──犬童雅人の選択は正しかったのか
ゲームは現実に、現実はゲームにどれ程影響を与えるのか
それを知る者は未だ、少ない──
その日俺たち『碑文研究会』は榊を打倒し、とりあえずの平穏を享受していた。
「いや〜ほんとThe Worldは次から次に厄介事が起きて飽きないというか死と隣り合わせと言うか……誰も脱落しなかったのをギルドマスターとして誇りに思う!」
「わぁ〜(・ω・ノノ゛☆パチパチぱちぱち皆さんお疲れさまでした!あれからCC社からの事情聴取とかでライさんと揺光さんは今日が久しぶりのインですもんね〜」
「ねーホント二人が居ないだけですっごくつまんなかったよ。まぁエンデュランスくんと昔話出来て良かった……かな?」
「大丈夫!?エンデュランス、コイツに変なこと吹き込まれてないでしょうね?」
「うん、大丈夫。本当に昔の話をしてただけだから……」
「揺光ちゃんひっどーいw」
「そっか、それならいいんだけど。ごめんね、つい癖で疑っちゃった」
「これは手厳しいwまぁいつもの僕のせいなんだけどね」
そんな風に過ごしていた時、欅がさも今思い出したという風にポンと手を打った。
コイツがこういう仕草をする時は禄なことがないと俺達は経験で知っている。
「そうだ!皆さん、一緒にタルタルガに来てくださいよ!歓迎しますから!」
「タルタルガって欅が持ってる不法サーバーだっけ?……ライからの話しか聞いてないから分からないんだけど。ライは行ったことあるんでしょ?」
「んー、まぁ行ったって言っていいのか?……欅を勧誘する時に着いて行ったってのが正しいからすぐ弾かれたんだよなぁ」
「あはは、あそこはボクの許可がないと出入り出来ないようにしてますから。でも、強引に入って来れたのはライさんが初めてですよ?多分腕輪の力かアウラが関係してるんでしょうけど。……それでライさんに興味を持ったからここに入ったんですよ」
はぇー便利だな、腕輪の力。なんかそう言われたらすぐ納得出来るまで毒されてきたわ。
「そう言われると納得しちゃうのよね……。それで、欅は私たちをそのタルタルガに連れて行って何をしたいのよ?」
「それは着いてからのお楽しみですよ♪」
その時の欅の顔はそれはそれは楽しそうな笑顔だった。……うん、クビア以外は警戒してて偉いぞ。
「それじゃあ皆さんをタルタルガにご招待〜」
欅がいつもの笑顔でそう言った瞬間、エリア移動が始まり気付けばタルタルガのタウンに居た。
……なんつーかR:1のネットスラムと趣が変わってんのな。
「ここが欅くんのネットスラムかぁ。昔とは違うんだね?」
「R:1の時の管理者はヘルバさんでしたけど今は僕が管理してますからね。まぁその人の好みが出るって思ってもらえればいいのかな?……あと、このタルタルガは移動式タウンなんですよ!僕らがいるブリッジからなら、ほら!」
そう言われ、景色を眺めると確かに景色が流れていった。……なんでも有りだなこいつ。
「なんかもう驚かなくなってきたんだけど、私がおかしくなった訳じゃないわよね?」
そう呟いた揺光に俺は全面的に同意するぞ。……エンデュランスもメッチャ頷いてるし。おかしいのは欅とクビアで十分だよな。
そんな風に考えたのを見透かしてか、欅はさらに爆弾を投げ込んだ。
「因みにこのタルタルガなんですけどThe Worldから独立したサーバーになってますからCC社も知らないタウンになってますよ」
つまり俺たちは現在進行形で利用規約に違反してるわけだ。……もう色々諦めてるけど。
なんて言うか、俺のギルドメンバーってほんとヤバイ奴ばっかだったんだなぁ。そりゃたっくんに警戒される訳だ。
「あっ、そろそろ時間かな?……これでよしっと。すみません、少し用事が出来ちゃったので皆さんはここでゆっくりしていて下さいね」
「用事?また碌でもないことするつもり?」
「揺光さんは手厳しいな〜。すぐ分かると思いますから、それじゃ!」
何故かハイテンションで欅がブリッジから去っていった。
その直後、タルタルガがゆったりとしたペースから徐々に加速していった。
目の前の景色がびゅんびゅんと流れていく……。これ酔うやつだ。
「うぅ……なんか具合悪くなってきたかも。ライ、違うとこ行きましょ?」
俺が提案するより先に揺光が提案してくれたので皆でタルタルガの中心部であろう広場へ移動した。……思いっきりPCボディが犬なのに顔の部分モニターとかホント改造PCの宝庫だよなぁ。
「凄いわねスーツ姿のPCとか居るわよ。……クビアならああ言うの出来そうよね」
「ええっ!?ヒドイなー流石にあんなこと僕には出来ないよ。……欅くんなら出来るんだろうけど」
「……!」
「はいそこ閃いたって顔しない。ミアのボディは作れても中身は違うと思うぞ〜」
そう言うとエン様が見るからに落ち込んでしまった。……言い過ぎた?
