提督になったし艦娘ぶち犯すか 作:ぽんこつ提督
提督が出国する少し前。
『第三艦隊』のメンバーは第三作戦会議室に集まっていた。
ホワイトボードの前に立つのは旗艦である吹雪。
目の下にはクッキリとクマが出来ている。
それもそのはずだ。
『第三艦隊』のメンバーをたった一隻で全員捕まえて来たのだから。
――ここで少し、横須賀鎮守府の『艦隊』について説明しておこう。
横須賀鎮守府には数多くの艦娘がいる。
しかし『艦隊』となると、第一から第四までの四つ――計二十四隻の艦娘分しかない。
他の艦娘達は決まった『艦隊』がなく、その場その場で臨機応変に『艦隊』を組んで出撃しているのが現状だ。
これでは非効率的に思えるが――当然そこには訳がある。
元々はもっと多くの『艦隊』があったのだ。
それこそ合計二十艦隊――百二十隻にも及ぶ艦隊が。
しかし、五人いた提督が全員戦死した事により、ほとんどの『艦隊』が解体を余儀なくされた。
提督一人で指揮できる『艦隊』の数はどんなに熟練の提督であろうと四個まで。そう決まっているのだ。
故に――『艦隊』は最も優秀だった四つの『艦隊』を残して解体された。
つまり今残っている『艦隊』に所属する二十四隻の艦娘こそ、この鎮守府の頂点に立つ者達だと言える。
そんな艦娘達を五隻、吹雪一隻で捕まえて来たのだ。疲労度が真っ赤になるまで溜まるのも無理はない。
「それではみなさん、会議を始めます!」
「……」
「へ・ん・じ!」
「……チッ」
「あー! 今舌打ちしましたね!」
「まあ、まあ。そんなに怒るなって。ほぉーら飴ちゃんだぞ」
「誤魔化し方が雑っ!」
舌打ちしたのが重巡洋艦『那智』、その隣で微妙なフォローをしたのが軽空母『隼鷹』だ。
この二隻は鎮守府きっての問題児である。
先ず那智だが、彼女は「途轍もなく高い能力を持った馬鹿」だ。砲撃、回避、知識――どれを取っても一級品なのだが、それらを全て戦闘ではなく娯楽に使っている。
次に隼鷹だが、彼女は「途轍もなく頭が良い馬鹿」だ。鎮守府一の切れ者と名高い彼女だが、1日のウチ半分以上を泥酔状態で過ごす為、その頭脳はほとんど真価を発揮しない。
ちなみに。
今日、吹雪が彼女達を発見した時、二隻は海岸線沿いでオープンカーを乗り回していた。それも時速250キロで。
運転は那智、
車の持ち主は隼鷹である。
そんな速度を出して少しも擦らない那智を褒めるべきか、それともそんな高級車を持っている隼鷹を褒めるべきか。迷った吹雪は、怒りに身を任せてトラックで車を二隻ごと轢いた。
「あゝ、お姉さま……。私もいつかそっちへ逝きますから……」
「いやいや、そっちってどこですか! 扶桑さん普通に生きてますから! さっきまで一緒にいたじゃないですか!」
「……?」
「いやいやいやいや! なんでそんな「何を言ってるのこの船?」みたいな顔してるんですか! 私普通の事言ってるだけですから!」
どんよりとしたオーラを出しているのは戦艦『山城』。
目の前で姉の扶桑が大破して以来、それがトラウマになり、こうして訳のわからない事を言い出す。
先程も部屋にこもり、扶桑の写真が祀られた社に向かって一心不乱に祈っていた。
そこに扶桑のコスプレをしながら「お姉さまが迎えに来ましたよ!」と言って突撃した吹雪の胆力はいかほどか。
ちなみに。
扶桑は元整備士の青年と恋に落ち結婚、退役。現在は山の方でひっそりと農業を営んでいる。
「吹雪」
「なんですか、天龍さん」
「パンツ見せろよ」
吹雪は無言で天龍を殴った。
天龍はブチギレた。
見事な逆ギレであった。
「何すんだゴラァ!」
「天龍さんが訳わかんない事言うからですよ!」
「何処が訳わかんないんだ、パンツ!」
「吹雪です! 私の名前は吹雪ですよ、吹雪! なんならネームシップですから!」
「でもお前叢雲より影薄いじゃん」
