ウルトラ姉弟(笑)の黒一点~胃痛と戦え!ウルトラセブン!~ 作:三途リバー
戦闘回ですが、筆者は刀以外の戦闘描写に慣れていない為、かなり見苦しい部分があると思われます。そこには目を瞑っていただけると幸いです…
「時間がねぇんだ。終わらせるぞ、グロリア。」
血塗れで、ボロボロで、それでもこの人は立っていた。
「あなた…本当に、規格外よ。」
その足取りは異常な程に力強く、右手はしっかりと武器を握りしめている。
「ーッッ!!」
弾けた、と思った瞬間には、後ろのビルにグロリアがめり込んでいる。何が起きたのか理解できない、私もギラス共も同じだ。
慌てて主人を守ろうとするレッドギラスを左拳で沈めると、折れた右脚を軸に飛蹴りを放つ。正確に側頭部を捉えられたブラックギラスはもんどりうって倒れるが、紅い腕が角を持ってそれをさせない。
「っ…らァ!」
今度は膝蹴り。顔中の骨を砕かれ、絶叫を上げることもままならない巨体を、腕の力だけでセブンさんは投げ飛ばす。ようやく起き上がったレッドギラスが構えた時には、手刀がその体を切り裂いていた。
「これ…が…」
強いとか、そういうレベルじゃない。まるで夢だ。満身創痍の1人の男が、面白いように敵を蹂躙し、進んでいく。
「ウルトラ、セブン…」
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セブンには分かっていた。
この一戦が、この拳の一つ一つが、己にとって最後の『戦う』という行為である事が。
「ーッッ!!」
後悔が無いと言えば嘘になるだろう。何せ、この星の命運を1人の少女に背負わせてしまう事になるのだから。後悔が無いどころか後悔塗れだ。
だが、それでも。
(今ここで、戦えなくなっても…!)
もう二度と、自分の足で立つことが出来なくなろうとも。
(誰かを死なせるよりは、百倍マシだ!!)
拳が暴君を捉える。蹴撃が怪獣を叩く。手刀がその片割れを切り裂く。
「グ、ロ、リ、アァァァ!!!」
自然に、本当に自然に喉の奥から叫びが零れる。ビルの中から飛び出してきたグロリアを、セブンは真っ向から迎え撃つ。
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「これは…」
「間に合わなんだな。」
なんじゃこりゃ。それしか言葉がねーわ。
ボロボロに引きちぎられた超獣の死体らしきものがそこかしこに飛び散り、さらに奥の方では2人のウルトラマンが俺達の探し人にボコされていた。
「あァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
つか何めっちゃ暴走してんだけど。もうホント嫌だ…これって治療費出るんじゃろうか。
「あれはいかぬ。セブンの名でも聞いたのでござろうか。如何する、テンペラーの。今の
止められぬぞ。」
「如何するっておま…やるしかないでしょーが。で、リーネは?ジャックに負けた「そんなわけあるか」うぉっ!?」
影に溶け込むのやめて欲しいぜ…ビビるわ、てかわざわざ隠れんなや!
「ジャックと大して戦わんうちにアレが乱入してきてな。警備隊の雑魚も超獣も皆瞬殺された。取り敢えずあの2人に相手させようと思って姿をくらましたが…ノスフェ、貴様どういう事だ。アレの管理は貴様の管轄の筈だぞ。」
「ンなこと言われても困る。メギドが抑えられない物をどうやって俺に抑えろと?そもそもこんな早い段階であいつを取り込みに
そんだけセブンが憎いって事かね…Jrと言いこいつと言い、正義の名の元に淘汰された奴の恨みは深いな。
「3人で止めるのか。」
Jrの問いに少し考えるような仕草を見せ、リーネが目を瞑る。黙ってりゃ美人なのによ…あだだ!?
「馬鹿は放っておいて私に策がある。策と言うより特攻だが。む、奴が動くぞ!私の指示に従え!」
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強い…!
私のエースブレードを素手で折り、ジャック姉さんの流星キックを容易くかわすなんて…
「セブンの同族どもが…!」
これが、リーネが言っていたメギド…?
と言うかどれだけ恨まれてるんですかあの駄眼鏡は!
