提督になったし艦娘ぶち犯すか 作:ぽんこつ提督
俺が「今日は休む」と言ってからわずか三十分後、長門が殴り込んで来た。
部屋の壁ぶち壊して乱入して来た瞬間、不覚にも死を覚悟したわ。もう助からないんだって、穏やかに受け入れちゃったよ。
弱ってると知るや否や殺しに来るとか、ホントあいつ俺のこと嫌い過ぎだろ。しかもなんか泣きながら帰っていったし。情緒不安定か!
それに長門のやつ、俺がいない間に、馬鹿みたいな頻度で出撃してるらしい。俺がいないと出撃し易いってか?
ごめんなさいね、ヘボ提督で!
ああ、それともう一つ。
現在、大本営は経済難に陥ってる。
運営費は税金や寄付金で賄われているらしいんだが、税金はともかく、寄付金の方があまり芳しくないんだと。
そこで支持率を上げたいと、俺は大本営にせっつかれていた。具体的にはテレビに出演して欲しいとか、PR動画を撮って動画サイトに投稿して欲しいとか。
正直どちらもやりたくない。
どうしたもんかと悩んでいたんだが……俺がいない間に艦娘がどうにかした。鎮守府を一般公開して、親近感を持ってもらうとかなんとか。
俺がいない間にバリバリ仕事しやがって……アレ、もしかして俺っていらない?
しかし、それはそれとして。
危なかったぜ。
大量に送られて来たあの香水をアホほど布団にかけたおかげで、臭いでバレる、ということはなかったようだ。まさかあの嫌がらせの様に送られて来た香水が役に立つとは。どんな伏線回収だよ……。
「提督、入ってもよろしいでしょうか?」
扉の外から、大淀の声が聞こえた。
朝っぱらからご苦労なことだ。
すぐさま布団に入り、体調が悪いフリをする。
フリーターだった頃、俺はこうして体調が悪いフリをして、よくバイトをサボってた。
その為、俺は体調が悪いフリには一家言ある。
あんまりにも演技が上手すぎて、一回救急車を呼ばれたレベルだ。
「……お加減が優れない様ですね」
「……いや、特に問題は――ッ! ゲホッ、ゲホッ!」
「ッ!」
俺の姿を見ると、大淀が急にハンカチを手に持ちながら背を向けた。
眼鏡を外して、目元を拭っているようだ。化粧直しか?
「……ふぅ。申し訳ありません、取り乱してしまいました。朝食をご用意したのですが、お食べになりますか?」
「貰おうか」
ここの飯は美味い。
美味すぎて若干太った。
一日三食カップ焼きそばだったフリーター時代が懐かしいぜ。
「間宮さん、お願いします」
大淀がそう言うと、間宮が入って来て、机の上に朝ごはんを並べ始めた。
なんかもう、料亭みたいだ。
料理が全て並んだところで、間宮が一つ一つ説明してくれた。
なんだかよく分からないが、とりあえず熱湯三分ではないらしい。
間宮――所謂補給艦というやつだ。
当たり前のことだが、艦娘は何も、軍艦だけではない。
軍関係の艦娘が資材を弾丸や推進力――要は戦闘力に変換するのに対し、間宮は資材を食事に変換することが出来る。
横須賀の食事は一部輸入に頼っているものの、基本的には間宮が一隻で生成してるのが現状だ。
補給艦の他にも、有名なところでは、あの豪華客船『タイタニック』も艦娘になっているらしい。
艦娘『タイタニック』は資材を豪華なテーブルとか、芸術品とか、パーティ料理に変換できる。なんでも、彼女の能力を使った接待は世界一だとかなんとか……いつか受けてみたいものだ。
あっ、もちろんえっちぃ接待でお願いします。
「提督、失礼します」
「えっ」
大淀が隣に座った。
ふんわりといい匂いが……。
そして俺からは栗の花の臭いが……。
「朝食を食べさせて差し上げますね」
「こぺゅ」
大淀からの誘いが予想外過ぎて、変な声が出た。
学生時代、女の子とお昼ご飯どころか、友達とさえ食べたことない俺が、女の子に食べさせてもらうだと……?
