り詰めた空気が室内に満ち、虫の羽音までもが聞こえて来そうなほど部屋の中が静まり返る。

 提督のお言葉を一言一句聴き漏らさず、更にそこに込められた意味を少しでも掬うため、だ。

 

「いいか、先ずは――」

 

 会議に参加していた艦娘は最初八隻だったが、今ではその数を大きく増やし、二十四隻となっている。

 理由は二つ。

 一つ。指令をこなす内に「これほどの作戦を考案するなんて、一体どんな作戦会議をしているのか」と、提督の戦術立案を実際に見て学びたい、と志願する艦娘が来る様になったから。

 二つ。提督が戦術を考える時間があまりに速く、一週間前の極々限定された海域ならいざ知らず、今の広大な海域を股にかけた作戦概要では、元の八隻では追いつかないから。

 以上の理由から、会議に参加する艦娘を増やしている。

 

 上記の通り、深海棲艦に侵略されていない海域は、一週間前と比べて格段に増えた。

 増やしたのは――何を隠そう、この鎮守府だ。

 今にして思うと、初日の勝利は本当に小さな勝利だった。

 二日目には一日目よりも大きな戦果を挙げ、

 三日目には二日目よりも、

 四日目には三日目よりも。

 提督の神がかり的な戦術と、日に日にモチベーションが高くなって行く艦娘達。加えて海域を解放したことにより、資材の補給も安定してきた。最早この鎮守府が挙げる一日の戦果は、過去に類を見ないほどだ。

 神通と提督の言う通りだ。あれ程度の戦果で舞い上がっていたのが恥ずかしい。

 

「……ここが怪しいな」

 

 提督が指差した場所。

 今まで一度も話題になっていない、非戦闘区域だ。

 というのも、この付近には捨てられた港があるだけで、深海棲艦からすれば攻撃するメリットがさほどないのだ。

 こちら側としても、あまり防衛する必要性を感じない。

 

「長門、頼めるか?」

 

 そんな場所に主力艦隊を送り込むなど、正気の沙汰ではない。

 しかし――

 

「もちろんだ。この長門、全力を尽くすと誓おう」

 

 長門は力強く返事を返した。

 この提督が間違った事を言うはずがない、という確信。

 それから、ここ数日で培われた信頼関係。提督は自分を信頼しており、意味のない仕事を任せるわけがないと、長門は信じていた。

 

 

   ◇

 

 

 いざ『第一艦隊』が指定海域に到着しても、事前情報通り、近くには駆逐艦イ級一匹いない。

 さて、ここから一体何が始まるのか……。

 長門は意識を張り巡らせた。同時に、『第一艦隊』の空母が艦載機を飛ばす。

 

「――え?」

 

 その時だった。

 海底から突如、巨大な深海棲艦が現れたのは。

 どうやら相手にとってもこの事態は予想外だったらしく、お互い完全に硬直した。

 

「……はぁ!」

 

 先に動いたのは長門だった。

 まったくの無防備だった新型深海棲艦に対し、

 長門は『何かあるかもしれない』という心構えをしていた。

 その僅かな差が、二人の初動を分けた。

 

「グッ――!」

 

 長門の拳を顔にもらった新型深海棲艦は、顔を歪めた後、再び海へと潜っていった。

 

(そうか! こいつは潜水艦としての能力を有しているのか!)

 

 どうりで、今回の親玉が見つからないはずだ。

 短い間に、長門は全てを理解した。

 

 深海棲艦は鬼や姫クラスになると、二つの船種の能力を持つことがある。

 例えば南方棲戦などは戦艦でありながら、空母並みの制空値を誇っている。

 今回の新型深海棲艦は恐らく、空母か戦艦の能力を持ちながら、潜水艦としての能力も持っているのだ。

 恐らくその能力を使い、非戦闘区域からこっそりと観察する事でこちらの手を読み、今まで優位に立っていたのだろう。しかし急に上手くいかなくなったことに業を煮やし、再度接近――提督はそのタイミングと場所を読み、ここに長門を派遣したのだ。

 相手は隠密行動のために、何のお供も連れていない。これ以上のチャンスはないだろう。

 

「こちら『第一艦隊』旗艦長門!」

 

 長門は提督の意図を理解すると、すぐ様司令部に連絡を取った。

 出たのは提督ではなく――大淀だ。連合艦隊旗艦としての高い指揮能力を誇る大淀。本来ならこの時間は、別の任務に当たっているはずである。

 この事態を予測した提督が、あらかじめ呼び出したのだろう。

 