「ホリゾンタルギロチン!」
「ウルトラスラッシュ!」
二つの刃を同時に飛ばし、封殺を試みるがそれも失敗に終わり、逆に衝撃波で吹き飛ばされる始末。
一般隊員は既に全滅…息がある者も少なくはないが、戦闘の続行は不可能だろう。
「貴方は…一体!?」
ジャック姉さんの声に一瞬動きを止めたメギド。振り下ろさんとしていた腕を
「知りたいか、俺の名を。聞きたいか、貴様らが守る地球の民がどれだけ悪辣な輩か!ならば教えよう、聞かせよう!」
紅炎が辺りを照らし、一つ一つの動作と共に火花が爆ぜる。まるで、彼の激情を炎が代弁しているかのよう。
「俺の名はザバンギ。地球人に…人間に、そして貴様らの同族に!!故郷を奪われた、ノンマルト最後の死に損ないだ!!」
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グロリアの思考は驚愕に染まっていた。
確かにウルトラセブンは高名だ。宇宙警備隊所属前の身でありながら地球を守り抜き、同胞の危機を幾度となく救った紛うことなき屈強な戦士。
だが、グロリアにとっては
目の前の敵を叩き、正義等という不確かな理念を盲信する愚かな男。自分達のように『戦』をしてきた訳では無い、戦略も智略も、連合の者に比べれば児戯に等しい。
それが、どうだ。
今セブンがグロリアと2匹のギラスを相手にできているのは、彼が奥の手を使ったからであろう。その奥の手を、今の今まで取っておいたという事にグロリアは驚愕を隠せない。
数百の敵を目にした途端、並の者ならカードを切るだろう。脚を折られた瞬間、ジョーカーを見せるだろう。
しかし、この男は違った。
自らは死の淵に立ちながら、恐ろしい程客観的に星を見ていた。
自分の身を守る為ではなく、レオと言う
グロリアから見ても、彼は恐ろしい。
感情とは全く別な部分で、この星を守り抜く計算を叩き出したその冷静さ。
この絶望的状況を、いともたやすくひっくり返した奥の手の威力。
(肉体強化…にしては強力過ぎるわね。さっき私を飛ばした一撃はそんな誤魔化しの威力じゃなかった。足、腰、腕と順ににしっかりと威力が伝わって初めてあんなパンチが打てる…。肉体を強化しても痛みはある筈。あんな複雑骨折の状態で打てるはずが無い。何にせよ、厄介な事に変わりはないわね…)
折った筈の右脚で横腹を蹴り飛ばされながら、グロリアは心内に呟いた。
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「っ!あの子…」
M78星雲、光の国宇宙警備隊本部。その一室で、1人の女性が弾かれたように顔を上げた。
「どうした、お前。」
「あなた…」
銀十字軍軍長、マリーとその夫にして宇宙警備隊大隊長ケン。
2人の顔には、等しく翳りと焦燥が見て取れた。
「セブンが、セブンが…!」
「…死んだか。」
非情。そう言われても仕方が無いだろうと、ケンは自分で思う。
王族だけでなく、自分やマリーに対しても遠慮なく意見を述べ、真っ向から批判する事も辞さなかったセブンを、地球ごと見捨てる。王族からの圧力を受け、自分はそのセブンを人身御供にした。見ようによっては、鬱陶しかった政敵を黙殺したようにも映るだろう。
『ウルトラマンってのはダチ見捨てても敵を討つお役所仕事かい?悪ぃが俺はゴメンだね。今日限りで俺ぁ警備隊を降りるぜ。』
先程セブンの悪友にかけられた言葉は、ケンの心を深く抉った。
宇宙の為、平和の為、正義の為…。
大義とは、時に身を切る刃となる。
「まだ生命エネルギーは感知できますが…。」
「まだ?…!まさか!」
妻の言葉に現実に引き戻されたケンは、彼女の言葉の淀みにある推測に辿り着く。
「
『自我を持つ傀儡』…通称傀儡化。
念力能力では警備隊、いや、光の国最強と言って差し支えないセブンだけが使える最後の切り札である。
自分自身を、念力で操作する。
言葉にすれば容易いが、その実それは並大抵の事ではない。生物の肉体には、当たり前だが可動範囲というものが存在する。脚は三百六十度回る筈がないし、首は後ろへ向くことは無い。そもそも痛覚がそれを許さない。
だがセブンは、そんな生物の常識に逆らった。
痛覚を完全に遮断、念力を体内の神経に直接接続し、骨が砕けようがスーツが壊れようが、一切の関係無く戦闘を続行する…そんな荒技を編み出すことによって。
輝刃の二つ名は、無論アイスラッガーで敵を切り裂く様を畏怖して付けられたものだが、不倒と呼ばれるの所以がこれだ。
例えば
彼の不屈の闘志もさることながら、この切り札によってウルトラセブンは名実ともに不倒となるのだ。
無論、その代償は大きい。幾ら念力の名手とは言え桁違いの集中力や体力を使うのに加え、無視されていた痛みは技の解除後にそのままフィードバックされる。下手をすれば解除した瞬間、全身を襲う激痛に耐えられず死亡するという事も有り得るのだ。
怪獣軍団と激闘を繰り広げ、疲労困憊の彼がこの大技を使える筈がない。
「あの子にそんな力は残っていないでしょう。しかし、カラータイマーを持たないセブンならば…」
「っ…生命エネルギーすら…傀儡化に要する念力へ変換できると言うのか…!?」
『もう倒れたくないんですよ。地球に行った時、最後はボロボロで…光線もろくに撃てませんでした。でも、俺には
ナックル星に囚われたジャック救出の後、虫の息になりながらセブンは語った。
(その『全て』に…お前の命すら含まれると言うのか、セブン!)
