提督になったし艦娘ぶち犯すか   作:ぽんこつ提督

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『英雄』の住まう鎮守府 ④

 ――夢を見た。

 

 幸福な夢を見た。

 夢の中で俺は、沢山の艦娘に囲まれていた。

 みんな笑顔だった。

 心の底から、楽しそうに笑っていた。

 こんな笑顔を見るのは、いつぶりだろうか。

 俺自身の顔は見えないが、きっと笑っているのだろう。

 

 どの艦娘も笑いながら、俺に声を掛けてくれた。

 一緒に遊ぼうと、駆逐艦や潜水艦達が手を握る。

 軽巡洋艦達がからかうように俺の身体に抱きつき、それを重巡洋艦が慌てて諌める。

 遠くで空母や戦艦達が困ったように見ているが、どこか楽しそうだ。

 

 とても幸福だと思った。

 こんな光景がずっと続いて欲しいと、心から願った。

 

 だが、夢はいつか醒めてしまう、儚い物。

 朝になり、目覚め――

 

 ――気がつけば、俺は『夢精』していた。

 

 ごめんなさい、今日は仕事したくないです。

 一人にしてください。

 

 

   ◇

 

 

 長門はバン! と強く壁を叩いた。

 艤装をつけていなければ、長門の力と耐久性は人間のそれだ。

 爪が肌に食い込み血が滲み、拳を壁に叩きつけた反動で皮膚が裂ける。

 

「クソッ!」

 

 それでも、その程度の痛みでは、長門は自分が許せなかった。

 許されるなら、もっと自分を戒めたい。

 しかし、長門の身は横須賀鎮守府、いや提督の所有物である。勝手な都合で傷つける事は出来ない。

 自分が平穏である事。それがこんなにも悔しい事だとは、長門は想像もしていなかった。

 

 事が起きたのは早朝の事である。

 毎朝、提督を起こすのは、大淀の役目だ。

 その彼女から、緊急の連絡が入った。

 

 ――提督が体調を崩された。

 

 誰よりも仕事熱心なあの人のことだ、ただの体調不良で休むとは思えない。

 事実、大淀からの報告によれば、提督は一切ふとんから出ようとせず、更には身じろぎを繰り返していたそうだ。

 それほど苦しい、という事なのだろう。

 

 それを聞いた時、長門は先ず提督を心配した。

 心配しすぎて、壁を壊しながら最短距離で提督の部屋に行ったほどだ。

 そしていざ提督の姿を見て――長門は泣いた。

 あれほどまでに強かった覇気が、見る影もない。

 目の力も何処か弱々しい。

 長門を寂しそうに見る提督の顔は、まるで悟りを開いたようだ。

 

 長門は、直ぐに悟った。

 酷使し過ぎたのだ。

 体力を、知能を。そして心を。

 思えば提督が着任して以来、マトモな休みなどなかった。

 それもこんな激戦区の中で。

 提督がいくら優れてるといっても、身体は人間のそれだ。

 いつかは限界が来る。

 

 何故、提督はこんなになるまで休めなかったのか……?

 答えは、原因は目の前にあった。

 ――己だ。

 己の未熟さが、この結果を招いたのだ。

 自分が未熟だったから、提督は休めなかった。託せなかった。

 思い返せば、長門は提督が来て以来、提督に頼ってばかりだった。あの方に任せるのが最善の策、そう考え、それに甘えていた。

 

 提督は努力のお人だ。

 長門は始め、英才教育によりあれほどの知略を持ったのだと思っていたが、実はそうではなかったのだ。

 提督は民間上がりの人間である。

 つまり、彼は独学で学んだのだ。

 たった一人であそこまで積み上げるのは、どれ程大変な事だろうか……。

 分かっていたはずだ。提督は艦娘の、ひいては国の為なら、どこまでも自分を捧げる。そんな人だと。

 そんな提督に寄りかかれば、あの人はどこまでも支えようとするだろう。

 そう、自分が倒れるまで……。

 

 何故気がつかなかったのか?

