提督になったし艦娘ぶち犯すか   作:ぽんこつ提督

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救出作戦 ⑦

 “彼女”は極貧の村の生まれであった。

 父はなく、母と妹と三人暮らし。

 男手もなければ、仕事もない。

 母が夜の仕事をすることで何とか食い繋いでいた。

 

 ある時、“彼女”に艦娘としての適性があることがわかった。

 艦娘になれば国から援助金が送られ、更には特定の税金の免除など、いくつもの特典が与えられる。

 “彼女”は艦娘になる決心をした。

 

 妹と母は熱心に止めた。

 艦娘になる為の手術は成功率99%――つまり100人に1人が死ぬ計算だ。そんな手術を受けさせたくない、戦場になんかいって欲しくない。妹と母は泣きながら言った。

 それでも。

 母に楽をさせたいと、妹に女の子らしい生活をさせてやりたいと、“彼女”は無理矢理艦娘になった。

 結果としてほとんど喧嘩別れに近い形になってしまったが、“彼女”はそれでも構わなかった。

 

 艦娘になるという事は、兵器になるということだ。

 兵器にはなるべく弱点がない方がいい。

 人質にならない為に、艦娘の家族は名前と姓を変え、別の地に送られる。

 もう二度と“彼女”と家族が会う事はないだろう。

 ならば未練が残らないように。

 

 艦娘になる為の第一歩として、先ずは脳の一部を破壊する。

 そして脳死判定を受けてから、脳を摘出。

 脳を『兵器』の体に埋め込めば――艦娘の完成だ。

 自分が慣れ親しんだ体とは違う体に、違う名前。

 こうして“彼女”は軽巡洋艦『天龍』になった。

 

 それから、天龍は戦い続けた。

 国の為に、などという殊勝な考えはない。

 自分の武勲が母と妹の為になれば、という一心で。

 天龍は戦い、戦って、戦い続けた。

 最初は紛れもなく、家族のためだった。

 艦娘は兵器。

 それがいつしか、自分という存在を保つ為に戦う様になっていた。

 

 その日、天龍はまた戦いに出た。

 いつものように鎮守府を出て、港へ。

 そこでふと、一人の老婆が防波堤に立っているのに気がついた。

 

 ――ここは危ねえぞ。

 

 天龍は何の気も無しに老婆に話しかけた。

 老婆は答えた。

 

 ――姉の為に祈ってるんです。

 

 聞けば、老婆の姉は艦娘として徴兵され、戦い続けているそうだ。

 と言ってもそれはもう何十年も前のことで、姉がまだ生きているかどうかも分からない。

 だから老婆は祈るのだという。

 もし姉が生きているならその無事を祈って。

 もし姉が死んでいるのならせめて安らかな眠りを。

 

 それを聞いて、天龍は何も言えなくなった。

 何のことはない。

 その老婆は、天龍の妹だったのだ。

 

 艦娘は歳をとらない。

 戦っている内に、気がつけばいく年もの月日が流れていた。

 天龍の母は死んだそうだ。

 海軍から送られたお金にはほとんど手をつけなかったという。

 ただずっと「あの子に会いたい」と、それだけを願って母はこの世を去った。

 自分は戦いに没頭するあまり死に目にも会えなかったのに、母はずっと天龍の事を思ってくれていたのだ。

 老婆も同じだと言う。

 お金なんか欲しくなかった。貧しくても、女の子らしい生活が出来なくても、家族三人でいたかった。

 それだけを願っていた、と。

 

 やがて老婆の孫が、彼女を迎えに来た。

 老婆は孫を大層可愛がってた。

 それこそ、自分の命よりも大事だというほどに。

 人の命は短く、儚いものだ。

 なればこそ自分の命を大切に思い、それ以上に大切な物が出来る。

 その心は子や孫に完璧に伝わるわけではない。

 しかし擦れ違うからこそ、完璧以上に伝わる。

 そして自分が母になった時「ああ、母もこんな気持ちだったんだな」と気づくのだ。

 死にゆく者は後の人間にそのバトンを繋ぐ。

 そうして人の輪は繋がっていく。

 