「貴様……言ってはならん事を………!」
吹雪は激怒した。
そして何故か天龍も激怒した。
まったくの理不尽であった。
「はぁ……毎度毎度、よくそんなくだらない事でケンカできるわね」
「なんだ、ケンカ売ってるのか?」
「なんで
「ここまでの侮辱を受けたのは、流石の私も初めてだよ」
「……ねえ、隼鷹までなんで怒ってるの?」
「いい度胸ね、ツインテール」
「山城まで!?」
三隻ににじり寄られ、たじろぐのは正規空母『瑞鶴』。
彼女は『第三艦隊』にしては珍しく、一般的な瑞鶴とそこまで変わらない。
しかし、彼女には一風変わった所がある。
それは――学生でありたい、という考えだ。
普段、瑞鶴は鎮守府ではなく学校に通っている。普通の人間として。
ちなみに。
吹雪は那智と隼鷹を轢いたボロボロのトラックで瑞鶴の通う高校まで迎えに行った。結果、瑞鶴は人間の友達から「トラックの運転をしてる田舎出身の女子中学生の彼女がいる」という謎のレッテルを貼られた。
「――そろそろ話を戻しますけど。どうやってインドに入国するか、それをみなさんで考えましょう」
現在、航路に限って言えば、インドは鎖国に近い状態にある。
不知火達の様に、艤装で水上を走り入国するのは難しいだろう。
かと言って空路を行くのはもっと難しい。
さて、どうしたものか……?
「貨物輸送船に紛れるってのはどうよ?」
語り出したのは隼鷹だ。
艦娘はその戦闘能力に比べて、身体が非常に小さい。
コンテナの中にでも入れば、間違いなく気付かれないだろう。
もちろん、そう簡単には行かないだろうが。
これからインドに向かう貨物船を探さなくてはならないし、荷のチェックもあるだろう。
だが隼鷹であれば、それらの問題は簡単に解決出来る。
こうして、『第三艦隊』の面々はインドに入国した。
そして提督の周囲を警戒し続け――提督が接触した謎の女性に注目した。
提督が声をかける。
これが一体何を意味するのか……?
吹雪は悩んだ。
何故なら提督はインドに入国して以来、情報収集の類をしていないのだ。まだ何も掴んでいない、と見るのが自然である。
しかし“あの”提督が何の理由もなく声をかけるとは思えない。
「案外ナンパかなんかしてんじゃねえの?」
「提督はそんな軟弱な方ではありません!」
「へーへー」
天龍も軽口を叩いてはいるが、本気では言っていない様子だ。
流石の彼女も、提督の偉大さを理解しているらしい。
「!?」
瞬間、提督と話していた女性から強い殺気が漏れる。
この重くへばりつく様な殺気――何度も海の上で体験したものだ。
間違えようがない。
提督が接触した女性は、驚くべきことに深海棲艦だったのだ。
深海棲艦が人間社会に溶け込んでいる。
前代未聞の発見だ。
これを捕獲する事が出来れば、人類は勝利に一歩近づくだろう。
しかし一体、どのタイミングでスパイを看破したのか。
先程も言った通り、深海棲艦がスパイとして潜入している、というのは前例がない事だ。本来、警戒すら出来ないはずである。
それを到着したその日に看破するとは。
情報収集をしているそぶりなどは一度もなかったが……。
いや、一度もなかったのではなく、未熟な吹雪達では気がつかないほどの超高レベルな情報戦を繰り広げていたのだろう。
流石は提督である。
早く提督の思考レベルに追いつきたい、と吹雪は心から思った。
『第三艦隊』は相手が深海棲艦だと分かると、直ぐに対深海棲艦用の陣形を組んだ。
直接戦闘能力が高い天龍を前線に出し、
旗艦である吹雪がいつでもフォローに行ける様後ろに。
敵を圧殺出来る様隼鷹を遠距離に配備、
その護衛兼狙撃手である那智がそばに着く。
最後に比較的マトモな性格をしている瑞鶴と山城ペアを遊撃手に。
これが『第三艦隊』のスタンダード陣形――要は圧倒的エースである天龍を全力でサポートする形だ。
――そして現在
斬!