 後悔は募るばかりだ。

 

「長門、そろそろ……」

「ああ」

 

 陸奥の声で我に帰る。

 今から緊急の会議だ。

 旗艦と大淀の五隻で、これからの事を決めなくてはならない。

 

 会議室に入ると、既に神通・吹雪・鳳翔・大淀が集まっていた。

 全員表情が暗い。

 きっと長門もそうだろう。

 ――提督がいない。

 その事実は、歴戦の猛者達にも重くのしかかる。いや経験豊富な彼女達だからこそ、提督がいない緊急性を強く理解しているのか。

 

「すまない、遅れた。先ずは――」

 

 長門が口を開いた瞬間、大きな音と共に、会議室の扉が吹き飛んだ。

 砂煙の向こうから、金剛が大股で歩いて来る。

 

「金剛、この会議は旗艦と大淀以外――」

Shut up(黙れ)!」

 

 そのまま金剛は長門の襟を掴み、大声で怒鳴った。

 

「心して答えるネ! 何故提督をあんなになるまで働かせタンデスカ! 一番近くにいたオマエが、どうして気がつかなかった!」

 

 金剛の艤装が展開される。

 彼女の背後に現れた主砲が一瞬で熱を帯び、周りの空気を歪ませた。

 長門が下手な事を言えば、彼女は迷わず撃つ。

 そう感じさせるには十分な殺気だ。

 

「金剛さん」

 

 黙る長門の代わりに、声をかけたのは神通だった。

 

「この会議は、旗艦と大淀のみが参加を許される。そう提督がお決めになりました。提督のご命令に反するというなら、この私が切り捨てます」

 

 金剛の主砲で熱された空気が、一瞬にして凍る。

 神通の殺気。

 並みの艦娘では、それを正面から受けただけで二度と戦場に復帰する事は出来ない、と言われている。

 しかし、金剛もまた『第四艦隊』に所属する強者。

 真っ向から神通と向き合った。

 

「神通さん」

 

 そこに鳳翔が割って入る。

 

「金剛さんは私が旗艦を務めさせていただいている『第四艦隊』の一員。私の部下に手を出す事は許しません」

「それが命令違反だとしても、ですか?」

「はい。例え神通さんと敵対しようと、私は部下を守ります」

 

 鳳翔もまた艤装を展開し、弓を神通に向けた。

 いかに神通といえど、鳳翔は片手間に相手出来る船ではない。

 神通も金剛に気を配りながらも、鳳翔に艤装を向けた。

 金剛は怒り狂いながら、長門に照準を合わせたまま。

 対して長門は俯くばかりで、艤装さえ展開しない。

 

 誰かが撃てば、もう止まらない。

 しかし、引くことも出来ない。

 それは譲れない領分だからだ。

 

 ――長い膠着状態を破ったのは、一本の電話だった。

 

 大淀が受け取り、電話対応をする。

 時間にして、十分程だろうか。

 大淀は電話を終え、受話器を置いた。

 

「大本営――と言うより、元帥からのご命令でした」

「……内容は?」

「鎮守府を一般公開して欲しい、と」

 

 正直に言えば、大本営のイメージは悪い。

 しかし、提督の登場により、その風潮は払拭されつつある。

 これを好機と見た大本営は、更にダメ押しをしたいと考えた。

 

「そのダメ押しというのが、横須賀鎮守府の一般公開だ、と」

「はい。艦娘や鎮守府を身近な物に感じてもらい、更には良いイメージもつけたいとのご要望でした。いかがなさいますか?」

 

 長門は迷っていた。

 今は、鎮守府近海に迫る深海棲艦達の迎撃で手一杯だ。

 これ以上の負担となると、少し厳しい。

 提督がいない、という正当な理由がある。

 長門は断りの電話を入れるよう、大淀に指示しようとした。

 

「やりましょう」

 

 だが、先に声を出したのは吹雪だった。

 

「確かに司令官は、ここに居ません。みなさんの気持ちも分かります、私もとっても不安です。でも、提督の教えは今もここに、私達の中にあるはずです」

 

 全員の視線が吹雪に注がれる。

 その中で、吹雪は堂々と話を進めた。

 

「提督は、いつも民間の方の事を考えていらっしゃいました。それなら、私たちもそうするべきだと思います。私達が頑張る事で、民間の方が少しでも安心して暮らせるようになるなら、私はやりたいです!」

 

 ――真っ先に艤装を解除したのは、鳳翔だった。

 

「分かりました。私はそれで構いません」

 

 それに呼応するように、全員が艤装を解除する。

 

「ハイ! そうと決まれば早速取り掛かりましょう!