これはもう童貞卒業と言っても過言ではないんじゃないだろうか。
いや入れるのは大淀だから、大淀が童貞卒業で、俺は処女を散らす?
ごめん、何言ってんのか分かんないね。
だってしょうがないじゃん、圧倒的に経験不足なんですから! コンビニでお釣りもらう時位しか女の子と接してたことないんですから!
「最初は何を召し上がりますか?」
「……それじゃあ、湯豆腐を」
「湯豆腐ですね。この大淀にお任せください!」
任せます!
「お熱いですね……。失礼します。ふぅーっ、ふぅーっ」
大淀が湯豆腐をふぅふぅして冷ましてくれた。
やべえ。
女の子がふぅふぅしてる光景やべえ。
なんかひょっとこ顔にして息を吹いてるだけなのに、背徳感やべえよ!
しかもメガネだし!
湯豆腐の湯気でメガネ曇ってるし!
曇ってるメガネって異様に興奮するな、と僕は思いました。
「それでは提督、あーんして下さい」
何が楽しいのか、満面の笑みで大淀が言った。
言われるがまま、口を開ける。
大淀がちょうどいい温度に冷ましてくれた湯豆腐が、口の中に滑り込んでくる。
……おぇ。
気持ち悪!
なんかスプーンを通して大淀の手の動きが舌に張り付いてくる!
漫画とかだと心温まったりトキメクシーンなのに!
なんだこれ!
「お味はいかがでしょうか?」
「さすが間宮だ。礼を言っておいてくれ」
「はい。きっと間宮さんも喜ぶと思います。提督はよくお食べになるので、作り甲斐があると仰っていましたから」
俺いつも一人で執務室で食べてるんだけど……いつ間宮は俺の食いっぷりを見たの?
ひょっとして監視とかされてるの?
「それでは提督、次は何をお召し上がりに?」
えっ、まだ続くの?
俺すごい萎えてるんだけど。食欲も性欲も。最悪の形で処女を卒業したよ。艦娘をぶち犯すと意気込んでいたら、口の処女を奪われたよ。何言ってんだ俺は。
「はい、あーん」
目の前には満面の笑みの大淀。
断りづらい……。
最初の一口は割とウキウキで行っちゃったからな。
――結局俺は、頑張って朝食を食べさせられきった。
最後の牛乳まで飲まされた時は、流石にいじめを疑った。
普通に飲み辛いし。
……今大変な事に気がついたのだが、毎朝飲んでる牛乳は、つまり間宮の母乳なのでは?