 天龍は最早その輪の中にいない。

 艦娘になるとは、そういうこと。

 

 ――貴女のためにも、祈らせては貰えませんか。

 

 最後に、老婆はそう言った。

 彼女からすれば見ず知らずの自分の為に。

 天龍が今日も帰れるように、と。彼女は祈った。

 天龍はその日も、戦いに出た。

 

 

 人は弱い。

 きっと深海棲艦に負けるだろう。

 例え勝ったとしても、その先にあるのは破滅かもしれない。

 それでも彼らは止まらない。

 

 戦いの中戦死した提督がいた。

 志半ばで寿命を迎えた提督がいた。

 膨大な敵に立ち向かった提督がいた。

 諦めた者は1人もいなかった。

 何故非力な彼らが諦めなかったのか、ようやく天龍は知った。

 

 ただ「生きたい」という願いのために、彼らは歩み続けたのだ。

 その歩みの何と美しい事だろう。

 人は弱く儚い。

 だがこの世界の何よりも美しく、強い。

 

 ――天龍は戦い続けた。

 

 人の美しさに気づいたところで、彼女はもう戻れないところまで来ていた。

 心は海の上に置いて来てしまった。

 今天龍が持っているものと言えば、オイルと血に濡れた手と、どうしようもない人への憧れのみ。

 だから天龍は戦い続けた。

 

 ある時、天龍は負けた。

 後に戦艦棲姫と呼ばれる、『姫型』の深海棲艦。

 天龍は不幸にもその最初の出現に居合わせ、負けたのだ。

 死力は尽くした。

 それでも及ばなかった。

 右目が無くなったもの、ちょうどその時だ。

 ああ、だけどここで沈むのも悪くない。

 戦艦棲姫の手が振り下ろされた時、天龍はそう思った。

 

 ――はたして、その手は止められた。

 

 妹艦に当たる龍田が、天龍と戦艦棲姫の間に立ちはだかったのだ。

 立ちはだかった、と言っても彼女は増援でも何でもない。

 天龍が率いる部隊に予めいた――それこそ、天龍の前に大破した船だ。

 

 ――天龍ちゃんは生きて。

 

 龍田はそう言い残し、戦艦棲姫へと向かっていった。

 天龍より練度が低く、また既に大破している彼女が敵うはずもない。

 それなのに、何故だろうか。

 龍田は戦艦棲姫に立ち向かい、そして戦っていた。

 それからおおよそ五分。増援部隊が到着するまでの間、龍田は戦艦棲姫と互角の戦いを見せた。

 神通率いる増援部隊は到着すると同時に、あっという間に戦艦棲姫を轟沈させた。

 神通は言った。

 既に戦艦棲姫は中破していた。私達はほんの後押しをしただけです、と。

 

 やったな龍田!

 天龍は龍田を抱きしめた。

 返事はない。

 既に龍田は事切れていた。

 

 ――天龍は龍田の遺体を鎮守府へと持ち帰った。

 

 妹艦といっても、もちろん本当の姉妹ではない。

 むしろ赤の他人と言っていい。

 それがどうして自分の命をかけてまで……。

 天龍には分からなかった。

 しかし、気がつけば龍田の事を考えるようになっていた。

 もっと話をしたかった。

 ずっと構ってあげられなかった妹の代わりに、龍田ともっと遊んでやればよかった。

 そんな思いが胸の中に渦巻いた。

 

 ――天龍は荒れた。

 

 ひたすらに出撃を繰り返し、戦い続けた。

 時には他所の鎮守府の艦娘に当たる事だってあった。

 結果として天龍の練度は上がっていったが、心はむしろ荒れた様に思えた。

 そんな時だ。

 天龍が彼女――吹雪に会ったのは。

 

 吹雪は普通の女の子だった。

 艦娘になっても「普通」でいることがどんなに難しいか、それを一番知っているのは天龍だ。

 だからこそ、天龍は吹雪に惹かれた。

 

