ウルトラ姉弟(笑)の黒一点~胃痛と戦え!ウルトラセブン!~   作:三途リバー

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自我を持つ傀儡

「レオ…あぁ、L77星のお姫様ね。何処かでのたれ死んだと思ってたけど…まさか地球にいるとはねぇ。」

 

「L77星の…!?そうか、そいつは王の鎧か…!」

 

王の鎧。プラズマスパークエネルギーとは似て非なる

 

『エメラルドコア』

 

なる宝石から得られるエネルギーを具現化、鎧として纏う技術だ。適合率が低いため、M78星雲人の血を引く王族以外には纏えないという欠点も存在するが、L77星の秘宝とも呼ばれる強力なシロモノだ。光エネルギーの操作には不向きながら身体能力を格段に向上、敵を打ち砕く。スパークアーマーに勝るとも劣らない星の最後の切り札である。

だが、その蹴りをまともに喰らっても、グロリアすぐさま態勢を整えた。これを目にし、セブンの彼女に対しての警戒度が1段と引き上がる。

 

(こいつ…ギラスとか言う怪獣をけしかけるのは戦闘が苦手な頭脳派だからと思ってたが…。さっきの蹴りは確実に胸の気管部分を捉えていた。普通ならえづいて呼吸もままならない筈だ。どころか骨が何本かイッてもおかしくはない。それをこんなに速く…やばい。レオがどれだけ戦えるかは分からねぇ、だが奇襲がさほど意味を成さないっつー事は…)

 

「レオ…か。助かった、ありがとう。だが気をつけろ、奴は強い。口先だけの小物じゃねぇぞ。」

 

「はい。ですがいくら強くても打ち破って見せます。あいつらは、故郷の仇なんです…!」

 

その言葉を聞き、セブンの中の焦りがより大きくなっていく。

 

(策士相手に気合いで勝てるのは俺が知る限りあのジョーさん(脳味噌筋肉)ぐらいだ…!それに向こうは策士な上に戦闘も出来ると来た。俺が休んでる場合じゃねぇっ…!)

 

思い浮かぶのは、ゾフィーの旧友である脳筋女。年上に随分な言葉ではあるが、それも致し方ない。何せ彼女はワイドショットとスペシウム光線を素手で打ち消すバケモノなのだから。

 

 

「ぐっ…がァァッ!俺も、援護するッ!アイスラッガァァ!」

 

ビルを支えに無理矢理立ち上がり、渾身の念力でアイスラッガーを呼び戻す。叫ばなければ脳波コントロールすら覚束無いが、1度の投擲位はできるだろう。

 

「そ、そんな…!?無理ですよ、その体じゃ!」

 

「だが、まだギラスが2匹残ってる…!」

 

「あら?誰がこの子達が最後って言ったかしらぁ?ほらほら、出てらっしゃいグレーギラス達。」

 

グロリアの声に呼応し、地中から4匹の灰色の巨体が現れる。これで7対2。しかも2のうちの片割れは脚を折られた重傷人だ。

 

「おのれ…!卑怯な、正々堂々勝負しろ!」

 

「待てっ、策もなしに…!」

 

セブンの静止の声も聞かず、レオは高く飛ぶとグロリアに向けて蹴りかかる。突き出した右脚は赤く燃え、再びグロリアを捉えたと思えたが…

 

「なっ!ぐあっ!?」

 

「馬鹿ねぇ、怪獣使いが怪獣より弱い訳ないでしょう?」

 

サーベルではなく、左手でがその一撃を防いでいた。態勢を崩したレオに向け、容赦なく刺突が繰り出される。辛うじてそれを避けたレオだが、その顔は驚愕に歪んでいた。

 

「くそぉ!だが、それでも!」

 

レオがとったのは宇宙拳法の構え。握った左拳を腰まで引き、無駄な力を込めずに右手を前に。

達人が使えば生身でも岩を砕くと言う高名な武術だが、それも達人が使えばの話。お世辞にも、星の第一皇女がその域に達しているとはセブンには思えない。

薄情かも知れないが、彼は戦士だ。土壇場において淡い希望を持つ事の恐ろしさを、嫌という程知っている。

 

「ぐっ…!」

 

左脚の力だけで前へ飛び出し、殴りつけるようにしてアイスラッガーでグレーギラスに切り掛る。

案の定完全な切断はできず、右側の個体の肩に裂傷を負わせたのみだか、相手が怯んだその一瞬がセブンにとっては大きい。

 

