「匿ってくれって、どういうことよ欅」
「落ち着けよ揺光。コイツが例えぱそこら辺のPCのスカートめくりをしてパンツの色を見て喜ぶ変態で楓さんから逃げていたとしても、コイツは俺の友達だ。助けねぇ訳にはいかないだろ?」
「ひどいなーライさん、ボクのことどう思ってるんですか?……そうじゃなくってですね、今日これから榊が月の樹乗っ取り計画(笑)を始めるそうなのでボクは雲隠れしようとおもうんですよ」
「それで匿ってくれ、か。俺としては一向に構わないんだけどどうするんだ?」
「いや〜それがまだ全然考えてなくて、何かいいアイディアありませんか?」
「う〜ん、クビアくんにパス」
「もうちょっとちゃんと考えなよ。……そうだ、キルされたフリして生きてました〜みたいのは?」
「う〜ん、それも良いんだけどもうちょっとインパクトが欲しいかなぁ」
「じゃあお前のPCのコピー作って量産してどれが本物でSHOWはどうだ?で、その間に黒幕の榊くんを処分しちまうっていう面白大作戦は」
「何よそれただの嫌なヤツじゃないの。少なくとも世間一般の欅のイメージと違いすぎるわよ」
「えぇー結構いいと思ったのに。それにコイツがそこらの有象無象のイメージを気にする奴に見えるのか?」
「……それもそうね。じゃあ私はライの意見に賛成!」
「ボクもライの意見に賛成かな。……楽しそうだし」
若干一名、俺達のせいで性格がひねくれかかっている奴が居るが、早いか遅いかの差でしかないから気にしたら負けだ。
「ボクの手間は度外視なんですね〜。まぁ面白そうですしやるんですけどね」
「じゃあ僕らは榊が現れるのを息を潜めて待ってればいいの?」
「あぁその通りだ。あと、欅もこっちに来るようにな」
「りょーかい。じゃあまた後で〜。あっ、ここの隠し扉の奥に部屋があるのでそこで落ち合いましょう」
欅の準備が整い、全員が揃ったのはそれから30分ほど経ってからだった。
「仕込みの方はばっちりです!結構自信ありますよ〜。一回ボクのコピーが殺されて月の樹が掌握されかけるであろう15分後、もう一体ボクが出てきます。その後は1分おきにボクが量産される体制にしてきましたので、時間稼ぎは出来ると思いますよ!」
「作戦考えたの俺だけどやっぱお前ってエグいよなぁ」
「えへへ、そんなに褒めないでくださいよ〜」
「どこをどう聞いたら褒められたことになるのよ……」
「さてと……おっ、欅様のお部屋に招かれざる客が現れたな。……あれはアトリちゃんか?」
「そうみたいですね。……あっ、今ボクが死にましたよ!ほら!」
「なんでそこでテンション上がるのよアンタは。それに楓さんのこと巻き込みかけてるし……。ゴメンなさい楓さん、うちのバカとアホが手を組んだ結果なんです」
「それにしてもあの子の動きおかしくなかった?僕はAIDAに操られてるんじゃないかと思うんだけど」
「確かにな。……でもどっちかって言うとAIDAよりは人間に操られてる、の方が正しいんじゃないか?」
「そうだね、ライの言ってることが多分あってるよ。それにしても榊とかいう奴、人の心を平気で踏みにじるような奴なんだね……」
エンデュランスが何気なく言ったその言葉が気になり、どういうことかと聞いた。
「あぁ、人を操るやり方はね、人を自分の魅力で惹きつけて従わせるか相手の心を壊して、自分に依存させるっていうパターンがあるんだ。彼女の場合は後者で、昔のボクと同じように心が壊れてしまっているんだよ」
「彼女を救うには、そうだねボクにとってのライみたいな存在が必要になると思う。……だから残念ながらボクらには彼女を救うことはできないよ」
まぁなんというか外道というか手段を選ばないというか。とりあえず胸糞悪いな。昔月の樹の理念〜とか語ってた時はこんな奴じゃなかった筈なんだけど、どこでおかしくなったのやら。
「あっ、見てください。アトリさんに何かやるみたいですよ、ほら」
そう言い、欅が見せた映像はシュミの悪い処刑のように見えた。こんなことを女の子相手にやっていいと本気で思っているのだろうか?