すかさずに揺光に脇腹を小突かれてしまう。
「ちょっと、流石に今のは言い過ぎじゃない?」
「やっぱり?……いやでも立ち直りかけてるのに昔のこと思い出すってのもさ……」
「なんちゃって……。あれ?ライ?」
「あーあの二人ならちょっと楽しいことになってるから放っておいていいよ〜」
「?……ならそうしとく?」
「あれ冗談のつもり、だったんだけど……」
「「はぁぁぁぁ」」
エンデュランスからそんな衝撃の事実を告げられ俺と揺光のため息が重なった。いやだってお前ほんと心配かけさせないでくれよ、もうほんとに。
「アンタほんとに紛らわしいの!もっとこう分かりやすくやるもんでしょ!ライがアンタのこと傷付けたかもってすっごい心配してたんだからねッ」
そう揺光に言われ、俺を見るエンデュランスの目が潤み始めたんだけど、これどうすりゃいいんだ。……つーかThe Worldの技術力すごいなー(逃避)
「ライ、ごめんなさい」
「いやいいって。こっちも失礼な事してるしさ。……つーか一番悪い奴はそこで腹抱えて笑ってるクビアくんだろうし?」
「お前笑いすぎだからな?」
「いやだってwww謝られた時のエンデュランスくんの顔ポカンだったもんwあんな面白そうなのネタバレする訳ないじゃん?」
改めてそう言われるとまた恥ずかしくなってくるからやめて欲しい。しかも面白そうなのってなんだよ、バラエティ見てる感覚で俺の謝罪見てるんじゃねぇよ。
『ぴんぽんぱんぽーん!皆さんにお知らせでーす、これから外部の……ぶっちゃけるとオーヴァンさんの「再誕」発動によってタルタルガが揺れることが予想されまーす。揺光さんはお近くのライさん、他の方は手すりを掴むかお近くの建物に避難をお願いしますねー』
「……なんなの、今の放送」
「そんなこと言いながらちゃっかり腕組んじゃう揺光マジ天使」
「……ライ、本音しか出てないよ」
「クビアくん、なぜか地面から手すりが生えてきたからボク達はこれを掴んでようよ」
何故か顔が真っ赤になった揺光と温かい目で見つめてくるクビアとエンデュランスの視線に晒されていたらタルタルガが……
揺れなかった。
『なんちゃってー。みなさん楽しんで頂けましたか?色々とお伝えする事があるのでブリッジに足を運んで下さいね♪』
あっ、揺光がぷるぷるしてるコレはあれだな。欅に怒鳴るやつだ。恥ずかしかったもんなークビアとエン様にめっちゃ優しい瞳で見られてたもんなー俺ら。
「それじゃあブリッジに行きますかぁ……揺光さん、腕は組んだまま行くんですか?」
「……ダメ?」
その上目遣いは反則だって言わなかった?……あっ言ってない、そう。
「……ダメじゃないです」
「ライってあれだよね、肝心なところで尻に敷かれるタイプだよね」
「うん」
男二人に好き放題言われててお兄さん悲しい。
「──という訳でインターネットに巣食っていたAIDA達は一部の例外を除いてオーヴァンさんの碑文「再誕」コルベニクの能力によって駆逐されました。……と言う情報をこの前ハセヲさんのPCにくっつけた盗聴器モドキから手に入れました。ちなみにオーヴァンさんは妹さんを助ける為にこんな賭けに出たらしいですよ」
「色々突っ込みたいところは有るんだけど、最近のAIDA事件は方が付いたってことでいいのか?……もう未帰還者は出ないって考えていいんだな?」
「とりあえずはそう考えて頂いて構いませんよ。……ただ、一つ気がかりな事があってですね、今までAIDAが侵食していたネットワークなんですがかなり幅広いことなんです。正直AIDAが居なくなった影響と言うのも出てくるんじゃないかと」
ブリッジに着いた俺たちを待っていたのは欅による怒涛の状況説明だった!……よく質問できたな俺、偉いぞ!
「ちょっと待って、それじゃあAIDAが原因で未帰還者になった人たちも戻ってくるってこと?」
「その事に関しては彼の目論見通りに運んでいますね。未帰還者となったプレイヤーの脳波が徐々に回復してきているそうですから。あとは……」
「AIDAが居なくなった影響、か」
「はい♪きっとネットワーククライシスが起きますから皆さんお気を付けて」
「ボクはこれからハセヲさんのおもてなしをしなくちゃなので席を外しますけど皆さんはどうしますか?」
こんな風に言ってくるって事は俺たちに居て欲しくないんだろう。ネットワーククライシスが起こるって事は俺の資産にも少なからず影響があるし、ここはログアウトした方がいいか。
「そういう事ならログアウトするか。また明日な」
「そうね、私も落ちようかな」
「それじゃあボクも……。欅くん、クビアくんまた明日」
「はいっ!また明日会いましょう」
「まったね〜(*゚▽゚)ノ」
「みんなログアウトしちゃったね〜、欅くんもこれからどっか行くっぽいしそこら辺散歩してていい?」
「うん、それは構わないけど……クビアくんは次に出てくるモノとは関係、無いよね?」
「いつも言ってるじゃん、僕は腕輪の──ライの反存在だって。だから碑文の反存在にはなり得ないよ?」
「……なら良かったです。キミが敵になったらきっと皆さん悲しみますから。それじゃあまた後で」
「うん、また後でね」
タルタルガの設定にオリジナル要素を入れました。
こうでもしないと一般PCが入り込む気がしたので。まぁタルタルガが認めたPCってことでも良さそうな気はしますね。
ハセヲへのおもてなし→超改造
不思議現象を全て自分のせいにされて困惑するアウラ下さい。