提督になったし艦娘ぶち犯すか 作:ぽんこつ提督
――夢を見た。
幸福な夢を見た。
夢の中で俺は、沢山の艦娘に囲まれていた。
みんな笑顔だった。
心の底から、楽しそうに笑っていた。
こんな笑顔を見るのは、いつぶりだろうか。
俺自身の顔は見えないが、きっと笑っているのだろう。
どの艦娘も笑いながら、俺に声を掛けてくれた。
一緒に遊ぼうと、駆逐艦や潜水艦達が手を握る。
軽巡洋艦達がからかうように俺の身体に抱きつき、それを重巡洋艦が慌てて諌める。
遠くで空母や戦艦達が困ったように見ているが、どこか楽しそうだ。
とても幸福だと思った。
こんな光景がずっと続いて欲しいと、心から願った。
だが、夢はいつか醒めてしまう、儚い物。
朝になり、目覚め――
――気がつけば、俺は『夢精』していた。
ごめんなさい、今日は仕事したくないです。
一人にしてください。
◇
長門はバン! と強く壁を叩いた。
艤装をつけていなければ、長門の力と耐久性は人間のそれだ。
爪が肌に食い込み血が滲み、拳を壁に叩きつけた反動で皮膚が裂ける。
「クソッ!」
それでも、その程度の痛みでは、長門は自分が許せなかった。
許されるなら、もっと自分を戒めたい。
しかし、長門の身は横須賀鎮守府、いや提督の所有物である。勝手な都合で傷つける事は出来ない。
自分が平穏である事。それがこんなにも悔しい事だとは、長門は想像もしていなかった。
事が起きたのは早朝の事である。
毎朝、提督を起こすのは、大淀の役目だ。
その彼女から、緊急の連絡が入った。
――提督が体調を崩された。
誰よりも仕事熱心なあの人のことだ、ただの体調不良で休むとは思えない。
事実、大淀からの報告によれば、提督は一切ふとんから出ようとせず、更には身じろぎを繰り返していたそうだ。
それほど苦しい、という事なのだろう。
それを聞いた時、長門は先ず提督を心配した。
心配しすぎて、壁を壊しながら最短距離で提督の部屋に行ったほどだ。
そしていざ提督の姿を見て――長門は泣いた。
あれほどまでに強かった覇気が、見る影もない。
目の力も何処か弱々しい。
長門を寂しそうに見る提督の顔は、まるで悟りを開いたようだ。
長門は、直ぐに悟った。
酷使し過ぎたのだ。
体力を、知能を。そして心を。
思えば提督が着任して以来、マトモな休みなどなかった。
それもこんな激戦区の中で。
提督がいくら優れてるといっても、身体は人間のそれだ。
いつかは限界が来る。
何故、提督はこんなになるまで休めなかったのか……?
答えは、原因は目の前にあった。
――己だ。
己の未熟さが、この結果を招いたのだ。
自分が未熟だったから、提督は休めなかった。託せなかった。
思い返せば、長門は提督が来て以来、提督に頼ってばかりだった。あの方に任せるのが最善の策、そう考え、それに甘えていた。
提督は努力のお人だ。
長門は始め、英才教育によりあれほどの知略を持ったのだと思っていたが、実はそうではなかったのだ。
提督は民間上がりの人間である。
つまり、彼は独学で学んだのだ。
たった一人であそこまで積み上げるのは、どれ程大変な事だろうか……。
分かっていたはずだ。提督は艦娘の、ひいては国の為なら、どこまでも自分を捧げる。そんな人だと。
そんな提督に寄りかかれば、あの人はどこまでも支えようとするだろう。
そう、自分が倒れるまで……。
何故気がつかなかったのか?
後悔は募るばかりだ。
「長門、そろそろ……」
「ああ」
陸奥の声で我に帰る。
今から緊急の会議だ。
旗艦と大淀の五隻で、これからの事を決めなくてはならない。
会議室に入ると、既に神通・吹雪・鳳翔・大淀が集まっていた。
全員表情が暗い。
きっと長門もそうだろう。
――提督がいない。
その事実は、歴戦の猛者達にも重くのしかかる。いや経験豊富な彼女達だからこそ、提督がいない緊急性を強く理解しているのか。
「すまない、遅れた。先ずは――」
長門が口を開いた瞬間、大きな音と共に、会議室の扉が吹き飛んだ。
砂煙の向こうから、金剛が大股で歩いて来る。
「金剛、この会議は旗艦と大淀以外――」
「
そのまま金剛は長門の襟を掴み、大声で怒鳴った。
「心して答えるネ! 何故提督をあんなになるまで働かせタンデスカ! 一番近くにいたオマエが、どうして気がつかなかった!」
金剛の艤装が展開される。
彼女の背後に現れた主砲が一瞬で熱を帯び、周りの空気を歪ませた。
長門が下手な事を言えば、彼女は迷わず撃つ。
そう感じさせるには十分な殺気だ。
「金剛さん」
黙る長門の代わりに、声をかけたのは神通だった。
「この会議は、旗艦と大淀のみが参加を許される。そう提督がお決めになりました。提督のご命令に反するというなら、この私が切り捨てます」
金剛の主砲で熱された空気が、一瞬にして凍る。
神通の殺気。
並みの艦娘では、それを正面から受けただけで二度と戦場に復帰する事は出来ない、と言われている。
しかし、金剛もまた『第四艦隊』に所属する強者。
真っ向から神通と向き合った。
「神通さん」
そこに鳳翔が割って入る。
「金剛さんは私が旗艦を務めさせていただいている『第四艦隊』の一員。私の部下に手を出す事は許しません」
「それが命令違反だとしても、ですか?」
「はい。例え神通さんと敵対しようと、私は部下を守ります」