今すぐにでも飛んで行きたいが、得体の知れない敵が動き始めた今、ここを離れる訳にはいかない。
「私は、無力だな…。」
「ケン…」
己が無力さを噛み締めながら、ケンには祈る事しかできなかった。
(生きる事を捨てるな…!お前を待つ者がいる事、決して忘れるな…!)
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「シィッ!!」
サーベルの刺突を
「!?」
腕から離れた鉤爪が宙を舞い、ワンテンポ遅れてその切断面から血が吹き出す。
だが、セブンは攻撃の手を緩めない。
「ッ…ハァァァァァッ!!!」
右、左、上、下、あらゆる方向への斬撃に加え、どてっぱらに向けた渾身の蹴り。
「グフっ…ガッ、ぐぉぉ…!」
苦悶の声を漏らすグロリアが蹴りを食らって吹き飛び、入れ替わるように2匹のギラスが異体同心の回転攻撃を繰り出すが
「邪魔だ…!」
1度はアイスラッガーの投擲を跳ね返した技を前にしても、セブンは臆するどころか真正面から突き進む。
「っラァ!」
回転の狭間に無理矢理拳をねじ込み、勢いを止められバランスを崩した2匹の首をラリアットの要領で地に沈めた。
立ち上がる暇も与えず、拳の連撃が雨のように2匹に降り注ぐ。
「ギャアァァァァァ!!」
止めとばかりにそれぞれの尻尾を掴みあげると、血の海で悶えるグロリアに向けて投げ飛ばす。モロに激突した1人と2匹は、もう立ち上がる事も難しいほどだ。
「立てよ、サーベル暴君。まだ決着は着いてねぇぞ。俺の悲鳴が聞きたいんだって?俺はてめぇの悲鳴になんざ興味はねぇが、もう少しだけ付き合ってやらァ。」
1歩1歩、踏みしめるように前へ出るセブンの手は、後頭部の愛器へと伸びる。刃はこぼれ、色は血に染まり、くすんだ銀の光を発するアイスラッガー。
それでもなお、まだやれると言わんばかりの赤い闘気がセブンの体から立ち上り、空間を歪めている。痛みも感じず、疲労も感じず、ただひたすらに敵を打ち倒すその様は生物とは思えない。
いや、それは正しい。今のセブンは最早ウルトラマンどころか、生きている存在なのかも分からないのだ。
自身を念力と言う糸で繋ぎ、意思という見えざる手で自在に操る人形なのだ。
「ふ、ふふふ…残念っ、だけど…!まだ、死ぬわけにはいかないのよねぇ…悔しいけど、一旦退かせてもらうわよ…。でも必ず、必ずあなたに会いに来るわ。」
「!」
セブンが走り出した時にはもう遅い。黒い霧がグロリアとギラスを包み込み、アイスラッガーの斬撃は空を切った。
『今度会う時まで…生き延びてね。愛しい人…』
「誰が愛しい人だよ…クッソ、七面倒臭いのに惚れられたもんだなぁ…」
何も無い空間から聞こえてくる不気味なエコーにそう答え、セブンのスパークアーマーは解除される。そして、それが意味するものは即ち…
「セブン、さんッ!!」
ウルトラマンとしての、セブンの最後。
(
そんな呑気な事を考え、セブンはやって来た激痛に、意識を手放した。
最後グダった…
すいません、時代小説は好きなので刀とかなら書けるんですが…素手の戦闘描写はこれが初体験です。
アンケートのご協力、ありがとうございました!結果は活動報告に載せてありますので、そちらをご覧ください。
以下、オリジナル技『自我を持つ傀儡』の解説です。
念力を最大出力で使用し、自身の体をあやつり人形のように操作する技術。痛覚を遮断するため攻撃を受けても怯まず、また『考えた動きをすることが出来る』ので異常な反射速度と体の動きを実現した。基本的には万全の状態でないと使えないが、生命エネルギーを念力に変換することで3分の1程度の時間なら発動可能。初使用はナックル星へジャックを救出に行った時。
リメイクしたとして、どの時期のセブンが見たい?
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5姉弟時代
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6姉弟〜レオ指導時代
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メビウス時代
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ゼロ誕生以降、ベテラン時代