 戦う事ばかりで、ロクな食事も取らない天龍をご飯に誘い、汚い部屋を片付け、揉め事を起こせば一緒に謝りに行ってくれる。

 吹雪はそんな船だった。

 誰も話しかけてこない荒んだ自分に、なんて事ない様にちょっかいをかけてくれる、そんな船だった。

 その後、天龍と吹雪の間に特別なエピソードは何もない。

 ただただ、取り留めのない日常が流れていっただけだ。

 

 優秀過ぎる姉の存在に押しつぶされた那智。

 トラウマを抱え海に出れなくなった山城。

 人だった頃が忘れられない瑞鶴。

 豪華客船から軽空母に無理矢理改造された『船の記憶』に悩まされた隼鷹。

 

 誰からも見捨てられた彼女達を救ったのは、どこにでもいる凡庸な駆逐艦だった。

 夜な夜な人間の街に遊びに行く天龍がいて、それを怒りながらも迎えに来てくれる吹雪がいて、おんなじように馬鹿をやってる『第三艦隊』がいて。

 気がつけば、天龍は一つの輪の中にいた。

 

 『第三艦隊』は彼女の為に戦う。

 もちろん、天龍も。

 今なら分かる。

 妹が祈った理由も。

 人の美しさの訳も。

 龍田がどうして命を掛けたのかも。

 きっとみんな、こんな想いだったのだろう。

 

「天龍さん――!」

 

 天龍は死にかけていた。

 剣は中程から折れ、

 右脚はあらぬ方向に曲がり、

 左腕は肩から下がない。

 折れた肋骨が肺に刺さったのか、呼吸も絶え絶えだ。

 

「モウ分カッタダロウ……テンリュウ? オ前ノ………マケダ。コッチヘ来イ……ソウスレバ、ソノ駆逐艦ハ……見逃シテヤル…………」

「くどい! オレはお前の下には絶対につかない!」

 

 天龍は即答した。

 人や吹雪を弱いと言う戦艦水鬼。例え何が起ころうとも、天龍が戦艦水鬼と歩みを揃えることはない。

 何故なら吹雪や龍田や人の強さを、美しさを、天龍は知っているから。

 天龍は愛しているのだ。

 その美しい営みを。

 もし……もしその強さが少しでも自分にもあるのなら。

 

 ――その時、天龍は悟った。

 天龍は度重なる戦いにより、急激に練度を増していた。

 結果、たどり着いたのだ。一つ上のステージ――改二に。

 だが、もしここで改二を使えば……。

 

「――改二実装!」

 

 それでも、天龍は少しも迷わず、改二への扉を開いた。

 ただでさえ反動の大きい改二。

 初実装、それもこんな状態で使えば、直ぐに限界がくる。

 ――後一秒。

 後一秒経てば、天龍の体は動かなくなるだろう。

 だが、一秒もあれば充分だ。

 それだけあれば、一太刀は打てる。

 

 天龍は心を落ち着かせ、待った。

 戦艦水鬼の装甲は固い。

 天龍の剣では貫けないだろう。

 狙うはカウンター。

 相手と自分、二つの力で首を切る。

 

 故に――天龍は待った。

 一秒という長い刹那。

 刻一刻と己の体が限界を迎えるのを感じながら、天龍は待った。

 そして――訪れる。

 改二実装から0.9秒後。戦艦水鬼の攻撃が、天龍に飛来した。

 

 ――0.1秒後、天龍は剣を振り終えていた。

 

 ポキン。

 戦艦水鬼の首――の少し上にあるツノが斬れ落ちた。

 戦艦水鬼は天龍の攻撃が当たる直前、首を動かし、斬撃をツノで受けたのだ。

 

「ちく、しょう」

 

 ――天龍の身体が崩れ落ちた。












天龍の過去回想だけはこのssのプロットを作った時(だいたい一年ちょっと前)に書きました。なので(多少の手無しはしましたが)ちょっと拙いかもしれないです。
次回は久しぶりに提督登場。主人公とは一体……。

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