「ゼェリャアッ!」

 

腰の力を最大限に使い、左の貫手で目を貫く。視界を奪われたギラスは絶叫を挙げ、暗闇を恐れるように暴れだした。

 

「グギィっ!?」

 

反対側にいたギラスは暴れだした同族に驚き、立ち止まった所を切り裂かれる。

頸動脈を正確に掻っ切られ、血煙を立てながら沈んだ巨体

に目もくれず、セブンは再びアイスラッガーを振るう。

今度こそ、首を落とされたギラスが絶命した。

 

(これで…雑魚はあと2匹…。)

 

怒りの咆哮を挙げる前方の2匹に構えを取り、セブンは左脚に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「エース…流石に超獣を屠り続けただけはあるな。並みの個体ではろくにダメージも与えられんか。」

 

光の刃が乱れ舞い、数多の超獣が瞬時に両断される。

独りごちるリーネに向かって光線が放たれるが、彼女はさして気にすることもなくそのまま戦況を傍観していた。

 

「クッソ!ダメです、エネルギーシールドの一種ですね。光線を問答無用で無効化してます。ってうぉ!?」

 

光の戦士達を無数のミサイルが襲う。

一見すると乱射されているように見えるが、そこにベロクロン(発射源)の意図が隠されている事をジャックは見抜いていた。

 

(私とエースちゃんを引き離そうとしている…!流石に四方を囲まれればいくらエースちゃんでも…)

 

「はぁっ!」

 

無重力空間であるため、飛び上がっての加速は出来ない。しかしそれは、裏を返せばノーモーションで()()()を放てるという事。

 

「む!」

流星が、尾を引いた。

 

幾重もの爆発がほぼ同時に巻き起こり、胸に風穴を開けたミサイル超獣も四散する。

 

「ブレスレットムチ。」

 

その声がリーネの耳に入った時には既に音速の鞭が振り抜かれ、更に大きな爆発が起こっていた。

 

「シルの技の継承者にしてセブンに次ぐ飛び道具使いか。面倒だな…」

 

言う間にも白熱化したウルトラスパークが飛んでくるが、リーネは一向に気にしない。

 

「自ら戦うのはあまり好みではないのだが…」

 

バシッ!

 

「まぁいい。」

 

右手のみで必殺の刃を受け止め、それを投げ返しながら彼女は薄ら笑う。妖しく、冷たく、そして美しく。

 

「来い、ウルトラマンジャック。少し遊んでやろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふん、無様なものですな。超獣を20体も投入しながらもう半分はやられましたぞ。」

 

「そう言うなら自分が出ろよ、バレル。お前ジャック殺すシル殺すって騒いでたじゃんか。このままだとリーネに取られちまうぜ?」

 

薄暗い1室で、ディスプレイを見ながらつまらなそうに語る男が2人。

1人は両腰にふた振りの刀をぶち込み、もう1人はグラスを傾け、既に酔っているようだった。

 

「ジャックはくれてやっても構いませぬ。拙者が本当に斬りたいのはシルにござるゆえ。」

 

「親父さんだっけぇ?殺されたの?」

 

「父だけではござりませぬ…。20億の同胞が、ことごとく奴と地球人に屠られた。ウルトラマン、いやシル。奴だけは拙者が斬る。ビルガモも超獣も、何も要らぬ。この()さえあれば、憎き奴ばらめの臓腑をかきだすのには十二分…!」

 

「復讐第一はいいけどよ、メギドが行ったって事は死んだんじゃね?アイツマジで強えからなぁ。アレで病み上がりだもん、やってらんねぇっつの。」

 

殺気が渦巻く中でも調子を崩さなかった酔っ払いが、僅かに身震いした。その瞳には、明確な『恐れ』が見て取れる。

 

「フ、大丈夫でごさるよ。()が目覚めたようですぞ?もうシルもタロウも眼中に無い、目指すは輝刃ただ1人のみ。」

 

「ファッ!?おま、気付いてたんなら言えよ!!俺がリーネにどやされるだろうが!あーもー、どうすんだよ!このまま行ったら火星突破して地球ヘgo、そのまんま地球滅亡だぞ!?止められるか、あんな復讐鬼!!()()()()()()()()()()()()!?」

 