天龍の斬撃が戦艦棲姫に命中する。
だが――致命傷には至らない。
彼女は咄嗟に艤装を動かし、天龍と自分との間に滑り込ませたのだ。
いかに戦艦棲姫の艤装が固く大きかろうと、本来盾として使う物ではない。当然天龍の剣が止まるワケではないが、僅かな時間稼ぎと目隠しにはなる。戦艦棲姫は身をなんとか捻り、致命傷から――腕を一本切られる程度に被害を抑えた。
腕一本。
人間ならば致命傷だが、深海棲艦や艦娘にとってはそう大きな傷ではない。問題は痛みや出血よりもむしろ、戦力の低下だ。
一旦距離を取らねば。
戦艦棲姫はそう考え、艤装を盾に後ろに下がろうとする。
しかし、そこは死地。
考えを読んでいたのか、隼鷹が発艦させた大量の式神達が待ち構えていた。
ならば迎え打つか?
戦艦棲姫が戦闘体制に入った瞬間、那智が放った弾が何処からともなく飛来し、切られた腕の断面に被弾する。
肉を焼きながら、弾が腕の中にねじ込まれていく。流石の戦艦棲姫といえど、顔を苦悶に歪めた。
「キサマラ!」
激昂した戦艦棲姫は、天龍に向かって突進した。
その瞬間――吹雪が戦場に飛び込み、戦艦棲姫のPCを奪い去る。
『第三艦隊』の本来の任務は不知火の救出。狙いは元からこのPCだったのだ。
吹雪は直ぐ様PCを解析し、待機している瑞鶴に情報を送った。
瑞鶴は偵察機を発艦させ、あっという間に不知火の正確な位置を割り出す。
「コノ――!」
それに気づいた戦艦棲姫が吹雪に手を伸ばすが、那智がその腕を正確に狙撃した。
一瞬の隙が生まれる。
吹雪はその間に、山城に向かって無線を飛ばした。
「山城さん! 救出に向かって下さい! こっちが済み次第、私達も向かいます!」
「もう向かってるわよ、パンツ!」
「吹雪です!!!」
――天龍に加え、吹雪が前線に加わった事で、戦艦棲姫はあっという間に体力を削られていった。
とはいえ、それでも『姫級』。
元の攻撃力や体力は艦娘よりも圧倒的に多く……中々致命傷には至らない。
(どっかで隙を作らねえとな)
轟沈させるには、天龍の一撃を当てるしかない。
だが相手もそれは分かっている。巨大な艤装を振り回し、中々天龍を懐に入れさせない。
しかし大雑把な動きは、射線を通すことになる。
那智と隼鷹の射撃が、着実にダメージを蓄積させていた。
このままいけば、時間はかかるが戦艦棲姫を倒す事が出来るだろう。
吹雪が轟沈までのおおよその時間を計算し終えた、その時――
「!? 避けろ吹雪!」
天龍が吹雪の襟を掴み、咄嗟に後ろに飛ぶ。
直後――先程まで吹雪達がいたところに、
「ヤットキタカ」
「ゴメンナサイネ……オクレテシマッテ………」
セーターに似た白い装甲に、巨大な爪。頭には特徴的なツノ。
ビルを飛ばして来たのは『港湾棲姫』と呼ばれる深海棲艦だ。
「新手、ですか」
これで相手は二隻。
四体一――正直ギリギリなところだ。
天龍と吹雪は艤装を構える手に力を込めた。
「……それだけじゃねえな」
天龍の頭についた、耳型の電探がピクピクと動く。
同時に、那智から無線が入った。
「こちら那智。『飛行場姫』と遭遇した。これより交戦に入る」
これで『姫級』が三隻。
形成は逆転した。
恐らく、味方が周辺にいたのだろう。
彼女達が異変を察知し援軍に来るのを、戦艦棲姫は待っていたのだ。
あの激昂すら演技。戦艦棲姫は冷静に時間を稼ぎながら、大雑把な戦い方をする事で位置を知らせていたのだ。
……しかし、妙だ。
不知火達はただの輸送部隊のはず。
それに対して『姫級』が三隻。
正直一隻でも過剰戦力と言っていい。
これは一体……?
戦場では小さな違和感が命取りになる事がある。
吹雪は思考を深めた。
答えは直ぐにやってきた。
再び無線が繋る。
相手は不知火を保護しに行った山城だ。
「こちら山城。不知火を保護したわ」
「吹雪了解。こちら『姫級』三隻と接敵。増援を――」
「吹雪、よく聞きなさい」
吹雪の声を、山城が遮る。
彼女にしては珍しく、焦った声だ。
吹雪の勘が告げた。
これから告げられる事は、まず間違いなく悪い事だ、と。
「不知火達の所属する鎮守府が分かったわ。彼女達は――大本営所属よ」