他の料理も、間宮の一部と言えないわけではないし……。
これ以上はやめておこう。少なくとも今は。授業中に謎の勃起をした時みたいになる。
「提督。お加減が優れないところ申し訳ありませんが、報告書を提出、及び説明をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「構わない」
「ありがとうございます。加賀さん、赤城さん、お願いします」
大淀がそう言うと、扉を開けて加賀と赤城がホワイトボードと一緒に入って来た。
……待ってたのかな、俺の食事中ずっと。扉の前で。
いや、入って来いよ。
それでみんなでワイワイ朝ごはん食べようよ。
「それでは提督、説明させていただきます」
資料を渡された後、赤城がホワイトボードの前で夏祭り計画の概要を説明し始めた。
加賀は俺の横で、補足をしてくれる。
説明によると、警戒すべきは深海棲艦よりむしろ、同じ人間……反艦娘派や海外の軍人らしい。
反艦娘派からすると、大本営のイメージアップは嫌だから妨害してくる。海外の軍人達は、貴重な資源である艦娘や提督を誘拐しに来るのだと。
だから横須賀鎮守府の中でもトップレベルの艦娘を警備に配置し、問題を起こした人間は即拘束。その後大本営に引き渡し、と……。
なんか思ったより危なそうだな。
海の警備の方は夜戦に強い駆逐艦と軽巡洋艦を配備。
陸地の指揮官は吹雪、海の指揮官は長門か。
吹雪はともかく、長門か……。
あいつ俺のこと嫌いだし、服装イかれてるし、不安が残るな。
「最も重要な提督の護衛ですが、神通さんと川内さんにお任せしようかと思っています」
いいんじゃない。
あの二隻は夜戦(意味無)に強いし、霧島と違って自決用の銃も持ってない。安心だ。
「広報は青葉が担当しています。中々のレスポンスをいただけているようで、この分ですと収益の方も良いかと……」
大淀のメガネがキラリと光った。
収益が良いと言われてもな。「あっ、そう」としか言いようがない。
だって俺の懐に入るならともかく、今回夏祭りで稼いだ金は鎮守府運営のプール金になるんだし。艦娘の装備は良くなるかもしれないが、俺にとってはどうでもいい事だ。
「提督。何かご意見はございますか?」
「長門……」
「長門さんがなにか?」
「逆に赤城から見て、長門に海上の指揮を任せることに、何か問題は感じないか?」
「いえ、特には」
「そうか……。いや、私の思い過ごしなら良いのだ」
長門はなんか信用ならん。
深海棲艦と間違えました、とか言って俺のこと撃って来そうだ。
まあ長門はともかくとして、他の準備は着々と進んでるみたいだし、口は出さない方がいいか……。
◇
――その日、一体の“生物”がとある海岸に打ち上げられた。
その“生物”は自分が漂流したことを理解すると、そのまま海岸で約十時間眠りについた。
睡眠の後。
“生物”は起き上がり、近くを散策した後、手頃な洞窟を住処とした。
“生物”は酷く傷ついていた。
海上での激しい戦闘の後、海に沈んだその“生物”は、激流に揉まれていたのだ。
通常の生き物ではまず死ぬ。
助かったのは、ひとえにその“生物”が一際頑丈だったからだろう。
――体力を回復させる必要がある。
“生物”はそう考えた。
洞窟に巣食う蝙蝠や、近くに生息する貝類。たまに迷い込んでくる魚類を捕獲し、食す。
それ以外の時はじっと息を潜め、“生物”は傷を少しづつ癒していった。
やがて回復した“生物”は、己の体の異変に気がついた。
――『能力』のほとんどが使えない。
自分の『異能』はおろか、仲間と連絡を取る事すら出来ない。
このままでは不味い……“生物”は焦りだした。
“生物”には行かなくてはならない場所があった。
それも早急に、だ。
元々その“生物”は、その場所を目指していた。
その途中で敵性勢力に会い、襲われた。“生物”は非常に強く、また熟練であったが、敵もまた手練れであった為――敵のほとんどを打ち滅ぼしたものの、“生物”は力を使い果たし、漂流したのだ。
ただでさえ火急の用。大幅に時間をロスした……“生物”は焦りだした。
――その“生物”は気がついていなかった。
自分のいる今その位置が、目的である場所――横須賀鎮守府の付近である事に。
また横須賀鎮守府も、その“生物”が接近している事を見落としていた。
普段通りであれば、その“生物”と横須賀鎮守府が出会うことはなかっただろう。
少なくとも今はまだ。
だが、今回は事情が違った。
横須賀鎮守府は自らその“生物”を引き寄せてしまう事になる。
何が悪かったのかと聞かれれば……時期、としか言いようがないだろう。
そう、どうしようもなく時期が悪かった。
――夏祭りまで、残り一週間。
私はこの話を書くために、同性の友達とプリンを食べさせあいっこをしました。
シンプルに気持ち悪かったです。
作者になるとは大変な事だな、と思い知らされました。