「それが拙者、ババルウのより彼の方が信頼出来るのでござる。同胞を殺された者同士、気持ちは痛いほど…」

 

遠い目をして語り始めるバレルと呼ばれたを尻目に、もう片方の男は頭をかきむしる。

 

「はいはい分かった分かった!取り敢えず行くぞJr!」

 

「その名のりは昔の物でござる。拙者の名はバレルですぞ、テンペラーの。」

 

「そのナントカの〜ってのお前もやめろよな。俺にだってノスフェっつー名前があんだよ」

 

「あいすみませぬ、つい癖で。」

 

「シルとジャックは名前で呼んでたじゃん!」

 

黒い短髪にふた振りの長剣。

青い長髪にメリケンサック。

 

性格も容姿も全く違い、しかしながらヘンに当意即妙な2人が同時に立ち上がる。

 

「では、取り敢えず参ろうか。」

 

「まー仕方ねぇよなぁ…」

 

暗黒宇宙人連合、バルタン星人バレルとテンペラー星人ノスフェ。

 

 

二つの巨星が、動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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くそっ、なんで!なんで!

 

「当たらないっ!」

 

達人…とまでは行かなくても、戦力にはなるだろうと考えていた拳が全く当たらない。

宇宙拳法は相手の怯んだ隙を一気呵成につき、烈火のごとき激しさで圧倒するというもの。それが全てよけられていたら、派生も何も出来ない。

 

「ま、所詮こんなもんよねぇ。王族の武術レベルなんてたかが知れてるし。」

 

特に苦労するでもなく私の攻撃をかわし続けるグロリアが、ニヤリと笑った。

 

「馬鹿にしてぇっ!」

 

両手を使った、全力の掌底。これを喰らえば、いくらグロリアとて…!

 

「あなた、戦闘に向いてないわよ?」

 

声が聞こえたのは、真横からだった。

 

いなされた、と思う間もなくサーベルが私の脇腹を叩いて飛ばす。

 

「がひゅっ……!?」

 

ほ、骨が…肋骨がっ…

 

「げほっ、げほっ、が、がはっ…」

 

呼吸が出来ないっ…動けない…!

 

視界が揺れ、咳をするたび口からは血が滴り落ちる。

それに伴ってヘッドギアも解除され、今の私は無防備がすぎる。

 

「レオッ…クソっ!」

 

セブンさんは2匹のグレーギラスに追いすがられ、身動きが取れない状態だ。私が助けに行かないといけないのにっ

 

「弱…あなた、よくそれでこの星を守るとか言えたわね。あなたより右脚を使えないウルトラセブンの方が余っ程恐ろしいわ。全く…()()()()つまらないわ。」

 

「!!!貴っ……様ァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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まずい…まずいまずいまずいっ!

 

何があったかは知らねぇけど、完全にレオの頭に血が登ってる。さっきまでの攻撃すらいなされていたのに、あんな短調な攻撃じゃあ当たるわけが無い。じわじわと体力を削がれ、嬲り殺されるのが関の山だ。

 

「グルォォォォォッッッ!!」

 

グレーギラス…残りはこいつら2匹だけだが…

 

「まだか!?」

 

滅茶苦茶に切りつけたのにまだ起き上がるか…!

アイスラッガーも俺も、限界が…

 

尻尾の殴打を受け止めきれず、地面に叩きつけられ所に右足を狙った踏みつけが来る。

転がってそれをかわすが、本当に間一髪だ。

 

「くっ…そがぁっ!」

 

力が入らず、起き上がることすら出来ない。熱線の発射体勢に入ったギラスにむけて無理矢理アイスラッガーを投げるが、足を止めるのが精一杯。

 

匍匐前進の容量で移動し、レオの方へ目を向ければ3対1で苦戦する様が見て取れる。助けに行くどころか、自分の身を守ることすら…!