「連合艦隊出撃ですね? 準備は出来ています」

「ああ、そうだ。……提督のご指示か?」

「ええ。長門さんが接敵したのとほぼ同じタイミングで、私に指示が下りました」

 

 やはり……か。

 最早驚きはしない。

 あの方はそれくらいやってのけるのだという信頼と、それから尊敬の念が強まるだけだ。

 そこに来て、長門はまた一つとある事実に気がついた。

 

(解放した海域が、見事に連合艦隊の通り道になっている。ここまで織り込み済みか)

 

 そう。

 昨日までに解放した海域が、見事に連合艦隊の道になっていたのだ。これならば連合艦隊は何の消耗もなく、この海域まで来ることが出来る。

 つまり、前日までの戦いはすべて、この日の為の仕込みだったのだ。

 一体いつからこの形を思い描いていたのか、長門には想像もつかない。

 

「さて。連合艦隊は補給物資も持って来るらしい。帰りの分の燃料は考えなくていいそうだ」

 

 長門の言葉に呼応するように、艤装が虚空から出現する。

 いや、艤装だけではない。

 長門が身に纏う服もまた、その姿を変えていく。袖や縫い目に山吹色のラインが入り、スカートや胸部の服が布面積を増し――最後に漆黒の長マントがはためいた。

 

「改二実装!」

 

 ――改二。

 それは一部の艦娘にのみ許された、一つ上のステージ。

 火力・装甲・速度――全てのステータスが一時的に跳ね上がる。

 尤も、何のデメリットもないわけではない。改二には強烈なフィードバックがあり、いかに長門と言えど、一時間も改二の姿になれば、丸三日は筋肉痛で動けなくなる。また、消費する燃料も段違いだ。

 

「待ちに待った……本当に待ちに待った艦隊決戦だ。改装されたビッグセブンの力、とくと味わうがいいさ」

 

 だが改二には、それでもあまりあるメリットがある。

 長門の主砲から放たれた弾は、深海棲艦ごと海を焼き払った。通常時とは比べ物にならない火力だ。

 

「旗艦長門より通達。『第一艦隊』総員、改二の実装を許可する」

 

 長門の号令によって、『第一艦隊』の面々も改二となる。

 『第一艦隊』は戦艦二隻・空母二隻・軽巡洋艦二隻の計六隻からなる部隊であり――驚くべきことに、メンバー全員が改二へと至っている、鎮守府唯一の部隊なのだ。

 連合艦隊が到着するまで残り十分――長門はその間に、全ての決着をつける気でいた。

 

 

   ◇

 

 

 結局。

 鎮守府は勝利した。

 そこには語るべき事など何一つない。

 敵の虚をつき、数で圧倒して司令塔を倒す。その後は散り散りになった深海棲艦を各個撃破。逆転劇など何一つない。全てが提督の指示通り、淡々と進められていった。

 教科書通りの、完璧な戦いだ。

 

「クソッ!」

 

 だが長門は、その結果に満足していなかった。

 『第一艦隊』は善戦したものの、連合艦隊が到着するまでに新型深海棲艦を倒す事は出来なかった。

 とはいってもほとんどの体力を削り――連合艦隊はほぼトドメだけを刺した形だ。

 最初の戦況から考えれば、大躍進と言えるだろう。

 何の誇張もなく、国を救ったのだから。

 

 それでも長門は、喜びよりも悔しさの中にいた。

 つい一週間前までは、考えられなかった事だ。

 平和になった海を見て、それでもなお満足出来ないなど。

 ましてやあの状況から勝利し、更にはその勝ち方にまで拘るなど。

 

 ……神通の言っていた意味が、今なら分かる。

 

『――この程度か』

 

 一週間前、提督はそう言った。

 

『長門、頼めるか?』

 

 そして今日、提督はそう言った。

 汚名返上のチャンスだった。

 提督が求める水準の働きをし「よくやった」と言って欲しかった。そしてそのチャンスも与えられていた。それを再びとり溢したのは、誰であろう長門だ。

 

「ここに誓おう。海よ、私はまた帰ってくるぞ」

 

 帰り際、長門は平和になった海に誓った。

 今度こそ暁の水平線に、提督が望む勝利を捧げると。

 長門は誓いを胸に、提督の待つ執務室へと帰った。











改二はゲーム内だと一度なればずっとそのままですが、
ここではスーパーサイヤ人的な一時的な強化状態だと思って下さい。

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