鳳翔もまた艤装を展開し、弓を神通に向けた。
いかに神通といえど、鳳翔は片手間に相手出来る船ではない。
神通も金剛に気を配りながらも、鳳翔に艤装を向けた。
金剛は怒り狂いながら、長門に照準を合わせたまま。
対して長門は俯くばかりで、艤装さえ展開しない。
誰かが撃てば、もう止まらない。
しかし、引くことも出来ない。
それは譲れない領分だからだ。
――長い膠着状態を破ったのは、一本の電話だった。
大淀が受け取り、電話対応をする。
時間にして、十分程だろうか。
大淀は電話を終え、受話器を置いた。
「大本営――と言うより、元帥からのご命令でした」
「……内容は?」
「鎮守府を一般公開して欲しい、と」
正直に言えば、大本営のイメージは悪い。
しかし、提督の登場により、その風潮は払拭されつつある。
これを好機と見た大本営は、更にダメ押しをしたいと考えた。
「そのダメ押しというのが、横須賀鎮守府の一般公開だ、と」
「はい。艦娘や鎮守府を身近な物に感じてもらい、更には良いイメージもつけたいとのご要望でした。いかがなさいますか?」
長門は迷っていた。
今は、鎮守府近海に迫る深海棲艦達の迎撃で手一杯だ。
これ以上の負担となると、少し厳しい。
提督がいない、という正当な理由がある。
長門は断りの電話を入れるよう、大淀に指示しようとした。
「やりましょう」
だが、先に声を出したのは吹雪だった。
「確かに司令官は、ここに居ません。みなさんの気持ちも分かります、私もとっても不安です。でも、提督の教えは今もここに、私達の中にあるはずです」
全員の視線が吹雪に注がれる。
その中で、吹雪は堂々と話を進めた。
「提督は、いつも民間の方の事を考えていらっしゃいました。それなら、私たちもそうするべきだと思います。私達が頑張る事で、民間の方が少しでも安心して暮らせるようになるなら、私はやりたいです!」
――真っ先に艤装を解除したのは、鳳翔だった。
「分かりました。私はそれで構いません」
それに呼応するように、全員が艤装を解除する。
「ハイ! そうと決まれば早速取り掛かりましょう!
神通さんの言う通り、金剛さんは命令違反をしました。ですが、今は少しでも人手が欲しい時です。ここは一旦不問にし、落ち着いた後で、再度審議にかけるというのはいかがでしょうか?」
不満は出なかった。
あの神通までもが、素直に武器を下ろした。
「……長門」
「なんだ」
「今回は許します。ブッキーに感謝することネ。でももう一度同じ事があったら、次は迷わずfireシマスカラ」
最後に吹雪に「Thanks」と言って、金剛は会議室を出て言った。
◇
さて。
鎮守府を一般公開する、と言われても、戦場に長い間身を置いてきた長門には、普通の人間が何を求めているのか、何をしたら喜ぶのか、ということがサッパリ分からなかった。
そこで白羽の矢が立ったのが新米艦三隻である。
ついこの間まで学生だった彼女達なら、感性もまた普通の人間に近いはずだ。
「夏祭りをするのはいかがでしょう」
そう提案したのは榛名だ。
「少し季節外れな気もしますけれど、やっぱりお祭りはみんな好きだと思います」
「なるほど」
「艦娘のみなさんが出店を開けば、自然と交流も増えるでしょうし、それぞれの特技を活かしたステージもやりやすいと思います」
ステージと聞いて真っ先に思い浮かぶのは、那珂と加賀だ。
那珂はアイドルとしてステージ慣れしているし、加賀は歌が異様なほど上手い。
他には……戦艦の主砲で打ち上げる花火など、それなりに盛り上がりそうだ。あるいは少し改造したエアーガンを観客に持たせて、一斉に神通に向けて撃ち込ませるのも面白いかもしれない。神通ならきっと、度肝を抜くような方法で全ての弾を止めるだろう。
「吹雪」
「はい!」
「観客の方々の安全面にも留意したい。警備係を任せたいのだが、大丈夫だろうか?」
「任せて下さい! 明日までに警備マニュアルを作成してきます!」
「鳳翔さん、貴女は間宮と協力して出店を運営してもらってもいいだろうか」
「私なんかでよろしければ、喜んでお受けします」
「神通はステージを」
「畏まりました」
「私は祭り事というのに疎い。きっと盛り下げてしまうだろうから、鎮守府近海の警備を担当するよ。総合責任者は――吹雪、君に任せたい」
「私がですか!?」
「君以外に適任はいないさ」
ぽん、と長門は吹雪の肩を叩いた。
誇張でもなんでもない。
純粋に、長門は吹雪こそが適任だと考えた。
長門の指揮能力は高い。と言ってもそれはあくまで海の上、戦場での話である。
他者の心を気にかけたり、こう言った行事の取り締まりは苦手分野だ。妹の陸奥の方が、まだ上手いかもしれない。
「さ、吹雪。最後に激励の言葉を」
「は、はい!」
深呼吸を挟んで、吹雪が号令をかける。
「みなさん! それぞれの任務や、新艦の教育で忙しいと思います! ですが、これは司令官の名誉に関わる仕事です。私達の失敗は司令官の失敗に、私達の成功は司令官の成功になります。みなさん、頑張りましょう!」
――神通さんが食い気味にお返事したのが印象的でした。
後に吹雪はそう語った。
Q.提督が夢精するとどうなる?
A.艦娘同士で殺し合いが起きた末、季節外れの夏祭りが始まる。