 

「あがぁぁぁぁぁっっ!?!?」

 

「レ、オ…!」

 

眼前の怪獣越しに、サーベルを突き立てられているレオの姿が目に入る。

愉悦に歪むグロリアの顔、そしてレオの悲痛な叫び。

 

 

 

『目の前の命を守るためなら、俺は喜んで死んでやる。』

 

 

 

 

 

そうだった…何の為に、今俺は戦場に立っているのか。

何の為に、傷つけ、傷つく事を選んだのか。

守る為…失わないため。

出し惜しみなんざするもんじゃねぇ…。

 

俺は不倒のパペットだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自我を持つ傀儡(WILLING DOLL)。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「うぁっ!ガ、げほっ、あぁぁぁぁっっ!!」

 

く…両腕をギラスに掴まれて、前からはグロリアの拳が容赦なく私の腹を抉りこんでくる…。もうっ、スーツも持たな…

 

「んー?もう悲鳴?妹ちゃんはもっと粘ってたわよぉ?えーと…アストラちゃん、だっけ?ボコボコにしてあげたんだけど、意地っ張りで…中々声を挙げなかったわ。まぁ、最後はサーベルで泣き叫ぶまでいたぶったけど。お姉ちゃんお姉ちゃんうるさかったけど、最高だったわ。」

 

「外道が…アストラを、アストラをどうし…あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「あんまり可愛く鳴くもんだから、殺さずに飼ってあるわよ?ふふ、あなたの死体を見せてあげたら今度はどんな声を聞かせてくれるかしら?いや…殺さずに連れて行って目の前で嬲り殺す方がいいかも。どちらにせよ、もう少し楽しませて貰うわよ。不倒の輝刃の前菜ね。」

 

クソ…クソっ、クソぉ…!

結局、私は何も出来ないのか…助けに来て、返り討ちにあって終わりなの…?セブンさんだけでも、逃げてくれれば…

 

「あがぁぁぁぁぁっっ!?!?」

 

 

スーツ越しに、サーベルが突き刺さった。その切っ先からは電撃が流れ、私の体を絶え間のない苦痛が襲う。

 

「もっと頑張りなさいな。スーツ解除されちゃうわよ〜。ほら、ほらほらほらほらァ!!今スーツが解けたらあなた、死・ぬ・わ・よぉ?」

 

「あっ、あっ、あ…あ…!」

 

「叫ぶ気力も無くなっちゃったの?つまん「ギャァァァァァァァァァ!?!?」っ!」

 

何…ギラスの声…?咆哮じゃなくて、怯えたような…

 

「ギピッ!?!?」

 

右腕を離された、と思った時には、血飛沫が舞っている。

そう判断出来たのは、私の左腕を折ろうとしていたブラックギラスが後方に吹き飛んだからだった。

 

「大丈夫か。」

 

え…

 

「セブン、さん?」

 

 

私の背中を支え、抱きとめるのはさっきまでボロボロだったセブンさん。いや、今でもボロボロなのには代わりがない。それでも折られた筈の右脚で立ち、怪我人とは思えない。

 

「なん、で…」

 

「レオ。」

 

「はっ、はい!」

 

穏やかで、それでいて湧き立つ怒りを抑えている声音。恐ろしいけど、何故かこの声と腕に包まれて私は安心しきっていた。

 

「これからお前が歩むのは、苦しみと痛みに彩られた戦いの道だ。本当なら俺が背負うべき物を、全部お前にぶん投げちまう…。」

 

「なに、を…」

 

「これが、俺の()()()戦いだ。許してくれ。俺は、お前を守りたい。」

 

「っ!」

 

守り、たいって…。私が、守るべきなのに…そんな、やめて、やめて…!

 

「セブン、さんっ…」

 

「心配すんな、死ぬ訳じゃない。今からお前に見せるのは、俺が不倒と呼ばれる所以だ。…焼き付けろ、ウルトラセブンの戦いを。」

 

 

私を下ろし、歩き出すその背中に、父の姿が重なる。

 

「さて…」

 

 

刃は折れず、その輝きを失わず。

その日私が目にした物は、真の英雄…不倒の輝刃。

 

 

「時間がねぇんだ。終わらせるぞ、グロリア。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

フリーザ軍兵士No.2626さんから頂いたエースのイラストです!No.2626さん、今回もありがとうございます!

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 




遅くなりました。
新キャラ2人、そしてセブンのなんかが登場回です。

今後更新スピードが落ちるかもしれませんが、続けはしますので今後ともよろしくお願いします。

…とか言っておきながらULTRAMANとシンフォギアのクロス小説書きてぇとか思ってたり。10巻のワイドショットの強さにやられました。何あれかっけぇ!

リメイクしたとして、どの時期のセブンが見たい?

  • 5姉弟時代
  • 6姉弟〜レオ指導時代
  • メビウス時代
  • ゼロ誕生以降、ベテラン時代

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