やっぱり奴は倒さないといけない奴なんだろう。
「あーあ。これは生ぬるいことじゃ許さなそうだね、ライ?」
「当たり前だろ。それにお前もその鎌で人間狩りしたかっただろ?……今回だけは目を瞑ってやるから存分に楽しめ」
「あはっ!最高だよ、ライ。君の分まで頑張らせてもらうよ!」
外が騒がしくなってきた。欅人形(大群)がついに動き出したのだろう。榊も様子が気になるのか、奥の部屋から出てきた。……さすがに奥の奥、この部屋があることまでは気付かなかったようだ。気付かれても困るんだけど。
「さぁて、それじゃ一花咲かせてみましょうか!」
そして榊の後ろから突撃し縛り上げ、そのまま別エリアへと秘密の部屋にあったワープゾーンから飛んだ。
竜骨山脈 ブリューナ・ギデオンへと飛んだ俺たちの拘束を無理やり解き、榊が自由の身になった。その目は欅のことを睨み、視線で人が殺せるなら欅は死んで……あぁ死なないわコイツ。
「何故だ!何故お前がここに居る欅っ!貴様はアトリに殺された筈だ!私が月の樹を支配しThe Worldを支配する計画だった……誰にも邪魔されず私の世界を創るつもりだった……」
「何故貴様らは私の邪魔をする!特にライ、貴様だ!お前は私がやることなすこと全てにおいて邪魔をしてくる!その癖私よりも皆の信を集めているのは何故だ!貴様が居なければ……俺はっ!」
はぁ、なんだろこいつアホらしい。それに言い分が小学生みたいなちっちぇことばっかだし。こいつのこんな下らない野望とも言えない事のためにアトリちゃんは犠牲になったのか?
「そんな事のためにアトリちゃんをあんな状態にしたのか?」
「あぁ、アトリ……アトリか。奴は求めるばかりで何一つ恩を返して貰ったことはなかったな。……だから利用してやったんだ。これで俺に一つだけ、そう、一つだけ恩を返せたんだからアトリも満足しているだろうよ」
「そうだ、アトリは必要な犠牲だよ。『新世界』を創るためのなぁ!」
「そのためにワタシは……システムを超越するッ!!」
そう言い、何かしらのアイテムを使い、AIDAに自ら感染する榊。そして何かをのたまい続けている。
「もういい、喋るな耳が腐る」
同時にクビアが榊へと切りかかる。当然、すぐに楽にしてやることは無い。まず、動きを封じるために足、次に攻撃できなくするために腕と笑いながら順番に切り取っていく。
AIDAに感染した影響かすぐに腕も足も生えてくるが、クビアの前にはそんなものは些事でしかなく、生えてくる毎に丁寧に刈り取っていく。榊の精神さえも。
「ワタシハ……こんなトコロでっ……」
そう言い残し、橋の途切れから谷底へと落ちていく榊。
「あーあ。なんか勿体ないなぁもうちょっとで心折れそうだったのに。──まっ久しぶりに楽しめたからそれで許してあげようか」
そう不満そうに呟いたクビアとニコニコ顔の欅、呆れたような揺光、そして興味無さそうなエンデュランス。
「ライもそう思うでしょ?……あんな生温いやり方じゃ満足しないでしょ?」
「あぁ、たしかに。……でも意識不明にするのは無しな」
「えぇー!なんでさ」
「未帰還者になると高確率でゲームをしていた時の記憶が無くなるらしいからな。……それじゃつまらんだろ?」
そう言うとクビアと欅、エン様は笑顔になったけど揺光の顔は引き攣っていた。
「あれ?今のジョークつまんなかった?」
「冗談に聞こえないのよ!ホントバカ!……怖かったんだから」
涙目の揺光がメチャクチャ可愛かった。これが今日の感想だ。
はい榊さんは主人公チームが処分するということで。
月の樹はギリギリ解体しないんじゃないかな?
揺光が毒され過ぎてて可愛そう