それどころかVol2の内容に入ってしまう。
その日はなんてことは無い、俺たちにとってはいつも通りのThe Worldだったはずだ。
「ねえ、なんでログアウト出来ないのよ!そろそろ寝ないと明日の学校マズイんだけどっ!」
「いや俺も会社行けなくなってマズイから。……つーか何でログアウト不能なんだよ、CC社は──頼るだけ無駄か。取りあえず八咫に聞いてみるからちょっと待っとけ。それと、さっきまで欅と一緒にいたはずのクビアはどこ行ったんだ?」
「さぁ?……お出かけですかね?」
お出かけなんていうことは無いだろうけど、まぁ取りあえずは八咫のメール待ちだな。
『現在、The World内でログアウト出来なくなるバグが発生している。CC社と我々知識の蛇メンバーは現在、原因究明中だ』
という内容のショートメールが八咫から送られてきた。……現在調査中という何ともありきたりな内容だった。
「現在ログアウトが出来なくなるバグ(笑)が発生していてそれを解決するためにお偉いさんは奔走してるらしいぞ」
「はぁ?バグぅ!?」
「……ねぇ、私今どこにいる?」
「どこってそりゃ──何だこれおい、お前らの前にライは居るよな?俺はここにちゃんと居るよな?」
「うん、居る。ねぇ、私たち今──」
「あぁThe Worldの中にいる」
「なんなのよもう!いったい全体何が起こってるのよ?!」
「うーん、クビアくんが居れば何かわかったかも知れませんけど何故か彼は居なくなっちゃいましたからね〜」
「そうだよ、クビアは何で居なくなったんだ?目を離したわけでも無いだろ?……それなのにクビアは何故俺たちの前から姿を消した?」
「知らないわよそんな事!……ごめんちょっと言いすぎた。メールでも送ってみたら?」
「あぁ気にしてないから、そうだなメールでも送るか。ゲーム内メールなら通じるのは八咫で証明済みだしな」
と言うことでクビアにメールを送ることにした。内容は“今どこにいるんだ?今のThe Worldはログアウト不能になってる”って感じでいいか。
「さてと、これからどうするよ?この事件が解決するまで結構暇になるんだけど」
「うーん、僕は月の樹の方に行って情報集めてきますねっ!」
「ああ頼む。じゃあ揺光、せっかくだし遊びに行こうぜ?」
「えっ、遊びにって!──あっ、手」
揺光の手を取りカオスゲートへと向かう。バル・ボル美術館へと。
@HOMEから出る時欅が口笛吹いてたのは何でなんだろうか。それにしても視覚だけじゃなくて触覚、嗅覚とかもThe WorldのPCと同調してるって結構やばいかも知れないなこの状況。
「で、どうしてここに連れてきたの?」
「えっ?だってせっかくだし」
「せっかくって、周りはそれどころじゃなさそうなのに?それにさっき教えてくれたことが本当なら私たちキルされたら未帰還者になるかもしれないんでしょ!?」
「まぁまぁ落ち着けって、さっきのはあくまでも最悪の考察であってそれが確実に起こるって決まったわけじゃない。……それにイザとなったら腕輪の不思議パワーもあるし」
「……もう何言っても意味無いのね。わかった!何かあったら私を守ること!揺光さんとの約束ねっ!」
「そう来なくっちゃ。ほら、モニター越しじゃなくしっかりと見られるこんな機会貴重だからここ終わったら次は大聖堂行くぞ」
「はいはい……」
ん?何故か揺光が呆れたようにため息を吐いていた。確かに危機感持つのはいいけど、正直一般のプレイヤーがどうにかしようとしたところであんまり意味はないだろ?……それにこんなチャンスは一生に一度あるかどうかだし。いやこれで未帰還者になるとかだったらこんな機会要らないんだけどさ。
「おっ、エノコロ草」
「エノコロ草?……ただの草じゃない」
「昔これが好きなプレイヤーが居てさ。何故かエノコロ草持っていい匂いって言っててさ」
「いい匂い?……匂いなんて分からないじゃない、こんな事が起きない限り」
「まぁ、確かにそうなんだけどさ」
「……ん、いい匂い。ほら、ライも嗅いでみて?」
そう言われエノコロ草の匂いを嗅ぐ。……その匂いを嗅いだ時、そのエノコロ草が好きだと言っていたミアというプレイヤーのこと、そして彼?と一緒にいたエルクを思い出した。本当に僅かの時間しか会ったことはないけど人を惹き付けるような魅力を持った人だったな、と懐かしく思った。
「あぁ、いい匂いだ。……ん?あそこにいるのって」
「うん、エンデュランスね。なんでこんなところに居るのかしら?」
視線の先には同じようにエノコロ草の香りを嗅いでいるエンデュランスの姿があった。慈しむようにエノコロ草を持っている姿は一枚の絵のような神聖さがあった。……イケメンってズルいよな。
「ミア──どうして居なくなったの?あぁ、今のボクなら分かるよ。君が好きだった匂い……」
どうも誰かに振られたのか傷心らしい。距離があるせいで何を呟いているかまでは聞こえないけど多分そういう事だろう。