 神通さんの言う通り、金剛さんは命令違反をしました。ですが、今は少しでも人手が欲しい時です。ここは一旦不問にし、落ち着いた後で、再度審議にかけるというのはいかがでしょうか?」

 

 不満は出なかった。

 あの神通までもが、素直に武器を下ろした。

 

「……長門」

「なんだ」

「今回は許します。ブッキーに感謝することネ。でももう一度同じ事があったら、次は迷わずfireシマスカラ」

 

 最後に吹雪に「Thanks」と言って、金剛は会議室を出て言った。

 

 

   ◇

 

 

 さて。

 鎮守府を一般公開する、と言われても、戦場に長い間身を置いてきた長門には、普通の人間が何を求めているのか、何をしたら喜ぶのか、ということがサッパリ分からなかった。

 そこで白羽の矢が立ったのが新米艦三隻である。

 ついこの間まで学生だった彼女達なら、感性もまた普通の人間に近いはずだ。

 

「夏祭りをするのはいかがでしょう」

 

 そう提案したのは榛名だ。

 

「少し季節外れな気もしますけれど、やっぱりお祭りはみんな好きだと思います」

「なるほど」

「艦娘のみなさんが出店を開けば、自然と交流も増えるでしょうし、それぞれの特技を活かしたステージもやりやすいと思います」

 

 ステージと聞いて真っ先に思い浮かぶのは、那珂と加賀だ。

 那珂はアイドルとしてステージ慣れしているし、加賀は歌が異様なほど上手い。

 他には……戦艦の主砲で打ち上げる花火など、それなりに盛り上がりそうだ。あるいは少し改造したエアーガンを観客に持たせて、一斉に神通に向けて撃ち込ませるのも面白いかもしれない。神通ならきっと、度肝を抜くような方法で全ての弾を止めるだろう。

 

「吹雪」

「はい!」

「観客の方々の安全面にも留意したい。警備係を任せたいのだが、大丈夫だろうか?」

「任せて下さい! 明日までに警備マニュアルを作成してきます!」

「鳳翔さん、貴女は間宮と協力して出店を運営してもらってもいいだろうか」

「私なんかでよろしければ、喜んでお受けします」

「神通はステージを」

「畏まりました」

「私は祭り事というのに疎い。きっと盛り下げてしまうだろうから、鎮守府近海の警備を担当するよ。総合責任者は――吹雪、君に任せたい」

「私がですか!?」

「君以外に適任はいないさ」

 

 ぽん、と長門は吹雪の肩を叩いた。

 誇張でもなんでもない。

 純粋に、長門は吹雪こそが適任だと考えた。

 長門の指揮能力は高い。と言ってもそれはあくまで海の上、戦場での話である。

 他者の心を気にかけたり、こう言った行事の取り締まりは苦手分野だ。妹の陸奥の方が、まだ上手いかもしれない。

 

「さ、吹雪。最後に激励の言葉を」

「は、はい!」

 

 深呼吸を挟んで、吹雪が号令をかける。

 

「みなさん! それぞれの任務や、新艦の教育で忙しいと思います! ですが、これは司令官の名誉に関わる仕事です。私達の失敗は司令官の失敗に、私達の成功は司令官の成功になります。みなさん、頑張りましょう!」

 

 ――神通さんが食い気味にお返事したのが印象的でした。

 後に吹雪はそう語った。












Q.提督が夢精するとどうなる?
A.艦娘同士で殺し合いが起きた末、季節外れの夏祭りが始まる。

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