アフターひだしん越後屋大戦(凍結)   作:越後屋大輔

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越後屋外伝のエピソードを移動、改題してこちらに載せてます。


第5話ラビットハウスにて 中編

 ラビットハウスを訪れたのはタカヒロと同年輩くらいの男女2人連れ。おそらく夫婦だろうと思われた。

 「いらっしゃいませ」

 「すみません、お尋ねしたいのですが、この近辺に越後屋というお店は…」妻の方が問うてきてタカヒロと大輔は顔を見合わせる、夫婦はその店を訪れた時の話を始めた。

 

 ~27年前~

  新婚旅行を満喫したある若い夫婦は空港から電車で地元に帰るところだったのだが突如発生した鉄道事故で足止めをくってしまった、これではせっかくの楽しい思い出も台無しである。

 「本当なら今頃山梨に着いている時間なのになぁ」夫はボヤく、家族や友人へのお土産が山のような大荷物になってしまった。

 「だから私が荷物だけ別便で郵送した方がいいってあれほど言ったのに」妻がプリプリして夫に文句を言うと

 「今更そんな事言われても…」

 「今じゃないわよ!現地でもそう言ったのにアナタ聞いてなかったでしょ?!」

 「こういうのはな、自分で持ち帰ってその手で配ってこそ日頃の気持ちを伝わるものなんだ!それに俺が不満なのは足がない事で荷物が多いからではない!」

 「だったら1人で全部持ってよね!私、手伝わないから‼」周りの迷惑も省みず通用口で大喧嘩する2人の間に入り仲裁する人物がいた。

 「ここは公共の場よ。喧嘩するならウチにいらっしゃいな、夜まで暇だから」その人物の案内で小さな食堂にきた2人。どちらも頭に血が上っていたのかようやく厨房に目を向けると急に目をパチクリさせる。

 「「えっ?オ、オカマ?!」」

 「アタシの事ならなんとでもおっしゃいな、でもあなた達気付くの遅いわね」嫌みのない笑顔で答えるオカマはここの経営者だそうだ。お客さんは主に水商売の人達で勤務前あるいは勤務明けの早朝に来る事が多いから彼らに合わせて店を営業しているという、ふと窓ガラスをみると日がとっぷり暮れていた。今日はまだ夕食も摂っていなかった。

 「あれだけ声を張り上げていたんだからお腹空いたでしょ?何か作りましょうか?営業前だから大したモノは出せないけど」恥ずかしくなる夫婦だったがせっかく食堂にきたのだからメニューは店主さんにお任せして食事をしようと決めた。

 

 「お待たせしました、開花丼です。あなた達にぴったりな料理よ」一見すると親子丼みたいだが使っているのは鶏肉ではなさそう。

 「いただくます、ウン?これって牛肉じゃないか?卵とじも合うんだな。肉と卵のバランスがいい、意外に手が込んでいるな」夫の食べるペースが早くなる。妻の方は

 「お肉は甘辛く煮付けていて、卵の出汁はあっさりとしてて複雑な味わいなのに食べやすい。これは未体験だわ」これまた急ピッチで食が進む。

 

 「ごちそうさまでした、初めての開花丼美味しかったです」

 「今度ウチでも真似してみようかしら?でもこれが私達にぴったりってどういう意味なんですか?」

 「これは地方によっては『他人丼』とも言うわ、後は自分達で考えなさい」21時になり鉄道が復興する。電車に揺られながら得心する夫婦。そうか、縁があって結婚した2人だけど元々は他人、それが一緒になるんだから夫婦間のバランスは大事だ、そうすればやがて花が咲く、あの人はそう言いたかったんだな。

 「ごめんな、和澄(あすみ)。俺の為を思って忠告してくれたのに」

 「私こそきつく言いすぎたわ、(さとる)さん」木村悟、和澄夫婦。2人は3年後に一人娘を授かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




このストーリー、まだまだ続きます

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