「ねぇ、どうするの?今なら見なかったことにも出来るけど」
そうするのが多分楽なんだろうけどな。あんな事になってる相手は無視出来ないしな。
「そういうと思った。じゃあ待ってるから、早く話つけてきなさいよ?」
「あいあいさー」
エンデュランスに近づくにつれ、彼が呟いている内容も聞こえてきた。エノコロ草を嗅ぎながらミア、ミアとうわ言のように繰り返していた。
「エンデュランス、今いいか?」
「ごめん、今はエノコロ草で手一杯だから後にしてくれないか?」
「……お前、エルクだろ?」
そう言うとバッと顔を上げ、俺のことをまじまじと見てくる。……小動物みたいだな。
「キミ、誰?……もしかして、ライ?」
「あぁ、久しぶりだなエルク。あぁ今はエンデュランスって呼んだ方がいいか。ここ、座ってもいいか?」
「うん、構わないよ。……久しぶり」
「あぁ、久しぶりだな。今ログアウト出来なくなってるらしいんだけどなんか知ってるか?」
「ごめん、何も知らないよ。……でも、暫くはこのままがいいかな。こうしてると、ミアと一緒に居られる気がするから」
「そっか、それにしても考えることは一緒だな。……ミアはどっか行ったのか?」
そう問うとエンデュランスの顔が見る見る暗くなっていく。ミスったここはもっと明るい話題を振るべきだった。
「うん──いつの間にか居なくなっちゃったんだ、ミア」
「……そっか。悪い、変なこと聞いたな」
「ううん、いつかは向き合わないと行けないことだと思うから。……それに、ライの顔を見れたお陰で勇気も出たし」
「何?俺の顔ってそんな凄いの?マジで?」
「うん。凄いよ、ライは」
はは、照れるぜ。
「だって昔からちっとも顔が変わってないんだもん」
それって勇気を与えるっていう褒め言葉にどう繋がるんですかエンデュランスさん。
あれからエンデュランスとメンバーアドレスを交換して揺光と共に大聖堂へ向かった。
「で?結構エンデュランスとあんなに長く何話してたの?」
「あぁ昔の知り合いの話だよ。それにエンデュランスが知り合いで驚いたっていうのもあるな」
「へー。じゃあエンデュランスも結構長いことやってるのね」
そんな他愛ない会話をしながら大聖堂内部に入る。……うおっスゲェ。この建物やっぱ壮大だわ。
「わぁー綺麗!やっぱアンタのお気に入りエリアなだけあるわね〜」
「ハッハッハ、どうだ来てよかっただろ?」
「うんっ!@HOMEでウダウダ考えてるより遥かに良い!」
揺光としばし聖堂内を練り歩いたり、腰をかけたり祈りを捧げてみたりと遊んでいた。
一通り遊び尽くした俺たちは@HOMEに戻ることにした。流石にエリアに長くいる度胸は俺にはない。
タウンに戻ると急にどこかに転送されるような感覚が襲ってきた。……転送先もタウンなんだけど。
不思議現象に揺光と首をかしげながら@HOMEに戻ると相変わらず欅とクビアが……ん?クビア?
「やぁ、二人共お疲れ様?急にみんないなくなるからビックリしちゃったよーwwwあっ、色々あったことは欅に聞いたから大丈夫だよー」
「お二人共お疲れ様でした!……いやー中々大変でしたよ!」
「そうなのか?俺と揺光はただ遊んできただけ何だけど」
「そうよね、なんかゴメンなさい?」
「いえいえ!お気になさらず!そうだ、是非BBSの方とあと、デスクトップの時計、見てみてくださいね!それじゃお先に失礼しますね」
そう気になることを言ってから欅はログアウトしていった。時計とBBS?──軽く二時間は閉じ込められていたはずなのにリアルの時間は数分しか経っていなかった。
「何よこれ、こんなのって有り得るの?」
「さあ?けど起こったことを受け入れるしかないだろ」
「でもっ……!」
「まぁまぁ、二人共落ち着いて。取りあえず今日は寝たほうが良いんじゃない?疲れてるとロクなこと考えつかないしさ」
「そうね。ごめん、ちょっと混乱してた。……おやすみ、ライまた明日ね」
「あぁお疲れさん」
「じゃあ俺も落ちるわ。おやすみクビア」
「おやすみ〜」
寝る前にBBSを覗くとログアウト出来なかった人間とその時間帯にプレイしていなかった人間の間で対立が発生していた。
CC社の公式発表は数分間だけログアウト不能になるバグが発生したと言っていて、まぁ辻褄は合っているわけだ。……実際にプレイした人間は数分どころじゃない問題だったわけだし体験していない奴はなんでこんなに熱くなってるんだっていう温度差が発生していた。
──心が荒んだから尻ライス弄ってこよ。
ゲーム内メールはAIDAサーバー内でしか送受信できない設定にしました。
こうしないと多分クビアくんがこの事件を解決しちゃうんで。
エン様登場!やったねライくん、戦力の供給が過多だよ!目をつけられちゃうよ!
なおエリアにいた時間は累計2時間は行ってる。どこが度胸ないんですかね?
ω(尻)ライス